【授業研究3】 中学校第3学年選択理科「環境問題について考えよう」校内LANの活用
    牛久市立牛久南中学校  国府田 誠一
(1)  校内LAN活用のねらい
   牛久市立牛久南中学校では,コンピュータやインターネットの日常的な利用と校内情報の動的な共有を目指し,低コストでのイントラネット構築を行ってきた。
 一般的には,教師によって完全に管理された職員室やコンピュータ室(鍵のかかる部屋等)に,コンピュータを設置して利用することが行われてきた。本校ではこの発想を変え,廊下等の場所(鍵のかからない場所)で休み時間や放課後に生徒が自由にコンピュータを活用できるようにした。その理由は次の二点である。
 第一に,コンピュータを道具として活用する学習は,現在の45〜50分という授業時間の枠内で行うことは難しい。コンピュータを道具として学習に活用することは,効率性を求める教師中心による知識伝達型の授業ではなく,構成主義的な学習観に基づく授業を要求する。つまり教師は子どもの間違いを許し,時間的な効率性を求めず,探索することを奨励するといった考えが必要である。したがって,授業時間内での学習という考えにとらわれず,休み時間や放課後を使っての学習も奨励されるべきである。そのためには,コンピュータを学校図書館の図書のように自由に利用することができるよう教師側は準備する必要がある。
 第二に,職員室に設置したコンピュータをインターネットに接続しても,授業で利用することは難しい。なぜならば,職員室のコンピュータは,教師が校務処理や教材研究を行うことを目的として設置しているからである。したがって,教師の利用が優先し,生徒が使いたいときに使えない状況が出てきてしまう。また,教師が複数の生徒に向けて情報を提示したい場合など,職員室が学習にふさわしい場所でないこともある。そこで,生徒が自ら情報検索を行うためには,生徒が自由に触れられる場所にコンピュータを設置する必要があると考えた。
 以上のような理由から,廊下など鍵のかからない場所へのコンピュータ設置を試み,生徒がいつでも自由にコンピュータを活用できるようにした。
(2)  インターネットの利用環境
  ・校内LAN
  教師用2台(職員室2)
  生徒用8台(廊下5,保健室1,教育相談室1,特殊学級1)
  以上,10台がダイヤルアップルータに接続されている。
・第一コンピュータ室
  教師用2台
  生徒用40台
  以上,42台がダイヤルアップルータに接続されている。
   校内LANでは,「フロントページ」という画面から,インターネットだけではなく,明日の連絡や教科のページ,進路のページ,文化祭,行事予定などの情報も見ることができる。つまり,イントラネットも日常的に利用することができるようにしている。
 これらの環境,特に校内LANでは,生徒が自由にコンピュータを使用できるように,環境の工夫をしてきた。
 一つは,フィルタリング用ソフトウェアの活用である。本校の環境は,廊下にインターネットやイントラネットに接続できるコンピュータが設置されており,生徒は授業中はもとより,休み時間や放課後なども自由にインターネット,イントラネットを活用することができる。これは,生徒が日常的にコンピュータを活用することができるというメリットがある。
 しかし,授業中だけインターネットを使用するのであれば,有害情報を探すことはないであろうが,検索中,偶然に有害情報があるホームページにたどり着いてしまうことも考えられる。さらに,休み時間での使用であれば,興味本位の検索から有害情報との接触の可能性も高くなる。
 従って,自由度の高い使用方法の中で,生徒を有害情報から守るためにフィルタリング用ソフトウェアを活用している。このソフトウェアにより,生徒が自由にインターネットを使用していても,有害情報にアクセスできないようになっている。また,道徳教育において,有害情報に対し進んで接触しようとすることのないように,モラルの大切さも継続的に指導していくことが重要であると考える。
 もう一つは,セキュリティ用ソフトウェアの活用である。このソフトウェアを使用することによって,「エクスプローラ」,「コントロールパネル」,「デスクトップ」などの設定を変更できなくしたり,ハードディスクを含む特定のドライブを開くことができないような設定にしたりすることができる。
 前述したように,生徒がコンピュータを使用するときは,必ずしも教師指導のもとというわけではない。むしろ,生徒だけで使用している場合の方が多いと考えられる。そのため,廊下で,授業時間だけではなく休み時間もコンピュータを使用させている限り,生徒の操作によってファイルの破損などが起こる可能性があると考えられる。また,これは生徒が意識的にやらなくても起こり得ることである。これらのことからセキュリティ用ソフトウェアを導入している。
 第一コンピュータ室のコンピュータにも,同様の環境を与えている。
  図3-1 校内LAN配置図
(3)  授業の実践
   単元名  環境問題について考えよう
   単元の目標
     自分で決めた環境問題のテーマに対して,意欲的に観察・実験活動を行うことができる。
      (関心・意欲・態度)
     テーマを追究するために必要な観察や実験を実施したり,資料やインターネットなどからの情報を収集,処理したりして,多様な解決方法を見いだすことができる。
 自分たちが調べたり検証したりした結果をまとめ,見た人への影響を考えながらホームページで表現することができる。
      (知識・理解・技能)
   指導計画(11時間取り扱い)
     第1次  テーマの決定,計画立案 ―――――――――――――――2時間
     第2次  検証,調査 ―――――――――――――――5時間
   
