外国語(英語)科における実践的コミュニケーション能力を育成するための生徒の興味・関心及びコミュニケーション活動の指導に関する実態調査(以下,英語で外国語を表す)
   英語科における実践的コミュニケーション能力を育成するための生徒の興味・関心及びコミュニケーション活動の指導に関する実態を本県の中学校及び高等学校の生徒と英語科担当教師を対象に,質問紙により調査した。
  (1)  調査の対象
   
 生徒…  無作為に調査校を抽出した。抽出した中学校数は14校で,1学級ずつ調査した。さらに,各学年の調査対象人数のバランスが取れるように,第1学年4学級,第2学年5学級,第3学年5学級とした。また,抽出した高等学校数は12校で,第1学年の生徒1学級ずつ調査した。回答者数は中学校482人,高等学校450人である。
 教師…  無作為に抽出した県内の公立中学校100校,高等学校50校から,中学校については英語科担当者各校1人,高等学校については英語科担当者各校2人を対象とした。回答者数は中学校100人,高等学校100人である。
  (2)  実施時期  平成14年9月12日(木)から平成14年9月20日(金)まで
  (3)  調査結果及び分析
   
  • 調査項目数は,生徒と教師に対してそれぞれ6項目とした。
  • 生徒,教師共に質問を枠内に示した。質問の観点は同一である。
  • 表中に示した選択肢は生徒用のものであり,教師用のものはそれに準ずる。
  • 表中の数値は各問ごとの回答者数に対する回答数の割合(%)である。
     英語の授業内容(表1)
     
生徒 英語の授業では,特にどのような指導を望んでいますか。次の中から一つ選んでください。
教師 英語の授業では,特にどのようなことに重点をおいて指導にあたっていますか。次の中から一つ選んでください。
      表1 英語の授業内容に関する調査(%)
  中学校 高等学校
生徒 教師 生徒 教師
 教科書の内容や文法を詳しく説明してもらい,練習問題に多く取り組む
44.3 17.0 40.7 58.0
 コミュニケーションの手段として英語を使う活動に取り組む
37.6 73.0 42.2 13.0
 英語を通して外国の歴史や文化,習慣などについて多く学ぶ
16.0 6.0 14.2 21.0
 その他
2.1 4.0 2.9 8.0

 中学校の教師が,コミュニケーション活動に重点をおいて指導にあたっている割合が73.0%と圧倒的に多いにもかかわらず,中学校の生徒は,「ア 教科書の内容や文法を詳しく説明してもらい,練習問題に多く取り組む」が44.3%で,次に,「イ コミュニケーションの手段として英語を使う活動に取り組む」の37.6%であった。授業において,英語を使ってコミュニケーション活動に取り組むことよりも,教科書の内容の十分な理解を望んでいる生徒の割合の方が高いということである。コミュニケーションを図る活動を強く指向するあまり,発音,語彙,文型や文法などについての指導が不十分になっていないかどうか,教師側は自らの授業を改めて振り返ってみる必要があるものと思われる。一方,高等学校の生徒は,項目アと項目イをほぼ同じ割合で選んでいる。項目アを選んだ高等学校の教師は58.0%,項目イは13.0%である。項目イを選んだ42.2%の生徒の,英語の授業において,英語を使ってコミュニケーション活動に取り組みたいという期待に応えるべき指導も必要であると思われる。
     英語に対する興味・関心(表2)
     
生徒 英語を学習してきて,英語に興味・関心がもてたのはどのような時ですか。次の中から一つ選んでください。
教師 生徒が英語を学習してきて,英語に興味・関心がもてたのはどのような時だと思いますか。次の中から一つ選んでください。
      表2 英語に対する興味・関心に関する調査(%)
  中学校 高等学校
生徒 教師 生徒 教師
 人の話す英語が聞いて分かったとき
26.3 24.4 31.3 16.0
 自分の話す英語が人に通じたとき
26.8 64.0 19.8 61.0
 英語の文を読んで理解したとき
30.1 3.0 34.4 17.0
 言いたいことを英語で書き表せたとき
13.9 8.0 11.1 2.0
 その他
2.9 1.0 3.3 4.0

