第6 「選択履修の幅の拡大」(中学校)とその実践的課題
 「選択履修の幅の拡大」の趣旨
   今回の学習指導要領の改訂で,選択教科の履修の幅の拡大が一層図られたが,その取り扱いは,「総合的な学習の時間」と合わせ,中学校の教育課程編成での重要な課題となっている。選択履修の幅の拡大について,教育課程審議会答申の次の文がよく引用されるた め,再度提示しておきたい。
 
 一人一人のよさや可能性を伸ばし,個性を生かす教育の一層の充実を図ることも重要であり,そのために,各学校段階を通じて幼児児童生徒の興味・関心等を生かし,主体的な学習の充実を図るとともに,個に応じた指導の一層の工夫改善を図ることが大切であると考える。このような考えの下に,教育課程の基準としては,小学校高学年から,選択能力の育成を重視し課題選択などを取り入れ,中学校においては,学年段階に応じ漸次選択幅の拡大を図る。
 中学校教育においては,小学校教育の基礎の上に,社会生活を営む上で必要とされる基礎的・基本的な知識・能力態度を確実に身に付けるようにするとともに,生徒の能力・適性,関心等が次第に多様化してくることに 適切に対応する観点から,選択の幅を一層拡大して,個性の伸長を図る教育を進めていく必要がある。
   この規定を受けて,選択教科で生徒が履修できるよう開設可能な教科の種類や内容等の拡充が図られたわけである。
 さらに,今回の改訂では,総則でも示されているように,その時数の確保とともに選択教科の内容については,「課題学習,補充的な学習や発展的な学習など,生徒の特性等に応じた多様な学習活動が行えるよう各学校において適切に定めるものとする」と課題学習,補充的な学習,発展的な学習などが例示された。
 すなわち,今回の改訂で中学校の選択履修の幅を拡大した趣旨を整理すれば,次のようになる。
 
 中学校段階での生徒の特性が多様化(能力・適性,興味・関心等)することに対応し, 生徒の主体的な学習を促進する。
   こうした選択履修の幅の拡大は,従前に比べて内容的にも時間的にも拡充が図られ,各学校での創意工夫の可能性も拡大することを意味している。また,内容の上からも,補充的な学習から発展的な学習までが可能となるので,より一層,生徒を主体とした学習内容を検討し,個に応じた学習ができるように工夫したり配慮したりすることが大切となってくる。
   
 選択教科の内容
  (1)  選択教科のとらえ方とその意義
     内容的にも時数の上からも選択履修の幅の拡大が図られるということは,今回,「総合的な学習の時間」が入ってくることを考えた時,もう一度選択教科の本来の意義を問い直していくことが必要となると思われる。同時に,このことは,なによりも教師側の構えを一層変えていく必要に迫られることになる。
 選択教科の内容については,「総則」において次のように示されている。
 
 選択教科の内容については,第2章の各教科に示すように課題学習,補充的な学習や発展的な学習など,生徒の特性等に応じた多様な学習活動が行えるよう各学校において適切に定めるものとする。その際,生徒の負担過重となることのないようにしなければならない。
     今回の改訂においては,課題学習,補充的な学習や発展的な学習が例示されたが,さらに,これまでの各教科の内容に「第2の内容その他の内容」が加えられた。すなわち,各教科の内容以外でも,各学校の主体的な判断により生徒の特性等に配慮し扱 うことができるようになった。
 
従 前 今 回
 選択教科としての「○○」においては,生徒の特性等に応じ多様な学習活動が展開できるよう,第2の内容について,・・・・・などの学習活動を学校において適切に工夫して取り扱うものとする。  選択教科としての「○○」においては,生徒の特性等に応じ多様な学習活動が展開できるよう,第2の内容その他の内容で各学校が定めるものについて,・・・などの学習活動を各学校において適切に工夫して取り扱うものとする
     こうして従前と比較してみると,選択教科で扱える学習内容の各学校の裁量の拡大が図られたことがわかるが,選択教科での学習はあくまでもその教科固有の目標の達成を目指す学習活動を行うことに変わりはない。
 選択学習については,中学校段階で生徒の能力・適性,あるいは興味・関心などの多様化へ対応して,その個性の伸長を図るということがその趣旨であるが,生徒にとっても学習意欲の高まりや主体的な学習活動が進められるといったことから,主体的に課題を解決する態度や学ぶ力の育成が期待されているとも言えよう。
 こうした選択教科の在り方を考えた時,「総合的な学習の時間」との関連も踏まえつつ,改めて次のことを確認しておきたいと思う。すなわち,選択教科設定のねらいを踏まえれば,教科の目標をよりよく達成するために,生徒は選択教科の学習を通して必修教科の学習を補強し,また発展させたいということで学ぶのが選択教科であると言えよう。
 さらに,生徒の学習課題の解決を支援するという教師の在り方を含めた,選択教科の基本的な学習の在り方について,再度理解を深めていきたい。
  (2)  必修教科や総合的な学習の時間との関連
     必修教科等との関連については,「総則」で次のように述べられている。
 
