3.図画工作・美術科における創造性に関する実態調査

 児童生徒の図画工作・美術に対する興味や関心及び学習指導の実態を調べるため,実態調査を実施した。
(1)  調査対象
ア 児童生徒  県内の小学校10校の第5・6学年,中学校8校の第1・2学年からそれぞれ1学級を抽出した。回答者数は,小学校第5学年327人,第6学年257人,中学校第1学年246人,第2学年296人,計1,126人である。
イ 教師  無作為に抽出した県内の小学校100校,中学校100校から,小学校からは図画工作担当者,中学校は美術担当者を対象とした。回答者数は小学校99人,中学校99人,計198人である。
(2)  実施時期 平成8年10月21日から平成8年10月25日まで
(3)  調査項目,調査結果及び分析
 児童生徒を対象にした調査内容と結果については,表1〜5に示し,教師を対象にした調査内容と結果については,表6〜9に示す。なお,表中の数値は,全て回答者数に対する各問の回答数の割合(%)である。

 児童生徒の実態について
(ア)  授業について(表1)
 児童生徒の80%以上が「とても楽しい」「楽しい」と答えている。その理由として「つくったり絵をかいたりするのが好き」「自分の考えで自由に表現できる」と答えている。ただ,中学1年の20%以上の生徒が,「特に感じない」と答えている。その理由として「楽しいときと楽しくないときがある」「面倒だから」と答えている。小学校高学年との関連を図り,中学1年という発達段階を踏まえて実態や興味・関心に対応した授業展開の工夫が必要である。
 表1 授業への取り組み
 図画工作・美術科の時間は楽しいか。 小5 小6 中1 中2
とても楽しい 43.4 44.0 20.3 32.1
楽しい 44.0 44.4 50.4 51.4
特に感じない  9.5  9.3 22.4 13.5
楽しくない  3.1  2.3  6.9  3.0
(イ)  自分のよさを発揮する題材について(表2)
 自分らしさを発揮するには,「つくりたいものをつくる」題材がよいと答える児童生徒が多い。子供の側に立ち,児童生徒の生活願望や想像を基盤とした題材を設定する必要がある。そのような豊かなひろがりのある題材や題材名を工夫することが自ら主題を決定する表現活動につながる。そして,多様な表現活動ができる題材こそ,主題に合わせて材料や用具,表現技法の選択を可能にすると考える。
 また,立体に関する題材は,主に粘土を使うために,汚れることを嫌う傾向がある。
 表2 自分らしさを発揮する題材
 自分らしさを発揮するには,どんな題材がよいと思うか。 小5 小6 中1 中2
絵をかくもの 25.1 23.0 24.0 28.4
デザインに関するもの 16.2 15.6 12.6 14.2
つくりたいものをつくるもの 44.6 47.5 45.1 44.6
立体に関するもの  9.8  9.7  6.1  7.8
作品をみて話し合うもの  4.3  3.5  9.3  2.3
その他  0.0  0.7  2.9  2.7
(ウ)  迷ったときについて(表3)
 どんなものをつくっていいのか迷ったとき, 「友達と話し合って進める」「参考作品を見て進める」と答えている児童生徒が多い。迷いを解決するために,児童生徒相互の考えを出し合いながら,認め合い,励まし合う活動ができるように,話合い活動を積極的に設けることが大切である。そうすることによって児童生徒は,自信をもち,参考作品を見たり自分で考えたりしながら,自己決定ができるようになると考える。
