【授業研究5】 課題研究におけるホームページの作成
    茨城県立総和工業高等学校  渡辺 稔
(1)  ホームページ作成のねらい
   課題研究の目的については,下記の通りである。
 
ア 社会の変化に対応できるような問題解決能力を身につける。
イ 自発的な学習態度を育て実践的技術者を育成する。
ウ 工業技術の総合化を図り,応用力を身につける。
エ 個性を生かし,自己実現を図る意志や方法・態度を育てる。
   具体的には,「生徒自身がテーマ(問題)を見つけ,個々の能力にあった方法で自発的に問題解決の計画を立てる。そして,その計画に基づいて実践し,最後に目標が達成できたか評価をする。」である。
 よって,いままでの教科指導と大きく異なっている。教師サイドの達成目標ではなく,生徒自身が自分で目標を作ること,さらに,評価についても生徒の自己評価を加えることができる。
 本科では,校内で実施不可能なテーマ以外は,生徒の希望を 100%重視している。他の科においても,多少の違いはあるが生徒の希望を重んじている。一般的にテーマの分類は,下記の通りである。
   ア 調査研究
   イ 製作実習
   ウ コンピュータ
   エ 現場実習
   オ 資格取得
   活動方法も校内だけではなく,企業研修・外部講師なども可能であり,かなり自由度をもった科目である。
 しかし,生徒の希望の多くは,製作実習とコンピュータ関係であった。
 今年の希望テーマの分類は,下記の通りである。
   ア エンジン関係 ・・・・ エンジン研究(図5-2)
   イ 電子工作 ・・・・ 液晶テレビ製作(図5-3)
ラジコン製作
   ウ 木材加工 ・・・・ ラック,木馬等の製作(図5-4)
   エ コンピュータ利用 ・・・・ インターネット研究,CG(図5-5)
図5-1 木工ろくろ作業 図5-2 エンジン研究
図5-3、図5-4、図5-5
   担当教員は6名で,専門性にあわせて各テーマを担当するようにしている。今回の研究報告は,コンピュータ利用班でのインターネットの活用事例である。
 インターネットが普及する前までは,コンピュータ班は「ゲームを作ろう。」が目標で,プログラミンググループとCADなどのアプリケーションの操作研究グループだけだった。ここ数年,OSの変化や,コンピュータ内部のブラックボックス化が進み,
 プログラミングが高度化していてる状況であるため,プログラミング希望者が激減した。
 さらに,インターネットも普及し,生徒たちも自分でホームページを作ってみたいとの希望がでるようになった。そこで,ホームページ作成を課題研究に取り入れた。ねらいとしては,
 