配 時 学  習  内  容 評  価  の  観  点

本時は
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計画に沿って,環境問題についての現状把握や検証実験,調査などを行う。
環境問題を真剣に考え,意欲的に調査しようとしたか。
テーマを追究するために効果的に観察や実験を実施したり,インターネットなどの資料を活用したりすることができたか。
     第3次  まとめ ―――――――――――――――4時間
   本時の指導
    (ア)  目 標
       テーマ追究のための方法を工夫し,安全に留意しながら主体的に課題解決活動に取り組むことができる。
    (イ)  準備・資料
       ビニル袋,pH計,銅線,塩酸,石灰石,亜硝酸ナトリウム,塩化アンモニウム,デジタルカメラ
    (ウ)  展 開
  展 開
(4)  授業の結果と考察
  展 開  本時の授業は,インターネットを前面に出して実施していない。これは,この授業がインターネットの使い方を学習するためものではなく,環境問題を考えるためのものだからである。廊下で活用できるコンピュータは,課題を追求するための道具として使うものである。コンピュータが廊下にあることによって,生徒がいつでも気軽に使用でき,使い方も慣れているため,検索もスムーズに行うことができる。
 このような環境で,教科書や資料集,学校図書館などを利用するだけではなく,最新の情報が載せてあるインターネットも活用したことによって,生徒の意欲が高まり,なおかつ生徒の活動内容に広がりが見られたことは確かなことである。
  図3-3 ダイオキシン班 研究計画略案
  図3-4 燃焼実験の様子  具体的に述べると,自分たちが課題にした環境問題の内容は,ニュースなどで知ってはいるが詳しく知っているわけではない。そこで,その内容はどういったことなのか,何が原因で問題が起こっているのかなどをインターネットを使用して調べるグループや,現在どのような研究がなされているかなどの調査をしているグループなどがでてきた。
 また,自分たちの身のまわりに起こっている環境問題を検証する実験において,生徒や教師だけではなかなか考えられないような内容もある。そこでインターネットで調べることにより,効果的な検証実験を見つけることができたグループもあった。燃焼実験から得られる炎色反応で,ダイオキシンのもとと考えられる塩素の存在を確認しようとしたグループがそれである。
 昨年度の卒業生が環境問題で調べたデータをもとに,さらに広げていこうと考えているグループもあった。このデータは,昨年度の卒業生がインターネットなどを使って調べたもので,本校のホームページの生徒の作品中に掲載されているので,校内のイントラネットでも簡単に見ることができる。
 インターネットによって様々な情報を収集するという活動ができない状態では,これらのような活発な活動ができるとは考えにくい。
 以上のように,各教科において,校内LANでのインターネットの検索を活用することは,単に関心・意欲を高めるだけでなく,課題や目的に応じて,必要な情報を主体的に収集,処理する能力を高め,さらに活用する力を育てることができると考えられる。
  図3-5、図3-6
(5)  授業研究の成果
   インターネットによる検索の成果
     前述したように,校内LANを用いて廊下で自由にインターネット,イントラネットを活用することで,生徒の意欲を高め,情報活用能力を育成することができる。また,このような自由な環境を設定することによって,現在では生徒が本などと同じような感覚でコンピュータを使い,日常生活に密着していることが分かる。
 生徒の様子を見ていると,校内LANを設置したばかりの頃は,
   
興味本位で何となく操作している生徒
コンピュータにおそるおそるさわっていた生徒
自分が操作すると壊してしまうのではないかと考え,操作できない生徒
漢字の変換ができない生徒
検索ページを使っている際,絞り込み検索ができないため,数え切れないほど多くの情報が表示されもてあましている生徒
    などがいた。
 しかし,校内LANを設置してから3年目を終了しようとしている現在では,廊下にコンピュータがあることが普通になり,前述したような生徒は少なくなってきている。家庭でもコンピュータやインターネットなどを使うようになり,コンピュータの操作に慣れてきた生徒が多くなってきたこともその一因であろう。その結果,分からない情報があれば,図書室へ行く前に,まず廊下でインターネットの検索をして調べようとする活動が日常的になりつつある。
 インターネットを使うことによって,生徒からは,
   
