第5 「総合的な学習の時間」の課題
 設置の趣旨
 各学校が創意工夫を生かした特色ある教育活動を一層展開できるようにするための時間を確保する必要があること。また,自ら学び自ら考える力などの「生きる力」をはぐくむために既存の教科等の枠組みをこえた横断的,総合的な学習ができるように「総合的な学習の時間」が設定された。
 
 「総合的な学習の時間」のねらい
 学習指導要領総則には,小・中学校とも次の2つのねらいを掲げている。高等学校の場合は,「自己の生き方」に代えて「自己の在り方生き方」の表現にしているのは高校教科目標と関連付けているためである。
(1)  自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
(2)  学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすること。
 第1のねらいに掲げることは,生きる力の定義になった「自ら」を3回繰り返すことで,子ども主体の学習であることを明確に打ち出したこと,及び,学習課題の発見から解決まで独力で取り組む重要さを強調したことである。第2のねらいは,学び方や考え方という包括的な目標を設定することで学習のねらいを矮小化させないで長期目標としたこと,取り組む態度や自己の生き方(在り方生き方)を考えることを目指し,教育の基幹に据えることである。このようにして「総合的な学習の時間」は,今回の学習指導要領改訂の中心的役割を担って登場した。
 
 「総合的な学習の時間」の編成
(1)  編成の主体
 個々の教員が自分の学年や学級の指導計画を作る前に,学校全体で研究する必要があるから,校務分掌に位置付けて学校全体で取り組むことが前提である。総合的な学習の時間は各教科や道徳・特別活動の成果に立っての総合化の学習であるから,従来の校務分掌の在り方の見直しが迫られる。そして,小学校では低学年から中学年・高学年の協力体制,中学校では,各教科指導の相互補完の協力体制などの新たな取り組みが要求される。
(2)  編成の時期
 教育課程全般の編成時期に合わせて取り組むことが基本である。但し,教科書のない学習の展開であり,各学校の創意工夫が求められる独自の学習をつくる活動内容であること,さらに,取り組んだ内容の改善と評価を厳しく進めないと次年度の実践が困難になるおそれがある。そこで,学習のねらいに即した評価計画の実践が極めて重要となる。
(3)  編成の具体化
 まず,名前の決め方の問題。「総合的な学習の時間」は教育課程の基準上の名称に過ぎず,各学校の教育課程,時間割上の具体的な名称は各学校で適切に定めることになっている。活動の実際にふさわしいもの,学習者が誇りを持って語り継いでいく名称であることが望ましい。また,学校の教育課程上の名称であるから,地域・学校・児童生徒の特徴を一言で表現する名称にしたい。
 次に,どう編成するかの実践化の問題である。教育課程編成にあたっては,地域や学校,児童生徒の実態等に応じて創意工夫を加え,各学校の教育目標達成を目指した教育活動を展開することが基本である。ただ従来は,ややもするとスローガンに終始するきらいがあったが,「総合的な学習の時間」は教科書のない学習であることを踏まえ,具体的な活動内容について,何を,どういうねらいで,どういう方法で実践するか研究することが必要になる。
 指導計画の作成
 学年・学級ごとの提案を集約して学校全体で研究し学校の指導方針を決定する。それを受けて各学年・学級の指導計画を作成することになる。
 授業時数
 小学校第3学年・第4学年は,年間105単位時間
 小学校第5学年・第6学年は,年間110単位時間
 中学校は,下限と上限の幅をもって示された。
 第1学年は,年間70〜100単位時間
 第2学年は,年間70〜105単位時間
 第3学年は,年間70〜130単位時間
 高等学校は,卒業までに105〜210単位時間を標準とする。
 週時程の設定
 毎週一定の時数を割り振るだけではなく,各教科等の学習内容との関連を図ったり,活動内容によっては特定の時期に集中的に実施したりする方が効果的な場合もあることから1年間を見通した弾力的な授業時数を配当するなどの工夫が求められる。その場合に次のような方法が考えられる。
(ア)  通年型
 毎週の日課表に同じように割り振って学習する。
(イ)  学期単位型
 各学期をひとつの教育課程と捉えて次の学期へ発展させていく。
(ウ)  短期集中型
 ある時期にまとまりのある学習活動を設定して課題解決を図る。