 学校や生徒の実態を考慮し,必修教科や総合的な学習の時間などとの関連を図りつつ,選択教科の授業時数及び内容を適切に定め,選択教科の指導計画を作成するものとする。
     この方針を受けて,各学校において指導計画を作成するにあたっては,以下のことを踏まえておきたい。
     必修教科との関連
       選択教科の学習のねらいは,各教科の目標を達成することにある。したがって,選択教科の学習内容等を適切に定めるためには,必修教科とのかかわりをおさえておくことが大切になるまた,各教科の中で,教科に対する興味・関心を高め,課題意識を育て高めていくような,生徒にとって魅力ある授業を創り上げていくことを大切にしたい。さらに,選択教科と必修教科との関連を考えることにより,必修教科の授業の見直しも可能になると考える
     総合的な学習の時間との関連
       選択教科の授業時数は,「総合的な学習の時間」の授業時数と合わせた一定の時数枠の中でそれぞれどのくらいの時数を充てるか,各学校の裁量で決定していくことになる。
 今後,相互の相違点や独自性に着目しながら,選択教科の学習と「総合的な学習の時間」とのそれぞれの特性を生かした展開を考えていくことが必要になる。
 選択教科は,あくまで教科の目標の下に個性を生かす教育の一環として設けられたのに対し,総合的な学習の時間は,横断的・総合的な学習の必要性のもとに創設された時間である。したがって,このことはそれぞれのねらいにも反映されており,その違いを明確化した上で,相互補完の在り方について考えていくことも視野に入れることができる。いずれにしても,各学校で両者の特性や関連づけをどのようにとらえて構想を練っていくかにかかっている。
教科 必修教科との関わり
国語 個々の興味・感心・意欲に基づく学習課題を、必修国語で学んだ学習方法で追究する。選択国語の学習内容を必修国語の学習へと発展させる。
社会 必修社会の学習内容を基礎・基本とする。身近な地域の自然、産業、歴史に関する学習を一層深める。
数学 問題解決能力、思考力の育成を図り、必修数学へ生かせるようにする。
理科 必修理科の基礎的・基本的内容をより発展させる。
音楽 必修音楽で培われた楽器演奏に関する表現力をさらに発展させる。必修音楽で得た知識・体験を生かした音楽を表現する。
美術 必修美術の学習内容を発展させたり応用させたりする。必修美術では扱えない材料等を用いる。
保健
体育
必修体育で学習する球技の基本的な技能をもとに各球技の特性に深く触れさせ、学習成果を必修体育の学習でさらに発展させる。
技術 製作を通して、必修技術の木材加工や機械に関する基礎的な技能の習得や向上を図る。
家庭 食物領域の基礎的・基本的内容の定着と向上を図る。必修家庭では触れることのない地域素材を生かした題材の活用を図る。
(「平成7・8年度選択履修の幅の拡大に関する調査研究集録」文部省 湯沢市立湯沢北中学校の報告書より抜粋)
  (3)  多様な選択教科の開設と時数
     今回の改訂で,選択教科は全学年で9教科すべての教科において開設できるようになった。さらに,時数の取り扱いも「総合的な学習の時間」との調整で決まってくるが,上限で第1学年30時間,第2学年で85時間,第3学年で165時間までとれることになる。
    *移行期間の時数取り扱いは現行のままである。
多様な選択教科の開設と時数 1
     年間総時数で見てみると,以下の表のようになる。【年間総時数:各学年とも総授業時数980時間】
多様な選択教科の開設と時数 2
     第1学年では,選択教科を開設しない場合は,「総合的な学習の時間」として100時間とれることになる。また,第2・3学年では,選択と総合の時数の取り扱いによって,各下限の時数に第2学年は35時間,第3学年は60時間の幅が出てくるので,この時間をどのように振り分けていくかということになる。 また,先に引用した教育課程審議会答申の「・・・小学校高学年から,選択能力の育成を重視し課題選択などを取り入れ,中学校においては,学年段階に応じ漸次選択幅の拡大を図る。」という趣旨を踏まえれば,小学校での教科内選択学習といった取り組みの積み上げの上に,中学校での3年間を見通した選択教科の指導計画が立てられていくことが選択の能力を伸ばすことになると考えたい。したがって,小・中の関連や選択能力の育成の上から,第1学年での選択教科開設についてどのように考えるか,ここに各学校の姿勢が表れてくるように思う。
   
