3.研究主題にかかわる実態調査

 県内の公立小・中・高等学校の児童生徒及び教師を対象として,豊かな表現力やコミュニケーション能力を育てる社会科学習指導について実態調査を実施した。
(1)  調査の対象
ア 児童生徒 校種別に学校規模や地域性を考慮して,調査校を抽出した。抽出した小学校8校の第6学年,中学校6校の第2学年,高等学校10校の第2学年で調査を実施した。回答者数は小学校292人,中学校410人,高等学校424人である。
イ 教師 生徒の調査対象として抽出した小・中学校の社会科担当教師各校1人,高等学校の地理歴史・公民科担当教師各2人を対象とした。回答者数は小学校・中学校・高等学校教師合わせて100人である。
(2)  実施時期 平成12年9月2日(土)から9月8日(金)まで
(3)  調査結果及び分析
  • 社会科学習指導に関する調査項目数は,児童生徒と教師に対してはそれぞれ4項目とした。そのうち特に研究主題にかかわる項目について小・中・高等学校にそれぞれ3項目を示した。
  • 調査項目についての質問を表内の質問事項に示した。
  • 表中の数値は各問ごとの全回答者数に対する割合(%)である。
  • 教師の回答は全て,複数回答。
 児童生徒の実態調査の分析
 児童生徒を対象とした調査では,児童生徒の社会科学習への取り組み等を調べ,その現状を明らかにするとともに,授業研究の参考にすることにした。その結果の分析については次のとおりである。
(ア)  自分の表現力を育てるための学習方法(表1)
 全体の数字を見ると「イ グループ間での話し合い活動を通してまとめる」が37.0%,「ア 一人一人が個別に自分の考えや意見をまとめる」が20.5%,「エ 教師の説明を聞てまとめる」17.3%という結果であった。こうした結果から,児童生徒は,「グループ間での話し合い活動」を通して表現力を高めようとしていることが分かるが,反面,「クラス全体で話し合う活動」は小・中・高等学校と校種が変わるほどその数値は減少している。小学校においては,「クラス全体で話し合う活動」の数値が高いのは学習活動の中に定着化されているためと考えられる。中学校・高等学校で数値が低いのは,「クラス全体で話し合う活動」の機会が少ないためと推察される。また,「一人一人が個別に自分の考えや意見をまとめる」の数値も小学校・中学校・高等学校とも同程度の割合であり,自分の表現力を育てるのに必要であると考えていることが分かる。

 表1 自分の表現力を育てるためにどんな学習方法を行いたいですか(%)
  全体
ア 一人一人が個別に自分の考えや意見をまとめる 19.6 21.0 21.0 20.5
イ グループ間での話し合い活動を通してまとめる 35.8 38.7 36.6 37.0
ウ クラス全体での話し合いを通してまとめる 22.7 12.7  9.8 15.1
エ 教師の説明を聞いてまとめる 13.7 18.1 19.9 17.3
オ 複数の教師の説明を聞いてまとめる  7.7  8.5 11.4  9.2
カ その他  0.5  1.0  1.3  0.9
(イ)  調べ学習を行う方法(表2)
 全体の数字を見ると31.8%の児童生徒が「ウ インターネットを利用して情報収集を行う」,28.0%が「ア 図書館で文献等の資料収集を個人で行う」としている。このことから,児童生徒がインターネットを活用したいと考えていることが分かる。「イ グループ間での話し合い活動を中心に行う」とした数値が,小学校・中学校・高等学校と学校が進むにつれて低下しているのは,情報収集の手だてとして話し合い活動を行う機会が少なくなっているためではないかと考えられる。
 「エ 教師が準備した学習の手引きを使う」とした数値が,小学校,中学校,高等学校に学校と進むにつれて割合が高くなっている。これは,児童生徒が教師の作った手引きを授業の調べ学習の手だての一つとして求めていることが推察できる。

