教育資源の充実
   教育課程経営という視点から教育資源を考えた場合,最も重要なことは,「実施したい教育課程が実現できるように教育資源を充実させていくこと」である。教育資源に応じて教育課程経営を行っていくことは現実的であり,重要なことであるが,それだけでは,教育資源の充実も進まず,教師の思いや願いも達成できず,児童生徒の成長を期待することはできない。
 教育資源には,人的資源,物的資源,財政的資源,潜在的資源がある。これらの教育資源を充実させるためのポイントをまとめると,次のようになる。
 
(1)  人的資源の充実
  @  教員の能力の向上
  A  学校支援ボランティアの活用
  B  少人数授業,習熟度別指導推進のための教員の配備と活用
  C  スクールカウンセラー等の配備と活用
(2)  物的資源の充実
  @  カリキュラムセンターの整備
  A  コンピュータの整備
  B  学校図書館の整備
  C  校内自然環境の整備
(3)  財政的資源の充実
  @  予算の効率的・効果的活用
  A  予算の確保
(4)  潜在的資源の充実
  @  教育課程経営に取り組める教職員の時間の確保
  A  学校文化・伝統の継承
  (1)  人的資源の充実
    @  教員の能力の向上
       教育課程経営において,まず教員自身が人的資源であることを押さえたい。教員の能力の向上は確実によりよい授業づくりにつながり,教育課程経営を向上させる。
 次に,教育課程経営において教員に必要とされる主な能力とそれらを向上させる方法を示す。
 教員に必要とされる主な能力には,次のようなものがあげられる。
  •  教育課程編成能力
     学習指導要領の目標と内容を踏まえ,年間指導計画を立てたり,単元や1単位時間の授業を構成したり,教科等間の関連を図って授業を構成したりできる能力
  •  教育課程実施能力
     指導計画に基づき,児童生徒の反応に応じて適切な指導を行いながら1単位時間の授業や単元を展開することのできる能力
  •  教育課程評価能力
     評価計画に基づき,児童生徒の学習状況を的確に把握し,評価したり,指導計画や指導法等についても評価できる能力
  •  教育課程改善能力
     評価したことに基づき,教育課程経営についての改善策を見い出し,次の教育課程の編成等に生かしていくことのできる能力
 このような能力を向上させていくための方法として,次のようなことがあげられる。
       計画的,継続的な校内研修
         前述したように,教員に必要とされる能力は多様である。そこで,学校全体で計画的,継続的に校内研修を行い,これらの能力を向上させていかなければならない。
【実践事例1,5,12,13,15参照】
       協働体制による授業実践
         教育課程経営の中心は授業であり,教育課程経営に必要な能力も当然授業実践にかかわるものが多い。そこで,協働体制のもとで授業実践を行い,授業実践を通して教員に必要とされる能力を向上させることが現実的であり,効果的な手段であると言える。
 この授業実践は,授業の事前と事後とを含めたものととらえる。そして,教科等に応じて,教科等部会や学年会が中心になって協働体制をとることになる。【実践事例1参照】
       外部との連携による授業研究
         教育課程経営においては,外部との連携による授業研究も必要となる。具体的には,次のようなことがあげられる。【実践事例1,8参照】
(ア)  教員の課題に応じた講師の招聘
(イ)  教員の課題に応じた研修会・研究会への参加
(ウ)  外部からの情報を活用した研究
    A  学校支援ボランティアの活用
       学校支援ボランティアについては,中央教育審議会答申(平成10年9月)「今後の地方教育行政の在り方について」の「地域の教育機能の向上」において,「校長の判断により機動的に学校の教育活動に地域住民の協力を求めることができるよう,教育委員会が学校支援ボランティアを登録・活用する仕組みを導入するなどの工夫を講じること。」と示されている。この内容からも分かるように,学校支援ボランティアの組織づくりは,教育委員会が主体となって取り組むことが望まれる。各学校においても,教育委員会と連携を図りながら,学校支援ボランティアを積極的に活用することによって,より多様な教育活動の展開が可能となる。学校支援ボランティアには,学校の環境整備支援と教育活動支援の2つの支援領域がある。
 支援活動を行うことによって,支援者の学校への理解が一層深まるとともに,教職員も支援者から刺激を受けたり,児童生徒の指導に役立つものを得たりすることができる。【実践事例3,4参照】
    B  少人数授業,習熟度別指導推進のための教員の配備と活用
