【授業研究4】
  高等学校化学TB
「溶液の性質」において生徒の発想を促し思考力を育てる指導の工夫
(1) 授業研究のねらい
   気体の溶解度と温度の関係について,仮説を設定し,実験方法を計画し,実験によりそれを検証するという探究活動を行う。その際,実験方法については実験器具を限定し,その使用方法について考えさせ,班やクラス全体で話合いや発表の場面をもたせ,生徒の発想を促すことをねらいとする。そして,班毎に測定条件を変えるなどの個別化をめざし,さらにクラス全体でデ−タを出し合いそこから結論を導き出すことで思考力を育てることを図る。
(2) 生徒の発想を促し思考力を育てるための手だて
  教材・教具の活用の工夫
     一定量の水と一定量の気体を,外に逃げないように混ぜ合わせ,一定温度・一定圧力に保ち気体の溶解度を求める方法を考えさせる。この際,実験器具を限定し,考える要素を  絞ることで,生徒の発想や思考をしやすくする。
  生徒の発想を引き出す場面の工夫
     自分の考えを「探究活動表」に記入し,班の中での話合いにより考えをまとめ,クラス  全体に提示し話し合うことにより,自分達の考えが正しいかどうか確認したり修正したり  して,生徒の発想を引き出せるようにする。
  実験デ−タを共有する工夫
     温度の異なる3種類の水を用意し,班を3つのグル−プに分け,それぞれ分担した違う温度の水を使って実験を行うこととした。実験デ−タを共有するため,各班のデ−タを黒板に記入し,気体の溶解度と温度の関係を考えさせるように黒板上でグラフ化する。
  情報伝達の場の工夫
     OHPで数班の実験の予想や実験方法を説明させ,さらに黒板に実験結果を記入させ,他班に情報を伝えやすくした。これらのことにより,自分たちの考えが正しいかどうかを確信したり,逆に修正したりすることができるようにする。
(3) 授業の実践
  単元  溶液の性質
  指導計画(12時間扱い)
    溶解 …… 1時間
    濃度 …… 1時間
    固体の溶解度 …… 2時間
    気体の溶解度 …… 2時間(本時は第1時)
    沸点上昇と凝固点降下 …… 2時間
    浸透圧 …… 1時間
    コロイドの分類 …… 1時間
    コロイド溶液の性質 …… 2時間
  本時の指導
    (ア)  目 標
  • 気体の溶解度と温度の関係について仮説や実験方法を考えることができる。
  • 各班の実験結果を基にして,気体の溶解度と温度の関係を導き出すことができる。
    (イ) 準備・資料
      器具 50立方cmプラスチック製注射器 シリコン管付き50立方cmガラス製注射器 スクリュ−コック 1000立方cmビーカー 恒温槽 温度計 気圧計 ストップウオッチ 雑巾
      薬品 二酸化炭素ボンベ 氷
      資料 探究活動表
    (ウ) 展開
    展開
    (エ) 評価
     
  • 気体の溶解度と温度の関係について仮説や実験方法を考えることができたか。
  • 各班の実験結果を基にして,気体の溶解度と温度の関係を導き出すことができたか。
(4) 授業の結果と考察
  アンケ−トから
    (ア) 教材・教具の活用の工夫について
      気体の溶解度測定装置  写真のような簡単な器具で気体の溶解度を測定する教材・教具を開発した。図3の項目1,2,3より,「とても」,「だいたい」を合わせて68%が実験操作はやりやすく,85%が実験方法は参考になり,66%が実験器具を限定することで実験方法が考えやすくなったと答えている。この装置は思考力を育てるためによい教材・教具と考えられる。また,実験器具を限定したことにより考える要素が絞られ,生徒の発想や思考がしやすくなったと考えられる。
  図1 事前アンケ−トで実験方法を考えさせる項目の内容と記入例
図1 事前アンケ−トで実験方法を考えさせる項目の内容と記入例
  気体の溶解度測定装置
  図3 事後アンケ−ト結果
図3 事後アンケ−ト結果(平成11年9月24日〜28日実施 高等学校2学年173人)
    (イ)  生徒の発想を引き出す場面の工夫について
      気体の溶解度を測定している場面  事前アンケ−トで実験方法を考えさせ,授業では実験器具に触れながら班で話合いをもち,OHPを使用しての発表も行った。図3の項目4〜7より63%が班で話合いができ,76%が考える場面があり,49%が自分で実験方法を考え,29%が発想を生かせたと答えている。これらのことから,生徒の多くは発想を生かすまでには至らなかったが,発想を促すことはできたと考えられる。
    (ウ)  実験デ−タを共有する工夫について
       班ごとに分担して実験を行い,その結果を黒板に板書し,デ−タを共有し結論を導いた。図3の事項8,9より63%が実験結果より仮説が検証され,85%がグラフから気体の溶解度と温度の関係に気付くことができたと答えている。限られた実験時間内では,デ−タの共有は有効であった。
    (エ)  情報伝達の場の工夫について
       図の項目10,11よりOHPを使用しての発表について64%が,また「黒板の結果表」について81%が参考になったと答えている。これらのことからOHPの利用や「黒板の結果表」の活用が情報伝達に有効だったと言える。
  OHPよる発表や「黒板の結果表」から
    図4 「OHPシ−ト」例 表 「黒板の結果表」例
     OHPによる発表を通じて表現力の育成を図ると共に,生徒各自が思考する場面を設けることができた。図4の「OHPシ−ト例」からユニ−クな実験方法を考えたことがわかる。さらに「黒板の結果表」に記入させることにより他班との情報交換を行うことで,生徒は自分たちの考えを確信したり,修正したりすることができた。
  探究活動表から
    資料 実験後に提出された生徒の「探究活動表」の一例
     資料は,実験終了後に提出された「探究活動表」の一例である。この中に「なぜなら……から」や「………なので………いえる。」や「………するには………いいと思う。」という記述が見られることから,生徒の思考力が育っていく様子がわかる。
(5) 授業研究の成果と課題
  授業研究の成果
    (ア)  生徒の発想を促すには,生徒が発想をしやすいように教材・教具の活用の工夫を図ることで,興味や関心を喚起し,課題意識をもたせることが大切であることが分かった。
    (イ)  生徒自身に自分の言葉で予想や考えをまとめさせることや,他人の意見や考えを知ったり比較することで,自分の考えを修正したり確認したりして思考力が育った。
    (ウ)  実験方法を書かせたり実験器具を限定したり,さらに,OHPで発表させたりすることや生徒自らの発想をうまく表現できるように支援することで,思考力が育った。
  今後の課題
     結果に対する結論をより明確にできるよう表現力を高めることで,思考力を育てていく方法について工夫していきたい。
     
参考文献 阿内 大冠(1997) 平成9年度 東レ理科教育賞受賞作品集 P.14

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