 表2 調べ学習を行う場合どんな方法で進めていきたいですか(%)
  全体
ア 図書館で文献等の資料収集を個人で行う 29.1 24.6 30.4 28.0
イ グループ間での話し合い活動を中心に行う 23.4 22.4 18.3 21.4
ウ インターネットを利用して情報収集を行う 31.8 35.8 27.9 31.8
エ 教師が準備した学習の手引きを使う 14.3 16.4 22.0 17.6
オ その他  1.3  0.8  1.4  1.2
(ウ)  活発に意見や考えが出せる話し合い活動(表3)
 表3の「活発に意見や考えが出せる話し合い活動」の問いに対し,22.4%が「イ グループ間での話し合い活動」と答えている。このことから,児童生徒は活発な意見や考えを出すには,グループでの話し合いが有効と考えている。また,22.3% が「ア 自分の考えの根拠となる資料を収集,まとめる」と答えており,資料を収集することで,話し合いの中で自信をもって意見や考えを述べることができると考えられる。また,20.4%が「エ ディベートのような,ゲーム的な話し合い活動をする」ことを挙げており,形式にとらわれないゲーム的な雰囲気の話し合いで,自分の意見や考えを抵抗なく出せると考えられる。

 表3 活発に意見や考えが出せる話し合い活動にするためにどんな方法が良いですか(%)
  全体
ア 自分の考えの根拠となる資料を収集,まとめる 23.1 23.3 20.5 22.3
イ グループ間での話し合い活動をする 21.7 23.8 21.7 22.4
ウ グループで話し合った後,クラス全体で話し合う 22.1 21.9 22.2 22.1
エ ディベートのような,ゲーム的な話し合い活動をする 19.4 18.0 23.8 20.4
オ 教育機器を自由に利用できる 13.6 11.9 10.2 11.9
カ その他  1.1  1.2  1.6  0.9
 教師の実態調査の分析
 教師が普段の授業の中で,「豊かな表現力やコミュニケーション能力」の育成についてどのように意識し,指導に取り組んでいるか調査を行った。その結果の分析については次のとおりである。
(ア)  豊かな表現力を育てるための手だて(表4)
 全ての校種で約5割の教師が「イ グループ,クラス全体で話し合った後,文書や口頭でまとめていく学習」と答えている。教師は,豊かな表現力を育てる手だてとして, グループや全体で話し合った後,一人一人がまとめていく活動が有効であると考えている。
 つぎに,「ア 個人で文書や口頭でまとめていく」を,小学校の教師21.8%,中学校の教師25.8%,高等学校の教師24.1%が選択し,中学校・高等学校になると数値が高くなっている。その一方,「エ教師の説明を中心とした学習」については,小学校・高等学校で0%,中学校で5%という低い数値を示しており,豊かな表現力を育てるためには児童生徒の主体的な取り組みが必要であると教師が考えていることがうかがえる。

 表4 豊かな表現力を育てるためには,どんな方法が良いと思いますか(%)
  全体
ア 個人で文書や口頭でまとめていく学習 21.8 25.8 24.1 23.9
イ グループ,クラス全体で話し合った後,文書や口頭でまとめていく学習 49.4 51.0 45.7 48.7
ウ ディベートによるゲーム的な話し合い活動 16.7 21.2 16.4 18.4
エ 教師の説明を中心とした学習  0.0  5.0  0.0  1.7
オ 教育機器等を活用した学習 10.9 13.0 12.1 12.0
カ その他  1.2  1.0  1.7  1.3
(イ)  豊かな表現力を育てるための調べ学習(表5)
 表5から分かるように,「豊かな表現力を育てるためにどのような調べ学習をさせていますか」の問いに,「イ グループでの話し合いの場を設定し意見交換できるようにしている」,「ア 資料収集しやすいように図書館で活用できるようにしている」が,高い割合を示している。このことは,豊かな表現力を育てるためには調べるための資料,まとめるための資料,そしてその根拠となる資料などを用意させたいと考えていることが分かる。さらに,「ウ インターネット等を利用できるようにしている」と,小学校の教師は16.3%,中学校の教師は17.0%,高等学校の教師は17.2%が,回答しており,これからの教育活動の場でインターネットの活用が重要になってくるのではないかと推察できる。
 表5の「エ 学習の手引きを活用できるようにしている」と,小学校,中学校の教師は,10.0%,高等学校の教師は10.3%と低い数値だが,教師が作成した手引きを授業の中で活用している様子がうかがえる。このことを考えると,生徒の実態に合わせた手引きの工夫も必要になってくるのではないかと考えられる。

