研究のまとめ
  (1)  学習内容の明確化と教材の精選について
     バレーボールの指導における「セッターの動き」,バスケットボールにおける「フリーになる動き」,ハンドボールにおける「速攻」など各校種,各種目における指導において,特に「技能」を中心とする学習内容を明確にし,個に応じて指導したことは,それぞれの技能を身に付けさせるために効果があった。
 また,「いかに攻め,いかに守るか」という「作戦」を重視する教材「フラッグフットボール」の実践は,その「作戦」の有効性が確かめられるため,「学び方」が身に付き,活動中における役割の遂行や話合いなどにおいて協力することを通して「態度」を身に付けさせることになった。さらに,この教材はバスケットボールなど攻守入り乱れ型の教材における「ボールを運ぶ」段階の学習としても有効であった。
  (2)  学習過程の工夫について
     小学校「バスケットボール」の単元における最後の時間において,小学生23人を調査したところ,21人が「ドリルゲームは役に立った」と回答し,20人が「3対3の課題ゲームは役に立った」と回答した結果から,個人的技能の習得をねらった「ドリルゲーム」や,集団的技能の習得や作戦を生かすための「課題ゲーム」,それを実際のゲームで確かめる「確かめのゲーム」などで設定した学習過程は,技能等の向上に有効であったと考える。また,「オリエンテーション」や「話合い」の時間を学習過程に組み入れたことにより,児童生徒が主体的に学習に取り組み,学習内容を身に付けていくために有効であった。
 ただし,形成的授業評価の結果を見ると,ねらいの移行に伴って,「楽しさの体験」などの項目において評価が下がる傾向がある。ねらいに応じたステージの移行は,児童生徒の技能の習熟状況や関心・意欲などに応じて移行していく必要がある。
 また,単元の規模については,短いために「もっとやりたい」といったケースや,長いために「飽き」がきたりするという実態があり,児童生徒の興味・関心を考慮した規模にしていく必要があると考える。
  (3)  評価の工夫について
     学びの姿を想定して指導に当たったことにより,教師の指導のポイントが明確になり,個に応じた指導が図られた。また,ねらいを具現化した自己評価項目を取り入れた個人の学習カードやグループの学習カードを活用したことは,児童生徒にも学習すべき内容が明確になった。また,学習カード,ポートフォリオ形式のファイルなどを活用し学習を振り返ることによって,自己の学習状況の把握が容易になったり,課題が明らかとなり,結果として技能を高めることにつながった。そして,カードやファイルは,教師が観察だけでは確認できない児童生徒の学習状況を知ることに役立ち,それに対して,カード等にコメントを返したり,実際に尋ねるなどの児童生徒と教師の相互評価をすることにより,個に応じた指導を図ることができた。
  (4)  学習環境の工夫について
     課題の提示の仕方について
       基礎的・基本的な技能を身に付けさせる場面では共通の課題で,技能が高まった段階ではグループや個に応じた課題として,課題解決的な学習で進めさせたことは,教師の意図した内容を児童生徒に身に付けさせるために有効であった。
     グループ(チーム)編成について
       グループ(チーム)編成を少人数にしたことによって,触球回数が増えたり,作戦の中で自己の果たすべき役割が明確になったため,学習の機会や個性を発揮する場が増えるとともに,個の学習課題に教師が対応していくことができた。また,兄弟チームの編成や,6・7人のグループを二つに分けるチーム編成を考えさせることにより,学び合いが活発になり,作戦を立てる楽しさを味わわせることができた。
     場やルールの工夫について
       児童生徒の実態や,学習のねらいに応じたコートの工夫,用具の工夫,ルールの工夫などを行ったことは,個の役割を明確にしたり,ボールの操作を容易にしたり,誰もが楽しむことのできるゲームになるなど,学習の「成果」をあげるために有効であった。
     学習資料・学習カードの工夫について
       教師が用意した学習資料は,児童生徒の課題解決に活用されていた。高等学校では生徒が自ら収集した資料によって,より一層主体的な学習が進められた。
 また学習カードには,学習過程を示したり,チームを分析したり,作戦を考える内容を入れたりすることで,児童生徒が学習の見通しをもち,主体的な学習を促したり,思考活動を活発にするという効果があった。
     教師の言葉かけについて
       表3に示すように,場に応じた教師の言葉かけによるアドバイスや賞賛は,技能や意欲の向上に有効であった。特に,攻守の場面が一場面ごとに切れる種目については言葉かけが容易である。しかし,バスケットボールやハンドボールなどの種目のように,場面をその時点で中断することのできない種目では,児童生徒の活動が継続しており,児童生徒がその言葉かけを意識して受け止め,内容を考え,課題解決等に役立てるということは難しい。言葉かけをするタイミングを選ぶことと,言葉かけの前に児童生徒の意識を教師に向けさせることが必要である。
   初年の意識調査で,球技において「活躍している」と回答した児童生徒は約3割であったことに比べ,今回の授業実践を通して,小・中学生は図6,高校生については図3のように,「活躍している」という割合の高い回答を得られたことは本研究の成果であった。


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