【授業研究2】 中学校第2学年地理的分野「都道府県の学習(茨城県)」において模擬県議会を取り入れた,豊かな表現力やコミュニケーション能力を育てる学習指導
(1)  授業の構想
 本研究の主題は,「豊かな表現力やコミュニケーション能力を育てる社会科学習の指導の在り方」である。本主題に迫るためには,社会的事象の意味を考え自分の意見を分かりやすく相手に伝えるとともに,相手の意見もしっかり聞くことで,自らの考えの問い直しを図ることのできる場面設定が必要であると考える。
 本単元は,茨城県についての学習である。地域的特色が豊かであるという点,生徒の郷土であるという点から生徒の地理的な見方や考え方の基礎を培うために適切な単元であると考える。単元を通した学習課題を「茨城はこのまま農業中心の県でよいのか」とし,農業の推進という視点から茨城県の特色を多面的・多角的にとらえさせたいと考える。
 各自が追究したことを他に伝えていくための方策として県議会討論を模した話し合いを導入する。各生徒が県会議員や県民の立場になりロールプレイング的な意見発表を行う機会をもつことで発表の仕方にも留意させたいと考える。
(2)  指導の手だて
 豊かな表現力を育てる工夫
(ア)  学習の手引きの作成
 単元全体の見通しをもたせるために,教師が「学習の手引き」を作成し,生徒に提示する。生徒はどのような表現活動・方法で学習をまとめていくかの計画を立案する。
(イ)  資料選択カード
 生徒が自分の考えを表現するためにどのような理由で資料選択を行ったかを明確にするために,「資料選択カード」を用意した。カードの上部に各自が選択した資料をはり付け,下部にその資料は自分のどのような考えの根拠となるのかを示すという内容である。
(ウ)  意見文の作成
 話し合いに際して重要なことは,各自が課題に対する自分の考えをもつことである。自分の考えを原稿の形にしておくことで,ゆとりをもって話し合いに参加できるのではないかと考える。また,他の友達の意見を聞くにあたって,自分の考えとの相違点について整理しやすくなるとも考える。
(エ)  意見交換の場
 模擬県議会という場を設定する。生徒は報告→質疑→修正案→討論という話し合いのプロセスの中で,自分の考えをどのように工夫して表現すれば,相手に上手く伝えることができるかという努力を重ねていく必要が生じる。考えの練り直しの場をもつため,模擬議会は2回開くこととした。
(オ)  振り返りカード・振り返りの場
 模擬県議会の終わりに,「振り返りカード」を用いて自己評価・相互評価の時間を設定する。また,1回目の模擬県議会と2回目の模擬県議会の間に1単位時間,振り返りの時間を設定した。
 コミュニケーション能力を育てる工夫
(ア)  テーマ設定
 「茨城はこのまま農業中心の県でよいのか?」のテーマを設定した。生徒がそれぞれ自分の考えをもって共通の課題に取り組むことで,友達との考えの交流も生まれやすなると考える。
(イ)  模擬県議会による話し合い
 県議会の討論の進め方を模擬することで,討論の進め方や提案の仕方を学ぶことができる。自分の意見をもって話し合いに参加することを学ぶとともに相手の意見を聞き尊重するという態度も身に付けられると考える。
(ウ)  友達の意見のメモカード
 友達の意見をしっかり聞けるようにするために,メモ用紙を持たせる,発表の要点を記入させる。
(3)  学習指導案
 指導計画
 本時の指導
(ア)  目標
 模擬県議会討論を通して,茨城県の将来の発展について,様々な視点から意見を述べたり聞いたりして考えることができる。(社会的な思考・判断)
(イ)  展開
(4)  授業の考察
 豊かな表現力を育てる工夫
(ア)  学習の手引きの作成
 「学習の手引き」を作成したことにより,生徒は単元の学習活動の流れを見通すことができた。学習の手引きは,「茨城はこのまま農業中心の県でよいのか?」という学習課題に対して常に意識をもたせていくことにも有効であった。模擬県議会での発表を行うために資料の準備をしていくという学習活動が明確になった。

