【授業研究1】 | |||||
小学校第6学年 「水よう液の性質」における多様な思考活動を促す「発展的な学習」の指導 |
|||||
(1) | 授業研究のねらい | ||||
創造性の基礎を培う学習指導として,10年度より,子どもの発想を生かし思考力を高める理科学習を目指し,指導法の改善や教材・教具の開発等の実践研究を行ってきた。そこでは小集団でのコミュニケーション活動の充実が,子どものアイデア表現や新しいイメージを生み出す直感的な思考,自然事象を説明する論理的な思考に対して有効であることが分かった。また,学習計画へ地域の自然環境を積極的に取り入れたことが,子どもの多様な発想を引き出し,意欲的なコミュニケーション活動につながったなどの成果が見られた。そして,子ども一人一人の発想を生かし,多様な思考活動を保障する学習活動の必要性などが今後の研究実践における課題として残された。 本研究においては,発想を生かし思考力を高める上で,さらに子どものコミュニケーション活動を重視し,多様な思考活動を促す「発展的な学習」を実践し,その有効性を検討していくことにした。 |
|||||
(2) | 多様な思考活動を保障するための手だて | ||||
ア |
発展的な学習活動を取り入れた単元計画 発想を生かし思考力を高める上では,子どもが自由に活動したり,学習したりできる時間を保障することが必要である。単元の学習の中で,子どもはその都度,新たな疑問や関心を抱きながら学習を進めていく。そして,単元の終末では,それまでの学習で解決されず新たな課題として残ったり,「もっとこんなこともやってみたい」などの思いが一人一人の中に生じているものと思われる。それらをそのままにせず,解決していく場を設定することにより,子どもの発想を生かした主体的な取組みを引き出し,一人一人の多様な思考活動が期待できる。 そこで,本研究においては学習単元「水よう液の性質」の終末に発展的な学習活動として「水よう液調査隊」の学習を位置付けた。そこでは,それまでの学習でさらに調べてみたい,やってみたいと思ったことを,単元の枠を拡大して,子ども自らが自由に課題を設定し,自分たちの計画で学習活動を進めていく。その活動を通して幅広くアイデアを出し合い,発想を豊かにしていくことが期待できる。 |
||||
イ |
多様な学習活動に対応するティームティーチング(以下T・T) アで示したように,通常の単元の枠を拡大して幅広い課題を設定し,各自が自分の計画で学習活動を進めていく場合,一人の教師で十分な対応をしていくことは難しい。そこで,複数の教師によるT・Tを行い,それぞれの学習活動において,できるだけ一人一人の子どもに対応した指導を行っていくようにする。そのことによって,子どもの発想や思考活動,表現活動に広がりが生まれるものと考える。 |
||||
ウ |
コミュニケーション活動を活発にする小集団活動 創造的思考の発現には子ども同士の話合いを活発にし,創造的思考の相互触発と相互補足(互学の場)が重要であり,互学の場である授業にあっては集団思考によって豊かで洗練された創造的思考を生むことが多いと言われている。そして,その方法としてブレインストーミングが提示されている。本研究においては単元の学習にブレインストーミングを取り入れ,自発的で自由な集団思考ができるようにし,思考力を高めるようにする。また,調べたことや実験したことの発表の場としてワークショップ形式の発表会を実施し,思考を広めたり深めたりできるようにする。 |
||||
(3) | 授業の実践 | ||||
ア | 単元名 水よう液の性質 | ||||
イ | 学習計画(15時間扱い) | ||||
(ア) | 単元全体の構成 | ||||
第1時 | 金属をとかす水よう液 | 3時間 | |||
第2時 | 水よう液を調べる | 3時間 | |||
第3時 | 酸性の水よう液とアルカリ性の水よう液との混ぜ合わせ | 2時間 | |||
第4時 | 水よう液調査隊 | 7時間 | |||
(イ) | 第4次の学習計画(本時は第3時) | ||||
ウ | 本時の指導 | ||||
(ア) |
目 標 水溶液の性質に関連する自分たちの課題を明確にもち,自ら進んで調べたり,実験することができる。 |
||||
(イ) |
準備・資料 活動計画書,活動記録カード,各種書籍資料,各種実験器具,材料,コンピュータ及び関連機器,データ(CD-ROM),その他各グループの活動に必要なもの |
||||
(ウ) | 展 開 | ||||
(4) | 授業の結果と考察 | ||||
ア | 発展的な学習活動を取り入れた単元計画について | ||||
