【授業研究2】 中学校第1学年地理的分野
「東南アジア」においてKJ法的手法を活用し,地理的な思考力を高める学習指導の在り方
(1) 授業の構想
   「自ら問題を見付け,問題解決に主体的に取り組む社会科学習の指導の在り方」という研究主題に迫るためには,社会的事象に主体的にかかわる中で自分なりに問題を発見し,見通しをもってねばり強く追究し,自分なりの社会的な見方や考え方をもてるようにすることが大切である。そこで,本単元においては,自分なりに問題を見付けられるよう東南アジアに関する「もの調べ」やVTR視聴の活動の場を取り入れ,東南アジアという地域に直接的,間接的に出会えるようにする。そして,そこから発見した学習問題について一人一人が調べ活動を行い,調べた国や地域ごとにグループを編成する。その後は中間発表会に向け,調べたことをKJ法的手法を用いてグループごとにまとめる。KJ法的手法とは,自分が学習してきたことの中から,主題に関連のある事柄を5,6個選択し,それをカードに書き,グループ全員で観点に従って類型化や構造化を進めるものである。したがって,この手法を用いることによって,生徒の思考力や判断力,表現力の育成ができるものと考える。
 次に,東南アジア出身の方や長期間東南アジア諸国に滞在していた地域の方をゲストティーチャーとして招いて中間発表会をする。生徒は,自分たちで調べた結果をゲストティーチャーの前で発表すると同時に,調べる過程で不思議に思ったこと,資料が見付けられず十分に調べられなかったことをゲストティーチャーに質問するようにする。中間発表会の後,ゲストティーチャーから指摘された自分の調べの不十分な部分とゲストティーチャーとの意見交換の中で生まれた新たな疑問について,資料を使い調べ直しをする。
 まとめの段階では,クラス全体でパビリオン方式による発表会を行う。KJ法的手法でまとめたものを基に情報交換をすることで,東南アジア各国と日本との結び付きや東南アジア各国の特色に目を向けることができるようにする。最後に,生徒一人一人がこだわってきた 事柄についてその生徒なりの方法でまとめ,新たな見方や考え方がもてるようにしたい。
(2) 指導の手だて
  生徒自らが問題を見付け,見通しをもって主体的に追究できるようにするための工夫
    (ア) 東南アジアと自分たちの生活とのかかわりを調べる場の設定
 生徒の東南アジアについてのイメージは,えびや原油,バナナなどの輸入先が東南アジア諸国であるという程度である。そこで,東南アジアを構成する国々や東南アジアの地形的特徴,気候などについて概観した後,東南アジアをもっと身近に感じられるようにするため,自分たちの身の周りにどのくらい東南アジア製のものがあるか調べる活動を位置付ける。
 次に,東南アジアの「もの調べ」活動を通して得られたイメージをさらに広げ,学習問題に作り上げるためにVTRを視聴する。VTRの内容は,できるだけ東南アジア全体にかかわるものにし,自分の調べる国,地域が焦点化でき,調べたい事柄が明らかになるようなものにする。
    (イ) 学習の手引きの作成
 生徒自らが学習の見通しをもち,問題を主体的に解決していくためには,生徒自らの手で学習計画が立てられるようにする。また,生徒が,その計画に従って,自分のペースで学習が進められるよう,教師の方で学習の手引きを作成し,支援していく。学習の手引きは,生徒の多様な調べ学習を支援するものであり,他の単元でも活用できるように調べ方の手順や方法を中心に構成する。生徒の問題解決や調べ活動を支援するような学習の手引きは,生徒たちの自立的な問題解決能力を育てていくものと考える。
  創造的な思考によって,地理的な見方や考え方を深めるための工夫
    (ア) KJ法的手法を活用する場の設定
 KJ法的手法は,これまでの社会科の授業の中で,おもに学習問題作りにおいて活用してきた方法である。今回は,この手法を中間発表会並びに全体発表会の前のまとめの時間に位置付け,調べたことを類型化し,それらのタイトルを考えたり,類型化したものを構造化したりする。
 個人で調べたことを,5,6枚のカードに限定して書くには,情報の選択力,活用力,判断力などが必要であり,類型化するには思考力,判断力が不可欠である。さらに,類型化したものにタイトルを付けるにも,思考力や表現力が必要である。そして,何といっても,学習してきた地理的事象を構造化するという作業は,一つ一つの地理的事象を理解するにとどまらず,理解したことを関連付けることで,東南アジアの国々や地域の特色を大観できる。このことにより,東南アジアに対する地理的な見方や考え方を深めることができると思われる。また,このような活動を通して,創造的な力を支える思考力や判断力,表現力を育成できるものと考える。
    (イ) ゲストティーチャーを招いての中間発表会
 KJ法的手法を用いて構造的にまとめた資料を基に,ゲストティーチャーの前で発表したり質問したりする場を中間発表会として位置付ける。ゲストティーチャーには,できるだけ日本語が十分に話せるネイティブの方を探し,お願いするようにする。なぜなら,ネイティブの方の話す内容は,その国で生まれ育ったからこそ出る言葉であり,その方の姿,言葉がその国を象徴していると思われるからである。また,日本語の上手な方を探すわけは,せっかくネイティブの方を招いてもその人の考えが生徒たちに十分に伝わらなかったり,生徒たちの思いや願いがその方に伝わらなかったりしては効果がないからである。
 日本語が十分に話せるネイティブのゲストティーチャーとの話合いを通して,生徒たちは自分の調べたことの正しさを確認したり,調べの不十分さに気付いたり,更に調べようとする意欲を高めたりできると思われる。
