【授業研究2】小学校第6学年「宮沢賢治」,「心をひかれた人物のしょうかい」

1.授業の構想
 子供の言語感覚を養い豊かな感性を育てるためには,事物や事象との出会いの中から,子供自身が自分なりの問題を発見し,自分の思いや願いを生かしながら問題を解決していく過程を設定したり,子供の既成概念やイメージを突き崩す場,感情を揺さぶる場を学習活動の中に取り入れたりしていくことが大切である。そして,子供たち一人一人が興味・関心をもって意欲的に学習に取り組むことが言語感覚の向上につながっていくものと考える。
 そこで,アンケートや子供が表現した内容等から一人一人の発想,思いや願いをとらえ,単元構成や次時の学習活動に生かし,一人一人に応じた働き掛けをしながら,子供が意欲的に学習に取り組めるようにし,単元全体を通して子供の言語感覚を養っていこうと考えた。
 また,一人の人物についていろいろな方面から考えられるように教材を複数化し,言葉や文に着目して心情や作品の主題をまとめる場面や読み取り方の違いを話し合って自分の考えを深めたり広げたりする場面を工夫することによって,一人一人の言語感覚を養うことができると考えた。

2.指導の手だて
(1) 子供をとらえて生かしていくための「学習カルテ」の活用
 一人一人の子供の感じ方や考え方, 学習意欲は異なるものであるから,一人一人に応じた働き掛けをしながら,言語感覚を養っていきたいと考えた。そこで,子供一人一人がどのような学習をしたいと考えているのか,どのように読み取っているか,どのようなことにつまずいているかをアンケート,ノート,ワークシートに表現した内容等からとらえて学習カルテ(子供一人一人をとらえてまとめた一覧表)@〜Gにまとめ,単元構成や次時の学習活動,一人一人に応じた働き掛けに生かしていくことにした。
 まず,子供が「宮沢賢治」にどのようなイメージを抱いているか,どのような学習をしたいと考えているかをとらえて,子供たちが学習したいと考えていることに必要な補助教材,資料,学習活動をまとめ,単元構成を考えた。次に,一人一人の学習課題,学習方法をまとめ,ワークシートや学習の手引きを準備し,一人一人の子供が読み取った内容をまとめて,友達の読み取りと比べ合って自分の考えを深めたり修正したりできるような学習の場の設定に生かした。
(2) 言語感覚を養う単元構成の工夫
 子供の言語感覚は,学習に対する興味・関心,意欲の高さに支えられてこそ育つものである。そこで,単元の導入で心ひかれた人物や宮沢賢治について話し合い,「宮沢賢治の生き方や考え方を学び,最後には自分が好きな人物を友達に分かりやすく紹介し合おう。」という学習のめあてをもつことができるようにした。
 「宮沢賢治」という伝記教材を中心にしながら賢治の作品も自由に読めるようにし,子供が様々な言葉や文に触れられるようにした。伝記を読み取る場面では,多様ワークシートを活用して自分に合った方法でまとめられるようにし,言葉や文に着目してイメージを膨らませて心情をまとめ,表現や読み取り方の違いを話し合って修正し合える場を設定した。また,「宮沢賢治」という人物をどう思うか,賢治の理想とはどんなことだったのか,様々な場面で伝記や作品の表現を基に自分なりにまとめることができるようにした。さらに,みんなで発表し合うことで,同じ人物や言葉に対して様々な感じ方や考え方や表現の仕方があることに気付くことができるようにした。


3.学習指導案

第6学年   国語科学習指導案

  1. 単元名 「ぼく・わたしの好きな人」(教材名 「宮沢賢治」,「心をひかれた人物のしょうかい」)
  2. 目標
     心ひかれた人物や尊敬する人物の考え方や生き方をいろいろな方面からとらえ,言葉を通して人の考え方や生き方について考えることができる。
     心ひかれた人物や尊敬する人物について,進んで調べたり作品を読んだりしようとする。 (関心・意欲・態度)
     具体例を引用しながら心ひかれた人物や尊敬する人物の考え方や生き方についての考えをまとめ,その人物について自分なりの考えをまとめたり話し合ったりすることができる。 (表現)
     「宮沢賢治」の考え方や行動,生き方を教材文から読み取り,その学習を生かして心ひかれた人物や尊敬する人物について,考え方や生き方をとらえることができる。 (理解)
     教材文の構成,人の考え方や生き方を表す言葉や叙述に気付くことができる。 (言語事項)
  3. 単元について(省略)
  4. 学習計画(14時間 本時は第10時)  「宮沢賢治」(理解)9時間「心をひかれた人物のしょうかい」(作文)5時間
        観 点 別 評 価 規 準
    目  標 学 習 活 動・内 容 関・意・態 表  現 理  解 言語事項