(エ)  学校行事対応型
 大きな集団で取り組む学校行事に合わせて個々の課題を設定して研究する。
(オ)  その他複合型
 教科・領域の学習や地域の中での活動などに関連付けて週時程を工夫する。
 
 具体的な学習活動
 「総合的な学習の時間」に係る具体的な学習活動については,そのねらいを踏まえて「次のような学習活動を行うものとする」,と学習指導要領総則に記載された。「例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題,児童の興味・関心に基づ課題,地域や学校の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。」
 これらの例示は,全国の比較的多くの学校で実際に総合的な学習として行われている学習活動の実践例などを勘案して提示したもので,各学校では,これまでいわゆるゆとりの時間などを活用にて学校の創意を生かした教育活動に取り組んできており,これらの経験を生かすなどして,創意工夫を生かした活動を積極的に展開することが望まれるとしたのである。(「学習指導要領総則解説」小学校p48,中学校p57)
 各学校の教育活動は連続的系統的に進められるものである。現在の教育活動に基礎をおいて次の指導計画が作成されるはずであるから,「総合的な学習の時間」を導入するにあたっても今まで取り組んできた学習の延長で捉えることが前提条件である。例示事項として学習指導要領に盛り込まれたものの,大半はすでに各学校の実践で取り上げられているものであって決して新しい内容ではない。従って,例示事項を基にして各学校の実践内容の方向を見いだすとすれば,新たな絞り込み作業が待っているはずだと考えたい。そこから発展する方向と子どもの学びの姿が浮かんでくると考える。具体的な学習活動を決定する指導計画作成には,学校として,次のような事項の整理が必要になる。
(1)  今まで学校で取り組んできた重点事項
 環境教育や福祉教育など各学校の教育計画に盛り込まれた教育内容について総合的整理作業をして重点的に取り組んできたものの確認をすること。
(2)  今までの学習活動の成果の評価
 学校の教育目標と照らして積極的に評価できる内容と,長い間に亘って学校の課題となっているものを明確にすること。
(3)  学校を取り巻く地域社会からの期待
 都市部や農村部地域の差違,保護者を中心にした地域社会と学校の教育活動の関連付けなど地域の力を評価すること。
(4)  子どもの学び力の捉え方
 調査する力や資料を整理する能力,あるいは学年学級を超えて協力し合う態度など,研究の取り組み方法の積み上げを具体的に整理すること。
(5)  学校の特徴の捉え方
 創意工夫を重ねることで各学校の独自性を作り上げること。
(6)  小学校の実践事例分類
 創意工夫を重ねることで各学校の独自性を作り上げること。
取り組む課題 学習活動の種類 具体的な活動名
国際理解 英会話活動
英語となかよし 英会話を楽しく
英語に親しむ やさしい英会話
外国の歌 英語でゲーム
異文化理解
外国のくらし われら地球人
異文化交流 広げよう友だちの輪
ぼくらのワンダーランド 海の向こうのお友達
調べ学習
アジア発見 町の観光探検
世界の料理調べ 地球まるごと
情報 パソコン遊び
お絵かき
インターネットの活用
ケナフを育てる 海外の学校交流
ホームページを開く 地域を発信しよう
ネットワーク会議
調べ学習
商店街ホームページ とびだせたんけんたい
創作活動
新聞作り 文集作り
学級紹介 ゆめを語ろう
環境 自然探索
自然観測 エコロジー実践隊
自然の贈り物 川から学ぶ
ビオトープ 大切な森林
校庭の生き物 海岸で見つけよう大切な森林
調べ学習
むかしのくらし 地球の環境
公害調べ 地域を調べる
生命尊重
モンシロチョウを育てる 花いっぱい
ケナフとリサイクル 田植え体験
環境保全
町の伝統を守る 海岸クリーン作戦
ゴミ減らし運動 学校のゴミ研究
通学路の草花 環境ボランティア
福祉・健康 ボランテイア活動
デイサービスセンター訪問 お年寄りと交流
地域の清掃 家庭生活を楽しく
調べる活動
祖父母の知恵 バリアーフリーの町角
ストレスチェック 健康を考える
生き方学習
ポニーを育てる 広げよう友情の輪
車椅子体験 アイマスクで歩く
夢のある活動
他校との交流 人間大好き
人権を学ぶ みんなちがってみんないい
 興味・関心に基づく課題
取り組む課題 具体的な活動名
課題の研究
卒業の研究 何でもチャレンジ 祭り調べ
いのちマップ 博物館へ行こう