 中学校の生徒は,「ウ 英語の文を読んで理解したとき」,「イ 自分の話す英語が人に通じたとき」,「ア 人の話す英語が聞いて分かったとき」をほぼ同じ割合で選択しており,「エ 言いたいことを英語で書き表せたとき」が,13.9%と低くなっている。高等学校の生徒は,項目ウ及び項目アを選んだ割合が多く,項目イ及び項目エはやや低くなっている。一方,教師は,中学校が64.0%,高等学校が61.0%と,共に,選択した項目が,項目イに偏っている。また,中学校では,項目ウが3.0%,高等学校では,項目エが2.0%と低くなっている。教師側が認識しているほど,生徒は自分の話す英語が人に通じたときのみに英語に興味・関心を抱いたわけではないことがわかる。生徒の英語に対する興味・関心を高めていくためには,いずれの領域にも偏ることのない,バランスのとれた学習指導を展開することが必要であると考えられる。
     生徒の興味・関心を生かす工夫(表3)
     
生徒 英語の学習において,自分の興味・関心を生かすためにどのような工夫をしてほしいですか。次の中から一つ選んでください。
教師 英語の学習において,生徒の興味・関心を生かすためにどのような工夫をしていますか。次の中から一つ選んでください。
      表3 生徒の興味・関心を生かす工夫に関する調査(%)
  中学校 高等学校
生徒 教師 生徒 教師
 生徒の間で話題になっていることを授業に取り入れる
31.5 8.0 28.8 31.0
 授業で生徒が思っていることや考えていることを表現することができる補助教材(プリント等)を使用する
15.2 36.0 14.5 28.0
 授業で生徒がお互いに英語を話したり聞いたりする機会を多く設ける
13.8 42.0 15.8 9.0
 授業以外でALTなど外国人と触れ合うような機会を設ける
21.7 12.0 23.4 13.0
 英語で日記や感想などを書くようにする
7.1 0.0 7.6 10.0
 英語検定等の資格取得に目が向くようにする
9.8 1.0 7.6 10.0
 その他
1.0 1.0 2.2 9.0

 中学校の生徒は,「ア 生徒の間で話題になっていることを授業に取り入れる」が,31.5%,「エ 授業以外でALTなど外国人と触れ合うような機会を設ける」が,21.7%,「イ 授業で生徒が思っていることや考えていることを表現することができる補助教材(プリント等)を使用する」が,15.2%となっている。高等学校の生徒も傾向は同じであるが,「ウ 授業で生徒がお互いに英語を話したり聞いたりする機会を多く設ける」が,項目イを若干上回っている。中学校,高等学校共に,生徒は,英語の学習において,自分の興味・関心を生かすための工夫として,自分たちの間で話題になっている,言い換えれば,自分たちにとって身近で背景知識(スキーマ)のある事柄が授業に取り入れられ,自分の思っていることや考えていることを英語で話したり聞いたりする機会が設けられることを望んでいると考えられる。教師側は,中学校と高等学校で対照的な結果となった。中学校の教師は,生徒の回答率が最も高い項目アの回答率が, 8.0%である。項目ウ及び項目イを手立てとして,コミュニケーション活動を展開している様子はうかがえるが,その際,メッセージの授受が形式的なものに終始し,生徒が本当に聞きたい,話したいと思っているものになってはいないのではないかと思われる。高等学校の教師は,中学校の教師の回答率が最も高い項目ウの回答率が,9.0%である。項目ア及び項目イを手立てとして授業を組み立ててはいるが,それらを踏まえたコミュニケーション活動にまで授業が至っていないのではないかと思われる。また,項目エを選んだ生徒の割合が高いことから,授業以外でALTなど外国人と触れ合うような機会を設けることも,生徒の興味・関心を生かす工夫の一つとして有効であると思われる。
     今後特に力を入れて指導してもらいたい活動(表4)
     
生徒 授業でコミュニケーション能力をつけるために,今後さらに指導してもらいたい活動は何ですか。次の中から一つ選んでください。
教師 授業でコミュニケーション能力を育てるにあたり,今後特に力を入れて指導していきたいと考えている活動は何ですか。次の中から一つ選んでください。
      表4 今後特に力を入れて指導してもらいたい活動に関する調査(%)
  中学校 高等学校
生徒 教師 生徒 教師
 聞くことを中心とした学習活動
19.2 9.0 24.0 36.0
 話すことを中心とした学習活動
49.0 71.0 53.8 42.0
 読むことを中心とした学習活動
10.5 4.0 6.7 16.0
 書くことを中心とした学習活動
21.3 16.0 15.6 6.0

