【授業研究1】
  小学校第2学年
「ふろしきからバンダナへ(鑑賞から表現活動へ)」における見方を広げたり深めたりする力を身に付けるための学習指導の工夫
 
(1)  授業研究のねらい
   図画工作科「鑑賞」の学習では,児童が作品などに関心をもって見るとともに,それらのよさや美しさなどの感じ方や見方を深め,感覚や感性を高めるようにすることをねらいとしている。また,低学年においては,見ることに関心をもち,その楽しさを味わうようにすることが重視されており,作品を眺めるだけでなく,触ったり,手にしたり,話したり聞いたり,体全体の感覚を働かせて感じ取る学習が重要となる。したがって,児童の発達段階を考慮しながら,児童が興味をもって楽しく鑑賞できる対象を考え,鑑賞の方法などを工夫することが必要とされる。
 そこで,児童が主体的に鑑賞し見方を広げたり深めたりする力を身に付けるために,小学校第2学年「ふろしきからバンダナへ」の授業研究を通して,題材の開発・展開の仕方・発問の工夫などについて究明することとした。
(2)  児童が主体的に鑑賞するための題材の開発と,見方を広げたり深めたりする力を身に付けるための手だて
 児童の興味・関心を高める題材の開発
 風呂敷は,日本の伝統的な生活用品であり,色や模様も豊富で美しい。しかも,どの家庭にも身近にあり,児童がそれぞれ手に取り,感触を確かめたりしながら鑑賞することができる。低学年の児童でも,よさや美しさを味わったり,布に簡単な模様をつけて表現することもできる。
 諸感覚を働かせた鑑賞の工夫
(ア)  風呂敷を使ったゲームでは,体全体を使って遊ぶことで風呂敷に親しむことができる。「結ぶ・たたむ・広げる」という動作の入ったゲームをすることで,諸感覚を働かせながら,風呂敷のよさや特徴をつかんだり,使い方を体験することができる。
(イ)  一枚の風呂敷の色や模様について,みんなで話し合ったり,自分の風呂敷を広げて特徴を見付けることで見ることを楽しむ。
(ウ)  正座して包む体験を通して,日本の伝統的な所作やよさに触れる。
 鑑賞から表現につながる展開の工夫
 風呂敷の鑑賞を通して感じ取った,色や模様の組み合わせの面白さへの関心を高めるため,型染めの技法を取り入れた作品づくりに発展させる。
 表し方の面白さに気付かせるための発問の工夫
  風呂敷を手に取ったときの感触,色や模様の組み合わせの面白さに気付き,児童が興味をもって,楽しみながら話し合えるような発問を設定する。
(3)   授業の実践
 学習の主題
 風呂敷を使ったゲームで主体的に遊んだり,手に取りよく見て話し合う活動を楽しみながら風呂敷のよさを味わい,見方を広げたり深めたりする力を身に付けたい。
 題 材
 「ふろしきからバンダナへ(鑑賞から表現活動へ)」
 目標
目   標 評 価 の 観 点
関心・意欲・態度 発想・
構想
創造 ・技能 鑑賞
1 風呂敷を使って児童が遊んだり,手にとって話し合いをしながら,身近にある暮らしの道具について関心をもつことができる。    
2 活動や話し合いから,風呂敷の美しさや使い道に気付き,日本の伝統的な生活用具に親しみをもち楽しく見ることができる。  
3 風呂敷などの身近な布製品に触れながら,模様や色などの組み合わせの面白さに気付き,型染め版の技法を用いた作品づくりを通して,つくる楽しさや使う喜びを味わうことができる。  
 題材について
 2年生の児童は,図画工作の時間が大好きである。自由に表現するのはもちろんのこと,できあがった作品を友達に紹介したり,友達の作品を見ながら話を聞いたりすることも楽しんでいる。児童の日常生活の中では,授業の作品だけでなく名画などの美術作品や日常使われているデザインの美しい生活用具を目にする機会は少なくはない。しかし,きっかけがなかったり見方が分からないために,その作品のよさに気付かないまま過ぎてしまうことは多いと思われる。
 この題材は,風呂敷に親しむ活動を通して,見方を広げたり深めたりする力を身に付けるとともに,日本の伝統文化を身近なものとし,そのよさを味わうことをねらいとしている。我が国では伝統的にどの家庭でも使われてきた風呂敷は,一枚で多様な使い方があり,また色や模様も豊富で美しい。2年生の児童も風呂敷をどこかで見たことがある児童は多い。しかし,色や模様や何のために使っていたかについてはあまり関心がなかったようである。