自然の学習
うさぎの飼育 お米を育てる 落ち葉集め
ゲーム遊び
ふしぎ島のたんけん 校庭でヤッホウ
創作
祭りだ太鼓だ 絵本作り アイデア製品づくり
 地域や学校の特色に応じた課題
取り組む課題 具体的な活動名
ふるさと自然
ふるさとの川 ふるさとの山
栽培と料理
取り入れ祭 米づくり 郷土料理
地域調べ
町の探検 歴史探検−村を作る− 町の豆記者
この町大好き 私たちの町体験 ときめき探検隊
伝統の町発見 ふるさとの歴史 地域産業調べ
地域活動
市場の商店手伝い 音集め
伝承活動
カルタ遊び 竹馬遊び 祭りの太鼓
表現活動
曲や劇作り コミュニケーション・郷土学習 地域伝説の朗読
 
 「総合的な学習の時間」の位置付け
 この時間の教育課程上の位置付けは,次の5点に留意して教育課程全体の中で把握すべきである。
表3 この時間を教育課程上に位置付ける時の要点
@ 各教科や道徳,特別活動とは明らかに性格を異にしていること。
A 具体的な学習の目標や内容は各学校の創意工夫に任せられていること。
B 各教科や道徳・特別活動などの学習を前提にしていること。
C 各教科や道徳・特別活動などと相互に関連付けを図ることで成果を得ること。
D 知のネットワークの要として教育課程全体の目標を支える役割を負っていること。
 
 「総合的な学習の時間」のねらいに迫る課題
(1)  教科書のない学習活動の課題
 学習内容と方法を各学校の創意工夫に任せることは各学校の教育課程開発の創造力が求められるばかりではなく,手作りの教科書づくりをどう継続させるかの課題に直面する事態を迎えるのである。その課題を克服して発展させるためには教職員の協力体制を築くポイントとして次の5点を確認しながら進める必要がある。
 組織の機能性
   管理職のリーダーシップはもちろんのこと,各校務分掌主任を中心に教職員の協働体制が作られていること。
 研修の日常化
   研究がマンネリに陥らずに継続するのは「切磋琢磨」の雰囲気である。校内研修を積み重ねて工夫改善のできる学校であること。
 課題の明確化
   工夫があるから課題が見える,課題意識が創意工夫の基にあること。創意工夫と課題意識の連鎖は職場を明るくする力である。
 目標の具体化
   実際に各担当が取り組むべき目標が具体的に見えるから改善意欲が高まるので総論の議論に終始しないこと。
 教員の感動
 どんなに優れた実践研究でもそれが色褪せていくのは,実践研究者自身の自己満足からである。その意味で感動を失った教師から改善努力を求めることは困難である。教師の経験の有無に関わらず,どうしたら感動を共有した取り組みにできるか,教師たちの感性を磨く謙虚さと向上心をどのように植え付けるかが管理者の課題である。
(2)  発見の喜びが伴う学習の課題
 主体的な学習活動が「遊び」にならず「惰性的」にならずに課題が深まるためには,学習過程での「発見の喜びが伴う学習」の展開を重視して,次のような学習のポイントを確認していく必要がある。子どもの学習活動を支えるのが教師の仕事であることを考えれば,手作りの教科書づくりで時間はかかっても児童生徒とともに活動を創り上げていこうとする「教師の情熱と感動」は子どもの学習活動の深まりにも大きな役割を担うはずである。
 学習の個別化
 自ら学び自ら考える力を育てるためには,子どもの学習が内的な動機付けに結びついていることから個に対応した指導は最も基本的な課題である。
 学習の個別化
 学習意欲の高まり
 学習意欲を減退させるものは押し付けの学習であり,知的好奇心に基づく学習指導の在り方が改めて問われることになる。
 教師の感動
 子どもの興味関心に指導する側の姿勢が深く関わることは周知のことであり,新たな事象を発見していく学習過程に教師自身が情熱を持って感動的に体験できるかどうかは,子どもの主体的な学習の深まりに重要な役割を果たすことになる。
 「待つ」という指導
 学習課題が子どもの側にあるので各教科学習に短絡させないで「子どもが起きるまで待つ」指導は次のステップに上るための条件になる。この意味で,特に学習課題づくりまでのステップを大切にすることと,活動過程での児童生徒の様々な気付きを大切に取り上げていける教師の目を持ちたい。
 評価の改善
 内容知と方法知を総合した「知のネットワークづくり」から教育課程編成の要である 「総合的な学習の時間」を評価していく。各教科指導の評価と関連付けて「自ら学び自ら考える力」の育成の成果の改善の視点を明らかにする。
(3)  課題の提示について