 表3 どんなものをつくっていいいのか迷ったとき
 どんなものをつくっていいのか迷ったとき,どうしますか。 小5 小6 中1 中2
自分で考えて進める 16.2 16.7 14.2 13.2
友達と話し合って進める 53.8 55.3 39.0 46.6
先生に相談して進める  7.6  5.1 16.3 13.9
参考作品を見て進める 21.1 21.8 28.9 25.3
その他  1.3  1.1  1.6  1.0
(エ)  失敗したときについて(表4)
 失敗したと思ったら,その後「自分で工夫してやり直す」と答えている児童生徒が約40%いる反面,「先生に相談する,友達に相談する」という児童生徒が,約50%いる。創造活動は,最初の計画に従ってその通りにつくり上げようとするものばかりではない。制作の過程における試行錯誤こそ創造性に結び付くものである。自分で工夫してやり直せるように,児童生徒の思いや願いをとらえ,多様な基礎的技術を経験させることと同時に,それを意図に応じて表現に生かせる技能を習得させることが大切である。
 また,表3,4の項目に対して,中学1年は「先生に相談する」という割合が高いのが特徴である。
 表4 失敗したと思ったとき
 失敗したなと思ったら,その後どうしますか。 小5 小6 中1 中2
あきらめる  6.7  4.0  8.5 10.8
先生に相談する 27.2 23.7 43.5 31.8
友達に相談する 22.3 20.6 11.0 19.9
自分で工夫してやり直す 43.1 46.3 36.2 36.5
その他  0.7  5.4  0.8  1.0
(オ)  次の作品づくりへの意欲について(表5)
 作品ができたら,次の作品をつくるのが「とても楽しみ」と答えている小学生が約60%,中学生が約50%である。その理由として,「いろいろなものをつくるから」「家ではできないものをつくるから」と答えている。
 一方,「特に何も思わない」という児童が約35%,生徒が約50%である。そのほとんどが「形や色が思うようにいかないから」「失敗するから」という理由を挙げている。その対応として,児童生徒がもっている思いや願いをかなえるために,題材や支援の工夫をすることが大切である。
 表5 次の作品づくりへの意欲
 作品ができたら,次の作品をつくるのが楽しみですか。 小5 小6 中1 中2
とても楽しみにしている 63.6 60.3 44.7 49.3
特に何も思わない 33.0 36.6 48.8 45.3
やりたくない  3.4  3.1  6.5  5.4
 創造性に対する教師の実態調査
(ア)  創造性の必要性(表6)
 表6 創造性を育てる必要性について
 どのようなところで,児童生徒の創造性を育てる必要性を感じますか。 小学 中学 全体
生活の向上のため  8.1  6.1  7.1
社会的な問題の解決のため  2.0  3.0  2.5
自己実現のため 82.8 81.8 82.3
社会の変化に対応するため  7.1  8.1  7.6
必要性を感じない  0.0  0.0  0.0
その他  0.0  1.0  0.5

