【授業研究2】
  中学校第2学年
「自分の世界を箱の中に表現しよう」における自分の考えや感性を大切にし,思いや夢を主体的に表現できる支援の工夫
(1) 授業研究のねらい
   中学生の段階になると,自分の世界をもつようになり,自分の思いをどうしたら友人や周りの人々に理解してもらえるか悩むことが多くなる。また,自分一人の世界に入り,いろいろな夢を見たり,想像を巡らせたりすることが多い反面,友人たちと同じように行動することで,所属感を味わい安心してしまうこともある。このような不安定な時期にこそ,学習を 通して自ら課題を決め,自ら答えを出す思考の仕方や,方法を身に付けることが望まれる。
 教育課程審議会(平成10年7月)の答申において,「自ら学び,自ら考える力を育成すること。」というねらいが示されおり,美術の学習においても,自分の考えや感性を大切にして,表現することを通して独自に課題を解決する力を育てることが求められている。
 今回は,生徒が自らの課題を見付け,よりよき精神を求め,感覚や感性及び想像力を伸ばすために,自分の世界や思いを立体にして表現する「ボックスアート」を題材とした。
 「ボックスアート」の制作を通して,自分の世界をより明確にするとともに,想像することの楽しさや,主体的に表現することの喜びを味わわせることができるものと考えている。
 本研究では,生徒一人一人が自分の願いや感性を大切にし,思いや夢を主体的に表現できる力を育てる手だてや,発想を生かすための材料提示の方法,及び自分の表現を求めて生徒が工夫できるような支援の在り方について授業を通して究明する。
(2) 自分の考えや感性を大切にし,思いや夢を主体的に表現できる力を育てるための手だて
  生徒の考えや感性を大切にできる立体表現としての題材「ボックスアート」の提示
    (ア) 自らの思いや夢が生かせるように,導入の工夫をするとともに,生徒が様々な素材の特徴を生かして自分の思いや夢を自由に表現できる場を設定する。
    (イ) アッサンブラージュ的なイメージの展開や,標本箱的なつくり方等,自分なりの方法を工夫して見つけ,表現していく過程を大切にし,よさを引き出す支援を行う。
  発想や構想のもとになる素材の再発見・収集と「素材トレー」の活用
    (ア) 身の周りにある様々な素材を造形素材として再発見させ,計画的に収集させる。
    (イ) 素材の色,形,材質感,及び大きさの違いなどを考えながら収集させる。
    (ウ) 豊かな発想を促し,構想をまとめるために「素材トレー」を活用し,課題の発見の手がかりとする。
  学習カードの活用による自己評価・相互評価の工夫
    (ア) 学習カードを活用することにより,生徒のイメージの定着,制作する上での見通しやふりかえりに役立てる。
    (イ) つまずいている生徒に対して見通しをもったアドバイス及び,互いのよさを認め合う情報連絡カードとして活用する。
(3) 授業の実践
  学習の主題
     不思議な感覚・楽しい感覚・激しい感情・社会への訴え等,一人一人が一番心にかかる思いをひろげ,自分だけの大切な世界を表現する。
  題 材
    「自分の世界を箱の中に表現しよう」
  目 標
 
目 標 評 価 の 観 点
関心・意欲・態度 発想・構想 創造・技能 鑑賞
箱の中に自分の世界を展開する楽しさを味わい,主体的に創作しようとする。    
五感を生かし,新鮮な世界を自由に発想できる。    
いろいろな素材を生かし,表現意図に合わせて自分の世界を実現できる。    
一人一人の世界を感じ取り,作品や友人を尊重することができる。    
  題材について
     箱には,特別な趣がある。商品を梱包する箱,贈り物が入った箱,用具や衣類をしまう箱,自分の大切な宝物をしまっておく箱など,どれもその人にとっては,かけがえのない大切なものである。ここでは,箱という外界から囲われた特別な空間に,自分の大切な世界をひろげてしまい込むという想定をさせる。何物にも代え難い自分だけの大切な世界が繰り広げられる箱,すなわち「舞台」をつくってみるということがねらいである。箱の制作を通して,不思議な感覚,楽しい感覚,激しい感覚,社会への訴えなど,自分の一番心にかかる思いを箱の中に自由にひろげさせたい。本学級は,落ち着いて学習に取り組み,自分の発想を生かしながら作品をつくりあげられる生徒が多い。しかし,試行錯誤しながら慎重に進めるあまり,制作に時間がかかってしまう生徒も若干見られる。
 本題材では,生徒は,素材から新鮮なイメージを発見したり,工夫して組み合わせながら自分の世界をつくり出していくことを期待している。また,目に見える材料ばかりでなく,音や音楽をもとにイメージを展開させたりするなどして,豊かなイメージを生み出す場を設けたい。これらの手だてを通して,生徒が夢や発想を大切にしながら,箱の中に心ゆくまで自分の世界をつくりあげる楽しさを味わわせたい。
