3.研究のまとめ

 「豊かな感性を育てる学習指導」を受けて,本研究では,「一人一人の発想が生き,言語感覚が育っ国語科学習の指導の在り方」について追究した。まず,小学校,中学校及び高等学校の児童生徒と国語科担当教員を対象に言語感覚に関する意識・実態調査を実施し,その結果を分析した。そして,それぞれの校種ごとに言語感覚を育てることに重点を置いた授業研究を行った。
 小学校においては,二つの授業の実践を行った。第5学年の実践では,物語文の読み深めにディベートを取り入れた実践を試みた。子供たちは,相手を納得させるような論の展開になっているか,誤りがないかなど相手の論述を批判的に聞くことに注意が向き,言葉の適否,正誤について意識が高まった。第6学年の実践では,学習カルテを活用し一人一人の学習への意欲の高まりを図りながら,複数教材を通して人物の生き方や考え方を追究できるように単元構成を工夫した。子供相互の学習の交流を図る話合い活動では,友達の読みの内容や表現の仕方を生かして自分の読みを修正するなど,言葉に対する意識の高まりが感じられた。
 中学校においては,二つの授業の実践を行った。第3学年の実践では,意味の似た言葉辞典を作り,身近な言語生活を振り返って意味の似た言葉を集め,それらの言葉の用い方の違い,意味の共通点・相違点を考え合う学習を設定した。第2学年の実践では,比喩表現についての説明文に,コース別学習や表現活動を取り入れた。小グループ活動による話合いを行うことによって一人一人の発想を生かすとともに,話す,聞く,書く及び読む活動を統合的に展開し,表現の適切さを意識させることによって言語感覚を磨く学習活動になり得たと考える。
 高等学校においては第3学年において二つの授業の実践を行った。一つは,「泣く」と「笑う」の二つの語と共に使われる擬声語,擬態語を集め,それを使う場面を分類・整理する実践である。一つ一つの言語がもつイメージから言葉の使い方を整理することによって,生徒は,言葉のもつニュアンスや使い方の適否などに強い関心をもった。もう一つは,名前と私たちや私たちの世界との結びつきの強さ等に関する論説文に,調べ,話し合う活動を取り入れた実践である。生徒は,言葉のもつ不可思議さ,言葉のもつ役割,言葉のもつ大きな力に触れることができた。
 実践等を踏まえ,言語感覚を育てることに有効だと考えられる学習活動を以下にまとめた。

音読,暗唱により言葉の響きやリズムを感じ取る。
様々な言葉で表現する。(具体的,抽象的)
言葉の意味を文脈から推測する。
優れた表現を味わう。(視写,暗唱,表現のよさを自分の言葉で表す)
ディベート,パネルディスカッション等の話合いをする。
感じたことや考えたことを定型で表現する。(俳句,短歌,川柳)
言葉を置き換え,表現の仕方や言葉の使い方を比べたり,選んだりする。(推敲,判断)
日常生活の中で使っている言葉を調べ,まとめる。
一人一人が学んだことを交流する。(共感,広がり,深まり,修正)

 国語科では,「豊かな感性を育てる」ために「言語感覚を育てる」ことに焦点を当てて研究を進めてきた。その結果,一人一人の興味・関心を生かしながら必要感のある言語活動を通して,言葉に積極的にかかわる意識をもつことができるような学習活動を意識的に展開すること,言葉で表現する場を設けること,一人一人が学習したことを児童生徒相互で交流する場を設けることの重要性が確認できた。また,児童生徒一人一人の表現を教師や他の児童生徒が共感し,認め,受け入れていく姿勢を大事にしたいと考える。

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