 選択教科履修とガイダンス機能
   どうして選択教科を学ぶのか,どうしてこの教科を学ぶのかなど,生徒が自らを問い直していく,こうしたことを教師とともに相談しながらやっていくことを大切にしたい。
 また,必ずしも積極的でない生徒や何をどう学習していくのか選択や計画段階でつまずいている生徒へのガイダンスの機能をどう充実していくか。この「ガイダンスの機能の充実」は今回新たに設けられたものである。選択教科については,解説ー総則編ーの「教育課程実施上の配慮事項」の一つとして次のように述べられている。
 
 選択教科等に関し,学習活動のねらいや方法,よりよい選択の仕方等についての理解を図り,生徒の主体的な学習意欲を喚起して,一人一人の特性等に応じた多様な学習活動が展開されるように配慮すること。
   ガイダンス機能の充実は,生徒選択による多様な選択教科の開設をしていく上からも,今後さらに重視したい。
  選択教科の意義の説明(オリエンテーションの実施とその充実)
  上級学年の授業参観(選択教科の学習へのイメージをふくらませる)
  選択教科についての興味・関心の把握(アンケートの実施等)
  何をどんなことを学習したいのか(希望調査と相談期間の設定)
  課題設定への支援(個別相談)
   
 評価の工夫
   選択履修幅の拡大にともなって,評価の在り方(観点)についても見直していく必要がある。評価の観点は教科の特性によって違ってくるが,例えば以下のようなものが挙げられる。
  学習への意欲や態度
  見通しをもって取り組んでいるか
  学習の成果を表現できているか
   こうした教師側の評価だけでなく,生徒による自己評価ができるという状況も必要だろう。また,生徒による自己評価は,自分の学習の進み具合を検討したり,見通しをもって学習を進めていくためにも大切にしたい。さらに,評価にあたって押さえておきたいことは,生徒による「学習記録カード」の活用や教師による補助簿の活用なども考えられるが,どのような能力を育てたいのかを明確にするとともに,なにより学ぶ過程を重視した評価の工夫をしたい。
   
 選択教科実施上の実践課題
 
これまでの選択教科の取り組みから,生徒が自ら選択して学習するという学習スタイルはおおむね定着しているとはいうものの,生徒がやりたいことを選択したり,自ら計画を立てて学習を展開できているだろうか。
   選択教科の学習については,コースやテーマを生徒の興味・関心に応じて設定するか,教師側で提示するかの違いはあるにしても,いわゆるコース制のもとで選択するといったスタイルをとっている学校が多く見られた。これからの選択履修にあたって考えたいことは,開設する教科名を示し,生徒は選択教科の時間で学びたいことをもとに教科を選択し課題を追究するということである。すなわち,各選択教科ともそれぞれのテーマで取り組む生徒が集まり,主体的な学習を展開させていくような学習方法について検討したい。しかし,そのためには生徒一人一人が自分なりの課題意識や「このことを学習したい」というものをしっかりと持っていることが前提となってくる(対応できる教師や施設・設備等の問題や教科の特性等も考慮して)。
   1年生からいきなりというのではなく,3年間を見通す中で,段階的に主体的な課題追究の学習を進めていこうといった考え方をする場合には,各学年ごとの取り組ませ方についての共通理解をもとにした指導計画をぜひ立てていきたい。この場合,例えば1学年では教師側が設定したコース制,2学年では教科で設定したテーマのもとで各自が課題を設定し(教科内選択),3学年では教科選択の上で,各自がそれぞれのテーマを追究するといった3年間の学習の積み重ね方式での展開が考えられるだろう。
   生徒が自ら学習計画づくりをして進めるといっても,実際にはこの段階でなかなか進まないといった生徒も多いのではないだろうか。選択教科を本当に機能させていくためにも,ふだんの教科の学習の中で,課題意識を育てていくとか,教科に対する興味・関心が生徒から起きてくるような授業を創っていく工夫と努力が求められてくるとも言える。学習内容への興味・関心を高め,課題を追究する学習方法を体験し,「もっとこのことを調べたい,さらに深く勉強したい」といった思いを抱かせるなど,こうした学習体験を積み上げていくことを大切にしたい。
   「生徒がやりたいこと」といっても,教科の目標や内容との関連についても押さえておかなくてはならないだろうし,「やりたい」内容についての教師との相談も必要となってくる場合もあろう。学習方法,進め方などについて話し合いながら,学習の方向性を修正したりして決めていくことが大切になってくる。
 