 ・表現の仕方の学習(問題を分析し筋道をたててまとめる)
 ・プレゼンテーション技術(表現力,感性の育成)
 ・HTML言語学習(プログラミングの手法の育成)
  である。これを進めることにより,自己表現方法の育成や,問題を解決するための分析能力の育成につながると思っている。
(2)  インターネットの利用環境
図5-6 ネットワーク構成図
   図5-6 に示すように,科内の Windows95パソコン57台がイーサネットで結ばれている。そして,全てのコンピュータからインターネットが利用できる。
 また,平成11年度から校内LANの工事を実習のテーマに入れ,各教科の研究室にある全ての Windows95パソコンからインターネットが利用できるようになった。
 接続方式は,ダイヤルアップでありINSネット64回線(ISDN)を利用している。プロバイダは「ネットいばらき」と「猿島インターネット」の2社を使っている。どちらも接続ポイントは市内にあるが,通信速度は64kbpsで 128kbpsには対応していない。2社を使っている理由は,本校には2つのネットワークOS,つまりNet Ware 4.1jサーバとNTサーバの設備が入っているからである。また,それぞれの導入年度が異なっており,インターネット整備事業以前から契約しているプロバイダがあったためである。使い分けは,電子機械科では「猿島インターネット」を,その他の科では「ネットいばらき」を使っている。
 ダイヤルアップルータの時間設定は,水曜と金曜の5〜6時間目(課題研究の時間)と放課後(15時30分〜17時)は自動接続にしてある。よって,端末側ではブラウザを起動した段階で,プロバイダに接続する。放課後は,部活動や一般の生徒が利用できるようにしている。
(3)  授業の実践
   単元名  クラス紹介及び学習内容紹介のホームページの作成
   目 標
    ○テーマにあったシナリオの作成 (問題の分析)
    ○ページごとの内容・レイアウトの作成 (表現の仕方)
    ○プログラミング (プログラミング技術の習得)
   指導計画 (56時間扱い)
     第1次  オリエンテーション ・・・・・・・・・・・・・・2時間  
     第2次  テーマの希望調査及び設定 ・・・・・・・・・・・・・・4時間  
     第3次  インターネットガイダンス ・・・・・・・・・・・・・・2時間  
     第4次  ネットサーフィン ・・・・・・・・・・・・・・8時間  
     第5次  テーマの検討 ・・・・・・・・・・・・・・2時間  
     第6次  シナリオの作成 ・・・・・・・・・・・・・20時間 (本時)
     第7次  プログラミング ・・・・・・・・・・・・・・8時間  
     第8次  内容のチェック ・・・・・・・・・・・・・・2時間  
     第9次  登録方法 ・・・・・・・・・・・・・・2時間  
     第10次  レポートの作成 ・・・・・・・・・・・・・・2時間  
     第11次  発表会 ・・・・・・・・・・・・・・4時間  
   本時の指導
    (ア)  目 標
       テーマにあったシナリオが作成できているか。
    (イ)  準備・資料
       インターネットより見つけた資料,その他参考書籍等
    (ウ)  展 開
平成10年10月23日(金)5・6時間目 科 目 課題研究 指導者 渡辺 稔,中村 信行,篠崎 純子
教   室 5号館ネットワーク実習室 クラス D3B 単位数 2単位 使用教科書 な し
単元名 インターネット研究
単元目標 ホームページ作成
指導計画
オリエンテーション 2時間  
テーマの希望調査及び設定 4時間  
インターネットガイダンス 2時間  
ネットサーフィン 8時間  
テーマの検討 2時間  
シナリオの作成 20時間 (本時)
プログラミング 8時間  
内容のチェック 2時間  
登録方法 2時間  
10 レポートの作成 2時間  
11 発表会 4時間  
本時の目標 各自のテーマにあったシナリオの設計をする。
学習の展開 指 導 内 容 指 導 上 の 留 意 点
評   価 各自のテーマにあったものができているか。
(4)  授業の結果
  生徒の感想及び反省
  図5-7 作品(1) ○M・T君グループ
 僕たちは,1年間の課題研究の中でホームページの作成に着目してみました。最初のうちは,いろいろな所のホームページを観察して,どのように作るかどうしたらきれいに作れるのか,ホームページを見て考えました。ホームページの作成は思ったより難しく,自分たちの思ったとおりに作れず本当に苦労しました。
 工夫した点は,他のホームページよりも,壁紙にこだわったり,リンクにこだわりをもって,きれいに作ってみようと思いました。反省点は,約1年間の半分を,ホームページを見ているだけで,過ごしてしまったので,もう少し早く作っていれば,今よりは,完成に少し近づいていたと思います。
  図5-7 作品(2) ○M・T・S・N君グループ
 僕たちはホームページを作ろうと思い,ホームページ作成組に入りました。最初,ホーームページというものがあまり分からなかったので,インターネットで色々なホームページを見ました。だけど,ホームページを見てばっかりで全然作成の方が,進みませんでしした。しかも,そのうち関係のないホームページを見始めてしまって,もっと進みが悪くなりました。でも,期限が短くなるにつれれて,だんだんとあせってきてホームページを作り始めました。
 まず始めに,ホームページを最初からすべて作るのは大変そうだったので,インターネットで見ていた適当なページを表示して,そしてソース表示をクリックすると,HTML表示ができます。これは,どのホームページにもあるもので,ホームページをつくるのにかかせないものです。このHTML言語は,自分にもまだよく分かりません。だから,簡単な図5-8 の様なものくらいしか分からなかったので,ここまでしかできませんでした。1年間を無駄に使った時間の方が多かった気がします。でも,最後には一応それなりの物ができたのでよかったと思います。
  ○F君
 作り始めるのが遅く,作りたいものがうまくできなかった。ホームページ作りをやっていて思ったことは,とてもプログラムが難しくて,1つでもミスがあったら表示されないところがとてもつらかった。
図5-9 作品(3)
  ○Y君
 1年間パソコンを使ってみて,自分でもパソコンが 欲しくなった。インターネットは楽しかった。ネットサーフィンで終わってしまった。
  ○K君
 デジカメで撮った画像をホームページで使うことが出来なかったのが残念だった。家にパソコンがあるので,これからもホームページを作っていきたいと思う。途中から,絵を描くことに没頭してしまった。
  ○I君
 デジカメで撮った画像をホームページで使うことが出来なかったのが残念だった。家にパソコンがあるので,これからもホームページを作っていきたいと思う。途中から,絵を描くことに没頭してしまった。
  ○T君
 いつもの怠け癖がでてしまい,ホームページが完成しなかったことが心残りだが,基礎は理解できたと思うので今後,役に立たせようと思う。
   