       個に応じた指導の充実については,小学校,中学校,高等学校の各学習指導要領において示されており,確かな学力の向上のための2002アピール「学びのすすめ」(2002年1月)の中では,「きめ細かな指導で,基礎・基本や自ら学び自ら考える力を身に付ける」ための具体的な施策としてこの少人数授業や習熟度別指導が取り上げられている。
 これらを受け,各学校において加配教員が配備され,少人数授業や習熟度別指導が実践されている。人的資源の充実を考えた場合,加配教員の配備を拡充することはもちろん大切であるが,この加配教員をいかに有効活用するかが重要である。
 少人数授業,習熟度別指導推進のための教員の有効活用を図るためのポイントをまとめてみると,次のようになる。【実践事例1,2,7,8参照】
 少人数授業,習熟度別指導を含めた指導計画の作成
 加配教員との事前と事後の打ち合わせ
    C  スクールカウンセラー等の配備と活用
       人的資源の充実では,スクールカウンセラーの配備の充実と活用の工夫も図っていかなければならない。【実践事例14参照】
 そのための第一歩として,教職員とスクールカウンセラーとの相互理解が求められる。スクールカウンセラーの活動の対象として,児童生徒,保護者,教職員が考えられる。そして,それぞれの対象に対して予防的な活動と治療的な活動とが行われる。まず,教職員がこのようなことを理解しておかなければならない。
 次に,スクールカウンセラーと教職員の協働体制づくりが求められる。
 今後は,キャリア教育の充実という視点から,キャリアカウンセラーの配備も検討していかなければならない。
  (2)  物的資源の充実
    @  カリキュラムセンターの整備
       過去の教育実践の記録と資料を保管しておく部屋,そして,教育課程経営を推進する組織とをあわせてカリキュラムセンターと呼ぶことにする。
 カリキュラムセンターでは,次のような取り組みを行うことが望まれる。【実践事例6,9,11参照】
 小学校6年間(中学校と高等学校は3年間)の教科等の単元一覧を作成する。
 過去の教育実践や資料等を教科等の単元ごとに保管する。
 コンピュータ上でも資料等をデータベース化する。
 授業者への授業づくりを支援する。
 校外のカリキュラムセンターとをネットワークでつなぎ,情報を発信するとともに,必要な情報を収集し,自校化して活用できるようにする。
 校内の教育課程経営状況をチェックする。
    A  コンピュータの整備
       コンピュータの整備を行うことによって,世の中の様々な情報をより速く,大量に収集でき,よりよい情報を教育活動に活用することができる。また,コンピュータを活用した授業もより効果的に展開されるようになる。そして,校務に必要な情報もディジタル化されることにより,校務の効率化も図られるようになる。その他,学校の情報を公開するための手段が広がり,外部との連携にも大いに役立つ。【実践事例6,9,11参照】
 具体的な整備事項としては,次のようなことがあげられる。
 校内LANの構築
 各教室へのパソコン設置
 各教室でインターネットへ常時接続できる環境づくり
 教育課程経営に関する情報のディジタル化
    B  学校図書館の整備
       児童生徒の主体的な学習の充実を図るためには,学校図書館の整備も欠かすことはできない。そして,次に示す三つの機能を有するものとなるよう整備を進めていくことが重要となる。
 読書センター的な機能
 学習センター的な機能
 情報センター的な機能
    C  校内自然環境の整備
       児童生徒の生きる力を育成するためには,校内自然環境の整備も欠かすことはできない。
 ここでも,教育資源の充実の原則である「実施したい教育課程が実現できるように環境を充実させていくこと」に即して,整備を図っていくことが大切である。
  (3)  財政的資源の充実
    @  予算の効率的・効果的活用
       まず,財政的資源の充実として,予算の効率的・効果的活用があげられる。決められた予算をいかに無駄なく,効率的・効果的に活用するかを検討し,その検討結果に基づいて活用していくことが大切である。
    A  予算の確保
       実施したい教育課程経営が実現できるように予算の確保を目指すことも重要である。無駄な部分を省きながら,必要な予算については,教育委員会との連携のもとに確保していかなければならない。
  (4)  潜在的資源の充実
    @  教育課程経営に取り組める教職員の時間の確保
       教育課程経営を推進していくためには,その取り組みを行える時間を確保していかなければならない。各自の努力はもとより,会議を必要最小限にしたり,校務分掌のスリム化を図ったりと,学校全体として取り組んでいく必要がある。
    A  学校文化・伝統の継承
       教育課程経営では,学校文化・伝統のもつ教育力も大切となる。これらを継承していくことも,潜在的資源の充実の一つとして欠かすことができない。


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