第3 「生きる力」を育む課題と提言
 「生きる力」のとらえかた
  (1)  「生きる力」の多様な考え方
 
 「いかに社会が変化しようと,自分で課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく課題を解決する資質や能力」
 「単に過去の知識を記憶しているということではなく,初めて遭遇するような場面でも,自分で課題を見付け,自ら考え,自ら問題を解決していく資質や能力」
「自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性」
「たくましく生きるための健康や体力」
「人間としての実践的な力。理性的な判断力や合理的な精神だけではなく,美しいものや自然に感動する心といった柔らかな感性を含む」
「全人的な力である。」
(第15期中央教育審議会第一次答申 平成8年7月29日)
 
(1)  自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
(2)  学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探求活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,[自己の在り方(:高等学校)]生き方を考えることができるようにすること。
(小学校学習指導要領第1章第3の2,中学校学習指導要領第1章第4の2,高等学校学習指導要領第1章第4款2)
  (2)  教育課程改善の基本的なねらいと四つのポイント
 
 H.10/7/29 教課審答申 → 完全学校週5日制の下,「ゆとり」の中で「特色ある教育」を展開し,生徒に「生きる力」を育成する。
 
@  豊かな人間性や社会性,国際社会に生きる日本人としての自覚を育成する。
A  自ら学び,自ら考える力を育成すること。
B  ゆとりのある教育活動を展開する中で,基礎・基本の確実な定着を図り,個性を生かす教育を充実すること。
C  各学校が創意工夫を生かし特色ある教育,特色ある学校づくりを進めること。
  (3)  「生きる力」にみる多くの考え方に共通する視点
     この視点を捉えるときには,「生きる力」が「誰の生きる力なのか?どこで生きる力なのか?何のための生きる力なのか?を問うていくことで,次のような視点に行き着くと考えた。
 
 (児童生徒が)『社会的存在としてよりよく実在する』(のに必要なこと)
 
提言
 「生きる力」として列挙される多くの考え方を『社会的存在としてよりよく実在する』という視点から見直すと学校の多様な実態に応じた「総合的な学習の時間」の編成の糸口が見えてくる。
     そして,この視点は,学習指導要領にある「総合的な学習の時間」の指導上の2つのねらい【「(1)自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。(2) 学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探求活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の在り方生き方を考えることができるようにすること。」(小学校学習指導要領第3款2,中学校学習指導要領第4款2,高等学校学習指導要領第1章第4款2)】とも関連している。
 「生きる力」を捉える視点を,児童生徒が『社会的存在としてよりよく実在する』ために必要なことに求めれば,学校の多様な実情に応じて「総合的な学習の時間」の展開をより柔軟に発想することができる。
  (4)  『社会的存在としてよりよく実在する』という視点の汎用性
     『社会的存在としてよりよく実在する』という視点に立てば,これまで我々が学校教育を通して継続,累積してきた「確かな学力を身に付ける」ということも「生きる力を育む活動であり,基礎・基本を身につけるということもまた「生きる力」にとって不可欠である。また,【子供たちが学問的あるいは知的な関心を持って問題を真剣に考える姿勢が希薄になっているという「知離れ」といった現象(中央教育審議会第1次答申第3部,第4章[1]科学技術の発展と教育,自然科学の視点,平成8年7月19日)】や,国際比較から指摘される,規範意識の低下,数学ぎらいといった学習意欲低下の問題,また,いじめ・不登校,いわゆる学級崩壊という学級経営の機能が著しく低下した状況についても,これらを是正することは,やはり「生きる力」を育むために必要なことである。当然ながら自己の在り方や生き方を考えさせる過程で,各教科や道徳,特別活動などと関連付けながら「総合的な学習の時間」で扱ってもよいのである。
 一方,「総合的な学習の時間」で対処できるのかと指摘されがちな表1の各項目についても,この視点に立てば,各学校の実情により教育課題に柔軟に対応できる教育課程編成の方向性が見えてくる。
 
