【授業研究1】
  小学校第5学年
「学校の中庭は,ぼくらのパラダイス〔共同製作〕(つくりたいものをつくる)」における自らの発想や夢を生かし,つくりだす喜びを味わうことができる学習指導の在り方
(1) 授業研究のねらい
   第5学年及び第6学年の図画工作科では,「造形的な能力を働かせるとともに,自らつくりだす喜びを味わい,様々な表し方や見方に触れ,創造的に表現する態度を育てる」をねらいとしているが,これらの学習目標においては,児童の製作に対する,「思い」や「自ら学ぶ意欲」といったものが重視されている。また,「つくりだす喜び」とは,児童のものにかかわる欲求や,表現への欲求を満たし,自分の存在を感じつつ,新しいものに向かうわくわくとした楽しさを味わうことである。したがって,いろいろな願いや思いを尊重し,保証することが大切であり,個々の児童の「よさ」を理解した上で,児童が自分自身の努力によって伸ばせるように,教師側が適切な援助をすることが大切であると考える。
 そこで,児童一人一人の発想や夢を大切にし,つくりだす喜びを味わうことのできる表現活動を実現するために,「学校の中庭は,ぼくらのパラダイス」の授業研究を通して,題材の提示・展開の仕方,材料とのかかわり方及び評価の工夫などについて究明することとした。
(2) 自ら発想や夢を生かし,つくりだす喜びを味わわせるための手だて
  発想や夢が豊かにひろがるような題材の選択と提示の仕方を工夫する。
     「自分たちの学校の中庭を楽しい空間にしよう」という児童たちの提案をもとに本題材を開発した。この題材を通して中庭において児童の夢をかなえるとともに,共同製作の喜びを味わえるようにした。
  つくりだす喜びを味わうことができる展開の仕方の工夫
    (ア) 製作段階において,児童がが思いをふくらませたり,試行錯誤ができる場を用意し,自らが中心となって活動し,つくりだす喜びを味わえるようにする。
    (イ) 3つのコース別選択の共同製作により,友だちと協力しながら進めることで,互いのよさを認め合うことができるようにする。
    (ウ) 教師は児童の活動に寄り添いつつ,安全に注意を払い,勇気づけるような言葉かけを工夫する。
  材料集めの工夫
    (ア) 空き教室に「材料銀行」を開設し,身辺材料を計画的に常時収集,収納しておくことにより,表現に対する関心や意欲が高めるようにした。
    (イ) 児童自身が材料集めのための呼びかけ活動(放送,チラシ配布)を行い,全校児童や地域から協力を得る。
    (ウ) リサイクル材を材料に用い,環境問題にも関心をもたせる。
  評価の工夫
    (ア) 学習カードを活用し,児童一人一人の題材に対する考えや,表現のつまずきに対して,共感に基づく言葉かけをする。
    (イ) 相互評価の場を設定することにより,互いの作品や取り組みの姿勢について認め合い次時の活動に取り入れ生かせるようにする。
(3) 授業の実践
  学習の主題
     自分たちの学校の中庭を楽しい空間にしようという願いをもとに,個々の夢を大切にしながら表現の方法や材料の選択について工夫して「ぼくらのパラダイス」をつくる。
  題 材
    「学校の中庭は,ぼくらのバラダイス[共同製作](つくりたいものをつくる)」
  目 標
 
目 標 評 価 の 観 点
関心・意欲・態度 発想・構想 創造・技能 鑑賞
集めてきた材料の面白さや特徴に関心をもち,楽しみながら新しい形をつくろうとすることができる。
 
