第10 実践研究/高等学校の教育過程
   
特別活動と「総合的な学習の時間」
―学校行事の見直しと「総合的な学習の時間」の工夫を目指すA高等学校の事例―
 研究のねらい
   総合的な学習の時間」の趣旨は,本校の教育目標や実態を考慮し「社会の一員として,たくましく,よりよく生きる人間の育成」にあると捉え,その学習活動として集団的な体験活動が望ましいと考えた。本校の特色の一つとして,生徒達が,学校行事を生き生きと喜びをもって行ってきたことがあげられる。
 学校週5日制との関連で,平成7年度から学校行事の見直しと精選が検討されてきたが,教師も生徒も学校の特色の一つとして捉えているので,結果的に廃止する行事はなかった。しかし,平成14年度からの学校週5日制の完全実施を前に,授業時数や単位数の縮減・削減がなされるに伴い学校行事の見直しが必要となった。
 そこで,本校の特色ある行事を単純に統廃合するのではなく,「総合的な学習の時間」の学習活動に生かすことを考え,その趣旨の具現化を図り,特色ある学校づくりをすることがこの研究のねらいである。
   
 基本的な考え方
  (1)  教育課程編成上の配慮事項
     本校では,「生徒の進路に応じた適切な教育課程」,「創意工夫を生かした教育課程」及び「職業観,勤労観の育成,自己の在り方生き方の指導を進める教育課程」を配慮し,3つのコース制を導入した。今後は,「総合的な学習の時間」の趣旨を生かしてさらに特色を出すことに配慮したい。
  (2)  「総合的な学習の時間」の視点
     「総合的な学習の時間」の時間は,「社会の一員として,たくましく,よりよく生きる人間の育成」にあると考える。
     集団による体験的学習活動を,「総合的な学習の時間」の主たる学習形態として設定し,発展させる。
     各自が見付けた課題をもとに,どのように「工夫」すればよりよく解決できるかを生徒自らが体験することで「生きる力」の体得に努める。
     週時程には組み込まず,年間35時間となるよう年間指導計画を立てる。
     中高の連携を深め,この時間の学習内容を系統的・継続的に発展させる。
   
 学校・地域の実態
   本校は,明治32年に創立された伝統校で,地域は県北西部那珂郡の山間部に位置し,気風は素朴である。1学年3クラスで全校生徒数約260人の小規模校である。同郡内の2つの中学校と中高一貫教育「連携型」の在り方について県指定(平成10,11年度)を受け,現在実践研究中である。
   
 具体的な工夫
  (1)  総合的な学習の時間」検討委員会の創設
     教務(3),進路(1),特別活動(1),国際交流委員会(1)の計6名からなる検討委員会を創設する。
  (2)  検討委員会で扱う内容
     「総合的な学習の時間」の指導方針の確立
       様々な体験的学習活動を通して,「社会の一員として,たくましく,よりよく生きる人間を育成する」ための指導方針を確立する。
     「総合的な学習の時間」で扱う観点と体験的学習活動の選定
       指導の観点を明確化する過程で,学校行事の見直しを行い行事の精選につなげる。
    {例}
観点 体験的学習活動
・職業観・勤労観
・郷土の歴史,環境・福祉
・心の教育,社会性,協調性
・国際平和,国際理解
・自己の在り方生き方
進路ガイダンス,勤労体験学習
奉仕活動,文化祭
合唱祭,共同宿泊学習
修学旅行(沖縄)
各種講演会,読書発表会,自分史作成
  (3)  指導計画・方法や時間配当表の作成
     ガイダンス計画を作成する。
     体験的学習活動について中高の連携を生かし,中・高6年間(高校での3年間)を見通した指導計画(事前指導・事後指導計画を含む)を作成する。
     課題の設定
       生徒の参考となるような様々な課題を「参考例」として生徒に例示する。
    {例} 働く意義,平和について
     自分史作成の計画・指導
       生徒は,体験的学習活動で得たことをそのつど「Gノート」(本校の課題学習ノートの略称)にまとめる。3年分の「Gノート」をもとに卒業時(2月)に自分史「私の高校生活(仮称)」を作成できるよう指導する。
     評価基準の設定
       評価の意義・観点・方法・基準等について生徒に明示し,生徒が自己評価や相互評価ができるようにする。
     時間配当表の作成
    {例} 年間35時間となるよう指導時間を割り振る。
指導時間の割り振り
   
 評価の工夫
   次の項目等について評価・診断を5段階で行う。
    {例} そのとおり5,どちらともいえない3,まったくちがう1を基準とし,その中間を2,4とする。
 
項 目 評 価 の 主 な 観 点 診 断
趣  旨 趣旨は明確であり,共通基盤に立っているか。 1 2 3 4 5
ガイダンス 生徒の理解を図り,活動意欲を高めているか。 1 2 3 4 5
指導計画 趣旨の実現に沿って,現状の組織体制で実施できるか。 1 2 3 4 5
課題の例示 生徒が自ら課題を設定するために役立っているか。 1 2 3 4 5
中高連携 中高連携が十分図られているか。 1 2 3 4 5
施設・設備 趣旨の実現のために予算・施設・設備は十分であるか。 1 2 3 4 5
   
 成果と今後の課題
  (1)  成果
     検討委員会が設置され,「総合的な学習の時間」について職員の理解が進んだ。
     必修クラブの廃止と「移行措置」に従い,次年度から「総合的な学習の時間」を導入することにした。ただし,時間割り(日課表)その他の学校の都合上,平成12年度と13年度の入学生について次のように検討し導入することにした。
      (ア)  現在の必修クラブを,「総合的な学習の時間」の趣旨に沿うよう発展させ,週時程 (第一と第三土曜日の3時限)に組み入れ,年間17時間程度実施する。
      (イ)  「総合的な学習の時間」としての体験的学習活動を,年間18時間程度実施できるよう現行の学校行事の見直しをする。(上記(ア)と併せて35時間)
      (ウ)  今後の中高一貫教育6年間を見通していく際に,「総合的な学習の時間」の系統的継続的な指導の重要性について,理解を深めることができた。
  (2)  今後の課題
     6年間を見通した学習活動を展開する上で,中高の連携がどれだけ図れるか。
     生徒がどれだけ自主的に課題を設定し,主体的に取り組むことができるか。
     年間35時間で考えたが,より効果的な学習活動を展開するために3年間で105時間として設定できないか,その際学年の単位修得及び評価をどうするか。


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