   以上が,生徒たちの作品や感想及び反省である。プログラミングについて何の知識がなくてもコンピュータが苦手だった生徒たちも,発表できるような作品ができた。
(5)  授業の成果
   インターネットが利用できるようになってから,コンピュータ班では,ホームページ作成の研究希望者が増えた。ホームページを見ていると,自分でも作ってみたくなり,ホームページ作成が目的になった。以前のコンピュータ班は,ゲームを作ることが多く,ほとんどがプログラミングであった。ゲームプログラムを作成したが難易度が高く,オリジナルの作品を完成させる生徒は極まれであった。雑誌のプログラムをタイプし,検証して終わっていた。HTML言語は,プログラミング言語とは言えないが,機種を問わず,かなりのことができるので,進んで導入している。
 いままでのプログラミング言語との大きな違いは,

ア マルチメディアを簡単に扱えること
イ 初心者でも,簡単に作成できること
ウ 中級以上でも,奥が深く飽きないこと
エ 無料であること
オ Windows ,Macintosh ,UNIXでも使えること

 などである。本校では特に,ア,イ及びエを考慮し,必ず作品として完成させることができる所を重視している。
 また,ホームページとして物語を作ることは,問題の分析や他人が見て理解してもらうにはどうしたらいいかなどプログラミング言語では味わえなかったことが学習でき,メリットがあると思っている。
 このテーマで学習した生徒が,どこまでこちらの意図を理解したかは,はっきり分からないが,学習の様子を見ていると普段の授業では見られない楽しそうな表情や,友人と議論している様子などが見られた。マイペースでのびのび活動していて,楽しんで実習している授業は,他の教科では見られなかった。技量の乏しい生徒でも,十分使えるテーマであった。
図5-10 学習の様子(1)

図5-11 学習の様子(2)
(6)  今後の課題
  図5-12 学習の様子(3)  ホームページ作成に当たってのテーマ設定については,環境等の社会問題について提案したが,自己紹介やクラス紹介等になってしまった。導入の段階で,グローバルな社会問題など,真剣に議論することが必要なので,次年度にはぜひ考えていきたい。
 また,途中から山梨県立甲府工業高校から電子メールがきて,メール交換もできた。(ただし,メールアドレスは教師のものである。)相手校には生徒一人一人のアカウントがあり,個人的なメール交換の要望もあったが,本校では不可能であった。よって,形式張ったメール交換のみで,長続きしなかった。予算的に可能であれば,生徒たちの自由なメール交換を実現させてあげたい。
 以前にも英語の授業の中で,アメリカの生徒とパソコン通信によるメール交換を行った。最初は,反響がすごく,生徒たちも意欲的に活動した。しかし英語の壁が厚く,長続きしなかった。翻訳ソフトの性能もあがりこれを利用することにより,外国とのメール交換もできやすいので,検討したいと思う。
 また,自分の言いたいことを表現するためには,筋道をたてて,問題を分析,整理する力が必要であり,国語力が左右する。さらに,画面構成には,センス等の感性の影響が大であった。
図5-13 学習の様子(4) 図5-14 学習の様子(5)
   課題研究でのホームページ作成は,比較的簡単にできるし,どの生徒でもある程度,形にすることができた。さらに,力のある生徒は表現力のあるページ作成が可能で,希望者にはCGIやJavaも指導したいと思う。アドバイスする教師の技量にも多く影響するので,教員の幅広い研修も課題となる。
 最後の授業日に,次年度の課題研究のテーマを決める参考にしてもらうため,2年生を参加させて発表会を行っている。制作に時間をとってしまうことで,なかなか発表の指導が行き届いていない。この辺の指導をもっと計画的にする必要がある。また,2年生に見せることにより,2年生が次年度のテーマを設定するときに,かえって,独創性をつぶす結果にもなるとマイナス面も指摘されるが,参考資料となるプラス面の方が多いと思われる。
 ハード的には,どのコンピュータからもインターネットを利用できるが,実際に試したところ,64kbpsでは20人がなんとか使える状況であった。1クラス一斉授業での利用は無理であった。今回の課題研究班は,10人だったので問題なく使えた。
 また,通信料金も,いつでも自由にどのコンピュータからでもインターネットが利用できるため増え,昨年度は6月で前期分の予算10万円を使い切ってしまった。その後は自動接続時間を設定して利用していたので,月平均の通話料金は,1万3千円程度になった。インターネットの利用推進のためにも,効率よい接続や各種の割引サービスを利用していかないと広がらないと考えられる。
 インターネットは,学習の道具の一つにすぎない。しかし,広く深く調べるには,非常に便利でかかせないものとということなどを,もっと多くの先生方に理解してもらいたい。そして,他の教科での利用を進めていきたい。
 また,情報モラルの指導は,口頭で話しただけであるが,もっと積極的にしなければならない。これも,インターネットでネチケット関係の資料を利用して,情報技術基礎などで1年生に指導するのが適当と思うので考えていきたい。さらに,有害ページを見せないためのフィルタリングは行っていないが,今後考えていく必要があると思う。
図5-15 学習の様子(6)
図5-16 発表会(1)
図5-17 発表会(2)
図5-18 発表会(3)

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