 中学校においては,これまでの調査項目における結果とは違い,生徒側の思いと教師側の思いが一致している。「イ 話すことを中心とした学習活動」を選んだ生徒が49.0%,教師が71.0%と高い数値を占めた。やはり,英語の授業における「話すことを中心とした学習活動」は,コミュニケーションを図る際に,最も実践的なイメージが強いものと思われる。次に,「エ 書くことを中心とした学習活動」が続き,生徒が21.3%,教師が16.0%となっている。コンピュータや情報通信ネットワークの発達により,E-mailなどによる情報交換は生徒にとって現実的で身近なものとなった。この現実を踏まえて,生徒側は,「今後さらに指導してもらいたい」,教師側は,「今後特に力を入れて指導していきたい」という意識が働いているものと思われる。次に「ア 聞くことを中心とした学習活動」,「ウ 読むことを中心とした学習活動」の順になっており,両項目とも,教師側の数字が低くなっているが,これら二つの学習活動は,「話すこと」,「書くこと」につなげるための学習活動としての認識がああるためではないかと思われる。一方,高等学校においては,53.8%の生徒,42.0%の教師が項目イを,及び24.0%の生徒,36.0%の教師が項目アを選んでいる。今後,高等学校の授業においては,「話すことを中心とした学習活動」,「聞くことを中心とした学習活動」を生徒・教師ともに望んでいる。特に,英語の学習に対する苦手意識をもたせたり,学習意欲を低下させたりすることのないように,中学校では,音声によるコミュニケーション能力の育成に重点をおいて指導を受けてきたということを踏まえ,授業の展開を工夫していくことが大切であると考える。
 項目エに関しては,生徒が15.6%, 教師が6.0%と,教師側の数字が低くなっており,項目ウに関しては,生徒が6.7%, 教師が16.0%と,生徒側の数字が低くなっている。この二つの項目に関して,数値を比較してみると,生徒の思いと教師の意識との間にずれが見られた。
     コミュニケーション能力を育てるための指導(表5)
     
生徒 コミュニケーション能力を高めるために,どのような授業を望みますか。次の中から二つ選んでください。
教師 コミュニケーション能力を育てるために現在どのような指導を取り入れていますか。次の中から二つ選んでください。
      表5 コミュニケーション能力を育てるための指導に関する調査(%)
  中学校 高等学校
生徒 教師 生徒 教師
 習熟の程度に応じてコースの中から自分で選んで学習する授業
30.4 18.0 28.8 7.0
 英語を用いるペアワークやグループワークを増やして,英語に触れる機会が多い授業
28.0 76.0 31.2 35.0
 疑問やつまずきに応じて指導してくれる授業
44.6 7.0 40.4 66.0
 複数の教師の指導により,きめ細かく指導される授業
13.2 24.0 15.2 7.0
 発想や気づきを生かした学習活動を取り入れた授業
12.6 2.0 9.8 23.0
 視聴覚教材(コンピュータやLLなど)を活用して現実感や臨場感のある授業
34.8 5.0 34.0 16.0
 教師が授業をできるだけ英語で進める授業
11.0 22.0 8.8 26.0
 英語の実際の使用場面を踏まえた場の設定がある授業
24.4 45.0 30.0 17.0
 その他
1.0 1.0 1.8 3.0

 中学校の生徒は,選んだ割合の高い順に,「ウ 疑問やつまずきに応じて指導してくれる授業」44.6%,「カ 視聴覚教材(コンピュータやLLなど)を活用して現実感や臨場感のある授業」34.8%,「ア 習熟の程度に応じてコースの中から自分で選んで学習する授業」30.4%となっている。高等学校の生徒も,項目ウが最も高く,項目カが続いているが,次に,「イ 英語を用いるペアワークやグループを増やして,英語に触れる機会が多い授業」31.2%となっている。項目ウ及び項目アの高い回答率の結果から,外国語習得の過程では個々の生徒の理解度は多様であり,英語に対する生徒の興味・関心を失わせないためにも,柔軟な授業展開を図っていく必要があると思われる。項目カの回答率の高さからは,生徒は,現実感や臨場感を授業に望んでいることがうかがえる。前述した,本実態調査「エ 今後特に力を入れて指導してもらいたい活動」でもふれたが,授業における視聴覚教材の利用は,生徒の英語に対する興味・関心を高める上で効果があると思われる。また,高等学校の生徒は,項目イに続いて,「ク 英語の実際の使用場面を踏まえた場の設定がある授業」の回答率が高い。高等学校の生徒は,今回の実態調査において,一貫して現在の英語の授業形態がよりコミュニカティブな方向に向かうことを望んでいることが浮き彫りになった。
 中学校の教師は,項目イが76.0%と最も高く,続いて項目クの45.0%,次に,「エ 複数の教師の指導により,きめ細かく指導してくれる授業」24.0%の順となっている。この調査項目においても,生徒側の意識と比べると,数字的に違いが見られる。高等学校の教師は,項目ウが66.0%と最も高く,続いて項目イの35.0%,次に,「キ 教師ができるだけ英語で進める授業」26.0%の順となっている。中学校の教師に比べて,項目ウ及び「オ 発想や気づきを生かした学習活動を取り入れた授業」の割合が高いことが特徴的であるが,新学習指導要領で「実践的コミュニケーション能力」を育成するための言語活動を一層活発に行なうように示されたものの,項目クを選んだ割合が低くなっており,今後,英語に対する生徒の興味・関心を高めていく上で,大切に扱われなければならないと考える。
     コミュニケーション能力の評価(表6)
     