いろいろな用具を正しく活用し,他の材料も加えながら,自分なりの形をつくることができる。
   
いろいろと変形を試みながら,自分らしい新しい形を生み出すことができる。
   
お互いの作品から,発想の面白さなどを見つけることができる。
   
  題材について
     児童にとって,絵を描いたりものをつくったりする活動は,それ自体が楽しいものである。それは,一人一人が形や色などに働きかけ,発想したことをもとに想像をふくらませ自分らしい表し方を思いのままに試しながら,自分の思いや夢を形や色などにしていく楽しさや喜びでもあると考えられる。本題材のねらいは,「児童自らが発想や夢を生かし,つくりだす喜びを味わう」である。この題材を通して,自分たちが生活する学校の中庭を表現活動の場所とし,児童が試行錯誤しながら共同製作することにより,喜びと成就感が味わえる活動が展開できると考える。
 また,材料に,リサイクル材を用いて環境問題にも関心をもたせるようにした。大量の材料を使用するので,どのように集めるかという話し合いや,協力の呼びかけを児童自身に行わせた。本題材では,アルミ缶・ペットボトル・空きびんの3コースを設定し,自分の思い,夢を大切にしながら好きなコースを選択させ,製作にあたらせたい。また,製作する上で,材料の切断や接合の技術が必要になるが,基本的な道具の使い方・安全性をしっかりおさえながら指導することとした。
  学習の流れ (14時間扱い)
    学習の流れ
  本時の指導 (本時は第10時)
    (ア) 目標
      新しい思いつきを取り入れながら,新たな方法を工夫し,製作を進めることができる。
    (イ) 準備・資料
      児童 各班ごとに使う材料,はさみ,完成予想全体図
      教師 接着剤,針金,たこ糸,ペンチ,きり,缶切り,石油,三脚,自己評価表
    (ウ) 展開
    展開
(4) 授業の結果と考察
  活動状況から
    いろいろな材料を試す  事前準備の話し合いで計画を立て,ある程度のものを想像して表現活動に入ったが,そのイメージは流動的で次々と変化していった。また,製作中も試行錯誤をしているうちに,予想外の新しいアイデアが生まれるケースが多く見られた。十分に想像力を働かせるような時間や場を与え,生まれた発想や思いを生かせるように,材料や使い方を自由に選択させたことがののびのびとした活動につながったと考えられる。
  作品から
     リサイクル材料により,中庭を飾る製作活動を行ったが,ペットボトルの作品を中心にその周りをアルミ缶や空きびんを使った作品で取り囲む構成になっていった。また,製作の発展として,飾る・見るという構成から,実際,手にとって遊べる工夫が見られた。
 また,切断したびんで音階をつくり音遊びができる作品もつくられた。
    作品
  活動後の調査から
    調査結果  予想以上にリサイクルに関心をもったようだ。また,共同製作を通して,互いに安心しながら,試行錯誤し,創意工夫を重ねて解決していく態度が身に付いたようだ。このことは創造性を培う上での基礎的な態度の育成にも効果があったと思われる。さらに基礎的な技法が身に付いたことによる,製作への自信も窺える。
(5) 授業研究の成果と課題
  成 果
    (ア) 発想や夢が豊かにひろがるような題材の開発と提示の仕方の工夫から。
       「中庭を楽しい場所にしたい,自分たちでつくって飾ってみたい」という提案を,子どもたち自身の夢や願いを受けとめた題材としたので,今までにない意気込みが感じられた。
       図工室に限らず,実際に展示する場所において製作できるようにしたので,児童は,想を深め,自分の表したいこと(願いや夢)を確かめながら製作できた。
    (イ) つくりだす喜びを味わうことができる展開の工夫から。
       共同製作を取り入れたことにより,協力して試行錯誤をしながら活動の楽しさを味わわせることができた。
       つまずきが見える児童に対しては,積極的に共感したり助言することにより活動への意欲と見通しをもたせることができた。
    (ウ) 材料の収集についての工夫から。
       空き教室を利用した収納場所「材料銀行」を設けたので,多量の材料を集めることができた。また,自由に活用できるようにしたので,豊かな発想に結びつけられた。
       一旦使われた身近な材料を使用することでリサイクルについての関心を深めることができた。
    (エ) 自己評価や相互評価の工夫から。
       評価カードの活用によって,児童の思いやよさを生かしたり,次時の支援の内容や方法について予想を立てることができた
       相互評価の機会をもつことによって,児童どうしが互いのよさを認め合うことができるようになった。
  課 題
     この実践を通して,題材設定にいたるまでの,十分な準備と提示の仕方の重要性,及び,素材を児童の活動にどのように取り入れていくかが,児童の造形活動のひろがりを深めていく上でとても大切な役割を果たしていることがわかった。今後は,年間を通じて児童自身の発想や夢が達成し,喜びを味わうことができるように,題材の開発に努めていきたいと考えている。また,製作活動の後で「家にもち帰っても,飾る場所がないから,捨てられてしまうことがある。」などの声もあったので,展示の工夫や,参考作品として残す方法,廃棄の仕方も今後の課題である。

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