表1「総合的な学習の時間」で対処できるのかと指摘されがちな項目
 教科指導,道徳の指導,特別活動,進路指導,生徒指導,教育相談の内容 ,特殊教育諸学校での内容,生涯学習等の内容が統合的に扱えるかという指摘
 教育活動の中で最も普遍的で重要なことである「確かな学力を身に付けること」とつながるかという指摘
 基礎・基本の徹底や重視から,さらに学力増進の必要性につながるかという指摘
 子供たちが学問的あるいは知的な関心を持って問題を真剣に考える姿勢が希薄になっている「知離れ」といった現象【(中央教育審議会第1次答申第3部第4章[1]科学技術の発展と教育,自然科学の視点,平成8年7月19日)】の打開につながるのかという指摘
 今般の教育改革で規範意識の低下,いじめ・不登校,いわゆる学級崩壊(学級経営の機能が著しく低下した状況)が打開できるのかという指摘
 数学ぎらいといった学習意欲低下への問題に対処できるのかという指摘
 生徒指導で精一杯であり,「総合的な学習の時間」どころではないといった指摘
 「総合的な学習の時間」をやると進路指導が手薄になるといった指摘
     例えば,学習指導要領(小学校学習指導要領第3款3,中学校学習指導要領第4款3,高等学校学習指導要領第1章第4款3)で例示された国際理解,情報,環境,福祉,健康の内容では,とても我が校の実情には合致しない,むしろ生徒指導上の課題解決が優先であるという現実的な悩みに対しても解消への糸口となる視点である。
 児童生徒の「生きる力」を育むには,直面している各学校の教育課題の改善に向けてテーマを設定し,「総合的な学習の時間」の機能性を生かして学習指導要領の2つのねらい【(1)自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。(2)学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探求活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,[自己の在り方(:高等学校)]生き方を考えることができるようにすること】を段階的に達成していけばよい。
 大切なことは,国際理解,情報,環境,福祉,健康の文言を意識し過ぎずに学校の実態を見据えた直面する教育課題の把握にある。むしろ,国際理解,情報,環境,福祉,健康以外のテーマがどれくらい出てくるかが,各学校が創意工夫を生かし特色ある教育,特色ある学校作りを進めているかの指標になるのかも知れない。
 
提言
 「生きる力」を『社会的存在としてよりよく実在する』ために必要なことと考えると教科指導,道徳の指導,特別活動,進路指導,生徒指導(教育相談における活動内容も含む),特殊教育諸学校における活動内容,生涯学習等の内容が統合的に扱える。
   
 「生きる力」の構造化の必要性と「総合的な学習の時間」の機能
  図3 生きる力と学習全体との関係  小学校,中学校,高等学校を通して「総合的な学習の時間」の学習内容を系統性や一貫性をもって年間計画に配置し,学習の質的レベルの高まりや深まりをもたせることができれば,いつも同じレベルやパターンの学習活動を常とう的に繰り返すという「はい回る経験学習」への危惧を払拭できるであろう。そのためには,多様な「生きる力」についての考え方を整理,統合し,少なくとも校種ごとに各学校の実情に応じてねらいを明確化できるような構造化が必要である。
 先ず,「生きる力」と学習全体との関係について,図3のような概念図を想定して考えてみたい。生きる力の育成は学校教育の最大の目標であるが,完全学校週5日制の時代を迎えようとしている今日,学校教育は家庭教育や地域社会を基盤として捉えられるべきである。その家庭や地域での「生活体験」の重要性が指摘され,自然体験や社会体験不足が昨今の心の教育推進の契機となっていることを考えれば,「家庭や地域と連携した学校教育」の展開が基本として位置付けられることになる。そうした生活体験は学校生活の範ちゅうにある,通学上の生活体験(小学生なら通学班の体験など)や学校内での休憩時や放課後等の交友関係など,いわゆる授業時間外の活動を含めて把握されるはずである。
 さて,その日常生活での体験を基本として,学校の教育活動を捉える視点が教育課程を発展させる上で大切なことである。それは教育課程の各教科や道徳・特別活動を生き生きさせる鍵であり,学習内容(内容知)習得を通して学びの力や問題解決の力を伸ばしていくことにつながるのである。内容知と方法知は分離しては考えられない。学習過程から捉えれば,学びの表と裏の見方である。そうした,各教科や道徳・特別活動の学びの力を生かして,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考える教育活動を展開することが総合的な学習の時間であるから,「総合的な学習の時間」は各教科,道徳や特別活動の成果に支えられていると考える。そして,この時間での総合化の学習が教育課程全体の成果を担うことを想定して整理したものが図3である。
 つまり児童生徒の興味関心に添って「総合的な学習の時間」への入り口を決め,この時間の学習活動を通して,以下に示すような循環する「考え方」を児童生徒に成立させる教師側の「方法」や「働きかけの過程」が重要になる。この考え方が一人一人に成立すれば,学習の質的レベルの高まりや深まりが期待でき,いつも同じレベルやパターンの学習活動を常とう的に繰り返すということもなくなるのである。そして,「総合的な学習の時間」の初期にこのような循環する考え方を児童生徒に獲得させるように働きかけることが重要になる。児童生徒の気付きや興味・関心を把握し,「総合的な学習の時間」の学習内容の入り口とする。
 