  学習の流れ(8時間取り扱い)
    学習の流れ
  本時の指導 (本時は第10時)
    (ア) 目標
       箱の中に組み込むいろいろな素材・材料を新しい視点でとらえ,箱の中に自分独自の豊かな世界をイメージし,制作するための表現方法を適切に考えることができる。
    (イ) 準備・資料
      @参考資料 A素材トレー B素材・材料 Cワークシート D自己評価表
    (ウ) テーマに迫るために
       箱の中に入れる素材や材料の検討をしたり,つくり方を考えたりするために,様々な素材や材料をセットした「素材トレー」を活用することで,発想や構想の手がかりとし,さらに,制作に見通しをもたせる。
    (エ) 展開
    展開
(4) 授業の結果と考察
  題材終了時に,自己評価したものをまとめると以下の通りとなった。
  自己評価のまとめ
  ボックスアートの作品  ボックスアートは,普段学習している平面の作品と違い生徒は大変興味をもって取り組んだことがわかった。箱の中に自分の思いをしまい込んだり,素材や材料のもつ特性を生かして,全く違ったものをつくりあげることに喜びを見いだしているようである。生徒たちは,素材トレーに大変興味をもったようだ。トレーの中身を実際に手にとって触れ,五感を働かせながら素材・材料の特徴をつかんでいたようだ。続いて,それらの体験を基に自分の感情を表現するのに適した方法や材料を選ぶことができたり,自ら,試行錯誤の試み・多様な表現につながっていった。生徒自身が様々な材料を用意することも大切だが,教師側が,様々な素材体験ができたり,表現方法が一目でわかる素材トレーを準備することにより,発想や構想を豊かにし,制作しやすい場が保証さ れ,生徒の活動が円滑に運ぶことが確認された。
(5) 授業研究の成果と課題
  成 果
    「自分の考えや感性を大切にし,思いや夢を主体的に表現できる支援の工夫」を主題として,ボックスアートを用い,導入から作品の完成までの制作の過程で研究を進めてきた
    (ア) 自分の考えや感性を大切にできる立体表現としてのボックスアート
       本題材で,自らの発想や夢を基に形や素材を生かし,アッサンブラージュ的なイメージ展開や,標本箱的なつくり方等,自分なりの表現方法で箱の中に自由に自分の思いを展開し作品をつくることができた。生徒たちは,感性を働かせながら,アッサンブラージュ的な展開の作品づくりを行うとともに,箱の中に,自分の思いを込めたストーリーを表現し,夢を表すことの楽しさも味わえた。
    (イ) 発想や構想の基になる素材や材料の収集や提示の工夫
       身の回りにある様々な素材になりそうなものを選んで,収集をすることが重要になってくる。その際,形・色・材質感を確認する上で「素材トレー」を活用したのは,課題の発見に大いにつながり有効であった。加えて,生徒自身が自分の構想にそって材料を集めてくるようするためには,日頃から様々なものへの関心を抱かせることが大切である。生徒自らが,素材の生かし方や活用の方法を知り,その素材についての特徴を理解していくことは,制作への発展へとつながることがわかった。
    (ウ) 学習カードの活用による自己評価・相互評価
       生徒が制作のねらいを基に,どのように見通しをもって制作していくかが教師の側で確認できると共に,生徒自身も発想のきっかけや,まとめを行える点で,大変効果的であった。発想や制作のまとめ,感想等,制作をするだけでは理解できない点を補うことにもなった。学習カードに書かれていた内容を検討して,次回の制作時間に,生徒への適切な言葉かけのきっかけとすることもできた。
 制作を終了してからの鑑賞の時間にも友人の作品のよさを感じ取ったことを記入したり,制作で学んだことなどを書くことで,よさを発見できる活動にもなった。
  課 題
     生徒は,自らの想いを表現した作品を,目の前にして,どのような過程で制作していたか,また,どう完成まで工夫を重ねたかをふりかえることにより,完成した喜びを味わうとともに,美術への関心をより高めたようだ。生徒一人一人の考えや感性を生かして発想を豊かに展開していくためには,素材の取り扱いや効果的な場づくりが,大変重要になる。自分で課題を設定し,試行錯誤しながら,制作を進めていくためには,今後「素材トレー」の活用する機会を多くしたいが,発想や表現へ生かす過程をより綿密に研究し,学習効果を検証することが課題となろう。さらに,新学習指導要領の実施を踏まえ,生徒が一層意欲をもって自ら表現活動に取り組める題材の開発や,地域の人々との交流・協力の中から生徒一人一人が生かされる地域教材の開発に取り組んでいきたい。

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