【授業研究4】中学校第2学年「比喩の世界」

1.授業の構想
 学習材を通して広く言語に対する興味・関心を呼び起こし,生徒たちの言語生活を豊かにしていくことは,国語教育の課題である。様々な感じ方や表現に触れる機会を設けることで,言語についての力を養い,思考力・表現力を高め,ものの見方・考え方を育てたい。
 教材文「比喩の世界」は,比喩が使われている文章表現のすばらしさと,比喩を通して言語によって自己表現することのすばらしさをも伝えようとしている説明文である。ここではその特徴を踏まえ,単に説明的文章の読解に終始するのではなく,言語生活を豊かにするために,表現活動を取り入れながら様々な言語表現に目を向けるような学習活動を展開をしていきたいと考えた。
 そこで,教材文を「比喩表現を集め,味わい,つくる」ものとしてとらえ,生徒が興味・関心に応じて学習内容の選択ができるようなコース別学習の場を設け,お互いの言語生活を振り返り,言語についての関心を高める発展学習を設定した。日常的に使われている比喩的な言い回しを検討したり,様々な詩や文学作品を比喩表現の視点から見つめ直したり,また,身の回りを観察し,比喩表現を用いて描写したりするなどの活動を通して言語の理解カと表現力を伸ばしていくことが,言語感覚を育てていくことにつながると考えた。

2.指導の手だて
(1) 言語に対する意識が高まる書く活動
 教材文を内容理解の対象だけではなく,書くという表現活動を取り入れて扱った。導入時には,簡単な比喩表現から情景を想像して書き,比喩表現のよさに気付くようにした。コース別選択学習では,比喩表現に対する自分の思いや考えを書き,比喩表現を見直すことができるようにした。終末時は,比喩表現を通して学んだことをまとめるようにした。このように,あらゆる場面で書きながら言葉について考え,こだわり,言語に対する意識や感覚が高まるようにした。
(2) 学習意欲がわくコース別選択学習
 言語感覚を育てるには,生徒自身が学習内容に興味・関心をもって,自分のよさを発揮しながら自分の言葉で課題を解決していく学習活動を進める必要があると考えた。そこで,一つの方法として,様々な方向から比喩を学びたいという生徒の願いに応じたコース別選択学習を設定した。コースの内容は,学習した教材文の中から比喩表現の理解を深める「比較・分類コース」,ことわざ・慣用句の比喩的な表現を通して様々な語の意味や語彙を広げる「整理コース」,詩や文学作品に描かれている比喩の効果やすばらしさを味わう「読解1・2コース」,身近な言葉を使って比喩を創造し,言語の表現力を伸ばす「創作1・2コース」の6種類である。
(3) 互いに学び合うグループ活動
 言葉についての一人一人の考えを大切にし,それを基に話し合うグループ活動の場を設けることで,言語の理解力・表現力がより確かなものになるようにした。生徒同士が互いに学び合えるようにするためグループ内やグループ間で話し合う場を設けた。このことにより,生徒一人一人が自分の言語表現を修正したり,よりよい表現に気付いたり,友達の考えを取り入れたりして,自分自身の言語生活を振り返り,言語に対する考えを深めることができるのではないかと考えた。また,グループで学び合ったことを全体の中で交流し合うことにより,より一層言語に対する意識が高まり,言語感覚が豊かになると考えた。


3.学習指導案

第2学年   国語科学習指導案

  1. 単元     わたしたちの文化「比喩の世界」
  2. 単元の目標
    様々な感じ方や表現に触れ,興味をもって言語生活を豊かにしようとする。 (関心・意欲・態度)
    言葉の用い方のおもしろさや表現のよさを考え,自分の考えを文章に書くことができる。 (表現)
    文章の内容を的確にとらえ,言葉や文化について自分の見方や考え方を広げることができる。 (理解)
    比喩表現についての理解を深め,語彙を広げることにより,言語感覚を豊かにすることができる。 (言語事項)
  3. 単元について(省略)
  4. 学習計画(13時間 本時は第2次の第4時)
    第1次 「江戸の人々と浮世絵」を読みとる。 ・・・・・・・・・・ 5時間
    第2次 「比喩の世界」を読みとる。 ・・・・・・・・・・ 7時間
    3・4(本時)・5



     全文を通読し,比喩表現に着目して学習することをとらえる。  論の展開に即して筆者の考えと具体例の関係をとらえる。  自分の興味・関心に応じてコース別選択学習を行い,比喩表現こ対する知識を広げたり,言葉に対する意識を高めたりする。  コース別に学習した内容を発表し合い,比喩表現の理解を深め合う。  「比喩の世界」の学習を通して学んだことをまとめる。

     
     比喩表現の視点から,自分自身の言語生活を振り返る学習にすることを確認したい。  筆者の論点と具体例との関係を整理できるようワークシートの活用を図る。  グループで学習し,話し合いを活発にできるようにする。
     比喩表現の理解が深まるように生徒相互の学び合いの場を大切にするよう助言する。
     発表から比喩表現のすばらしさや言葉の広がりを再認識し,言語感覚を高めたい。  文章にすることで言語に対する意識や感覚を高め,言語生活を見直す学習としたい。
    第3次 漢字の学習(2)をする。 ・・・・・・・・・・ 1時間
  5. 本時の学習
    (1) 目標  自分の興味・関心に合ったコースを選択し,比喩表現に対する知識を広げたり,言語に対する意識を高めたりすることができる。
    (2) 準備・資料  国語辞典,学習プリント,資料用プリント,課題提示用紙,自己評価カード
    (3) 展開