第3次までの学習を終了した段階で,子どもは,様々な疑問や興味・関心を抱いた。 これらを基に一人一人が学習課題を設定し,類似の課題をもった子ども同士でグループを編成して第4次「水よう液調査隊」の学習を展開していった。子どもは自分たちで作成した計画に従って熱心に実験をしたり(写真),いろいろな情報を調べたりしていた。 学習終了後に行った子どもへの意識調査(自由記述)には,「自分たちの計画でいろいろ工夫できるのがうれしい」,「自分たちの考えが生かせるのがいい」,「計画を立てるときにみんなで考えを出し合ったので考える力がついたような気がする」などの記述が見られた。子どもは,今回の学習における思考活動へ満足感や自信をもって取り組むことができたものと思われる。 第4次の前後に行った子どもの意識調査の結果を図に示す。各質問項目は,創造性の基礎である多様な思考活動についての具体的な行動や態度として考えられるものである。そして,それらを自己評価させることで子どもの変容をとらえようとしたものである。それぞれの質問項目とも「はい」,「どちらかといえばはい」と回答する子どもの数が学習後は学習前に比べ増加している。このことから「水よう液調査隊」の一連の学習を終了した時点で,多様な思考活動の要素としてとらえたA〜Fに関連する子どもの意識が向上していることが分かる。特に,Aの「いろいろなアイデアをたくさん考えようとしている」で「はい」という回答が大幅に増えたことから,この学習によって多様な発想をしようという態度が身に付いていったものと思われる。 |
|
||||
イ | 多様な学習活動に対応するT・Tについて | ||||
今回は,担任,理科担当,担外3名の計5名の教師によるT・Tを行った。各グループ毎に主担当の教師を決め,学習計画立案,準備,実験,情報収集,まとめなど一連の学習において,子どもの支援を行っていった。このことによって,教師一人では対応が難しい多様な学習活動を行うことができ,個別指導を充実することもできた。また,活動場所毎に担当教師を配置することで,安全を確保し,安心して活動することができた。 子どもはT・Tに関して,「分からないことを相談したとき,いろいろな答えが返ってくるので参考になる」,「気軽に質問することができ,ヒントがもらえる」,「先生が近くで見守ってくれるので自分たちがやりたいことを安心してやれる」などの感想を述べていた。このように,子どもは,T・Tの学習を好意的に受け止めており,T・Tは子どもの多様な思考活動を保障する上で有効な手段であると考える。 ところで,教師側からみたT・Tはどうであるかを考察する資料とするため,本校教師20名を対象に意識調査を行った。それによると,「一人一人の発想を生かすための支援が行える」,「教師の得意分野を生かし子どもの発想を広げ,深めることができる」など,ほとんどの教師が,T・Tにおける多くの指導上の有効性や可能性を認めている。 |
|||||
ウ | コミュニケーション活動を活発にする小集団活動について | ||||
今回の学習では,学習計画立案やまとめの段階などにおいて,「アイデア会議」という名称でブレインストーミングを取り入れた。このことについて子どもは,「自分だけで考えるより,みんなで考える方がいろいろなよい考えが出る」,「アイデアを出すことが楽しくなる」,「アイデアを出すことで,自分が次に何をやるかを考えることができる」などの感想をもっていた。このことから,ブレインストーミングが子どもの発想を引き出し,自由な思考活動を促進していったものと考える。 また,学習の最後にワークショップ形式の発表会(写真)を行った。ここでは,互いに質問しあったり,感じたことを自由に話し合うなど,子ども同士の関わりが活発に行われていた。子どもは「自分の興味のある内容の発表をいろいろ聞けて楽しかった」,「発表する人に質問が気軽にできていい」,「○○さんたちの発表では新しいことをたくさん知ることができた」などの感想に見られるように,自由な雰囲気の中で互いに学び合いが行われ思考の深まりや高まりがみられた。 |
|||||
(5) | 授業研究の成果と課題 | ||||
ア | 授業研究の成果 | ||||
(ア) | 単元の終末に「発展的な学習活動」を取り入れることにより,子どもは自分の思考活動に満足感や自信をもって取り組むことができ,多様な発想をしていこうとする態度が身に付いた。 | ||||
(イ) | T・Tを行うことは,個に応じた支援を充実することになり,子どもの多様な思考活動を保障する上で有効であった。 | ||||
(ウ) | ブレインストーミングやワークショップ形式の発表会を行うことにより,子ども同士のコミュニケーション活動が活発になり,自由な集団思考や学び合いが行われた。 | ||||
イ | 今後の課題 | ||||
多様な思考活動に対応していくため,さらにT・Tによる指導の充実を図っていく必要がある。具体的には,教師間の打合せを十分に行うための時間の確保,指導計画の工夫,効果的な学習環境の整備,地域人材の活用などである。 |
[目次へ]