【授業研究2】 | |||||
中学校第2学年 「電流と電圧」における発想を生かし思考力を高める指導の工夫 |
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(1) | 授業研究のねらい | ||||
社会の変化などに主体的に対応してかつ創造的に生きていく資質や能力を生徒に育成するためには,生徒が自分の問題を見付け,その問題の解決方法を工夫する活動を行い,その過程を見直したりしていくという問題解決活動が重要である。 そのため,これまでも観察・実験の機会を多く設定し,問題を解決するよう支援してきた。しかし,観察・実験や結果の整理などに多くの時間を費やしてしまい,考察や話し合いの時間が十分にとれないことが多かった。また,生徒の素朴な疑問を生かして学習を展開したり,深化させたりするための工夫も十分ではなかった。 そのため本研究では,中学校第2学年「電流と電圧」の学習において,教材・教具の開発や指導方法の工夫により,個に応じた問題解決の機会と思考を深める時間を重視し,発想を生かし思考力を高めるための理科学習の指導の在り方を究明する。 |
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(2) | 発想を生かし思考力を高めるための手だて | ||||
ア | 教材・教具の工夫 | ||||
実態調査の結果からも,回路の配線が難しいと答えている生徒が多く見られた。そのため,生徒が活動への意欲を持続しながら,電流や電圧の測定が簡単に測定できるような実験器具を自作する。その自作の実験器具を用いることで,実験時間を短縮でき,結果のまとめや考察,グループでの話し合いの時間を十分に取れるようにする。 | |||||
イ | 学習形態の工夫 | 実態調査の結果からも,回路の配線が難しいと答えている生徒が多く見られた。そのため,生徒が活動への意欲を持続しながら,電流や電圧の測定が簡単に測定できるような実験器具を自作する。その自作の実験器具を用いることで,実験時間を短縮でき,結果のまとめや考察,グループでの話し合いの時間を十分に取れるようにする。 | |||
ウ | 指導計画の工夫 | 学習内容に日常生活との関連性をもたせるために,導入の演示実験は家庭用の電球を使用する。また,演示実験の結果を基に学習課題を自分たちで作成させることにより,自分で問題を発見し,追究の方法を考え,確かめることができるようにする。 さらに,電気回路の組み立てや電流測定・電圧測定に関するパフォーマンステストを計画的に行い,実験器具の操作技能の習熟を図る。 | |||
エ | 情報交換の場の工夫 | 実験結果の考察の場面では,2人一組の実験班にしたり,同じ課題を選んだグループでの話し合いの機会を設けたり,自分が導き出した結果と他の生徒の結果を照らし合わせたりして,互いの考えを認め合ったり,結果を導き出した根拠を考えたりできるようにする。さらに,現象をよりわかりやすく説明するための自分なりのモデルを作成し,お互いに検討し合うようにすることで,思考を深めていきたい。 | |||
オ | 個に応じた支援 | 電流計・電圧計の使い方,電流や電圧の測定,測定誤差の考察,規則性の発見,モデル化などの学習場面において,個に応じた支援ができるようにするために,ティームティーチングを活用する。 | |||
(3) | 授業の実践 | ||||
ア | 単元名 電流と電圧 | ||||
イ | 指導計画(11時間扱い) | ||||
(ア) | 単元全体の構成 | ||||
はじめに,生徒にとって取り扱いやすく,明るさを手がかりとして,電流や電圧の大きさに見通しがつく豆電球を素材として取り上げる。豆電球が点灯する回路をできるだけ多く作らせ,明るさの違いから,電流の大きさの違いを推定させていく。また,電気回路図記号とその表し方について学習する。 次に,電流と電圧について定義し,その測定の仕方について説明する。ここでは,電気回路の組み立てや測定に関わるパフォーマンステストを行い,実験技能の確実な習熟を図る。 そして,20W,40W,100Wの3種類の電球を直列につないだものと並列につないだものの観察を通して,一人一人の生徒が学習問題を考え,話し合いにより課題を練り上げ,共通課題を作成する。さらに,2人一組のグループを作り学習計画を立案させる。 課題追究の場面では,自作教具を活用し,簡単に実験が行えるようにする。また,一人一人に実験させ,操作しながら考えることを重視する。 課題追究の際には,ワークシート,ヒントカード,情報コーナーなどを活用することによって,苦手意識を克服し,分かる喜びや発見する楽しさを味わうことができるようにする。また,自分で仮説を立て実験し証明できたという感動を得ることができるよう二人の教師で支援したい。学習のそれぞれの段階においては,ボルタ,アンぺール,オーム等の業績を話し,科学史上の発見やそれにまつわる苦労と対比させることにより,発見の喜びや感動の一端が味わえるよう心がけていきたい。 電流と電圧それぞれの基本的な性質を学んだあとは,電流と電圧の関係の規則性について学習を行う。この学習でも,実験を通して,電流と電圧が比例関係にあることを自分の力で見付けださせたい。 |
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ウ | 本時の指導 | ||||
(ア) |
目 標
