農業・工業・商業科における生徒一人一人の興味・関心を生かした学習指導に関する実態調査
   研究協力員の所属する県立高等学校の生徒及び本県の県立高等学校の農業・工業・商業科担当教師を対象に,学習指導の工夫改善に関する教師の意識,授業の実態及び学習指導上の問題点を探るために,研究主題に関する基本的な考えについて質問紙法により実態調査を実施した。
  (1)  調査の対象
   
 生徒…  研究協力員の所属する県立高等学校6校の第3学年各2学級〔農業(農業科・園芸科・造園科)・工業(機械科・電気科・情報技術科)・商業(普通科の商業科目履修者・情報処理科・情報会計科)〕を対象とした。回答者は,418人。
 教師…  県立高等学校(農業・工業・商業)16校の農業・工業・商業担当教員を対象とした。回答者は,96人。
  (2)  実施時期
 平成13年9月3日(月)から平成13年9月7日(金)まで
  (3)
 調査結果及び分析  表中の数値は,全回答者数に対する各問の回答者数の割合(%)である。
     生徒の実態調査
      (ア)  入学に対する目的意識について(表1)
 「どのような目的意識をもって入学しているか」については全体をとおして,「進学や就職のため」が約30%という高い割合を示している。
 このことから,生徒は現在のような不安定な経済状況のもと,真剣に将来のことを考えて進路選択をし,入学をしていることがわかる。そして,高校卒業の学歴を得るための目的をもち,進学や就職のために資格取得にも本気で取り組んでいることがわかり,専門学科の大きな特徴がでていると思われる。
      (イ)  興味・関心について(表2)
 「興味・関心をもって取り組める授業」についての調査をしたが,「分かりやすい授業」が全体で約40%という高い割合を示し,それについで「学習した生かせる授業ことが普段の生活に生かせる授業」と「資格取得につながる授業」が全体で20%を超える結果となっている。
 これらの結果から,生徒は教師に分かりやすい授業を望み,自分も真剣に授業内容についていきたいという欲求が感じられる。また,学習したことを普段の生活に生かしたいということから,将来の設計をしっかりと考えている生徒が多いことも学科の特徴を示していると思われる。資格取得については,表1との関連性も感じられる。
      (ウ)  学習形態について(表3)
 ここでは,「自分を生かすためには,どのような学習形態が合っているか」について調査した。「グループ学習」が全体で40%の割合を示し,特に農業科においては,ほぼ半数を占めている。また,「個別学習」も工業科が30%を超えたのをはじめとして,全体では20%を超える結果となっている。
 これらの結果から,生徒はグループで調べ学習をしたり,意見を述べ合ったり,学び合ったりして,自分を生かすためにはグループ学習の中で自分を生かしていきたい様子がうかがわれる。「個別学習」については生徒の「分かる」ということに対する強い気持ちが感じられ,自分を生かすために「個別学習」が望まれている。これらのことにより,従来からの一斉学習から少人数学習への生徒の希望が増加していることが見受けられる。
      (エ)  実習に対する意識(表4,表5)
 「実習をともなう授業」についての調査では,「好き」という回答が商業科で80%を超えたのをはじめとして,全体でも70%を超え,おおむね好感をもって受け入れられている様子である。しかし,「きらい」という回答も全体で20%を超えており,決して少なくない。職業に関する各教科・科目の内容については,実験・実習によって指導するなどの工夫をこらすことが必要であることを考えれば,生徒が実習に興味・関心をもつような手だてを講じていかなければならないと考える。
 前問で「好き」と回答した生徒を, 対象にして「実習をともなう授業を好きと答えた理由」について調査した結果では農業科においては「体を動かせるので好きである」が50%を超え,「協力してやれるので好きである」が20%を超えている。工業科では「目標達成感を味わえるので好きである」が約40%にせまり,「体を動かせるので好きである」が30%を超えている。また,商業科では「目的達成感を味わえるので好きである」が30%を超え,ついで「体を動かせるのが好きである」「協力してやれるのが好きである」が25%を超えている。
 これらの結果から,実習をともなうことは,おおむね好感をもって受け入れられ,専門学科ならではの,体を動かす内容が大半を占める実習において,はっきりと示されている到達目標に到達できるように,生徒同士が協力して取り組むことに大きな喜びをもっていることがうかがわれる。
      (オ)  評価について(表6)
 ここでは,「何を重点に評価して欲しいか」について調査した。いくつかの方法の中で「授業態度や取り組み方」が全体で高い割合を示している。
 これらの結果から,授業態度や取り組み方を重点に評価して欲しいということは,生徒が日常の授業や自分自身の努力が大切であることを認識していることがうかがわれる。また,現在,評価対象の大半部分を占めている「定期考査」のみではなく,「実技テスト」によっても評価して欲しいという希望や「自己評価」にも重点を置いて欲しいことが結果としてでている。
     教師の実態調査
      (ア)  授業に対する目的意識について(表7)
 「授業で生徒にどのような目的をもたせているか」について調査したところ,各学科における特徴がみられた。
 農業科においては「学んだことが将来に役立てること」が30%,工業科においては,「進学や就職などの進路希望の達成」が40%をそれぞれ超えている。また,商業科では「資格の取得」が半数を占めているという結果である。
 これらの結果から,農業科においては,「学んでいることを将来に役立てること」に重点を置いて学習に取り組ませることにより,職業観や勤労観の確立を目的としている。また,工業科においては,生徒の進路達成に必要な知識を習得させることに重点を置き,将来的には,身に付けた知識・技能が発揮できるように目的をもたせている。さらに,商業科においては,資格取得を生徒が主体的に取り組むための身近な目標ととらえ,「資格の取得」に重点を置いている。それぞれの学科で生徒の将来のためという大きな目標をもって取り組んでいることが見受けられる。
