第3 調査研究
   調査研究として,県内の全公立小・中・高等学校に対して「特色ある学校づくりと教育課程経営に関する実態調査」と県外の先進校視察を実施した。次に,その結果と考察について述べる。
 実態調査項目及びその結果と考察
 
実施対象 県内全公立小学校(587校),中学校(234校),高等学校(111校)
実施期間 平成13年8月〜平成13年9月
回答者 校長
回収率 県内全公立小学校(100%),中学校(100%),高等学校(100%)
質問用紙 小・中・高等学校とも同様の質問用紙である。
ここに示したのは中学校の設問である。小学校は生徒を児童と置き換える。高等学校は道徳を削除する。
  (1)  あなたの学校では,特色ある学校づくりにどの程度取り組んでいますか。次のA〜Dの中から選んでお答えください。
     
よく取り組んでいる   ある程度取り組んでいる
あまり取り組んでいない   まったく取り組んでいない


(考察)
 「よく取り組んでいる」と回答した学校は小・中・高等学校とも約30%であり,特色ある学校づくりが十分には推進されていない現状がうかがえる。小・中・高等学校とも多くの学校で特色ある学校づくりについて課題を抱えていると考えられる。
  (2)  特色ある学校づくりを推進していくために,あなたの学校で今後特に重視したいと考えている内容を3つ選んでください。
     
管理職のリーダーシップの強化   校務分掌や校内組織の改善
研修の充実   教職員の協働体制づくり
教職員の意欲の向上   教育課程の編成の工夫
学校評価の実施   施設・設備の充実
予算の確保   生徒の実態把握
保護者の要望の取り入れ   家庭や地域社会との連携
地域の教育資源の活用   生徒と教師のゆとりの確保
その他(具体的に記入してください)


(考察)
 最も多く選択された項目は,各校種とも「教育課程の編成の工夫」である。小学校では60%,中学校では69%,高等学校では71%の学校が選択した。各校種において,多くの学校が特色ある学校づくりには,「教育課程の編成の工夫」が必要であると認識していることを示している。
 その次に多かった項目は,小・中学校と高等学校では異なり,小・中学校では,「家庭や地域社会との連携」,「研修の充実」,「地域の教育資源の活用」,高等学校では,「教職員の協働体制づくり」,「家庭や地域社会との連携」,「教職員の意欲の向上」であった。
 これらの結果を参考に,教育課程経営の実践の視点を考えていくことにする。
  (3)  次の@〜Fの各項目について,あなたの学校ではどの程度取り組んでいますか。A〜Dの中から選んでお答えください。
     
よく取り組んでいる   ある程度取り組んでいる
あまり取り組んでいない   まったく取り組んでいない

@ 教育課程の編成の工夫
  A 編成された教育課程の実施
B 教育課程の評価
  C 教育課程の改善
D 教育課程を実施しての成果と課題の外部への説明
  E 教育課程に関する校内研修会
F 教育課程の編成への多くの教員の参加

(考察)
 「編成の工夫」と「実施」については,「よく取り組んでいる」と回答した学校が多いが,「評価」と「改善」については「よく取り組んでいる」と回答した学校が少なく,「あまり取り組んでいない」と回答した学校が多い。多くの学校において,教育課程の「編成」「実施」「評価」「改善」という一連の過程がまだ確立していないものと考えられる。
 また「外部への説明」については,各校種とも「よく取り組んでいる」学校が約5%であり,「あまり取り組んでいない」と「まったく取り組んでいない」を合わせると約50%になる。外部への説明については,取り組みの始まったばかりの学校が多いと考えられる。
 「校内研修会」については,「よく取り組んでいる」と回答した学校は,小・中学校では31%,高等学校では11%であった。「多くの教員の参加」については,「よく取り組んでいる」と回答した学校は,各校種とも約30%であった。教育課程に関する校内研修会の充実や全教職員で教育課程を編成していくという共通理解を一層図る必要があると考える。
  (4)  (3)の各項目を取り組むにあたり,あなたの学校では次のことにどの程度取り組んでいますか。A〜Dの中から選んでお答えください。
     