 表5 豊かな表現力を育てるためにどんな調べ学習をさせていますか(%)
  全体
ア 資料収集しやすいように図書館を活用できるようにしている 33.1 34.0 34.5 33.9
イ グループでの話し合いの場を設定し意見交換ができるようにしている 40.6 39.0 37.1 38.9
ウ インターネット等を利用できるようにしている 16.3 17.0 17.2 16.8
エ 学習の手引きを活用できるようにしている 10.0 10.0 10.3 10.1
オ その他  0.0  0.0  0.9  0.3
(ウ)  話し合い活動を活発に行うための手だて(表6)
 表6の全体の数値で見ると,35.7%の教師が「ア 自分の考えの根拠となる資料を収集,まとめるようにする」,35.3%が「イ小グループによる情報交換を行えるようにする」を挙げている。こうした結果から,教師は児童生徒に自分の考えの根拠をもたせることにより,より具体的に説得力のある話し合いが可能になり,思考力・判断力が深まるととらえていることが推察できる。全般的な特徴として,小学校・中学校・高等学校で同じような数値が見られることは,どの校種の教師も話し合いを活発にさせる手だてとして,「ア」, 「イ」両方とも大切であり,そのような場の設定を望んでいるようである。

 表6 話し合い活動を活発に行うためにどんな配慮をしていますか(%)
  全体
ア 自分の考えの根拠となる資料を収集,まとめるようにする 35.0 36.1 35.9 35.7
イ 小グループによる情報交換を行えるようにする 35.0 35.7 35.1 35.3
ウ クラス全体で話し合いや討論によって情報交換を行えるようにする 16.9 15.0 16.0 15.9
エ ディベートを行い,様々な考え方があることを知る  3.3  5.2  3.8  4.2
オ 教育機器の活用  9.3  8.0  8.4  8.5
カ その他  0.5  0.0  0.8  0.4
(4)  調査のまとめ
 豊かな表現力を育成するためには,児童生徒も教師も「グループでの話し合い」が大切であると考えている。特に教師は,豊かな表現力はグループ,クラス全体で話し合う場を設定し意見交換を行った後,自分の考えを文書や口頭でまとめる学習形態で行った方が育成できると考えている割合が高い。
 豊かな表現力を育成するための方法として,児童生徒も教師も,情報収集の場とグループによる話し合い活動が大切であると考えている割合が高い。情報収集の場としての図書館の役割を重視している。児童生徒たちは,新たな情報収集源としてインターネットの活用を望んでいる割合が高い。しかし,教師は,インターネット等の利用が表現力の育成にはつながらないと考えている。また,児童生徒が学習の手引きの活用を望んでいる割合と,教師の手引きの活用の割合に違いが見られる。
 児童生徒同様に,教師は,話し合い活動を活発にしていくために自分の考えの根拠となる資料を収集し,それをもとにまとめることで,より説得力のある話し合いが可能になると考えている。また,多くの教師が話し合い活動の形態を段階的に変える割合が高いという実態を考えると,教師は,話し合い活動が児童生徒の思考力・判断力が深まると期待している様子がうかがえる。児童生徒も話し合い活動を重要視していることが分かる。

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