いのちを大切にし,豊かな心をもつ児童の育成を目指して
―川と海に囲まれたH小学校の事例―
 研究のねらい
   「総合的な学習の時間」の中に,身近な自然や生き物と触れ合う体験的な学習を取り入れ,すべてのいのちを大切にしようとする豊かな心をもつ児童の育成を図る。
   
 基本的な考え方
  (1)  いのちを大切にする心を育てるために,身近にある自然や生き物に触れ合う時間を設定し,いのちの尊さに気付かせる。
  (2)  本校の地域の特性を生かした学習を通して,郷土を愛する心を育てる。
  (3)  地域の人材を取り入れることで地域の人々との交流を図り,他を思いやることのできる豊かな心を育てる。
   
 学校・地域の実態
   本校は,近くに太平洋,そして関根川が流れ自然環境にたいへん恵まれている。そのような環境の中,海岸での凧あげ大会や砂の造形,海浜持久走大会など地域の特性を生かした行事が盛んである。
 このような恵まれた自然環境の中で生活しているが,水に生きる生物や水の保全等にはあまり関心がない児童も見受けられた。今回の総合的な学習「サケの放流」を通して,サケだけでなく,自然環境問題への関心も高まりつつある。
   
 具体的な工夫
  (1)  体験的な学習の工夫
     本校では,全校をあげて「いのち」をテーマとして研究に取り組んできた。題材の選定に当たり,学校のすぐ近くを流れる関根川に上がってくるサケに着目した。サケのふ化から放流までの活動は「いのち」をテーマとした体験的な学習に最適な題材と言える。そこで,次のような学習計画を立て,全学年を通し発達段階に応じて,いのちの大切さについて考えを深めることにした。(計画は次ページ参照)
  (2)  地域の人材の活用の工夫
     サケの受精卵は,大北川漁業協同組合の方の協力により,教材用として提供を受けたり,ふ化までの飼育の方法について学んだ。また,県の内水面水産試験場の方に来ていただき,稚魚の育て方,水温の管理等についての学習会を開いた。これらの学習を通していのちを守り育てていくことの大変さ,生まれたいのちの大切さに気付くことができたふ化したサケの稚魚は地域の方や近くの施設等にも分けて一緒に育ててもらい,児童とともに放流にも参加していただいた。これらの体験を通して,地域の人たちとの交流が深まり,地域の人たちも関根川をきれいにしようという意識が高まった。関根川クリーン作戦の際には児童とともに活動する地域の方の姿が多く見られた。
学習計画
   
 評価の工夫
   「いのち」に関する学習は,恵まれた自然環境を生かし地域の協力を得て作り上げてきた活動である。この活動を通して,各教科等での学習成果を生かしてグループ活動を展開したり,興味・関心を深めさせたりする工夫をした。また,各教科等の学習に関連付けて授業の工夫も図るなど「いのちを大切にし豊かな心」をはぐくむねらいにそって,総合的な学習の観点から評価の工夫を試みている。「いのち」に関する活動の事前・事後の学習への関心度チェックや感想なども大切に評価している。また,サケの放流の後には学習発表会を開き,学習への取り組みの様子や児童の変容を知る手がかりとした。
   
 成果と今後の課題
  (1)  サケの放流から,いのちの尊さや自然を守る大切さに気付き,たったひとつの小さないのちも大切にしようとする温かな心情が育った。
  (2)  関根川を調べていくうちに,自分たちの住んでいる地域への関心が高まり,環境を大切にしていこうとする気持ちが表れた。この学習を継続していくことで,将来にわたっても関根川に愛着をもち,郷土愛が育まれていくものと期待している。
  (3)  いのちの大切さについての学習を深めるための題材の開発と支援・指導方法の在り方について,総合的な学習のねらいである,「自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考える」教育を目指して研究を進めたい。また,人材バンク制度の整備を図り,家庭・地域との連携を強めて,自然に恵まれた地域のなかで,本校の特色ある学校づくりの体制を整えていくことが今後の課題である。


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