5.授業研究

 研究主題に迫るため,上記の(1)〜(3)の具体的な手だてを講じ,小学校,中学校,高等学校において授業研究を行った。

【授業研究1】 小学校第5学年「ホイールローダーをつくる工場」における表現活動を重視した学習指導の在り方

(1)  授業の構想
 「豊かな表現力やコミュニケーション能力を育てる社会科学習の指導の在り方」という研究主題に迫るためには,児童が学習の見通しをもち,様々な人々との交流を通して学習問題を追究することができるように学習過程を編成することが大切であると考える。
 本単元は,龍ケ崎市にある「ホイールローダーをつくる工場」の学習である。学習問題をつかむ過程では,ホイールローダー工場への興味や関心を喚起するために,教室内の一角に模型やパンフレットなどをおいて学習環境を構成してみる。次に,企業のVTRを視聴する活動を通して興味や関心を高める。さらに,不思議に思ったこと調べてみたいことを中心に学習問題を作り,類型化する話し合い活動を通して学習問題を整理する。学習問題を調べる・考える過程では,児童が様々な人々と交流する場として工場見学を位置づける。工場で働く人の説明を注意深く聞いたり質問したりする活動を通して,資料を収集するとともにコミュニケーション能力を育てたいと考える。また,児童相互の意見交流と振り返りの場として意見交換会を位置づける。ここでは,自分の考えを述べたり,相手の意見を聞いたりすることにより自分の学習活動を振り返らせ,相手に分かりやすく伝える力を身に付けさせるとともに,豊かに表現する力を育てたいと考える。学習問題をまとめる過程では,「自己評価」と「相互評価」をもとに再追究した結果をまとめ,発表内容を相互に関連づけることにより「ホイールローダーをつくる工場」の特色や人々の願いがとらえられるようにしたいと考える。
 これらの学習過程を見通すとともに,様々な人々との交流を通して追究できるようにするために「学習の手引き」を作成する。さらに,「学習の手引き」に関連した「学習カード」を併用することで一層効果を高めたいと考える。
(2)  指導の手だて
 児童が見通しをもって問題解決に取り組むことができるようにする工夫
 児童が学習の見通しをもてるように「学習の手引き」を作成する。「学習の手引き」とは,学習過程に対応した情報を提供するプリントである。その中には,学習のめあて,学習に使える時数,授業日,資料などの情報,さらに学習を支援する「学習カード」の番号などが記載されている。また,「学習の手引き」には,行程表,時刻表,地図,ガイドマップを合わせたような機能がある。児童が「学習の手引き」を参考に見通しをもって問題解決に取り組み,問題追究の途中で迷うことがあっても,「学習の手引き」を参考にすることによって追究の内容や方法を修正することができるようにする。そこで,自分なりの学び方や調べ方を書き込んだりする経験を積み重ねることにより,学習内容とともに学習過程を学ぶことができると考える。
 児童の豊かな表現力やコミュニケーション能力を育てる工夫
(ア)  様々な表現方法を用いて適切に表現する力を身に付けさせる工夫
 様々な表現方法を用いることができるように,「学習カード」を活用する。「学習カード」には,学び方や調べ方の参考例を示したり,まとめ方とその効果について解説したりするように構成する。児童が様々な表現方法に気づき,発表することができるように工夫したいと考える。学習カードの番号は,どのカードを用いたらよいかが分かるように「学習の手引き」の中に明記する。
(イ)  相手に分かりやすく伝える力を育てることができるようにする工夫
 発表内容や発表方法を振り返る場として「意見交換会」を設定する。「意見交換会」は,ポスターセッションにより実施する。児童には意見交換会前に誰がどのような発表を予定しているのか,また,その時どのような発表方法を用いるのかについて,事前に一覧表を配布して知らせておく。このことにより,意見交換会ではより活発に意見が交わされるのではないかと考える。
 児童が学習過程を振り返る「自己評価」と「相互評価」
 児童が主体的に問題解決に取り組むことができるように「自己評価」と「相互評価」を取り入れる。自分が歩んできた学習過程を振り返りながら,自己の学習活動を評価することによって,問題解決能力が育つと考える。このとき教師や友達,時には親からの評価が加えられれば「自己評価」と「相互評価」の相乗的な評価活動が生まれる。
 本実践では,意見交換会後に「意見交換カード」を使った「相互評価」を試みる。この活動は,獲得した知識を発信させるとともに,他者の意見を受信しながら価値観を磨き上げ,問題解決能力や表現力を醸成することになると考える。
(3)  学習指導案
 学習計画(13時間)
 本時の学習
(ア)  目 標
 見学や調査活動を通して収集した資料を生かして学習問題を解決し,他者との意見交換を通して表現方法や内容を工夫し, 相手に分かりやすく表現することができる。
(資料活用の技能・表現)
(イ)  展 開
(4)  授業の考察
 児童が見通しをもって問題解決に取り組むことができるようにする工夫
 「学習の手引きは,学習の見通しをもつために役立ったか。」というアンケートに対して36人中30人が「役だった」と答えている。「工場を見学する日が分かっていたので,その日までに質問することを決めておくように準備した。」とか「何のために意見交換会をやるのか分かった。」などの意見が寄せられていた。資料1は,児童が「学習の手引き」に書き込みを行い,自分なりの学習の手引きに改善していったものである。「学習の手引き」が道標となり見しをもって計画的に問題解決に取り組むことができたようである。また,自分なりの学び方や調べ方を書き込むことにより,資料収集の方法や分析の仕方,結果の表し方などについて新たな方法に気づくこともできたようである。この活動により,児童が自らの力で,自分の学習スタイルを身に付けていったようである。