選択教科の開設にあたって,教員の配置,施設等の問題もからんで,生徒の希望するような学習が設定できなかったり,学習時間が週1時間の設定のために集中した取り組みや十分な活動ができなかったといった問題も指摘されていた。
   選択教科の時数は大幅に増える。そこで,学校規模や教員数にも関係するが,2コマ続きの時間割作成の工夫により,学習の場を学校周辺の施設まで広げたり,活動時間を十分にとるといった工夫も必要だろう。また,多様な学習活動を支える指導体制としては,ティームティーチングによる対応も考えられる。ティームティーチングによって,よりきめ細かな補充的な学習や発展的な学習が行える体制づくりも工夫しい。
   地域人材の活用の観点から,地域の方を講師として招聘するといった手だても考えられる。また,活動時間がとれるならば,生徒が地域の方のところへ直接出かけていくことも可能になるのではないか。
 *このことについては,後述の中学校の実践事例の中にも紹介されている。
   
 これまでの成果を踏まえて
  (1)  これまで見られた選択教科開設,実施への工夫点
     選択教科の開設にあたって
       選択教科の意義や内容について時間をかけて説明するなど,生徒の教科選択への期待や学習意欲を高めていく事前のガイダンスをていねいに実施したい。(教科を選択するまでの手順の重視。)
 また,教科ごとにコース設定をして取り組む場合は,生徒の希望を参考にしながら多様なコースを開設したり,教科内にいくつかのコースや課題を設けるなど,生徒自らの主体的な選択を可能とするような工夫をしたい。生徒の学習したい内容や課題の多様化に応じるために,設定されたコースの他に教科内に「総合コース」を設定し,その教科に関することであれば可能な限り学習できるようにして選択の幅を広げるようにした実践例もある。
     選択教科のカリキュラムの編成にあたってて
       選択教科の学習期間を通年でやるか2期制でやるかについては,学校によって違いがあった。一方,多様な学習の機会を与えることや,生徒の学習への持続性等を考えた時,やはり2期制で2教科選択にしたり,2時間続きの時間割作成によって学習の深化と効果を得られたといった報告も見られる。ただし,通年か2期制かについては,今後,選択教科の時数が増えることを考えたとき,再度,見直しの必要性が出てくるだろう。平成11年度の県内中学校の「選択教科の実施時期」については,以下の通り である。
     