生徒 コミュニケーション能力が評価される時,重視してもらいたいことは何ですか。次の中から一つ選んでください。
教師 生徒のコミュニケーション能力を評価する際に,重視したいと思うことは何ですか。次の中から一つ選んでください。
      表6 コミュニケーション能力の評価に関する調査(%)
  中学校 高等学校
生徒 教師 生徒 教師
 定期考査で自分の考えを表現できる問題があること
14.8 11.0 18.0 21.0
 コミュニケーション活動での取り組みの様子
34.7 30.0 39.9 46.0
 自己評価や生徒同士の相互評価の結果
17.3 10.0 9.1 8.0
 定期的に口頭試験やリスニング試験を行うなどいろいろなテスト方法を取り入れること
19.0 37.0 15.9 17.0
 コミュニケーション活動の評価の観点を事前に知らせてくれること
12.7 12.0 16.6 6.0
 その他
1.5 0.0 0.5 2.0

 中学校,高等学校共に,生徒は「イ コミュニケーション活動での取り組みの様子」を選んだ割合が最も高く,中学校34.7%,高等学校39.9%となっている。このことから,生徒は,コミュニケーション能力の評価にはコミュニケーション活動での取り組みの様子を最も重視してもらいたいと考えていることが分かる。他の項目に対しても,幅広く回答している事実を踏まえると,生徒のコミュニケーション能力の評価をする際には,項目イを最も重視しながらも,多様な評価の場面の設定の工夫が必要であると思われる。また,高等学校の生徒の「ウ 自己評価や生徒同士の相互評価の結果」に対する回答率が低く,今後,英語の授業における自己評価や相互評価の効果的な実践が望まれる。
 中学校の教師は,「エ 定期的に口頭試験やリスニング試験を行うなどいろいろなテスト方法を取り入れること」を選んだ割合が37.0%と最も多く,次に,項目イの30.0%が続いている。生徒の学習の様子や学習の記録を定期的・多面的に蓄積し,コミュニケーション能力の評価に客観性をもたせることを重視している様子がうかがえる。高等学校の教師は,項目イが46.0%と最も高く,次に「ア 定期考査で自分の考えを表現できる問題があること」の21.0%が続いており,生徒の思いと一致している。中学校,高等学校共に,教師は項目ウを選んだ割合が少なくなっている。活動を振り返り,次の活動に生徒の意欲をつなげる意味で,自己評価や相互評価の重要性を認めつつも,コミュニケーション能力を評価する手立てとしての意識は低いものと思われる。
     実態調査のまとめ
       本調査の結果,次のことが明らかになった。
      (ア)  英語の授業におけるコミュニケーション活動の工夫改善の視点として,中学校の教師は,生徒のメッセージの授受を形式的なものにさせないことと生徒の疑問やつまずきに応じた柔軟な授業展開,高等学校の教師は,言語の実際の使用場面を踏まえた,よりコミュニカティブな授業展開を生徒は望んでいることが分かった。
      (イ)  中学校,高等学校共に,教師は,教科書の内容や文法を詳しく説明することと,コミュニケーションの手段として英語を使う活動に取り組ませることのいずれにも偏ることのない指導をすることが生徒から求められている。
      (ウ)  中学校,高等学校共に,生徒の英語に対する興味・関心を高める上で,教師は,英語を「聞く」,「話す」,「読む」,「書く」という四つの領域のバランスのとれた指導を展開することが必要である。
      (エ)  中学校,高等学校共に,英語の学習において,生徒は,自分たちの間で話題になっている,身近で興味・関心があり,自分たちが背景知識(スキーマ)をもつ事柄が授業に取り入れられることを望んでいる。
      (オ)  中学校,高等学校共に,英語の授業における視聴覚教材やコンピュータの活用は,生徒の英語に対する興味・関心を高める上で,効果がありそうである。
      (カ)  中学校,高等学校共に,生徒のコミュニケーション能力を評価する際には,コミュニケーション活動での取り組みの様子を最も重視しながらも,多様な評価の場面の設定が必要である。


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