 「自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考える力を育成する」ねらいの学習であるから,問題解決の学習課題は子どもの手に残されることになる。ただ子どもや学校の実態に応じて指導計画を作成するのは指導する教職員であり,学習内容の習得(内容知)を通して主体的な学びの資質能力(方法知)を高めることを前提にして,次のような問題を克服していくことが求められるのである。
 各学校の特色に応じて取り組んでいる学習活動
 学校として組織的に実践してきた学習活動の中で,子どもたちが学習課題を見付け問題解決の学習を進めることが基本である。ただ,学校として環境問題に取り組むにしても,介護福祉を真剣に考えている子どももいれば海外帰国子女で国際社会に向かっている子どもも珍しくなくなっているので,個に応じた対応が必要である。
(ア)  基礎・基本の学習と子どもの興味関心の世界の均衡
 学習内容の習得が直接目標ではないので,課題設定の自由選択に配慮しないと特別活動の集団活動に埋没するおそれが生じる危険も抱えている。次図のように一方では自由選択と言っても,子どもの興味・関心に任せておいて課題意識が深まり次のステップに進めるのかという問題が出てくる。そう考えると,「基礎的・基本的な学力の獲得」と「子どもの思いや願い」の2つの極端の間の様々なレベルが浮かんでくるのである。一方は総合化・生活化を重視する立場であり,もう一方は,生活からの課題重視の立場である。(図6参照)
 
提言
 「総合的な学習の時間」では,知識内容を教えることよりも,情報の集め方,調べ方,まとめ方,報告や発表・討論の仕方など学び方やものの見方や考え方,自己評価活動等を習得することを重視する。
図6 学習活動の立脚点と学習の型
(イ)  追究する課題の深まりの問題
 小学校低学年に「総合的な学習の時間」の時間が見送られたのは,生活科が設置されて生活体験を基盤とした取り組みが実践されていることと合わせて,低学年では課題解決の学習が馴染まないとの理由であった。そう考えると,生活科は小学校第3学年からの総合的な学習の基盤づくりの役割を担うことと,生活科ではできない課題追究学習が総合的な学習の基本であると言える。小学校第3学年から小学校高学年にかけて課題追究をどう積み上げていくのか,それが中学校の総合的な学習にどう反映していくのかの問題は今後の実践上の大きな課題である。
 基本的には,生活科の学習と学校の特色ある活動を結び付け,学校の一員として課題解決の学習に取り組みながら学年が進行するにつれて追究する課題が個別化するモデルに沿って構造化されるはずである。
(4)  集団活動と個別の学習課題
 共通の課題意識の立場で捉えるとグループ別に学習活動をした方が問題の解決が効率よく進む場合も多い。従って集団活動を生かして学習課題に取り組むには次のような方法の7タイプが考えられる。
集団活動を生かして学習課題に取り組む方法の7タイプ
(5)  各教科学習を生かす方法
 教育課程編成の大部分は各教科の学習である。 [ゆとり]を生み出し各教科の学習を展開するには,基礎・基本の学習の成立が基盤になる。この学習の成立には,繰り返し習得する内容と次のステップへ進むうえで必須な内容,そして学習方法の獲得が不可欠になる。ステップごとの骨格となる力を確かなものにすることが基礎・基本の学習であるとの前提に立てばこの基本学力の増進こそが各教科の学習の成果である。この基本学力を基礎にして「総合的な学習の時間」の学習活動が成立する。反対から見れば「総合的な学習の時間」の学びの力量が各教科学習を発展させる。この関係は次の ように整理できる。
「総合的な学習の時間」の学びの力量が各教科学習を発展させる関係
@  各教科学習の基礎事項と基本事項の十分な絞り込みにより各教科学習が順調に展開し,ゆとりある学校生活が保障されるときに,総合的学習の時間は充実する。
A  「総合的な学習の時間」での課題研究が進行すれば各教科学習に戻っていく場合が多いと考えられる。学習が深まればより専門分野へ入ることが想定されるからである。
B  ある分野から他の分野へ発展できる場は「総合的な学習の時間」の役割である。その意味でも「総合的な学習の時間」 は各教科学習の統合発展の要の位置にいる。
C  生活科の役割が低学年の生活体験という位置から「総合的な学習の時間」の基盤づくりへと役割の変化していくことも見逃せない。