ホームページがたくさんあって,いろいろなことが分かった。
ホームページがたくさんある分,調べ方を工夫しなければならないと思った。
図書室の本と違って,ほぼ間違いなく新しい情報を知ることができる。
    という声があがっている。
 一方,
   
コンピュータの台数を増やしてほしい。
どのコンピュータからでもすぐに印刷できるようにしてほしい。
    など,今後の課題とするべき問題もあがっている。
   まとめ(ホームページ作成)による成果
     インターネットそのものについては,4人の生徒が1・2回程度家庭で経験していたが,家庭にインターネットが使える状況があっまとめの段階で,調べた内容を本校のホームページに掲載できるように,コンピュータでまとめた。ホームページを普段からよく見ている生徒たちは,自分の作品がホームページに載ることによって,「自分の作品や意見が世界に発信されるんだ」ということをよく理解し,非常に意欲的に取り組んだ。そして,自分が作成したデータがホームページに載ることを楽しみにしている。
 また,ホームページを作成するに当たって,情報を発信する際にどのようなことが大切なのか,そして不用意な情報発信をした際にはどのような影響が考えられるのかを話し合うことによって,情報モラルの育成にも取り組んだ。
   イントラネット利用の成果
     本校の校内LANでは,インターネットだけではなく,イントラネットを活用したフロントページと呼ばれるものをコンピュータの画面に出し,明日の連絡や行事予定,先生の紹介,進路のページ,文化祭の情報などを見ることができるようにしてある。このような情報をいつでも引き出せる環境であることも,日常的にコンピュータを使用する習慣が身についてきていることの一因と考えられる。
 特に進路のページは,高等学校のホームページへリンクしてあり,イントラネットからインターネットに進むことができる。休み時間などに,特に3年生がよく利用している。また,保健室にあるコンピュータから高校のホームページを検索し,進路決定の材料とした生徒もいた。この生徒は,学校を休みがちな傾向にあったが,保健室にコンピュータが導入されてから,保健室への登校ができるようになった。保健室にコンピュータを設置したことがプラスとなったと考えられる。
(6)  今後の課題
   環境の構築
     現在,牛久南中に与えられているメールアカウントは1つである。このため,生徒たちが電子メールを使用するためには,教師の協力が不可欠である。しかし,今後の発展を考えると,廊下のコンピュータから必要に応じて,電子メールをある程度自由に使える環境が構築できればと思う。発信源が学校である以上,その使い方に制限は必要であるが,それも生徒たちが学ぶべき情報モラルの一つであろう。
 同様に,校内での掲示板などを利用して自分の意見を発信したり,伝達したりすることも考えていきたい。
 また現在の状態では,選択授業など,生徒の自由な活動を中心とする授業が行われる時間帯では,廊下にあるコンピュータだけで台数が足りず,思うように調べることができないという弊害がある。従って,廊下にあるコンピュータやプリンタの台数を増やす,あるいは普通教室や特別教室に1台ずつ設置して自由に使用できる環境にすることが理想的である。しかし,予算,校舎の構造(防火壁に阻まれネットワークケーブルが配線できないことなど),教員によるメンテナンスの負担増などの問題があることも事実である。メンテナンスの面では,地域のボランティアなどに協力を求めることも解決策の一つであろう。
   生徒への啓発
     これまで,コンピュータを生徒が自由に使えるような環境の構築を目指してきた。その結果,コンピュータに不慣れな生徒も少なくなってきた。しかし,その一方で授業以外でコンピュータを使用する場合,フロントページを多く活用している生徒と,あまり活用していない生徒がいることも分かってきた。これは,自由な環境を与えた一方で,コンピュータを使わなければならないという指導も特にしていなかったからだと考えられる。生徒の声を聞いてみると,様様な情報をプリントや行事予定黒板などで得ている生徒も多くいることが分かった。従って,生徒が自分にとって必要な情報を,コンピュータに限らず,自分に合った方法で得るようになっているといえる。
 今後は,コンピュータの使い方を分かりやすく提示したり,入学当初から授業においてコンピュータの使い方を解説するなど取り組めば,さらにコンピュータを有効に活用する生徒が増えてくるのではないかと考える。

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