資料1 学習の手引き(一部抜粋)
 児童の豊かな表現力やコミュニケーション能力を育てる工夫
(ア)  様々な表現方法を用いて適切に表現する力を身に付けさせる工夫
 資料2は,「学習カード」の一例である。この「学習カード4」は結果を相手に分かりやすく伝えるためのヒントを中心に作成したものである。「学習の手引き」の中に「学習カードCまとめ方に不安」と示しておき,どのような表現方法を用いたらよいか迷ったときに自分の判断で「学習カード」を参考にすることができるようにした。児童は,これまでにも新聞や紙芝居などを用いて表現する活動に取り組んでいる。しかし,表現方法は学んでいても,どのような場面でどのような表現方法を用いたらよいかを適切に判断する力までは育っていなかった。
 そこで,追究の結果を相手に分かりやすく伝えるための一例を示した「学習カード」を参考にさせることで,より適切な表現方法に気付かせたり,自分の選択が正しいことに気付かせたりすることによって意欲と自信をもたせることができた。

資料2 学習カードの一例


 図1のアンケートの結果を見ると「結果をまとめる」過程で学習カードを利用した児童は15人である。また,「自分の方法が学習カードに書いてあったのと同じなので安心した。」などと述べられているものもあった。このことからも「学習カード」の活用は有効であると判断できる。



図1 学習カードについてのアンケート結果
(平成13年10月22日実施,龍ケ崎市立龍ケ崎小学校第5学年1組36人)

(イ)  相手意識をもって相手に分かりやすく伝える力を育てることができるようにする工夫
 発表内容や方法を振り返る場として設定した「意見交換会」では,合計126項目の意見が交わされていた。「意見交換会」は,自分の資料を見直すためのよい機会になったようである。事前に発表資料一覧を配付していたこともあって活発な話し合いとなった。その内容を見てみると図2のように発表方法に関するものが84%と大部分を占め,発表内容に関するものは6%と少数であった。
 発表内容に関する意見が少なかった理由としては,友達が追究していた学習問題と結果の整合性について見極める力が不足していたことが指摘できる。今後,発表内容に踏み込んだ意見を述べることができるようにするためには,追究の結果を多面的・多角的に考察し,公正に判断することができる力を育てることが必要であると考える。


意見交換会の様子


図2 意見交換会で交わされた意見

 児童が学習過程を振り返る「自己評価」と「相互評価」
 意見交換会で意見を十分に述べることができなかった児童は,授業後に意見交換カードを用いて積極的に「相互評価」に取り組んでいた。意見カードに書くことにより,言い尽くせなかった意見を相手に確実に伝えたかったからだろうと考える。意見交換会では発表内容に関する意見が7項目と少なかったが,意見交換カードを用いての活動では,合計104枚のカードが交換され,そのうち発表内容に関する意見が35枚も寄せられていた。
 このように,意見交換カードは他者からの指摘により学習過程を振り返ることで改善点を明確にしたり,自分の資料に対して自信を深めたりする活動として有効であった。また,学習活動を評価する「自己評価」と相手からの「相互評価」との相乗的な評価活動により,児童は学習内容を学びながら,分かりやすく説明するための表現方法を身に付けていった。

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