よく取り組んでいる   ある程度取り組んでいる
あまり取り組んでいない   まったく取り組んでいない

@ 学校運営組織の改善
  A 施設・設備の充実
B 家庭との連携
  C 地域社会との連携
D 教育関係諸機関との連携

(考察)
 「学校運営組織の改善」は,新しい教育課程を推進していくために必要なものと考えられるが,「よく取り組んでいる」と回答した学校は,小学校は27%,中学校は30%,高等学校は24%であった。組織の改善も十分には進んでいない状況がうかがえる。
 家庭,地域社会,教育関係諸機関との連携においても,「よく取り組んでいる」学校は30%前後であり,これまでも連携の重視は叫ばれていたが,十分ではないことがうかがえる。
  (5)  教育課程の編成にあたって,次の各項目について取り組みましたか。取り組んだ項目すべてを選んでください。
     
@  基礎的・基本的な指導内容を明確にする。
A  重点を置くべき指導内容を明確にする。
B  総合的な学習の時間を適切に展開できるようにする。
C  各教科,道徳,特別活動及び総合的な学習の時間について,各教科等間の指導内容相互の関連を図る。
D  各教科等の指導内容相互の関連を明確にする。
E  発展的,系統的な指導ができるように指導内容を配列し組織する。
F  指導内容との関連において,各教科,道徳,特別活動及び総合的な学習の時間の年間授業時数を定める。


(考察)
 小・中学校においては,「総合的な学習の時間の適切な展開」を選択した学校が最も多く,それぞれ90%を超えている。次に「授業時数の設定」であった。一方,「各教科等の指導内容相互の関連の明確化」や「発展的・系統的な指導ができるようにするための指導内容の配列」を選択した学校は,小・中学校とも20%に満たない。
 これらのことから,小・中学校においては,新たに位置付けられた総合的な学習の時間の編成に重点が置かれていること,また,教育課程の全体的なバランスを配慮し,創意工夫を生かした教育課程の編成があまり行われていないことが考えられる。
 高等学校においては,「基礎的・基本的な指導内容の明確化」を選択した学校が最も多く,次に「重点を置くべき指導内容の明確化」となった。一方,「各教科等間の指導内容相互の関連」や「各教科等の指導内容相互の関連の明確化」を選択した学校は30%に満たない。
 これらのことから,高等学校においては,学校や生徒の実態に応じて,各教科等の基礎的・基本的な内容の指導を重視した教育課程の編成が行われ,創意工夫を生かした教育課程の編成はあまり行われていないことが考えられる。
  (6)  次の@〜Iの各項目について,あなたの学校ではどの程度取り組んでいますか。A〜Dの中から選んでお答えください。
     
よく取り組んでいる   ある程度取り組んでいる
あまり取り組んでいない   まったく取り組んでいない

@ 教育課程の編成に対する学校の基本方針を明確にする。
  A 教育課程の編成のための校内組織をつくる。
B 教育課程の編成のための事前の研究をする。
  C 教育課程の編成のための調査をする。
D 学校の教育目標を見直す。
  E 昨年度の教育課程の評価結果を今年度の教育課程の編成に生かす。
F 全教職員が協力し合って教育課程の編成に取り組む。
  G 指導内容を選択する。
H 指導内容を組織する。
  I 授業時数を適切に配当する。

(考察)
 「指導内容を選択する」と「指導内容を組織する」の項目は,他の項目に比べ,各校種とも「よく取り組んでいる」と回答した学校が少なく,「あまり取り組んでいない」と回答した学校が多かった。学校や児童生徒の実態に応じて教育課程を創意工夫して編成することが十分でないことの現れと考えられる。これまでの教育課程の編成において,このような取り組みを重視していなかったことが原因の一つと考えられる。
 このような取り組みは,教師一人一人や学年単位で行うには無理がある。学校の方針のもとに,全教職員が共通理解を図り,協力し合って行っていかなければならない。また,教科等の特性,指導の目標や内容を十分理解した上で行われなければならない。
  (7)  次の@〜Dの各項目について,あなたの学校ではどの程度取り組んでいますか。A〜Dの中から選んでお答えください。
     
