第8 実践研究/小学校の事例
   
地域の教育力を生かした活動の工夫
―開かれた学校づくりをめざすN小学校の例―
 研究のねらい
   豊かな心を持ち,活力に満ちた児童の育成をめざし,地域の教育力を生かした総合的な学習の時間の在り方を追究する。
   
 基本的な考え方
  (1)  「地域の先生」として招くことのできる人材を発掘し,リストを作成して,必要に応  じて活用できるようにする。
  (2)  地域の教育力を生かした授業を展開することによって,児童一人一人の思いや願いの 実現を図り,主体的に活動できる児童を育成する。
  (3)  「地域の先生」と一緒に活動することを通したふれあいの中で,郷土意識を高めることができるようにする。
  (4)  家庭・地域社会との連携を強め,開かれた学校づくりを推進する。
   
 学校・地域の実態
   本校は,純農村地帯に位置しているが,宅地造成計画によって急激に住宅が増加し,全国各地から住民が移り住んできた。そのため,古くからこの地区に居住している保護者は,一割程度となり,保護者同士の人間関係は希薄である。
 本校の児童数は621人,18学級の中規模校である。児童の約8割は他地域からの転入生であり,約7割は核家族の中で生活している。児童は明るく活発である反面,自分本位の自己主張が多く,他の人を思いやっての言動がなかなかできない。地域に対する関心も低く郷土意識や地域における連帯意識が弱い。
   
 取り組みの工夫
  (1)  学校が求める地域の人材及び人材発掘の工夫
     学校が求める地域の人材
      (ア)  児童の学習に対する思いや願いを広めたり深めたりする支援援助ができる人材
      (イ)  地域の人々とのふれあいの中で,児童の心を育てることのできる人材
     人材発掘の工夫
       学区内には,様々な分野での専門的な知識や技術を持った人材が多いので,学校の教育の中で活用する。「地域の先生」の募集,町広報紙・学校学年だよりを通しての呼びかけ,地域の関係諸機関,保護者,児童からの情報の収集などによって,人材の発掘に努め,人材リストを作成して活用しやすいようにする。
  (2)  地域の教育力を生かした活動の工夫
     豊かな体験の場として位置付けた米づくり,野菜づくりの活動
       建ち並んだ住宅の周りには,まだ田畑が広がっているという恵まれた自然環境の学区ではあるが,本校の児童には田圃に入った経験,作物を育てた経験がない。ぜひ田植えや稲刈り,畑づくりなどの体験を通して,郷土に対する理解を少しでも深め郷土の自然や動植物を大切にする児童を育てていきたいと考えた。農家の方を講師として招き,指導を受けながら米づくりや芋やトウモロコシなどの野菜づくりに取り組んだ。活動の事前学習においても,援助をお願いした。
     地域との結びつきを強める全校活動「沼里ふれあい祭」の工夫
      (ア)  地域の人材を「地域の先生」として活用
         「昔から伝わる竹細工などの創作活動や遊びをしたい」「収穫物を調理したい」などの児童の願いを実現していくために,「地域の先生」として学校に招き,その教育力を生かすことができるように計画した。 活動の様子
        a  収穫物を調理する活動における活用
           調理実習でのふれあいを通して,児童は経験 者ならではの手際のよさを感じ取り,自分たち の調理に生かすことができると考えた。
        b  創作活動などにおける活用
           「地域の先生」と共に活動する中で,郷土に 対する愛着も深まるのではないかと考え,この活動を設定した。テレビゲームなどに夢中になりがちな今の児童にとって,竹とんぼや紙玉鉄砲など,手作り遊び道具の製作や牛乳パックを使っての縦割り班活動は,貴重な体験となった。
      (イ)  教育課程上の工夫
        a  教科等の目的やねらいに応じて地域の人材を招へいした。
        b  「地域の先生」が,児童が学習活動を進める上での疑問に答えたりするなどの援助にあたることができるような場の設定をした。
        c  特別活動や学校裁量の時間を活用して指導計画を作成した。
 特に,低学年の場合には,生活科の学習のねらいに合わせて全校活動に参加させる工夫をした。
  (3)  開かれた学校づくり
     「沼里ふれあい祭」など学校における諸活動を,地域に紹介し,参加を呼びかける。
     地域の関係諸機関と連絡を取り合い,積極的に地域の人材を活用する。
     学校生活自由参観週間を設ける。
     学校モニター(評議員)制度導入についての検討を進める。
   
 評価の工夫
   地域の教育力を生かすことで,児童の多様な思いや願いを満たし自ら進んで取り組めたかどうか,児童の自己評価に教師や「地域の先生」の評価も加えて郷土意識の高まりも見た。
   
 成果と今後の課題
  (1)  地域の教育力を本校の教育活動に生かすことにより,児童の思いや願いを広めたり,深めたりできただけでなく,地域の学校に対する協力体制づくりが整えられてきている。
  (2)  児童が20年後,30年後に「ふるさと」と呼べる地域づくりを推進するための学校教育はどうあるべきか。


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