   この考え方が児童生徒に成立することが一人一人が自ら学ぶ状態であり,この時間の内容習得に役立つ。そして自己評価活動を通して次の学習課題に気付くことは,「総合的な学習の時間」の内容が教育課程の他の内容と相互補完していく重要な契機である。また,教師側が「次の学習課題に気付かせる仕掛けを考案すること」は,「総合的な学習の時間」の運営そのものが教育課程にフィードバックし,教育課程で用意される多くの教育活動の効果的な運営と内容の修得を後押しするという「機能」を高める原動力になる。
 一方,「総合的な学習の時間」のねらいの中に,【「・・・(自己の在り方:高等学校)生き方 を考えることができるようにすること(小学校学習指導要領第3款2(2),中学校学習指導要領第4款2(2),高等学校学習指導要領第1章第4款2(2)】とあることから,この時間は生徒指導の究極の目標でもある「自己実現」や進路指導の核となる「生き方指導」とも密接に関連して展開されることになる。生徒指導や進路指導は学校のあらゆる教育活動を通して総合的に働きかけるべきものとして,機能原理で説明されることが多い。つまり,これからの教育課程における「総合的な学習の時間」の在り方は両者との密接な関係を踏まえて考察すれば「機能」として認識できる。「総合的な学習の時間」の機能性を踏まえ,多様な実態をもつ学校での柔軟な活用が促進することを期待したい。
 
表2 「総合的な学習の時間」編成の視点
@  教育課程編成の大きな目標は学習指導要領改訂の基本である「生きる力」の育成である。
A  「総合的な学習の時間」は,知のネットワークの要として教育課程編成の目標に対峙している。
B  各教科,道徳や特別活動の学習の成果の上に,総合的な学習活動を展開する。
C  各教科,道徳や特別活動は相互に補完しながら教育課程の目標に迫るものである。
D  完全学校週5日制下の学校は地域社会も含めて子どもの生活体験が強調される時代である。
 
提言
 各学校が児童生徒の実態に応じて「生きる力」の構造化に取り組むことは、「問題解決に主体的に取り組む、活発な自己活動の学習過程」の展開や「学習内容の効果的な習得」を容易にし、「学習の質的レベルの向上・深化を図る」ことにつながる。また、教育過程の編成において、「総合的な学習の時間」の学習内容の統一性、一貫性、意図的配置、評価活動の視点の位置付けがしやすくなる。
   
 「生きる力」の構造化
   各学校において,児童生徒の実態に即して「生きる力」の構造化を試行する素材を以下に示した。各学校の状況に合わせ,より具体的なねらいに応じて構造化を進めることが大切である。ここでは,どのような状況の学校にでも活かせることを想定し,先に述べた「生きる力」の巨視的な視点に立って『社会的存在としてよりよく実在する』ために関連する「総合的な学習の時間」のテーマにつながる項目を『社会(性)』『人間(性)』『ことば』『考えること』という4つのキーワードを意識して図4の下段に素材として挙げた。また,これから試行する時に想定できるねらいと主な活動の例を4つのうちの『社会(性)』『人間(性)』という2つのキーワードを視点にして示してみた。
 構造化は,学校教育法の[教育の目標]を基盤として進める。これに校種ごとの素材として提示した項目例を加えながら各学校の独創性を出していくことになる。
 そして,これらの拠点の上に小学校の6年間,中学校の3年間,高等学校の3年間で段階的に提供できる「生きる力」を育む教育活動を構築し,校種間で整合していけば「生きる力」を育む教育課程の系統性と一貫性は高まるであろう。
 