      (イ)  興味・関心について(表8)
 ここでは,「生徒が興味・関心をもって取り組める授業」について調査した。「内容がよく理解できる授業」が商業科では50%を超え,全体でも高い割合を示している。その他の項目については,学科によってばらつきがあり,「将来のための資格取得につながる授業」は農業科で30%を超えているが,その他の学科では割合が低い。「学習内容が普段の生活に生かせる授業」は,工業科,商業科では比較的高い割合を示している。また,「実習をともなう授業」は学科の特徴を反映して,農業科,工業科で30%にせまるなど,高い割合を示している。
 これらの結果から,農業科では,「実習をともなう授業」を取り入れ,興味・関心をもたせ,技術・技能を体で覚えることにより,将来につながるような授業を大切にしたいと考えている。工業科においては,「分かりやすい授業」を目標に,その中で実習を取り入れ,興味・関心をもたせることが大切であると考える。また,商業科では,「資格の取得」の目標を達成するために授業を大切にし,「内容がよく理解できる授業」に努める姿勢がうかがわれる。どの学科においても,教師は「内容がよく理解できる授業」が生徒が興味・関心をもって取り組める授業ととらえ,それを目標に取り組んでいる様子がうかがわれる。具体的には,分かりやすい授業をすることにより,授業の中においては体を動かす実習を多く取り入れ,生徒に興味・関心をもたせたいという姿勢が感じられる。
      (ウ)  個性の把握について(表9)
 ここでは,「授業を行う上で,一人一人の生徒を考えながら指導しているか」について調査した。「いつも意識している」「時々意識している」を合わせると各学科とも90%を超えている。
 これらの結果から,教師が一人一人の生徒をしっかりと意識して授業に取り組んでいる様子がわかる。生徒を常に意識して授業をすることにより,生徒一人一人の個性を把握できると思われる。
      (エ)  学習形態について(表10)
 ここでは,「個に応じた学習指導をするために,どのような学習形態が有効か」について調査した。全体をとおして「習熟度別学習」が30%を超え,それに続いて「個別学習」が30%にせまり,「グループ学習」が20%を超える割合を示し,それぞれの形態が個に応じた学習をするために有効な学習形態と認識している。
 これらの結果から,生徒に興味・関心をもたせ,理解度に応じた学習をするために,従来からの一斉授業だけでは限界があり,個に応じた学習指導の必要性が求められている中では,多様な授業の創造が大切であると考える。そのためには,理想は「個別学習」であるが,「グループ学習」のような少人数による授業展開をこころがけ,生徒が自ら考えるような場面を取り入れ,問題解決を図っていくような学習をめざし,一人一人の生徒に対応したいと考えている様子がうかがわれる。また,理解度に応じた授業を展開するため,学科の特徴や実態に応じて,「習熟度別学習」の導入が効果的であると思われる。
      (オ)  評価について(表11)
 ここでは,「評価する上での重点項目」について調査した。「授業態度や意欲」を重点項目にあげている割合が高く,続いて「定期考査,小テスト」があげられている。また,「学習の過程」も農業科や商業科において,特に高い割合が示されている。生徒の実態調査では,回答があった「自己評価」や「生徒同士の相互評価」は,工業科のみの極めて低い回答であった。
 これらの結果から,「授業態度や意欲」を積極的に評価しようとする様子がうかがわれ,また,「定期テスト,小テスト」や一人一人の生徒の「学習の過程」も大切に扱われている。また,中間目標をひとつひとつ確認しながら行う形成的評価を積極的に活用することも大切であると思われる。一方,「自己評価」や「生徒同士の相互評価」については,生徒の実態調査では割合が高い反面,現在の時点では,あまり取り入れられていない様子である。内面的な評価として,生徒一人一人の学習状況を適切に評価するためには,今後の課題として,これらの評価方法も個に応じた学習指導の大切な評価項目の一つとして,積極的に考えていかなければならないと思われる。
  (4)  実態調査のまとめ
     研究をすすめる上で,実態調査の結果,次のようなことが明らかになった。
     生徒は,「分かりやすい授業」や「資格取得につながる授業」を教師側に期待し,学習形態としては「グループ学習」や「個別学習」のような少人数の授業形態に期待を寄せている。
     生徒は,体を動かしたり,目的達成観を味わえるような「実習をともなう授業」に興味・関心をもっていると思われる。
     生徒は評価の方法に関しては,「授業態度や取り組み方」を評価して欲しいということから,日頃の授業や自分自身の努力が大切であることを認識している。
     教師は,生徒一人一人の興味・関心を生かし,個に応じた学習指導をするために授業においては「進路希望の達成」や「資格の取得」に主眼を置いている。その根底には,生徒の将来のためという大きな目標があり,それらを通して,「知識の習得」「人格の向上」「将来の生活に役立つこと」を目的として,学習指導に工夫改善を図ることが大切であると考えている。
     教師は,授業を行う上においては,生徒一人一人の興味・関心を生かせるように,一人一人の生徒を意識しながら授業に取り組み,「内容がよく理解できる授業」に努める姿勢が感じられる。また,その中で実践的な「実習をともなう授業」を取り入れるなど,個に応じた学習指導の工夫改善を図ることが大切であると考えている。
     教師は,評価する上での重点項目としては,目標に到達することを理想としているが,「授業態度や意欲」も積極的に評価してあげようと努力している。


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