進路指導と 「総合的な学習の時間」
― 一人一人の生徒の生き方の確立を目指すT高等学校の事例 ―
 研究のねらい
  (1)  自己の在り方生き方や進路について考察する学習活動を通して,生徒に明確な進路展望を持たせ,自己実現を図る。
  (2)  生徒が興味・関心,進路等に応じて設定した課題について,知識や技能の深化,総合化を図る学習活動を通して,社会認識,生徒の自己認識や自己理解を深め,自らの進路 を切り開く力と態度を育成する。
  (3)  国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題についての学習活動を通して,表現力や主体的問題解決力を育成する。
   
 基本的な考え方
  (1)  生徒の進学希望にこたえると同時に21世紀に生きる生徒に必要な資質能力を育てる。
  (2)  総合的な学習の時間」をLHR,学校行事,委員会活動と有機的に関連させ,様々な体験活動を通して,一人一人の生徒にふさわしい進路選択を可能にする。
  (3)  生徒の将来の進路に対する夢や希望を基本にして,自分で意欲的に学習に取り組む生徒の育成を目指し,高校3年間の体系的・継続的な指導をしていく。
  (4)  地域の教育力を可能なかぎり有効に利用し,生徒の「体験・探求」等の学習活動が創造的になされるようにする。
   
 学校・地域の実態
  (1)  本校の実態(1学年普通科6クラス・国際科2クラス)
     生徒の実態
      (ア)  ほぼ全員が四年制大学進学を希望している。近年,難関校志望が強まり,「入れる大学」より「入りたい大学」を志願する傾向が顕著である。
      (イ)  国公立大学入学希望者が多く,3年生の90%以上がセンター試験を受験する。
      (ウ)  現役入学志向であり,浪人して進学準備する者は28.7%に減少してきている。
     現在実施している特色ある活動
      (ア)  「進路セミナー」:社会の第一線で活躍しているつくば市周辺地域の社会人の中から,多彩な講師陣(TVデレクター,パイロット,研究者,企業のプロジェクトチーフなど)を招聘し(年3回実施,1回4人の講師を招聘),生徒の希望に応じて講演を聞き,生徒の進路選択の参考にする。
      (イ)  「国際科サマーセミナー」:国際科1年生を対象にした,2泊3日の英語共同宿宿泊学習。80名の生徒に対して10名以上の外国人講師を招き,グループ活動を主体に国際交流を図りながら,海外生活の擬似体験をさせる行事。
      (ウ)  「自主研究」:第1学年の夏休みに,生徒の興味,関心に基づき,個人あるいはグループで課題を見付け研究し,レポートや作品にまとめる。提出は自由だが,9割以上の生徒が様々な研究テーマでレポート等を完成させ提出する。
      (エ)  さまざまな国の講師を招聘し授業を通して直接触れ合うことにより,生徒の質問に答えたり,交流を通して生徒の国際理解をより深化させることにに役立っている。
     保護者の要望
       保護者の職業は公務員の40%を筆頭に90%近くサラリーマンであり,子弟を四年制の国公立大学に進学させることを願っている。
  (2)  地域の実態
     筑波研究学園都市として発展を続けており,大学,国立研究所,民間研究所等の学術研究施設や,国際会議場,美術館,図書館,ホールなどの文化施設があり,また平成17年には東京と常磐新線によって直結し,さらなる発展が見込まれている。
     大学や研究所に勤務している研究者は1万2千人おり,さらに外国からの研究者や留学生も多数いる。
   