表3 構造化の基盤
小学校 学校教育法第2章第18条[教育の目標]
 学校内外の社会生活の経験を基盤として日常生活に必要な社会性を養う
中学校 学校教育法第3章第36条1,2,3[教育の目標]
 小学校の教育の基礎の上に,国家及び社会の形成者として必要な社会性を養う
 職業についての基礎的な知識と技能,勤労を重んじる態度,個性に応じて将来の進路を選択する能力を養う
 学校内外における社会的活動を促進し,公正な判断力を養う
高等学校 学校教育法第4章第42条1,2,3[教育の目標]
 小学校の教育の基礎の上に,国家及び社会の形成者として必要な社会性を養う
 職業についての基礎的な知識と技能,勤労を重んじる態度,個性に応じて将来の進路を選択する能力を養う
 学校内外における社会的活動を促進し,公正な判断力を養う
 
表4 小学校の拠点に積み上げていく活動の視点の例
小学校
 学び・考える道具やコミュニケーションとしての「ことば」(外国語も含む)遣いが成立する
 考える習慣,学習の方法が成立する
 夢を話したり聞くことや働くことの楽しさを体感する
 体験を吸収する
 社会的存在としての自分と他者,人間相互の関係と相互理解が成立する
 個と集団の関係が成立し,相互理解する
 社会構造等について知り,社会の中の一員として社会に参加する
 
表5 中学校の拠点に積み上げていく活動の視点の例
中学校
 学び・考える道具やコミュニケーションとしての「ことば」(外国語も含む)遣いが充実する
 考えて行動することの定着と個に応じた学習方法が充実する
 夢や将来の進路を考える
 体験の吸収し,先を見通す材料として活用する
 社会的存在としての自分と他者,人間相互の関係と相互理解を充実する
 個と集団の関係が充実し,相互理解の在り方を充実する
 社会構造等について理解を深め,社会の一員として積極的に社会に参加する
 
表6 高等学校の拠点に積み上げていく活動の視点の例
高等学校
 学び・考える道具やコミュニケーションとしての「ことば」(外国語も含む)遣いが深化する
 考え方が深まり,進路を見据えて,個に応じた学習方法も多様化する
 夢や将来の進路を具体化する。
 体験を吸収し,将来を見通す材料として活用しながら,負の体験を正方向へ柔軟に転換する。
 社会的存在としての自分と他者,人間相互の関係と相互理解を深化させる
 個と集団の関係が深化し,相互理解の在り方を深化する
 社会構造等について認識し,社会の一員として積極的に社会に参加し,よりよく変革する
 
提言
 生きる力の構造化により,「総合的な学習の時間」の学習内容の系統性,一貫性が確保でき,校種間や学年間での重複が回避できる。また,各学校のねらいに対する学習内容の意図的配置を容易にし,評価活動を効果的に進められる。
   
 「人間探究」に注目した「生きる力」の構造化への視点と素材
   構造化(試行)の視点の一例を図4に示した。いばらき教育プランの「個性と創造性に富む心豊かな人づくり」と「生きる力」を巨視的にとらえた考え方:『社会的存在としてよりよく実在する』との関連から,「生きる力」を育むためのねらいと主な活動を整理した。「人間探究」のスタートを自分自身に求め,自分自身という人間の内部へ広がる視点と自分自身という人間の外部へ広がる二視点から入り,個→集団→地域→国家→地球という系統性に従って図4の上段に配列した。図4の中段は,各校種ごとの配分を人間性と社会性に注目したキーワードの配置と,相対的な学習活動を実線で示したものである。また,図4下段の項目例については,「総合的な学習の時間」のテーマにつながる素材を羅列したものである。人間性や社会性の育成には対極にある概念の確立が不可欠であるから,【豊かさと貧しさ】というような組み合わせを意識してほしい。これらは各学校の特色や実状に応じて手を加えながら学校化することを想定した素材である。
 各学習内容を設定するには,児童生徒の興味・関心を入り口とする。次に志向目標を学校教育法[教育の目標]やいばらき教育プラン,学校の実態と照合して決定する。そして,より具体的な達成目標は「総合的な学習の時間」で育てたい力(図7参照)と対応させて各学校化を図る。構造化を進める場合にも知識内容の教え込みよりも,学び方やものの考え方,情報の集め方,調べ方,まとめ方,報告や発表・討論の仕方や,自己評価活動を重視した設定が大切である。
図4「人間探究」に注目した「生きる力」構造化への視点と素材
 「総合的な学習の時間」の機能と「生きる力」の視覚化
図5 「総合的な学習の時間」の機能性に着目して「生きる力」を視覚的にとらえる模式図
  (1)  教育課程をX,Y,Zの3つの構成要素で把握する。
 