 しかし,どうしても適切なネイティブのゲストティーチャーが見付からないときには,日本人の方で現地を訪れた方を招聘することにする。例えば,長期海外出張の保護者,JICAの職員などである。
(3) 学習指導案
  学習計画
    学習計画
  本時の学習
    (ア) 目標
 中間発表会により,お互いの意見交換やゲストティーチャーの話,ゲストティーチャーへの質問などから調べたことの確認や疑問点の解明をしたり,学習問題について調べる視点をもったりすることができる。
    (イ) 展開
    展開
(4) 授業の考察
  生徒自らが問題を見付け,見通しをもって主体的に追究できるようにするための工夫
    (ア) 東南アジアと自分たちの生活とのかかわりを調べる場
 東南アジア製の生活用品を調べる活動によって,生徒は,東南アジアは自分たちの生活とかかわりが薄い国々だと思っていたが,実は密接にかかわっているということに気付くことができた。特に,自分たちが毎日のように使用している文房具やスポーツ用品,家庭電化製品が東南アジア製だったことにより,東南アジアの国々を身近な国としてとらえることができた。そのため,VTR視聴も興味・関心をもって見ることができ,自分が調べる学習問題を明らかにすることができた。
    (イ) 学習の手引きの活用
 学習を進めていくためには,学習の仕方が分からないと学習できない。そこで,教師の直接的な支援とともに学習の手引きによる間接的な支援を行うことによって,生徒一人一人が学習問題の解決に向けて,自力で資料の収集や調査,まとめができるようにした。
特に,中間発表会やまとめの段階におけるKJ法的手法を取り入れた活動は,生徒たちにとって初めての経験だったこともあり,手引きを活用しながら学習を進める生徒が多かった。また,発表の仕方や中間発表会の進め方の手引きは,生徒たちが自ら発表会の準備をしたり,当日発表会を進めていったりする上で有効であった。
  生徒自らが問題を見付け,見通しをもって主体的に追究できるようにするための工夫
    (ア) KJ法的手法の活用の様子  KJ法的手法を活用する場の設定
 KJ法的手法では,グループ学習の前に個人の学習が位置付けられているため,生徒一人一人が意欲的にグループ学習に取り組むことができた。また,カードを類型化する段階では,自分の書いたカードの行方が心配で,どの生徒も意見を交換し合い,納得した上で類型化を進めていた。カードを類型化する視点を変えると,そのグループに入るカードも  いろいろ変わってくるため,生徒は試行錯誤を繰り返しながらカードの操作を繰り返していた。そして,類型化の視点は必然的にその類型化したもののタイトルとなっていった。
 次に,タイトルを見ながらその国の特徴が表れるように類型化したものの構造化を進めた。中間発表会前の段階では,調べが不十分だったこともあり,直線的なつながりになりがちだった。中間発表会後は,ゲストティーチャーから聞いたことや指摘されて調べ直したことを基に,カードの書き直しなどカードの追加削除をした。その後,前回同様の作業を行い,構造化を試みた。多くのグループが,中間発表会後は新たな視点から調べられたこともあり,その国の特徴を生徒なりにとらえ,複合的なとらえ方ができるように構造化を進めた。グループ全員が参加しての話合いができたという点は,KJ法的手法のよさと考える。
 資料1,2は,中間発表会時と全体発表会時におけるあるグループのKJ法的手法を用いてまとめた構造図である。これを見ると,国の特徴を伝える視点が増えるなど生徒たちの国のイメージが豊かになっていることが分かる。また,構造図そのものもタイトルの見出しを工夫したり,構造図全体のタイトルも中間発表会時とは大きく変化したりしていることが分かる。
 構造化という点で,構造図のカードの配置や線の結び方について中間発表会前と全体発表会前を比べてみると,中間発表会前は上述した通り,直線的な配置となっている。また,フィリピンという国を網羅的,平均的にとらえており,フィリピンという国が本当にどんな特徴をもっているか,はっきりとは伝わってこない。それに対し全体発表会前の構造図は,フィリピンの経済を支える農業をこの国の特徴と明確にとらえ,他の事柄をそれに関連させてとらえようとしているのが分かる。つまり,フィリピンの自然や文化,日本との貿易をフィリピンの経済成長との関連でとらえ,そこに生活している人々の問題点も分かるようにとらえているということである。
 カードにまとめ理解したことを一枚の紙に配置し,線で結ぶという作業によって,生徒たちは地理的事象を関係的に見たり,総合的に見たりすることができるようになったといえる。
資料1 中間発表会前の構造図 資料2 全体発表会前の構造図
    (イ) 中間発表会の様子 ゲストティーチャーを招いての中間発表会
 ゲストティーチャーとの話合い活動を通して,生徒たちは調べたことを基に質問し,解決していった。話合いが進むにつれ,ゲストティーチャーにも慣れ,誰もが発言できる雰囲気になり,気になることや疑問に思ったことをそれぞれが質問していた。ゲストティーチャーの話は生活を基盤としたものであり,何といっても説得力がある。
 現地の様子をダイクトに伝えていただいたため生徒は話の内容に熱心に耳を傾けていた。その中で,生徒は,自分たちの調べたことの正しさを確認したり,自分たちの得た情報が古かったことに気付いたり,さらに自分たちが気付かなかった点にその国の特徴があることを知ったりした。特にゲストティーチャーから,東マレーシアにも目を向けて調べることやその国の人々の生活と日本人の生活との違いについても調べることを助言されることによって,生徒は東南アジアについて新たな視点からとらえ直しをすることができた。
資料3 生徒の感想

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