3.農業・工業・商業における創造性に関する実態調査

 生徒の創造性を育てるための学習指導の実態を調べることを目的として,実態調査を実施した。
(1)  調査対象
ア 教師  研究協力員の所属する県立高等学校(農業・工業・商業)6校の教科担当教員に回答を依頼した。回答者数は144人である。
イ 生徒  研究協力員の所属する県立高等学校(農業・工業・商業)6校の第2学年2学級を対象とした。回答者数は448人である。
(2)  実施時期 平成8年10月21日から平成8年10月25日まで
(3)  調査項目,調査結果及び分析
 【表中の数値は,回答者数に対する各問の回答数の割合(%)である。】
 教師を対象とした調査内容と結果
(ア)  学校教育において,創造性を育てる必要性について(表1)
 学校教育における創造性を育成することは,生徒一人一人にとって,新しい価値あるものを創り出すという自己実現の視点から考える必要がある。また,この視点に立つことによって社会的・文化的に新しい価値あるものを創り出す創造性についても,前者の延長線上に位置付けることができる。これは,全体的に見ても上記の創造性についての考え方が多いことがうかがえる。さらに,今後予想される社会がますます価値の多様化に向かうなかで,生徒一人一人が,自分の生き方を創造していく必要があり,人間尊重の観点からも創造性を育成することが大切であろう。
 表1 創造性を育てる必要性
選 択 肢 全体
ア自己実現のため 45.1 53.3 45.0 26.3
イ社会の変化に対応 26.4 17.8 30.0 31.6
ウ社会的な問題解決 16.0 17.8 12.5 26.3
エ生活の向上のため  9.0 11.1 10.0  0.0
オ必要を感じない  0.7  0.0  1.3  0.0
カその他  2.8  0.0  1.3 15.8
(イ)  特に育てたい創造的態度について(表2)
 これからの学習は,生徒自らが課題をもち,主体的に学習に取り組む姿勢が大切であり,特に,農業においてはその意識が強い。商業に関しても柔軟な考えのもと,いろいろな角度から課題解決を図ることの必要性を挙げている。専門教育では,生徒の自発性や探究心を引き出し,柔軟な考えと,根気よく学習に取り組む姿勢を養うことが創造的態度を育てる上で重要であるとの認識を示している。
 表2 育てたい創造的態度(二つ回答可)
選 択 肢 全体
ア自発性 50.7 60.0 46.3 47.4
イ好奇心 31.3 22.2 36.3 31.6
ウ柔軟性 29.9 22.2 31.3 42.1
エ持続性 22.9 26.7 21.3 21.1
オ独自性 22.2 24.4 20.0 26.3
カ集中力 21.5 22.2 21.3 21.1
キ衝動性 13.2 17.8  7.5 10.5
クその他  0.0  0.0  0.0  0.0
(ウ)  創造的能力を育てるための手だてについて(表3)
 生徒の創造的能力を育てるための手だてとして,商業では,学習活動の結果のみならず,その過程も大切にすることにより,学習意欲の喚起を図っている。工業では,学習の興味・関心をどのように高めるかの工夫が必要であると考えている。農業では,生徒一人一人を学習場面で生かせるような指導を心掛けることにより,生徒自らが,新たな発想で課題の解決を図り創造的能力が培われるものと考えている。
 表3 創造的能力を育てる手だて(二つ回答可)
選 択 肢 全体
ア学習過程も評価 45.8 48.9 40.0 63.2
イ興味関心を高める 41.0 33.3 46.3 36.8
ウ一人一人を生かす 38.2 51.1 30.0 42.1
エ発想を引き出す 35.4 37.8 33.8 36.8
オ創意工夫を引出す 21.5 20.2 22.5 21.1
カその他  0.7  2.2  0.0  0.0
(エ)  思考力の育成について(表4)
 生徒がすでに得た知識や認識をもとに,課題を解決するための新たな発想や思考の過程を確認し,それをフィードバックすることにより,その学習過程がより鮮明になり,創造的な思考の基礎が培われる。さらに,生徒の習熟度に合った問いを与えることによって,筋道を立てながら多面的に学習が展開でき,的確に表現することにより,思考力が高まることと思われる。
 表4 思考力を育てる手だて
選 択 肢 全体
ア発想を引出す指導 47.9 53.3 45.0 47.4
イ習熟度に合う課題 25.0 20.0 31.3 10.5
ウ学習場面で生かす 23.6 24.4 21.3 31.6
エその他  3.5  2.2  2.5 10.5
