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研究のねらい |
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県内の教師及び児童生徒を対象に,体育・保健体育の学習指導に関する意識・実態調査を実施した。その実態を踏まえ,「集団的スポーツ」の授業研究を通して,児童生徒の個に応じた学習指導の在り方を究明する。 |
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研究主題に関する基本的な考え方 |
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(1) |
体育・保健体育科における「個に応じた学習指導」の必要性について |
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学習指導要領は,基礎・基本を確実に身に付け,それを基に,自分で課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する能力や,豊かな人間性,健康と体力などの「生きる力」を育成することを基本的なねらいとしている。
体育・保健体育科における体育分野の「基礎・基本」は,各領域の@技能の内容,A態度の内容,B学び方の内容を確実に身に付け,各校種によって示された目標を実現することであると考えられる。この「基礎・基本」を誰にも確実に身に付けさせるためには,「個に応じた学習指導」を充実する必要がある。
また,体育・保健体育科は健康や体力といった内容に直接かかわっていく教科であるとともに,身体活動を伴う人とのかかわり合いを通して豊かな人間性をはぐくむことのできる教科である。さらに課題を明確にもちやすく,その解決を図ることを通して「自ら学び,自ら考える」力を身に付けていくことのできる教科でもある。これらの教科の特性に応じて「生きる力」を身に付けさせ,伸ばしていくためにも,「個に応じた学習指導」をより一層充実していく必要がある。 |
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(2) |
「集団的スポーツ」における「個に応じた学習指導」の必要性について |
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体育・保健体育科は,児童生徒にとって人気の高い教科である。また,「集団的スポーツ」といわれる「ボール運動」や「球技」の授業は,その中でも人気のある領域である。しかし,学習内容がきちんと押さえられていない等の指摘も受けている。「集団的スポーツ」では,子どもたちが集団で動いているために即時的な指導を行いづらいこと,また,個人よりも集団を対象に指導が進められていくことが多く,個人の学習の成果を成果として感じ取れなかったり,あるいは一部の児童生徒の成果としかとらえられないことがあったりするなどの難点がある。これらが「集団的スポーツ」において学習内容が曖昧であるとか,「個に応じた指導」が難しいとされる原因となっているのではないかと考える。
現在,技能や興味・関心,意欲等の低い子どもへの対応については,様々な取り組みがなされてきているが,さらに,集団の中で異なった関心をもつ者,異なった技能・体力レベルの者など,様々な人間の誰もが共存し合える関係をつくっていくことが必要である。
このような現状等から,「学ぶ」ことの意味・内容を押さえ,社会性の発達等においても大きな役割を果たす「集団的スポーツ」への友好的な関係をすべての児童生徒につくっていくためにも,「個に応じた学習指導」が更に求められていると考える。 |
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(3) |
集団的スポーツにおける「基礎・基本」と「個性の発揮・伸長」について |
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学習指導要領解説に示されたボール運動や球技の内容を表1にまとめた。これらを「基礎・基本」として身に付けることを目指した授業展開が求められると考える。
表1 ボール運動・球技の内容
「個性の発揮・伸長」については,本紀要P3で「個性が発揮され,同時に鍛えられていく過程に個性の伸長がある」と述べているように,本来,子どもは個性的なものであり,「基礎・基本」を学ぶ過程の中に「個性の発揮・伸長」があると考えることができる。 |
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(4) |
児童生徒の求める体育授業 |
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高橋健夫氏(筑波大学教授)らは「子どもたちはどんな体育授業を求めているのだろうか」「『よい体育授業』としてどのように評価するのだろうか」について調査研究を行い,その結果,「楽しさ」「成果」「学び方」「協力」の四つの因子を抽出した。また,「これらの四つの因子は,体育の学習目標や内容である『情意領域』『技能領域』『認識領域』『社会的行動領域』にほぼ対応している」と述べ,さらに,この関係から「子どもが求める『よい体育授業』は,体育目標が総合的に達成されたときに実現されたと考えてよい」と述べている。本研究ではこれらの関係を「評価の観点」や学習指導要領解説に示されている「内容」と併せて図1のように考えた。
図1 4つの因子と学習指導要領の内容等との関係
これらのことから,本研究では,「集団的スポーツ」における「個に応じた学習指導」を通して,「個性の発揮・伸長」を図りながら
「基礎・基本」である「学習内容・目標」を身に付け,達成させ,児童生徒の求めている「よい体育授業」に迫ろうと考えた。 |