資料1 学習の手引き(一部抜粋)
(イ)  資料選択カード
 今回の学習の目標の一つは,自分の考えを表現するために,根拠と成り得る資料を提示していくことである。「資料選択カード」を用いてその資料を使う目的は何かを明確にすることは,表現力の育成に役立つと考える。実際の場面では,「資料選択カード」に資料選択の理由が述べられている生徒の数は,3分の1程度の生徒であった。

資料2 「資料選択カード」
資料選択カード  氏名

資料タイトル(全国一の本県農業人口・・・高齢化で減少続く,大規模農業は大幅増)(単位:千人)

資料:2000年世界林業センサス(概数)

この資料を選んだ理由   この上のグラフを見ると茨城県の農業人口が1位だということがわかり
ます。それに農業従事者数も2位で茨城県は, 農業の盛んな県だということがわかります。でも,
文章を読むと,1995年に比べて今は,農業人口が減っています。それに,高齢化もどんどん進ん
でいます。若い人たちも農業をどんどん手伝ってもらわないと。
(ウ)  意見文の作成
 課題に対する意見文は,全員の生徒が作成することができた。このことが発表に対して積極的に参加していこうとする意欲につながった。しかし,内容については,意見の根拠が明確でない生徒や一面的な考えでの見方の生徒も見られた。教師の適切なアドバイスが必要であることを感じた。

資料3 意見文
「茨城県は農業中心の県でよいのか?」
自分の立場(役割)に立った発表原稿をつくろう!

環境商工委員会

私は農業中心でよいと思う。農業に適した土地なのだから,推進して
いくんは当然だ。けれども,一方で商業や自然・生活環境はどうなのだ
ろうか。商業に関することでは,商店街のさびれが目立つ。環境も水道
や下水道の普及率,道路の状態など,かなり悪い。また,医療施設も遅
れも見られる。商店がうまくいかなければ,経済は苦しくなる。経済状
態が良くならないと,水道−下水道が整っていなければ様々な廃水をそ
のまま流し,環境を汚染し,農作物にも悪い影響を与える。
(エ)  意見交換の場
 模擬県議会というロールプレイング的な話し合いの場により,生徒は興味をもって話し合いに参加できた。土木委員会,観光商工委員会,県知事,農家,主婦,自然愛好会など,それぞれの立場に立った意見発表の場であったため,様々な面から茨城県の特色をとらえることに有効であった。
意見交換会の様子 発表会の様子
(オ)  振り返りカード・振り返りの場
 資料にあるように三つの視点から自己評価を行った。また,友達の意見を聞いて新たに気づいたことなどを記述させた。記述には5分程度の時間を割いたが,生徒の記述量は豊富であり,時間を十分に確保すべきであったと反省している。1日目と2日目の模擬県議会の間に,自分の立場と他の立場と比較,関連づける時間を確保したことで他の立場の意見を取り入れ,自分の考えをさらに深めることができた。

資料4 振り返りカード
 コミュニケーション能力を育てる工夫
(ア)  テーマ設定
 事前にテーマを設定しておいたことは,学習活動が明確になるという点から有効であった。テーマ内容については,農業推進の意見が多く,話し合いを深めていくという点では物足りなかった。農業推進派と工業推進派によるディベートなども有効であると考える。1回目の模擬県議会の内容を発展して交通や商業の発展についてや農業と工業との関連などが提案された。



授業での様子

(イ)  模擬県議会による話し合い
 「自分の意見を発表する。」「他の立場の意見を聞く。」「自分の意見と他の立場の意見を比較したり検討したりする。」ことを学んでいくことを生徒に示した。模擬県議会の話し合いを通して,各生徒は自分の役割を明らかにすることによって,自分の意見をより明確にすることができた。また,県議会の話し合いがどのように進んでいくのかを学ぶ機会にもなった。
(ウ)  「友だちの意見のメモカード」
 友達の意見を聞くにあたり,メモをとることは大変有効であった。後で友達の意見を振り返って分析することにも役立った。

資料5 友達の意見のメモカード

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