実践事例13
  評価を意識した創造的な協働体制の在り方
  県立鉾田第一高等学校
 教育課程経営の重点
   本校は,創立80年になる伝統校である。生徒数1043人(全日制956人),28学級(全日制24学級)の規模を有する。教育目標に「高い知性と逞しい心身を有する青年の育成」を掲げている。入学してくる生徒の9割が大学進学を目指し,そのうち2割が国公立大学へ進学する。このため,本校では,学力を高めるばかりでなく,将来の進路を主体的に切り拓いていけるより高い進路意識を身につけられるよう様々な実践をしている。しかし,往々にして伝統校にありがちな,従来の慣習や手法にとらわれ,変革の気運に欠けるきらいもある。そこで,「評価を意識した創造的な協働体制の在り方」を研究主題に掲げ,次の3つの内容について特に重点的に研究実践を進めている。
 
 改善に結びつく内部評価体制の工夫
 より客観的な評価を得るための外部評価導入の工夫
 職員一人一人の力量を高める,評価を意識した指導方法の改善
 教育課程経営の実際
  (1)  改善に結びつく内部評価体制の工夫
    @  中間評価の導入と評価用紙の工夫及び年度末反省の改善
       各分掌ごとに,年度の努力目標の達成度を評価し反省する。それを次年度に生かしていく。このplan(計画)→do(実践)→see(評価)の流れは,多くの学校で行われている。しかし,その中で最後のseeから再び最初のplanに循環する部分は,年度末の慌ただしさの中でとかく疎かになりやすいのが常である。つまり,反省はするがそれっきり忘れてしまい,また同じような反省を次年度末に話し合うというものである。そこで本校では,従来の1年のサイクルを半分にし,9月末に中間評価を入れることにした。こうすることにより,絶えず,自分が取り組んでいることの点検をし,問題点や課題を見つけ,それを後半期に十分時間をかけながら工夫改善し,創造的に校務を遂行していこうとしたわけである。また,記入用紙も工夫し,努力目標の達成度や反省事項を各分掌ごとの様式で羅列してもらっていたものを,様式を統一し,反省事項を,成果が上がったと考えられる事項と今後改善検討すべき事項の2つに分けて記入するものとした。さらに,改善すべき点は,現状をどう変えればよいか具体的にその方策を提案する欄を設けた結果,年度末の反省会議での「こうあるべきだ」式の理想論ではなく,最初から具体的な提案に基づいた討議となり,多くの課題や提案が次年度の努力目標となって登場することになった。しかも,平成13年度末に実施した反省では,その努力目標の下に,「具体的な取り組み」の欄を新たに作ったところ,課題や提案がさらに具体化,細分化され,そこでしっかり実際の実現可能な取り組み事項として据えられてきた。そして,行事の実施後に考えたことが確実に次年度の努力目標に生かされる体制ができつつある。
    A  課題検討委員会の設置
       以上のような取り組みの中で,反省や課題の中に,各部や学年,教科だけではどうにもならない大きな課題や問題も多数あることが分かってきた。例えば,「修学旅行」の在り方についてである。本校では2学年の11月頃に実施しているが,積立金の関係から1年次の初めに実施が決まってしまうため,毎年その在り方には疑問を抱きながらも,前年の担任団で決めたことだからと,結局は従前通りのやり方で実施してきた。しかし,多くの教師が再検討の必要を感じていた。「卒業記念品」の是非や「夏季登校日」の要不要についても同様である。それぞれの分掌だけの問題としてではなく,もっと広い観点から話し合いが必要なものを討議する場として平成14年度から新たに「課題検討委員会」を立ち上げた。9月現在,2回の会合をもち,15項目について総務会に問題提起し,7項目について結論をまとめている。
  (2)  外部評価の導入
    @  学校評議員制度の導入と活用
       分掌の反省などは,教師自身による自己完結型の評価であるが,より客観的な評価を得るために,今年度より制度化された「学校評議員」を活用することを考えている。本校の評議員は,計5人で,次のような構成になっている。
 地元中学校長1人,学区内市町村教育長1人,保護者代表2人,卒業生代表(元高等学校長)1人
 これらの人材を活用し,意見や助言を求めるだけでなく,積極的に評価活動に加わってもらうことになっている。第1回は,7月初旬に学校の概要について約3時間の説明と報告を行った。次回以降は,率直な意見の交換を行うことになっている。
    A  内部情報の外部への積極的提供
       より客観的な外部評価データを得るためには,その前提として,絶えず具体的で詳細な多くの内部情報を評価者に流しておく必要がある。保護者はもちろんのこと出身中学校,地域住民,後援会,同窓会,学校評議員などに,今現在行われていることや考えていることなどの情報を提供しておくことが大切である。そのため,本校では対外的に次のようなことを実施しているが,これを継続充実させることとした。
       ホームページの作成と更新(情報部作成)
       便り・新聞等の発行
学校便りの発行(希望者による発行委員会作成)   保健便り(保健厚生部作成)
学年便りの発行(各学年主任による発行)   後援会便り(渉外部作成)
クラス便りの発行の奨励   生徒会報(「銀杏」;特活部作成)
図書館便りの発行(図書部,図書委員会作成)   相談室便り(教育相談部作成)
進路便り(「尚志館報」;進路指導部作成)   同窓会報(特活部,同窓会係作成)
       オープンキャンパスの実施(8月22日 約760人参加)
 生徒が実行委員会を組織しての学校紹介
