(1) |
授業研究のねらい
「課題研究」は課題解決型学習を取り入れ,個々の主体性を育みながら創造性の育成を図る科目である。また,創造性の育成は,これからの社会において個性や主体性を生かし自己実現を図るためにも重要となっている。本研究は創造性育成のための三つの環境(知的,物質的,心理的)を次のように設定した。知的・物質的環境としては,情報技術科で学習するソフトウエアとハードウエアを有機的に組み合わせた「ものづくり」をテーマとした。これにより総合的な知識が活用できる環境とした。また,心理的環境としては,課題研究のテーマに関するモチベーションの浸透と,課題を解決しようとする緊張感を持続できる環境づくりに心掛けた。ここでは上記の環境をもとに下記のグループ編成を行い,生徒の創造的思考力の育成を図る学習指導のあり方について究明する。ここでは,A・Bグループを中心に創造的思考力育成のための指導経過を報告する。
表 各グループの研究テーマ
グループ |
研 究 テ ー マ |
研 究 概 要 |
A |
「ジェットカメラ」 |
カメラ搭載のペットボトルロケットで上空からの写真を撮影する。 |
B |
「風船割りロボット」 |
「いばらき産業教育フェア」への参加のロボットの製作。 |
「掃除機ロボット」 |
ポケットコンピュータで走行を制御し廊下を清掃する。 |
C |
「CNC旋盤の活用」 |
パソコンでミニ旋盤を操作し,金属などを加工し作品を製作する。 |
D |
「カッティングプロッタの活用」 |
CADソフトとカッティングプロッタを利用して作品を製作する。 |
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(2) |
創造性を高めるための授業の手だて
一つのテーマを長期的に研究する課題研究において創造性を高めるためには,生徒自らが設定した研究テーマに沿って継続的にアプローチしていけるように支援することが教師の課題となっていると思われる。そのため教師は,生徒に対して「興味・関心を高める工夫(モチベーションの浸透)」,「知的・物質的環境改善の工夫」及び,「課題解決意欲向上のための工夫(授業における緊張感)」を如何に実践できるかが大切であり,教師自身も豊かで創造的な姿勢が必要となる。ここでは課題研究推進の手だてとして,以下の三項目に留意し授業を展開した。
ア |
興味・関心を高めるための工夫
課題研究スタートの第一歩は,生徒自らが課題を設定することである。しかし,現実的には予算・設備・教師側の専門性など多数の問題点がある。そのため教師が検討した実施可能な大枠の研究テーマを提示し,生徒の主体性を重視してテーマを設定している。オリエンテーションとしては,過年度の課題研究の実践例をVTRを用いて生徒に課題研究の概要を把握させている。「ものづくり」の研究グループに配属された生徒は,先輩が参加したロボットコンテストのVTRを視聴したり,実物を動かしたり体験できるようにした。また,ミーティング(課題研究の冒頭)においては,「ものづくり」の意義(自己の向上,学校・地域の活性化)などを継続的に話し合い,その役割を認識させるとともに生徒の興味・関心を高める。 |
イ |
知的・物質的環境改善の工夫
生徒が常に研究目標を理解し主体的に取り組める手だてとして,活動日誌の活用と課題研究室の利用工夫が挙げられる。活動日誌では毎回の活動目標・活動内容・次回への反省や収集した参考資料などをまとめさせることである。また,課題研究室の利用工夫では,打ち合わせエリア,工作実験エリア,資材エリアを一室にまとめることである。これにより工作実験エリアの継続活動が可能となるなど,効率的な実習室の活用を工夫する。 |
ウ |
課題解決意欲向上のための工夫
「ものづくり」においては,図面通りの加工や組み立てが出来なかったり,図面通りに完成しても動作しないなどの問題が出ることがある。このような「理論と実際のギャップ」による「ものづくり」の停滞が大きな問題点となる。そのため問題点を作業シートにまとめ,プロトタイプの試作や方法の転換なども視野に入た検討(ブレイン・ストーミング)を加える。さらに,教師側の受容的な姿勢でのアプローチを工夫する。 |
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(3) |
授業の実践
ア |
年間計画
月 |
指 導 内 容 |
指 導 上 の 留 意 点 |
4 |
課題研究の内容理解。
研究テーマ決定と研究計画の立案。 |
形態を理解させる。
計画立案を通して主体性を培う。 |
5 |
A班「連凧」を製作・実験。
B班「ブース」製作。 |
天候などの影響確認。
大会概要を確認する。 |
6 |
A班「ヘリウム風船」製作。
B班「駆動車体」の製作。 |
ガスの取り扱い注意。
登坂トルク・性能の確認。 |
7 |
A班「ロケット(タンク1)」製作。
B班「制御機構」調整。 |
ロケット発射安全の確認。
回路作成上の注意事項確認。 |
9 |
A班「ロケット(タンク2)」製作。
B班「風船割りメカ」性能改善。 |
ロケット発射安全の確認。
アクチュエータの性能確認。 |
10 |
A班「パラシュート」実験。
B班ロボットの完成と大会出場。 |
安全性・反復性の確認。
大会時,操縦者への指示。 |
11 |
A班「模擬カメラ実装ロケット」製作。
B班「掃除機ロボット」完成と実験。 |
降下時の安全注意。
廊下走行における注意。 |
12 |
研究のまとめと報告書の作成。
研究発表の準備。 |
グループ毎に調整。
プレゼンテーションソフト活用。 |
1 |
研究発表会・反省。 |
グループ毎に調整。 |