 「どのようなところで,子供の創造性を育てる必要性を感じますか。」という問いに対して「自己実現のため」と答えている教師が80%以上いる。学習活動が自分とのかかわりが深く,よさなどを生かす豊かなものであったとき,児童生徒一人一人はよさや可能性を生かしながら,自分らしく学習活動を展開することができる。よさなどを生かし,それを伸ばしたり高めたりすることができるような豊かな自己実現を目指す授業を構想し,展開することが大切である。
(イ)  特に育てたい創造性(表7)
 表7 図画工作・美術科の授業で特に育てたい創造性について
 図画工作・美術科の授業で,特に育てたい創造性としてどのようなものがありますか。(二つまで回答可) 小学 中学 全体
表現の基となる感動や主題構築力(意欲をかきたてる動機) 27.3 31.3 29.3
新しいものを考え出す力(発想力・構想力) 59.6 32.3 46.0
自分の意図で表現するために考える力(造形的思考力) 39.4 49.5 44.5
自分の意図に沿って表現・想像する力(計画性・技能) 31.3 26.3 28.8
美しい心情を読み取る力(直感力・鑑賞力) 18.2 23.2 20.8
進んで芸術に親しむ態度(関心・意欲・態度) 24.2 37.4 30.8

 図画工作・美術科の授業で,特に育てたい創造性として,「発想力や構想力」「造形的思考力」を挙げている教師が多い。児童生徒一人一人が,自分の表現の思いや意図をもって自分が生かしたい形や色,材料,自分の表現方法などを楽しむことであり,教師は,特定の造形表現の枠組みや形式,方法や材料など幅をもたせることで,児童生徒一人一人が自分の表現を楽しみ,確かなものにしていくような学習活動の展開を工夫しなければならない。
(ウ)  よさをとらえる観点(表8)
 創造性を育てるためのよさをとらえる観点として,「自分らしい発想や構想ができる」「自ら進んで作品をよりよいものにしようとする」「互いのよさに共感し,学び合おうとする」に特に力を入れて実践しようと考えていることが分かる。児童生徒が自分らしい表現の思いをもち,想像力を働かせて,発想や構想をし,そのイメージに合った表現方法を見付け,いろいろ試みながら表現できるようにしなければならない。また,学び合いの場を意図的に設け,子供同士のよさが生きるようにすることが大切である。
 表8 創造性を育てるためのよさをとらえる観点について
 創造性を育てるためのよさをとらえる観点について,どうとらえて実践していったらよいと思いますか。 特に力を入れる 少し考える あまり考えない
小学 中学 全体 小学 中学 全体 小学 中学 全体
自分らしい発想や構想ができる 87.9 91.9 89.9 12.1  8.1 10.1  0.0  0.0  0.0
自ら進んで作品をよりよいものにしようとする 68.7 80.8 74.8 30.3 18.2 24.3  1.0  1.0  1.0
習ったことをよく理解し,新しいことをやろうとする 45.5 55.6 50.6 50.5 42.4 46.5  1.0  2.0  1.5
計画を立て,見通しをもってつくる 46.5 46.5 48.0 53.5 49.5 51.5  0.0  1.0  0.5
互いのよさに共感し,学び合おうとする 72.7 77.8 75.3 26.3 22.2 24.3  1.0  0.0  0.5
材料や用具を大切にし,準備や後始末がきちんとできる 45.5 50.5 48.0 53.5 48.5 51.0  1.0  1.0  1.0
(エ)  創造性を育てるための視点(表9)
 表9 よさや可能性が生きる学習活動の留意点について
 よさや可能性が生きる留意点について,どうとらえて実践していったらよいと思いますか。 特に力を入れる 少し考える あまり考えない
小学 中学 全体 小学 中学 全体 小学 中学 全体
児童生徒の側に立った(興味・関心)題材を準備する 86.9 75.8 81.4 13.1 24.2 18.7  0.0  0.0  0.0
発想や構想を広げられるような豊かな題材を選ぶ 92.9 90.9 91.9  7.1  9.1  8.1  0.0  0.0  0.0
表現方法や手順,材料など可能な限り児童生徒一人一人に選ばせるようにする 71.7 61.6 66.7 27.3 36.4 31.9  1.0  2.0  1.5
多様な活動に対応できる弾力的な時間配分をする 54.5 49.5 52.0 44.5 50.5 47.5  1.0  0.0  0.5
発想や構想,試みなどを尊重しながら共感を中心とした支援的な指導と評価に努める 86.9 79.8 83.4 13.1 20.2 16.7  0.0  0.0  0.0
満足感や充実感を味わうことができるような鑑賞の仕方を工夫する 63.6 62.6 63.1 36.4 37.4 36.9  0.0  0.0  0.0
学習活動の連続性や関連性を深めることができるような題材の配列を工夫する 34.3 47.5 40.9 62.6 46.5 54.6  3.1  6.0  4.6

 よさや可能性が生きる留意点として,「発想や構想を広げられるような豊かな題材を選ぶ」「発想や構想・試みなどを尊重した指導と評価に努める」を重視していることが分かる。教師の考えで,表現方法などを指示したり教え込んだりすることなく,表現の方法,材料などについて,経験の少ない児童生徒に紹介したり,提案したり,相談したりするような活動を児童生徒一人一人の立場に立って行うことが大切である。

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