【授業研究6】高等学校第3学年「名づけの精神」

1.授業の構想
 聞く,話す,読む,書くといった言語活動の基になっているのは,言語感覚である。したがって,言語感覚を伸ばし,豊かにすることによって,聞く,話す,読む,書くといったあらゆる言語に関する活動が活発に行なわれるようになり,それらの言語に関する能力が高まるのではないかと考えた。
 教材文「名づけの精神」は,前半において,子供の名づけを例に挙げて名づけの原初的形態について述べ,後半において,忌み言葉や神話を例に挙げて名前の威力について述べている。生徒は,この教材を学ぶことで,名前と私たちや私たちの世界との結び付きの強さ,名前のもつ威力を理解し,実感することができるのではないかと考えた。
 また,授業を展開するに当たり,生徒一人一人が積極的に活動することによって,言語感覚を豊かにすることが出来る授業を構想してみた。

2.授業の手だて
生徒から出された疑問点を中心にした授業の展開
 生徒が自分たちで見つけた疑問点を基に授業が展開していることを意識することで,主体的に読み取りを行なうのではないかと考えた。また,生徒自身から出た疑問点に対しては,教員から与えた疑問や課題に対してよりも積極的に取り組めるのではないかと考えた。
グループ活動を取り入れた展開
 疑問点を中心に各段落ごとの内容を理解する活動の中に,10〜15分程度のグループ学習を取り入れた。名づけに対する他の意見に耳を傾け,自分の意見を述べ,それらを発表できるようにまとめていくなかで,教材の内容の面からも,グループ内での活動の面からも言葉に対する感覚を磨くことができるのではないかと考えたのである。
発展学習を取り入れた展開
 言語感覚を磨くという観点から,教材文を学習した後,教材文の内容を具体化,深化させるべく,発展学習を試みた。教材文を学習した後,5つの具体的な名づけの例(地名や忌み言葉など)を学習プリントで示し,各グループがその中の2つを選んで話し合うという作業を通じて言葉と人間の深い結び付きに触れることにより,名前や言葉に対する興味・関心を高め,言葉に対する感性を少しでも磨くことができるのではないかと考えた。
具体例を使って小論文を書く展開
 発展学習でまとめた名づけの具体例を活用し,「私にとっての名づけの精神」という題で,論理的な文章を書く活動を取り入れた。その作業を通じて,生徒が論理的文章の特徴を再認識し,名前や言葉に対する認識をもつことにより,言葉に対する意識を高め,言語感覚を育成したい。


3.学習指導案

第3学年   国語科学習指導案

  1. 単元名(教材)   評論(一)   「名づけの精神」   (市村弘正)
  2. 単元目標
     名づけというものの人間にとっての意義,人間の生活との深いつながりを知ることにより,名前に対しての,ひいては言葉に対しての興味・関心を高める。
     文章の流れを表す言葉やキーワード、キーセンテンスを指し示す言葉を読み取ることにより,論理的文章の構成や内容主題といったものをとらえる方法を理解させる。
     具体的な名づけの例に接し,それに対する話合いを通して,名づけ,ひいては言葉に対する理解を深め,言語感覚を豊かにする。
     実際に評論文を書くことにより,論理的発想を定着させ,言語に対する感性を磨く。
  3. 単元について(省略)
  4. 学習計画 (9時間)
    第1時  全文を通読し,各自疑問点をまとめる。
    第2時  学習プリントを使って,全体の構成を考え,各段落の要旨をまとめる。
    第3〜6時  疑問点をまとめたプリントを使用して,第1〜4段落の内容をとらえる。
    第7時  学習プリントを使用して,名づけの具体例から読み取れることをグループに分かれて話し合う。(本時)
    第8時  名づけの具体例ごとに各グループが意見を発表し,質疑応答を行う。
    第9時  名づけの具体例を使用して,「私にとっての名づけの精神」という題で評論文をまとめる。
  5. 本時の指導
    (1) 目標  名づけの具体例について考え,話し合うことにより,名づけの意義や威力を実感し,言葉に対する理解を深め,言語感覚を豊かにする。
    (2) 展開
    学 習 活 動 内 容 指導上の留意点・評価
    1.  本時の目標と学習の進め方を確認する。
       名づけの具体例について,グループで話し合い,名づけの意義や威力についての理解を深めよう。
    2.  名づけの具体例をグループに分かれて検討し名づけの意義や威力についての理解を深める。
      用意する具体例
      (一) 食用きのこと毒きのこ
      (二) 虫の方言誌
      @ ショウリョウバッタ
      A ミズスマシ
      B アメンポ
      (三) 地名の由来
      @ 常陸国の由来
      A 大子の由来
      (四) 忌み言葉,場に応じて使い分けられる言葉
      @ お開き
      A なみの花 など
      (五) 神話と神々の名前との関係
      @ 須佐之男命
      A 八俣の大蛇
      B 櫛名田比売
    3. グループ全体の意見として発表できるようにまとめる。
    4. 次時の学習について確認する。
       各具体例における,名づけの意義や威力について発表し,話し合う。
    • 本時の目標を明確に示すことで,意欲的に取り組めるようにする。
    • 本時の学習の進め方を具体的に示すことで,主体的に学習を進めることができるようにしたい。


    • グループを少人数(3〜5人)にすることで,発表の苦手な生徒も進んで話合いに参加できるようにしたい。
    • 5種類の具体例を載せたプリントを前もって渡しておき,その中から2つ選んでおくよう伝えることによって,生徒が取り組みやすいようにする。
    • 各グループ2つ以上の題材について話し合うことにより,名づけの意義,威力が我々の生活の中でさまざまに関わっていることを認識させたい。
    • 各グループをまわり,話合いが活性化するよう助言する。
    • 他にも説明する(グループごとに発表する)という目的を持つことで,より正確にまとめようという意識が持てるようにしたい。
    <評価> 名づけの具体例から名づけの意義や威力を自分なりに読み取り,それを自分の言葉で相手にわかるように述ベているか。
    • 複数の意見が出ても良いこと(内容が矛盾しない限り),自分の言葉でまとめることなどを助言する。
    <評価> 具体的にわかりやすくまとめられているか。
    • 次時の学習の目的をもたせることで,学習意欲を喚起したい。
    • 学習プリントを回収し,遅れているグループには,空いている時間に相談に応じ,次時には自信をもって発表できるように配慮したい。


4.授業の考察
 生徒たちから出された疑問点も的を射たものが多く,通常の授業において教員側から質問したり,説明,解説しようと思っていた所は,ほとんど網羅されていた。さらに,こんな所がという意外な所に疑問点が集中していることもあった。
 グループ学習においては,ほとんどの生徒が生き生きと話合いに参加し,互いに意見を出し合うなかで,他の意見を取り入れたり,自分の意見を修正したり,新たな意見を発見したりする姿が見られた。そして,各グループが発表した意見も具体例から名前や言葉の本質を鋭く見抜いているものが多かった。また、グループ学習に対する生徒たちの感想は良好であった。発展学習を取り入れた展開において,生徒たちは,学習プリントについてグループで話し合い,それを発表するという作業を通じて,名前や言葉に対する興味・関心をもつようになり,言語の大切さを認識し,言語に対する感性を高めてくれたのではないかと思う。

資料7 発展学習の後に生徒が書いた小論文

資料7 発展学習の後に生徒が書いた小論文

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