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(イ) | 展 開 | ||||
(4) | 授業の結果と考察 | ||||
ア | 教材・教具の工夫 | ||||
これまでの豆電球ホルダーでは,電流を測定する場合に,一度作った回路を開いて接続し直す必要があり,必要以上に回路が複雑になり,測定に時間がかかり,その間に電池の電圧が変化してしまい,結果が不正確になるなどの問題があった。しかし,この自作の測定器接続ソケット・プラグでは,一度作った回路をこわさずに電流電圧を測定できるので,簡単に実験を行うとともに発想を生かして調べることができた。また,電流回路自体の配線と電流電圧測定用の配線を分離できるので,どの部分の電流や電圧を測定しているのかがきちんとわかり,実験の目的を意識しながら測定することができた。豆電球を流れる前と流れた後で誤差が出て悩んでいる生徒も,回路を作り直す必要がないので,容易に調べ直すことができた。さらに,実験時間を短縮できたため,結果のまとめや考察,グループでの話合いの時間を十分に取ることができた。図2の項目aのアンケート結果では,またこの実験器具を使ってみたいと答えている生徒が多くみられ,このことからも実験器具が使いやすかったことが明らかである。 | |||||
イ | 学習形態の工夫 | ||||
2人で納得がいくまで相談し,見通しをもちながら意欲的に実験を行い,課題を解することができた。特に,自分で操作する時間を多く確保できたので,試行錯誤を繰り返しながら,分かったことを自分なりの文章でまとめ,規則性を発見することができた。 | |||||
ウ | 指導計画の工夫 | ||||
図2の項目bのアンケート結果で,多くの生徒が自分で回路を作ることができると答えている。このことからも,指導計画の中にパフォーマンステストを取り入れることにより,学習の基礎となる実験器具の操作技能を確実に習熟させることができたと考えられる。それにより,回路を作成するまでの時間を短縮し,規則性を見いだすなどの思考活動の時間が確保できたと言える。 導入の場面では,同じ電球なのに直列つなぎと並列つなぎでは明るさが違っている事実に生徒は強い興味を示し,学習への意欲を高めることができた。さらに,自ら問題を作成し,解決の方法を考えたことで,追究への意欲が高まるとともに継続的に取り組むことができた。図3の項目d〜fのアンケート結果では,調べる方法や結果から分かることを考える生徒,自分で問題を解決できる生徒が増加している。このことから,自分の問題として自分なりの理由を考えたり,モデルを考えたり,話し合ったりするなど一連の活動を通して思考を深めることができ,思考力を高めることができたと考えられる。 |
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エ | 情報交換の場の工夫 | ||||
2人一組での話合いや同じ課題を追究する友達との情報交換により,明るさと電流・電圧の関係や回路を流れる電流や回路にかかる電圧の規則性を発見することができた。その際,情報コーナーを設けたことやホワイトボードを使い意見を交換したことが,実験方法を工夫したり,話合いを深めたりするために効果的であった。さらに,それをわかりやすく説明するために自分なりのモデルを考えさせたところ,ピラミッド,ダム,水路,川など様々なモデルを考えだしてきた。科学的には不十分なモデルもみられたが,多くの生徒は自分なりの発想を深めるとともに,自分の考えを友達に伝達するために工夫して表そうとするなど生き生きと創造的に取り組んでいた。このような機会を多く設けることで,発想を生かしたり表現したりする力が高まっていくと思われる。 | |||||
オ | 個に応じた支援 | ||||
予想と異なる結果の考察に悩んでいる生徒や規則性は見付けられたものの数式等で表す方法がよくわからない生徒などに対して,2人の教師で適切な支援を行うことにより生徒は規則性を発見し問題を解決することができた。図2の項目cのアンケートでは,今までは電気の学習が嫌いだったが好きになったと答えた生徒が増加するなど学習の成就感を味わうことができたと考える。また,追究する課題を生徒自身に作成させたことにより,生徒の興味・関心を生かし主体的に実験に取り組ませることができた。 | |||||
(5) | 授業研究の成果と課題 | ||||
ア | 授業研究の成果 | ||||
(ア) | 教材・教具の工夫により,簡単に配線できるようにすることができ,自分の考えをすぐ実験して確かめるようになり,発想を生かした授業を展開することができた。 | ||||
(イ) | 現象をよりわかりやすく説明するために,自分なりのモデルを作成しお互いに検討し合うようにすることで生徒の思考を深めることができた。 | ||||
(ウ) | 電流や電圧の測定,測定誤差の考察,規則性の発見,モデル化などの学習場面において,ティームティーチングを活用し個に応じた支援を重視することで,多様な発想を生かしながら規則性の発見に取り組むようになった。 | ||||
イ | 今後の課題 | ||||
(ア) | 生徒の思考をより深めるために,話合い活動の場面における支援の方法について研究する。 | ||||
(イ) | 生徒自らの発想を生かした多様な問題解決活動の在り方について研究する。 |
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