義務教育 X軸 特別活動
Y軸 道徳と教科・科目,特別活動以外の教育活動(図には,道徳等として表示)
Z軸 教科・科目
高等学校 X軸 特別活動
Y軸 学習指導要領第1章第1款2でいう全教育活動を通して行われる道徳と教科・科目,特別活動以外の教育活動(図には,高校での道徳等として表示)
Z軸 教科・科目
  (2)  各構成要素の関連を3平面:α,β,γで表す。
 
α 平面 特別活動と道徳等,(高校での道徳等)との関連
β 平面 教科・科目と道徳(高校での道徳等)との関連
γ 平面 教科・科目と特別活動との関連
  (3)  3軸上の各点x1,y1,z1は各学校での教育課程編成上の位置付けを表す。
 
x 1 特別活動と道徳等,(高校での道徳等)との関連
y 1 教科・科目と道徳(高校での道徳等)との関連
z 1 教科・科目と特別活動との関連
  (4)  3つの平面上のベクトルv-xy,v-yz,v-xzは教育課程編成の各要素の総合化を表す。
 
ベクトルv-xy 学校における道徳(高校での道徳等)と特別活動との教育課程編成上の総合化
ベクトルv-yz 学校における教科・科目と道徳(高校での道徳等)との教育課程編成上の総合化
ベクトルv-xz 学校における教科・科目と特別活動との教育課程編成上の総合化
  (5)  空間のベクトルv-xyzの概念が学校における「生きる力」の概念を表し,大きさと方向をもった空間のベクトルv-xyzの実体が教育課程運営上のある時点における学校で育まれる「生きる力」の実体を表す。
 
v-xyzの空間のベクトルの概念 教育課程の運営における「生きる力」の概念を表す。
v-xyzの空間のベクトルの実体 教育課程の運営で育まれる「生きる力」の実体を表す。
  (6)  立体の輪郭は学校における教育課程の特徴を表し,立体そのものは教育課程により展開する全ての教育活動を表す。
  (7)  立体の体積は学校ではぐくまれる「生きる力」を量的に表す。
  (8)  立体上の点★Sは学校が教育課程の運営を通して児童生徒を育んでいく方向を表す。
  (9)  この図の考え方を一人の児童生徒に置き換えてみると,児童生徒がある瞬間に獲得している「生きる力」とも見ることができる。この場合の立体上の点★Sは一人の児童生徒が伸びようとする方向を表す。
 図5の実線は教育課程の3領域x1y1z1の各時数で育まれる「生きる力」を表す。「総合的な学習の時間」は学習指導要領中の総則に置かれ,第4の領域とはしていない。さらに,他の領域と違って国はこれに個々の目標や内容を定めず,時間の枠組と時間数を与え各学校の実態に応じて設定することを求めている。全国の多様な学校に個々の設定を委ねながら,「生きる力」を育む上で他の3領域での教育活動以上にこの時間の効果に期待しているのは,「総合的な学習の時間」に共通した機能性があるためと考えられる。それは総合化の在り方と他の教育活動との間の相互補完による。これらの特徴を踏まえて図5には「総合的な学習の時間」の軸を示していない。図6の実線は教科・科目と道徳(高校での道徳等)を合わせた効果を示し,破線は同じz1y1時数の授業展開でも「総合的な学習の時間」が機能した場合には効果が引き上げられたり,機能が低下すれば効果が下がる場合もあることを例示している。
 
提言
 「児童生徒の中で総合化する」には,児童生徒の中に覚醒された自覚がなければならない。そこにも教師の援助・支援が求められる。
 学校教育が,意図的・組織的に進められる以上,学習を楽しいものにすることのみを求めて,児童生徒の自発的な課題意識だけに頼っていては,知識や技能のネットワークを創り上げることはできない。
 基礎・基本を確実に身に付けさせるとともに,それを総合化させるために「生かして使う」場面としての「総合的な学習の時間」が設定される必要がある。少なくとも,数多い「総合的な学習の時間」の中に,はっきりとこの目的を意識した単元が確実に存在してもよい。


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