 具体的な工夫
  (1)  「総合的な学習の時間」の実施方法
     各学年1単位,計3単位実施
     学習形態は原則として各学年ごととする。
      (ア)  学年別指導内容
        @  第1学年
           オリエンテーションの実施:「総合的な学習の時間」のねらいや意義などを学習の主体となる生徒に明確に理解させる。
           自己の在り方生き方や進路について考察する学習活動をさせ,2学年からの文系と理系のコース選択につなげる。
          大学・研究所・企業訪問,「先輩と話す会」,「進路セミナー」などの体験学習を通し,自己のテーマを深めさせる。
        A  第2学年
           国際理解,情報,環境,福祉・健康,社会問題等の学習活動をさせ,現代社会が抱えるさまざまな課題についての認識を深め,問題の解決法を模索させる。
           調査活動(フィールドワーク),研究所・施設訪問,コンピュータの活用,留学生との交流会などの,多様な活動をさせ,課題解決力の深化をはかり,自己の将来の社会における役割を認識させる。
        B  第3学年
           生徒が興味・関心,進路等に応じて設定した課題を研究させ,自分の将来のあるべき人物像を探求させ,自分を生かす道を見付けさせる。
           外部講師による小論文講習会,問題別グループによる発表・討論会の開催などを通して,論理的思考力,自己表現力を伸ばす。
  (2)  指導体制
     第1学年は学年主任を中心にして学年団が指導目標,指導計画を作成し,原則としてホームルーム単位の指導とする。
     第2学年は各教科が中心となる。
      (ア)  生徒の興味,関心に基づいてテーマを選ばせ,そのテーマに関連した教科が指導していく。必要に応じて進路指導部や保健委員会の協力も得る。
      (イ)  それぞれの生徒に指導教員をつける。指導教員は個人指導またはグループ指導により,それぞれの生徒のテーマ研究を指導する。
      (ウ)  指導教員は自分に属するグループの研究発表会を開き,生徒のテーマ研究の成果を発表できる機会を設ける。
     第3学年は各教科と学年が共同して指導目標,指導計画を作成し個人研究をさせる。
      (ア)  それぞれの生徒に指導教員をつける。個人指導を重視して,個人研究の進捗状況や論文の添削指導等にあたる。
      (イ)  それぞれの指導教員に属する生徒の中間発表や討論会を開いたり,優秀な研究には学年全体での発表会での発表の機会をあたえる。
     地域の教育力の有効利用をはかる。
      (ア)  「進路セミナー」,「国際科サマーセミナー」などの実施をさらに充実したものにし「総合的な学習の時間」に有機的に組み入れて行く。
      (イ)  研究学園都市の恵まれた「人的・物的教育力」を最大限活用して行く。
           研究所等の一般公開日に積極的に生徒の参加を促し,科学のさまざまな問題に興 味や問題意識を持たせる。
           つくば市教育委員会が中心となって推進している「つくば科学出前レクチャー」制度を効果的に利用していく。
      (ウ)  「国際センター」の留学生との交流や,外国の研究者や留学生の講演会などを開き国際感覚を身につける。
   
 評価の工夫
  (1)  評価の主な観点
     生徒の学びの動機づけができたか。
     生徒が学習の主体となって意欲的に行動したか。
     調査,体験・探求活動などのさまざまな活動が地域や学校でなされたか。
     生徒相互,地域の人々とのインタラクションを通して自己表現がなされたか。
  (2)  評価の方法
     研究に対する生徒の自己評価や生徒の活動や発言を参考にして評価を行う。
     研究論文(レポート)や作品を参考にして評価する。
   
 成果と今後の課題
  (1)  成果
     「自主研究」の学習活動過程で,生徒がそれに創意工夫をして取り組んだ態度を考えると,「総合的な学習の時間」を導入する基礎的な条件ができている。
     「進路セミナー」の実施過程で,PTAや保護者の積極的な支援と参加を得ることができ,保護者や地域の協力体勢ができてきた。
  (2)  今後の課題
     本校が育成する「生徒像」を教員の徹底した討論で共通理解をはかり,生徒の立場に立った指導体制をどのように確立していくか。
     「総合的な学習の時間」の学習活動が一人一人の生き方の実現で生きてくるという意識を持たせるには,どのような指導計画・指導方法を作るべきか。


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