(オ)  表現力の育成について(表5)
 生徒の表現力を育成するには,教師自身が生徒一人一人の表現に共感していくことが必要である。どのような表現であっても生徒の思いを見いだし,その思いと具体的な表現のギャップをうまく埋めるような支援ができるように教師自身も表現に対する豊かな目をもつことが大切であろう。その結果,生徒は自らの思いや考をふくらませることができ,自分なりの考え方が育成されることになると考えられる。
 表5 表現力を育てる手だて
選 択 肢 全体
ア個性を見いだす 48.6 53.3 48.8 36.8
イ教師の豊かな目 31.9 28.9 31.3 42.1
ウ生徒の発表に共感 16.7 15.6 18.8 10.5
エその他  2.8  2.2  1.3 10.5
(カ)  問題解決型学習により,自ら学ぶ意欲を高めるための手だてについて(表6)
 生徒の学ぶ意欲を高めるには,教師はよき支援者であるという認識に立ち,特に農業・商業においては,学習の導入段階における動機付けや学習過程を重視するとともに,個に応じた評価をすることが大切であると考えている。また,生徒自身が満足感,充実感を味わえるように教師のアイデアを生かした教材や豊富な学習資料を用意し,学習の目的や価値が分かるようにすることも大切である。学ぶ意欲に差のある生徒は,工夫された教材や学習資料により,学ぶ意欲が徐々に高まり,課題意識も深まっていくものと思われる。
 表6 学ぶ意欲を高める手だて
選 択 肢 全体
ア学習過程を尊重 49.7 57.8 38.8 63.2
イ豊富な学習資料 19.4 15.6 22.5 15.8
ウ共感的な指導評価 16.0  8.9 20.0 15.8
エ学習形態の工夫 15.3 17.8 16.3  5.3
オその他  1.4  0.0  2.5  0.0
 生徒を対象にした調査内容と結果
(ア)  授業での学習内容に対する興味・関心について(表7)
 「時々ある」を含めると,全体で55.8%の生徒はもっと深く学習したいという意欲を示している。また,「ない」と回答した生徒が43.8%いる。この結果は,教師は楽しく,分かる授業を創造し,学習意欲を高める努力をしなければならないことを示している。その内容としては,生徒が学習課題を明確に把握できるようにする。さらに,課題解決の見通しがもてるような工夫をすることにより,学習意欲が増し,積極的な学習態度へつながっていくものと考えられる。
 表7 学習への意欲
選 択 肢 全体
アある  6.5  6.7  8.8  4.3
イ時々ある 49.3 46.3 53.3 46.9
ウない 43.8 45.0 36.6 48.8
エその他  0.4  0.0  1.5  0.0
(イ)  実技・実習への意欲的な取り組みについて(表8)
 生徒の87.2%は,実技・実習に意欲的に取り組んでいることがうかがえる。このような生徒の実態に応えるため,我々教師は,生徒が学習の主体者となって課題を設定し,自分の発想により,見通しが立てられるよう支援する。また,課題解決を図っていく上での学習過程についても評価し,生徒一人一人を生かせるような授業を工夫していくことにより,生徒の学習に対する意欲も増すものと考えられる。
 表8 実技・実習への取り組み
選 択 肢 全体
ア常に取り組む 20.5 22.1 29.2 11.7
イ時々取り組む 66.7 65.1 56.2 77.2
ウ取り組まない 12.7 12.8 14.6 11.1
(ウ)  授業の内容を理解するポイントについて(表9)
 生徒が授業内容を理解するには,教師の授業の進め方や生徒との接し方について86.4%の生徒が大切と考えている。従来の授業は,教師主導が中心であり,生徒の学習の仕方まで考えて指導することは少なかった。しかし,体験的及び課題解決的な学習を考えたとき,学習の仕方が学力形成の中心的なものになると思われる。そこで,生徒自らが試行錯誤を繰り返しながら,思考し,判断し,表現できる学習方法を工夫・改善することにより,生徒は,興味・関心が喚起され,意欲的に学習に取り組むものと考えられる。
 表9 授業内容の理解
選 択 肢 全体
ア授業の進め方 48.2 43.6 46.0 54.3
イ先生の接する態度 38.2 37.6 45.3 32.7
ウ板書の仕方  6.3  8.1  3.6  6.8
エ教材や学習資料  5.1  8.7  3.6  3.1
オその他  2.2  2.0  1.5  3.1

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