研究の成果
   本研究では図画工作・美術科学習に関する実態を踏まえ,児童生徒が主体的に活動できるように,新たな視点に立った鑑賞教材(題材)の開発と指導の工夫から―題材設定の工夫や,発想・構想時における表現方法,材料の提示の工夫等の手だてを講じ,授業研究を行った。研究主題に迫るための有効な手だては,以下の通りである。
(1)  児童生徒が主体的に鑑賞するための題材の開発と,見方を広げたり深めたりする力を身に付けるための手だてについて
 児童の実態や暮らす環境,伝統などを考慮した鑑賞教材として「ふろしき」を取り上げ,直接手に取ったり,ゲームを取り入れるなど,諸感覚を働かせた体験的な鑑賞活動を通して,見方を広げたり,深めることことができた。
 鑑賞対象を前に,児童が主体的に活動できるように,児童が楽しみながら話し合いができるような展開及び場の設定の工夫をしたことにより,児童が自ら考えながらふろしきの模様の面白さや美しさを感じ取ることができ,主体的な鑑賞活動が実現できるとともに,日本の伝統的な生活用具のもつよさにふれることができた。
 鑑賞から表現に発展につなげる教材として,「寒冷紗スクリーン版画(型染め版画)」を開発し,バンダナ,ランチマットつくりを行った。見る・つくる・使って楽しむという一連の活動を通して,児童は鑑賞の楽しさを味わうとともに,自ら考え,自ら学ぶ態度が養われたと考える。
(2)  地域の作家との交流の機会を設け,児童生徒が自ら調べたり,多面的に考える場の設定と支援について
 地域在住の作家をゲストティーチャーとして招き,作品の感想を直接作家に送ったり,生徒自ら調べ,自ら課題を見つけられるような手だてや支援の工夫をした。その結果,生徒は,作品を多面的に見たり,鑑賞する際の観点を自ら整理して,より深く作家の意図や表現の方法について理解を深め,鑑賞の方法を習得することができた。
 鑑賞カードの活用及び,入念な準備に基づく作者との対話を通して,生徒は作品についての見方を深めるとともに,自分なりの鑑賞の楽しみ方を発見することができ,主体的に鑑賞することができたといえる。
 
おわりに
 本研究を通して,鑑賞指導における課題が明らかになるとともに,児童生徒のもっているよさや,可能性を引き出せるような新たな視点に立った鑑賞教材(題材)を開発し,実践を通してその効果を確かめることができた。この過程で,多くの鑑賞対象を暮らしの中や,地域の中に見いだすことができた。美術館の作品をいつでも自由に見ることのできる学校はほとんどない現実を考えれば,鑑賞の対象を美術作品や児童生徒作品に限らず,ひろく自然や文化遺産,生活の中に見つける「眼」を教師は常に持ち続けたいものである。今後は,鑑賞を通して何がどのように身に付くのか,何がわかるのか,というよりよい学びを創造するための支援的な評価の方法について研究を深めていきたい。
 実践報告を2校としたが,報告書に掲載出来なかった2校でも「鑑賞教育の充実」を踏まえた創意溢れる研究が行われた。「お祭りから日本の色を見つけよう」(桜村立阿波小学校)は,地域の伝統的な行事に使われている衣装を鑑賞の教材としたもので,日本の伝統的な美しさ,よさを児童が楽しく味わうことができた。また,「絹谷幸二作『青春』の鑑賞とフレスコ画の体験」(十王町立十王中学校)は,十王町で制作中の日本を代表する洋画家,絹谷幸二氏の協力を得ながら,鑑賞を主軸とし,さらに表現(フレスコ画制作)にも関連付けた実践であった。いずれも,鑑賞を独立した学習としてとらえた意欲的な研究であったことをここに記したい。

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