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イ |
学習指導案:実施 平成9年10月8日(水)5・6時限
(ア) |
本時の目標
グループ |
研 究 テ ー マ |
本 時 の 目 標 |
A |
「ジェットカメラ」 |
ダブルタンク方式のロケット発射実験とパラシュートの性能チェック。 |
B |
「風船割りロボット」
「掃除機ロボット」 |
マシンの操作性チェック。
制御回路(モータドライブなど)製作。 |
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(イ) |
準備・資料
グループ |
準 備 資 料 |
A |
ペットボトルロケット,発射台,リモコン,パラシュート,その他 |
B |
ロボットコンテスト用ブース,ロボット,その他 |
8255ボード,ドライブ回路,リミットスイッチ,モータ,その他 |
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(ウ) |
授業の展開 |
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(4) |
授業の結果と考察
ア |
「ジェットカメラ」
(ア) |
研究概要
この研究グループは,身近な機材を利用して上空からの写真撮影(基本的には簡易カメラとリモコンを利用)が出来ないものかと研究をスタートした。 |
(イ) |
研究経過1
当初は写真機材を軽量化し,「凧」で上空に揚げて撮影が出来ないかと実験した。いろいろな種類の凧(「連凧」など)を試作したが,荷重に耐えられるものが製作できない点と,天候に大きく影響されやすい等の理由で中止した。 |
(ウ) |
研究経過2
次にヘリウム風船で試みた。実際にヘリウムガスを購入し,機材の更なる軽量と浮力の実験や計算を繰り返した。結果的には機材重量を浮かすためのガス費用が高価となることや,風船内のガスが自然放出し長期利用が出来ないなどの理由で中止とした。 |
(エ) |
研究経過3
様々な手段を検討したが,効果的な打開策が無かった。一昨年の卒業研究にあったペットボトルロケットを利用する事になった。ロケットの推進力で,撮影機材を上空に打ち上げる事が可能ではないか?また,パラシュートを安定的に利用すれば降下中に撮影が出来,撮影機材を損傷する事がないのではないかと考えた。ロケットの推進力向上のため改良を加えた結果安定して機材重量(ダミー)を打ち上げることに成功している。 |
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イ |
「風船割りロボット」・「掃除機ロボット」
(ア) |
競技概要
「いばらき産業教育フェア」のロボットコンテストはスロープを登りながら,障害となる途中の風船を割り,どれだけ早く山頂にたどり着けるかを競うものである。 |
(イ) |
研究経過1
大会の公式ルール資料から,実際にロボットが走行するブースを実習室内に製作した。数種類のプロトタイプロボットを試作した。一本の針でランダムに置かれた風船を効率よく割るためのメカニズム,登坂トルク,操作性について検討を重ね製作したものである。 |
(ウ) |
研究経過2
大会においては県内10校から13台のロボットが参加した。トーナメント戦で本校のロボット快勝していた。途中,針が折れるなどのアクシデントもあったが4位に入賞しアイデア賞を受賞した。 |
(エ) |
研究経過3
大会後,ロボット制御回路を応用し製作したのが「掃除機ロボット」である。これは以前より校内美化に役立つものをつくりたいとの要望が出ていたものである。現在のプレハブ校舎の廊下は埃がたまりやすく「ほうき」では取りにくいことや,清掃範囲も広いために製作したものである。 |
(オ) |
研究経過4
廊下の形状に合わせた走行プログラムや,人との接触を回避するシステムなどまだまだ改善点が多いのが現状である。ある程度汚れをスムーズに吸引している状況である。 |
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ウ |
各研究の結果
図1 ジェットカメラ |
図2 風船割りロボット |
図3 掃除機ロボット |
図4 CNC旋盤の活用 |
図5 カッティングプロッタの活用 |
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(5) |
授業研究の成果
ア |
「興味・関心を高める工夫(モチベーションの浸透)」により,「ものづくり」の意義が理解できたと思う。そのため授業でも積極的に活動し,各研究グループがある程度の目標を達成することができた。 |
イ |
「知的・物質的環境改善の工夫」により継続的に研究を進めることができた。また,資材も豊富でテスト加工も可能であるなど,生徒の発想や工夫する環境づくりができた。 |
ウ |
「理論と実際のギャップ」による様々な問題点があったが,「課題解決意欲の向上のための工夫(授業における緊張感)」の実践により,生徒達の工夫で課題を克服し目標を見失うことなく地道に取り組むことができた。 |
エ |
「ものづくり」をとおして,各グループ内の協調性が高まったり,創意工夫が見られた。 |
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(6) |
今後の課題
ア |
生徒の興味・関心を高めるための,更なる教師側の発想の転換や工夫。 |
イ |
課題研究実施に伴う物理的環境(時間・予算・教員数・場所など)の改善。 |
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