    自分の興味・関心に合ったコースを選択しグループごとに学習を進めよう。
    1. 六つのコースの中から自分の興味・関心のあるコースを選ぶ。
    2. 同一コースを選んだ生徒向士(1〜3人)で学習グループを編成し,学習課題に取り組む。
    学 習 活 動 ・ 内 容 支 援 と 評 価
    1. 前時の学習と本時の学習のめあてを確認する。
       グループごとに協力し合って,様々な比喩表現を整理したり,読み取ったり,比喩表現を使って創作したりしよう。
    2. 比喩表現についての理解を深める。
      (1)  グループごとにコース別選択学習を進める。
      @ 比較・分類コース 比喩表現を集め,筆者の観点別に比較・分類する。
      A 整理コース ことわざ・慣用句を使って比喩表現を整理する。
      B 読解1コース 詩「朝のリレー」「橋」に描かれている比喩表現を読み取り,比喩の効果を考える。
      C 読解2コース 「やまなし」から比喩表現を集め,内容を読み取り,比喩のすばらしさを味わう。
      D 創作1コース 比喩表現を使い,詩やなぞなぞなどの創作をする。
      E 創作2コース 比喩表現を使って友達の様子をスケッチし,友達の紹介文をつくる。
      (2)  グループごとに本時の学習について自己評価する。
    3. 次時の学習について確認する。
    • 同一コースを選んだ生徒1〜3人でグループを編成し,進んで話合いに参加できるようにする。
    • @は,既習の教材文の比喩表現を筆者の観点別に比較・分類する際につまずきが予想されるので,グループに助言する。
    • Aは,ことわざ・慣用句の中から比喩的な表現を集め,何をどのようにたとえているのかを整理できるよう資料を用意する。
    • Bは,詩から比喩の対象,たとえている心情・情景を読み取り,比喩の効果について自分なりの考えを書くように助言する。
    • Cは,集めた比喩表現から作品の描かれた内容や様子を想像して読み取り,比喩のすばらしさについて自分なりの思いを書くように助言する。
    • BCは,比喩の対象を明確につかむことができるようにヒントカードを用意する。また,考えなどは自分自身の感覚や言葉で書くよう助言する。
    • Dは,比喩表現を用いて気持ちや様子がより具体的に表れているかグループの中で話し合いながら進めるよう助言し,表現力の向上を図る。
    • Eは,友達の顔・表情・行動・性格などを自分の言葉でスケッチし,「友達の紹介文」を書き,思考力・表現力を伸ばすようにしたい。
    • DEで比喩表現につまずいているグループには,普通の表現で詩や紹介文を創作し,それを比喩表現に直すよう助言する。
    • 選択したコースの学習が終わったグループには,そのがんばりを称賛し,他の興味あるコースを学習するように促す。
      (評)グループ内で協力し合い,興味・関心をもってコース別選択学習を進めることができたか。
    • 本時の学習を振り返り,次時の学習の見通しとめあてをもつことによって,学習意欲を喚起したい。




    グループごとに,比喩表現について発表できるようにまとめよう。
    1. 比喩表現の理解が深まるように,グループ内での話合いを行い,自分の考えを修正する。
    2. 発表するために,グループごとに学習したことを工夫しながらまとめる。


4.授業の考察
 教材文を内容理解の対象とするだけではなく,言語に対して興味・関心をもち,日常の言語生活を豊かにしようという目的意識を明確にしたことで,生徒の学習に対する関心を高めることができた。また,それぞれの学習の仕方を示したコース別選択学習の場を設定し,生徒の興味・関心に応じた学習活動にしたことで,生徒は何を,どういう方法で,どう学習すればいいのかという課題が確実に把握でき,意欲的に学習に取り組む姿が見られた。
 学習活動全体を通して書くという表現活動を取り入れたことは,言語に対する意識を高める上で有効な方法であった。書くことにより自分の考えを確かめたり,友達の考えを受け入れたりするなど,日常生活では言葉について深く考えることがなかった生徒たちが,「表現の仕方によって感じ方は変わる」「言葉は人にイメージを与える」など言語そのものを考えるようになった。
 コース別選択学習では「日常的に使われている比喩表現をさがす」「比喩表現で何がたとえられているか考える」「すばらしい比喩表現を読み取る」「言葉を操作して比喩表現をつくり出す」という具体的な課題に意欲的に取り組んだことで,自分自身の言語表現について振り返ることができた。また,選択したコースにより,ことわざ・慣用句の意味や用法を理解するなど,様々な語の意味や語彙が広がり,言語に対する認識が深められた。
 生徒同士の学び合いを大切にしたいと考え,グループ活動を取り入れた。少人数のグループ内での話合いによって,生徒一人一人がもっている言語に対する意識が高まり,比喩表現に対する思いや考えがより深く,確かなものになった。そして,グループ内で学び合ったことを,グループ間や全体の中で発表し広げたことで,自分たちが気付かなかった考え,例えば「比喩表現は身近にあるが,とても奥が探い」などの意見も出て,生徒同士の学び合いは意義のあるものとなった。
 生徒はこの比喩表現を通した学習から次のようなことを学んだ。「比喩表現は生活の中で数多く使われている。何気なく言っていても,その言葉一つ一つはとても奥が深いものだ。」「比喩は私たちの生活の中で欠かせない。新しい発想によってもっとすてきな表現も生まれる。」このように,生徒は自分自身の言語生活を振り返り言語に対する意識を高めたことで,言語感覚を育てられたのではないかと考える。

グループ活動での話し合い
グループ活動での話し合い

資料5 学習を通しての感想
資料5 学習を通しての感想

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