表7 平成11年度の県内中学校の「選択教科の実施時期」について
   第2学年  第3学年
年間を通して(通年制) 84.2%   82.9%  
前・後期に分けて(2期制) 15.4%   17.1%  
学期ごと 0%   0%  
その他(前期のみor後期のみ) 0.4%   0%  
(茨城県教育庁義務教育課資料より)
     生徒のよさや可能性を生かす指導法,学習活動
       学習への見通しを持ち活動したり,活動を振り返ることのできる「学習カード」(生徒用)の活用についてはその有効性が多く報告されている。「学習カード」の活用は,生徒が主体的に学習を進めていく上で,自分の学習の方向性をチェックできることからも有効であろう。
 また,通年で実施する場合には,例えば教科ごとの中間発表会を実施するなど,自分の学習の進め方を見直したり,他の生徒の進め方を参考にして学習をさらに深めていけるような工夫をしたい。
 これまでの研究の中には,体験学習や地域の学習(地域の人々の協力や交流)を取り入れたもの,創作活動を取り入れ生徒の活動を広げたり,創作の喜びを実感させる活動を取り入れた実践,合科的な学習(クロスカリキュラム)の実践例も報告されている。各学校が積み上げてきたものをベースに,一人一人の生徒に応じた学習課題の設定とその支援を通して,達成感や充実感が得られる学習体験を積み重ねていきたい。
     学習意欲を高める評価
       教師や友達のアドバイスを記入したり,活動を振り返る自己評価カード(前掲「学習カード」の併用もある)の活用,さらに生徒相互による相互評価を取り入れるなどの工夫も考えられる。
     その他
      地域人材の活用
      施設・設備等の有効な活用(図書室・空き教室・コンピュータ室の活用,地域の施設の活用等)
      学校規模に応じた特色を生かした取り組み(学年縦割りでの取り組み等)
  (2)  今後の方向性
     自分で関心を持って追究してみたい事柄などをすべての生徒が持っているわけではない。いかにして知的好奇心を喚起したり,一人一人の生徒に「何のために学び」,「何を知り」,「何を補い」,「どのような体験をしたいのか」などの学習に対する動機づけをしていくか,それぞれの学校のかかえている大きな課題の一つであろう。 また,選択教科はこれまでは必修教科の範囲内で指導することとなっていたが,「教科」の発展的な学習や「教科」の時間にはふだんではできないような学習の展開も多く見られた。さらに,「総合的な学習の時間」の創設ともからんで選択教科を「総合的な学習」として構成しようという実践も見られた。いずれにしても,今後の選択教科の方向性として,次のことを考えたい。
     必修教科の学習の充実を
       一つは,必修教科での学習内容を十分に理解するために再度学習する補充的な学習や「もっと調べたい」といった「教科」の内容をより深く掘り下げた学習をしていくこと。特に,例示された自ら課題を設定し追究するなどの課題学習,必修教科の授業で学習した内容を十分に理解するため再度学習したりするなどの補充的な学習,必修教科の授業で学習した内容より更に進んだ内容を学習するなどの発展的な学習など,生徒の実態に即した多様な学習の在り方について試行していくことも考えたい。そのためにも,日常の教科の学習の充実が強く求められるところである。
     各学校の実態に即した見直しを
       選択教科といっても,教師側が設定したコースや課題を生徒が選択して学習する というスタイルが多く見られる現状がある。また,多様なコースを設定して生徒の興味や関心にも対応できるようにしようという努力がなされてきた。これからの選 択教科は,発展的な学習等例示された学習をふまえながら,生徒が自ら学習したい課題を設定し主体的な学習を進めていくところにその在り方を求めたい。また,これまで一人一人違った課題設定をしたとして,その一つ一つに教師は対応できるのかという現実的な問題があったことも確かであろうが,それは指導しなくてはならないという,これまでの指導観からくるものであろう。生徒が教科を選択し,その教科の中で個々の生徒が自分の課題を設定して進めていくような選択教科の在り方を探っていこうとすれば,自ずと教師の在り方も指導から支援という役割を担ってくることになる。
 教科によっては,事前に生徒の希望を集約しながら,活動の展開を工夫しなくてならない教科もでてくるであろうが,その意味では事前のガイダンスや希望調査,相談期間を活用した選択履修決定までのプロセスを今後も大切にしなければならない。こうした現状を踏まえ,生徒が主体的に学習課題を設定して取り組む選択教科の在り方について,また主体的な学習を進めるための自己評価力をどう育てるかなど,各学校の実態に即した見直しをしてみることが必要ではないかと考える。
     多様な学習体験の工夫を
       選択教科の本来の在り方からすれば,生徒の課題意識や学習の仕方といった基本的にこれまでの学習の中で培ってきた力をもとに,生徒が自ら問題解決を図っていくような学習が期待される。また,生徒は教師の支援をもとに,学習の見通しを持 ちながら,それぞれの課題に向かっていく姿に,本来の選択教科の在り方があるように思う。しかし,学校としての体制づくり,あるいは生徒が学習課題を見つけ,自分の興味・関心・意欲に応じた課題を設定し,追究していく力をどう育成していくか,計画通り学習が進められなかったり,行き詰まってしまう生徒へどのように支援していくかといった課題もある。
 各教科の特性を踏まえながら,生徒がそれぞれの学習課題に取り組んだり,創作活動やフィールド学習を取り入れたりなど,多様な学習体験や方法を工夫していくことが求められる。この意味で,選択教科のねらいが教科固有の目標の達成を目指す学習活動を行うものであることを押さえ,また育てたい能力やねらいを明確にし た取り組みが大切にされなければならないだろう。

 新教育課程全体が「生きる力」をはぐくむという目標を目指すことを踏まえ,必修教科や総合的な学習の時間と選択教科それぞれの学習に取り組む中で,生徒一人一人にどのような学びの場や体験を積み重ねていったらよいか,今後さらに実践的な取り組みが求められてくる。このことは,新教育課程の編成にあたっての,特に中学校での実践的な課題でもある。


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