       サイエンスセミナーの実施(8月に中学生対象の体験学習 理科が中心 約100人参加)
       中学校教師対象学校説明会(10月2日 23校参加)
  (3)  指導方法改善の試み
    @  シラバスの作成による授業評価・改善の試み
       学習内容や指導計画を明確にして生徒に示すことにより,生徒個々の計画的,継続的な学習活動を促し,より学習意欲を向上させようとの試みで,本年度より資料1のような「シラバス(年間学習計画書)」を作成した。これは,今まで教師側の計画であった年間指導計画書を,生徒向けに作り直し,公開することで,より生徒の学習に計画性をもたせたいとの思いから始めたものであるが,同時に公開するということにより生徒や保護者の目に入り,指導計画全体を評価されることにもなるわけである。特に進学希望者の多い本校にあっては,適度な進度で授業がなされているのか,充分な学習内容や演習問題が用意されているのか,適切な教科書や参考書を使用しているのかといったことも分かり,その評価に耐えられるだけの年間学習計画書を作成しなければならない。また,実際その通りに指導を進めていく責任も生じる。予想以上に緊張を強いる作業になっている。なお,本書は,様式をそろえ学年別に発行されており,将来は,インターネットのホームページにも掲載して,部外者からも引き出しが可能になるよう考えている。ますます厳しい評価を受けることになる。
      資料1 シラバス(年間学習計画書)【第1学年数学科授業計画表の一部】
    A  公開授業の実施で相互評価
       今年度の教育実習の際,実習生のための模範授業を提供しようと,授業の公開を3週間行った。職員会議に諮り,誰でもいつでも参観できること,特別なものでなく平常の授業を公開することなどの条件で希望者を募ったところ,7名の教師が快諾して実施の運びとなった。実際には,実習生が参観の主役で教師同士の参観は数回に留まったが,参観したどの教師も他教科の授業を見る機会は少なく大いに参考になるとの感想であった。時間があれば,批評会や研究授業なども考えられるところであるが,忙しい日々の中で気軽に互いの授業を参観して相互評価できる体制はかなり難しい。特に高等学校の場合は,教科の壁が高く,その壁を超えての一歩はかなりの前進と見たい。これ以降,教師間に,積極的に授業を公開していこうとの気運が高まりつつあり,学習指導部が中心になり来年度の行事予定に授業公開期間を設けてはどうかとの意見も出ている。
    B  学力分析テストの実施と活用
       各学年ごとに,生徒の学力の分析と実態把握は,極めて大切な作業であるが,手間暇のかかる作業でもある。本校では,第2学年の最初に,入学からの1年間にどのような基礎学力を身につけ,どこに苦手分野をもっているのかの分析テストを受験するように指導している。内容は,あくまで基礎学力を把握することにあり,基本的な問題ばかりを集めて作成されている。また,それらの教科に対する理解度以外に好嫌度,学習実態調査などもあり,結果は個人に対してばかりでなくクラスごと,教科ごとにもコメントされるものである。この結果を基にして,個別面談を行い,必要に応じ課題を与えている。
    C  進路分析会議の実施
       学力の向上は,学習指導だけから図られるものでないのは自明のことでもある。生徒のもっているいろいろな要素が一つの方向に向いたとき飛躍的に学力が伸びる。そこで,本校では,今年度より,7月初旬の4日間を使い,生徒の希望する進路と教科指導・進路指導が一致しているかどうか,一致しないとすればそれはなぜか,今後どのように指導すればよいのかなどについての検討会を行った。生徒一人一人について,進路希望,学習の実態を記入したもの,過去の模試成績とその分析表をまとめたものを,そのクラスの授業に出ている教師一人一人に事前に渡しておき,それぞれの立場で検討してもらい,当日その結果を持ち寄って今後どのように導いていくか議論していくものである。教科担任からは,日頃の教科指導では分からない他教科の成績や進路希望などが分かることになり,生徒理解に大いに役に立ち,その後の授業展開に影響を与える会議となった。
 今後の課題
  (1)  評価項目の具体化
     校務分掌の反省では,現在,評価の項目立てがそれぞれの分掌に任されている。日頃の実践により結びついた具体的な項目にしたり,共通の評価項目を増やしたりするなどして,更に客観的な評価となるための見直しが必要である。評価委員会などの立ち上げが必要であろう。外部評価を依頼する評議員対象の評価項目についても同様である。
  (2)  情報の共有化
     本校ではかなりの部分の事務処理が電子化されており,成績処理,指導要録の印刷,調査書の発行,各種証明書の発行等が校内LANで処理できる。このことを考えると,教育課程の多くが電子化されてデータベースとして蓄積できるのではないかと考えられる。そのようなデータベースをカリキュラムセンターとして利用できる可能性がある。つまり,単なる生徒のデータだけを蓄積するのではなく,カリキュラムや指導案や分掌のノウハウまで蓄積することにより,職員の誰でも必要なときに必要なものを引き出せるようにすればよいと考えられる。ただ,高等学校の場合,教科によっては1〜2人と職員数が少ない教科もあり,専門性も高い。そのようなとき,データは,むしろ学外の他高等学校の教師とのネットワーク化がより効果的となる。セキュリテイの問題などもあるが情報部などと協力して研究していきたい。
 
   ホームページ http://www.hokota1-h.ed.jp/


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