D  「総合的な学習の時間」でねらいとする「自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考える」学習については,実は各教科学習でも追究してきたテーマであることを踏まえ,各教科学習の成果を「子どもの中で生かして使う」 場として 「総合的な学習の時間」を活用する方向で取り組み始めることが出発点である。
(6)  特別活動との関係
 為すことによって学ぶ特別活動は,日常生活と関連付けて学校生活を充実させる大きな役割を担っている。集団活動を特質とすること,自主的実践的態度の育成を目標とすること,各教科学習や道徳の時間との相互補完の関係にあることなどを踏まえて「総合的な学習の時間」の活動と関係付けを図る必要がある。
「総合的な学習の時間」の活動と関係付けを図る
@  集団活動を特質とする特別活動を「学習活動の場」として活用することは,学習課題を学校の外に広げて,集団で取り組み,協力してまとめ,発表の機会を設定するという方法を「総合的な学習の時間」に発展させることに通じている。
A  特別活動の目標とする,望ましい集団活動を通して自主的実践的態度を育てるとのねらいを促進させることは「総合的な学習の時間」を充実させる力になる。
B  「総合的な学習の時間」の取り組みは特別活動の諸分野を豊かに展開するものになる。
(7)  「総合的な学習の時間」で育てたい力
 「総合的な学習の時間」の学習過程に沿って,「育てたい力」を表したのが図7である。
図7 「総合的な学習の時間」で育てたい力と問題解決的な学習の流れ
 前図は,「総合的な学習の時間」で「育てたい力」について,@問題解決的な学習の流れ,A育てたい力,B支援の各観点から相互のかかわりを図示したものである。「育てたい力」をどのようにおさえるか,またどのような支援をしていくかを明らかにしておくことは,「総合的な学習の時間」を構想する上で,学校がどこに力を入れるかを示すことにもなり重要な指針となる。したがって,「総合的な学習の時間」で「育てたい力」を,各教科,領域で培われる力と関連づけながら,小・中学校,高等学校のそれぞれの段階で具体的に把握していく必要がある。また,問題解決の学習過程や「育てたい力(評価の視点)」をどう設定していくかについては,自己評価力を育て,高めることを含め,今後さらに実践を通して各学校化して,より確かなものにしていく必要がある。
(8)  「総合的な学習の時間」の評価
 「総合的な学習の時間」の評価については,テストの成績で数値的に評価することは適当ではないとして,子ども自らが設定した課題や学習計画,追究の過程を振り返り,評価改善を図るための評価の工夫が求められている。この時間のねらいは,問題解決能力や学び方,主体的に取り組む態度の育成にあるが,前図(「総合的な学 習の時間」で求められる力)の中の「育てたい力」を評価の視点として捉えることもできるが,それぞれの校種にあった児童生徒の問題への気付きがあり,課題追究の方法を創意工夫し,実際に即した評価の視点を設定することが求められる。
 また,「総合的な学習の時間」のねらいとされる「学び方」などの方法知は,学習内容の習得と不可分の関係にあり,この意味では各教科学習の成果と関連付けて評価することも大切である。各教科学習は,内容知の獲得を目指しているとはいえ,その学習過程は方法知の鍛錬でもあることを踏まえ,そうした各教科学習の成果を 「総合的な学習の時間」に生かしていくわけであるから,各教科学習と関連付けて評価する視点を明らかにしていくことも必要となろう。
 また,基礎・基本を土台として「総合的な学習の時間」が展開され成果が得られるといった,教科と「総合的な学習の時間」が相互に高め合う関係を具体的に明らかにしていく作業を通して,教育課程の改善の方向も見えてくると考える。児童生徒の興味関心を生かした総合的な学習を展開した場合でも,その学習過程で既習の学習など,そこでどのような力が使われるのかという視点がなければ活動のみの展開に終わってしまうだろう。学習を進めるにあたって,児童生徒が何に気づき,どう問題解決をしていくか,そこで使われる力とは何かを見定めながら学習や成長の軌跡を振り返り,自信と希望をもてるような学習体験を積み上げていきたい。
 「総合的な学習の時間」で「育てたい力」や支援の視点を明らかにしながら,知のネットワークの要の時間である「総合的な学習の時間」の成果や課題点について,具体的多面的に評価していくことで,各学校の創意工夫を生かした教育課程を創り上げたい。


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