 そこで,本題材では,風呂敷を使ったゲームを体験したり,手にとって話し合うことで風呂敷というものに親しみをもたせたい。そして,風呂敷について,色・模様・手触り・使い方などを話し合っていくことで,作品の見方を広げ,見ることの楽しさを味わわせたい。また,その中で,単純な模様の組み合わせの面白さに気付かせ,型染め版の技法を用いた作品づくりに取り組ませたい。
 学習の流れ(7時間取り扱い)
学習の流れ
 本時の学習
(ア)  目 標
@  風呂敷で遊んだり,話し合う活動を楽しみ,見ることに関心をもつことができる
A  風呂敷に親しむ活動を通して,色や模様の美しさや使い道に気付き,表現に生かそうとすることができる。
(イ)  準 備
 児童:各家庭にある風呂敷
 教師:風呂敷,ボール,ビデオケース,ゲームの説明図,学習カード,型染めの作品
(ウ)  展 開
展開
(4)  授業の結果と考察
 風呂敷を使ったゲームの様子から
 児童は,風呂敷などを使ったゲームをするのは初めてで,どんなことをするのか大変興味深い様子であった。ボールを風呂敷で包み,風呂敷の端を結んで二人で運ぶゲームでは,うまく結べず戸惑っている児童もいたが,友達と協力し合い楽しんでいた。風呂敷を広げたり,たたんだりするゲームでは,きちんとたたまないとケースには入らないので,ほとんどの児童が慎重に行っていた。結ぶこと・たたむことの難しさや大切さを体感しながらも,風呂敷というものを身近に感じることができたと考えられる。
 話し合いの様子から
 教師の用意した風呂敷について,色や模様に目を向かせるための発問をしたが,児童は予想以上に興味を示し,次から次と気付いた点を発表していた。また,自分の風呂敷についても,色探し・模様探しに真剣に取り組み,時間が足らないくらいであった。
 作品づくりの様子から
 型染め版の作成・模様づくり・染色・型染めという過程で作品をつくった。型染めによって自分がつくった模様がきれいに写ったときは,大変満足した様子であった。また同じ形が何回も刷れるという版のもっている特徴に驚き,楽しみながら活動していた。
授業の様子
 活動後の調査・感想から
調査・感想 ゲームはもちろんのこと,みんなで風呂敷を見ることが楽しかったという児童がほとんどであった。体全体を使って鑑賞することを楽しむことができ,また,作品の見方が少しずつ分かってきたためかと考えられる。身の回りのもので今後鑑賞してみたいものを選ばせたところ,うちわ・手ぬぐい・テーブルクロス・着物などがあげられた。日本の伝統的なものや身近なものに目を向けるようになってきた。
(5)  授業研究の成果と課題
 成 果
(ア)  児童の興味・関心を高める題材の開発から
 それぞれ自分の家から風呂敷を持ち寄り,一人一人が実際に手に取り親しみながら鑑賞することができた。また,色や模様について,児童の興味・関心を高める話し合いができた。
(イ)  諸感覚を働かせた鑑賞の工夫から
 遊ぶ・手に取る・見る・話し合う・使ってみるなど体全体で感じ取るという経験をすることで,作品の見方を広げ深めることができた。また,正座してきちんと包む様子を見たり自分で体験したりすることで,日本の文化や伝統のよさに気付くことができた。
(ウ)  鑑賞から表現につながる展開の工夫
 型染めの模様は,風呂敷の鑑賞を通して感じ取ったことを生かし,単純な形で構成した。連続模様の面白さを味わい,楽しみながら製作することができた。
(エ)  表し方の面白さに気付かせるための発問の工夫
 色や模様の組み合わせの面白さに気付くような発問をすることで,どの児童も風呂敷を見ることを楽しむことができ,自ら特徴を見つけようとする態度が見られた。
 課題
 これからも日本に長らく伝えられてきた暮らしの中の美しいものを題材として取り上げ,児童に伝えていきたい。また,現在使われているものでも,10年,20年前方がデザインが美しいものがある。今後も題材の開発に努め,児童が主体的に鑑賞できるよう,題材のねらいや発達段階に応じた活動について研究を深めたい。

[図画工作・美術科目次]