よく取り組んでいる   ある程度取り組んでいる
あまり取り組んでいない   まったく取り組んでいない

@ 教育課程の評価の観点と項目を明確にする。
  A 全教職員の共通理解を図り,協力して組織的に評価を進める。
B 教育課程の評価を学校の年間計画の中に位置付けるなどして計画的に評価を進める。
  C 生徒の声を評価に生かす。
D 外部評価(保護者や地域の人々の声)を生かす。

(考察)
 この調査結果の特徴として,まず,各校種とも,各項目において「あまり取り組んでいない」と回答した学校が多いことがあげられる。また,各項目とも,各校種にわたって「まったく取り組んでいない」と回答した学校があることも特徴の一つにあげられる。
 このようなことからも,教育課程の評価に関しては,教育課程の編成や実施に比べて,取り組みが進んでいないと判断できる。
  (8)  次の@〜Fの各項目について,あなたの学校ではどの程度取り組んでいますか。A〜Dの中から選んでお答えください。
     
よく取り組んでいる   ある程度取り組んでいる
あまり取り組んでいない   まったく取り組んでいない

@ 評価の資料を収集し,検討する。
  A 整理した問題点を検討し,原因と背景を明らかにする。
B 教育委員会等の指導助言を改善に役立てる。
  C 先進校を視察する。
D 改善のための校内研修会を開く。
  E 改善案をつくる。
F 年度途中でも改善できるものから改善していく。
     

(考察)
 この調査結果も,各校種とも,各項目において「あまり取り組んでいない」と回答した学校が多く,「まったく取り組んでいない」と回答した学校もある。
 「改善案をつくる」ことに対して,「よく取り組んでいる」と回答した学校が,小学校では14%,中学校では22%,高等学校では11%といずれも低い結果となった。評価をしても改善案を明確にするまでには至っていない現状がうかがえる。評価をもとにした問題点の整理,原因等の明確化が図られていないこと,そのような機会が設けられていないことがその大きな原因として考えられる。また,教育課程を改善していくという意識が校内にあまり醸成されていないことも原因の一つと考えられる。
 「年度途中からでも改善できるものから改善していく」ことに対しては,「よく取り組んでいると回答した学校」,が小・中学校では24%,高等学校では11%となっている。「まったく取り組んでいない」と回答した学校もある。この原因として,教育課程は常に改善していくものという考え方が定着していないこと,常に改善していくための日常的な方策,学期ごとの方策が確立していないことが考えられる。本研究において,これらの方策を見いだすことも大きな課題である。
  (9)  今年度の教育課程の編成作業の開始月と終了月及び実施期間を記入してください。
      開始( )月   終了( )月   実施期間( )か月

 
 

(考察)
 校種毎に,開始月,終了月,編成作業の実施期間において,選択した月,実施期間に一部集中しているところが見られるものの,開始月,終了月においては,ほとんどの月が選択され,実施期間も様々である。この理由の一つに,各学校において教育課程の編成内容や編成方法等のとらえ方に違いがあることが考えられる。
  (10)  教育課程の評価をいつ行っていますか。次の@〜Cの中から選んでお答えください。
     
@  学年末に一度行っている。
A  各学期末に行っている。
B  評価の観点や項目ごとに評価の時期を決めて行っている。
C  その他(具体的に記入してください)


(考察)
 小・中学校では学期末に,高等学校では学年末に教育課程の評価を行っている学校が多いという結果が得られた。教育課程の評価は,学期末または学年末に定期的に行うものというとらえ方が定着している様子がうかがえる。その他として「学校行事等はその都度評価し,改善案を見いだしている。」という記載が見られた。


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