    (二時間)
    •  本単元の学習に興味をもち,単元の学習計画を立てることができる。
    •  心ひかれた人物,尊敬する人物等について,話し合う。
    •  宮沢賢治について知っていることや調べてみたいことを話し合う。
     心ひかれた人物や宮沢賢治について進んで話し合おうとしている。
         
    •  話し合ったり紹介されたりした学習方法や内容から,どんな方法でどんな学習をしたいかを選択し単元の学習計画を立てる。
     本単元の学習に興味をもち,進んで計画を立てる。
     本単元の学習の方法や内容を理解することができる。

    (一時間)
    •  宮沢賢治に興味・関心をもち進んで作品を読もうとする。
    •  宮沢賢治に関する資料や作品を図書室,地域の図書館,自宅等から探し集め,「宮沢賢治」コーナーを作る。
     進んで賢治の作品等を探し集め,読もうとする。
         

    (五時間)
    •  教材文「宮沢賢治」を読んで賢治の考え方や生き方を読み取り,賢治に対する自分なりの考えをまとめることができる。
    •  導入の部分を読んで賢治の人間像のあらましや作者のとらえた賢治像をつかむ。















     










     自分に合った学習方法を選択し,自分から進んで賢治の生涯,考え方や生き方をまとめようとしている。
     賢治像に対して感想等をまとめることができる。
     賢治の心情を想像し,まとめることができる。
     賢治の生涯,考え方や生き方に対して,感想等をまとめることができる。
     賢治の生き方や考え方に対して感想等をまとめることができる。
     叙述に即して賢治像のあらましをつかむことができる。
     自分に合った学習方法を選択し,賢治の生涯をとらえることができる。
     作者が描きたかった賢治像をとらえることができる。
     新出漢字や読み替え漢字の筆順や読みを確認することができる。
     断定的文末表現の部分に着目し,作者の強調表現に気付くことができる。
     賢治の独語や心内語に気付くことができる。
    •  展開の部分を読んで,賢治の生涯を自分に合った学習方法を選択して読み取ってまとめる。(必ず賢治の心情をおさえられるように工夫する。)
      ※予想される学習方法
      • 書き込み
      • 吹き出し
      • なりきり日記
      • 年表
      • 壁新聞
      • 心情曲線
    •  結びの部分を読んで,作者が賢治をどんな人物として描きたかったか話し合う。
    •  賢治の考え方や生き方について考えをまとめて話し合う。

    (二時間)
    •  賢治が求め続けた「まことの幸せ」が作品の中にどのように表されているかをとらえ,話し合うことができる。
    •  賢治の考え方や生き方を考えるための作品を選び,紹介し合う。
    •  賢治の作品に表れた「まことの幸せ」がどのように表されているかを考え話し合う。
     賢治の考え方や生き方が作品の中にどのように表されているか進んで考えようとしている。
     自分が選んだ作品の中に「まことの幸せ」がどのように表されているかまとめ,さらに,賢治の考え方や生き方について感想等をまとめることができる。
     自分が選んだ作品の中に「まことの幸せ」がどのように表されているか,とらえることができる。
     

    (本時)
    •  自分が選んだ作品の中に「まことの幸せ」がどのように表されているかを考え話し合う。
    •  賢治の生き方等について感想をまとめ発表し合う。

    (三時間)
    •  心ひかれた人物,尊敬する人物について取材し,紹介の仕方を考えてまとめ,紹介することができる。
    •  心ひかれた人物や尊敬する人物についての資料を探し集め,その人物についていろいろな面から調べる。
     進んで心ひかれた人物等について調べようとする。
     心ひかれた人物等の考え方や生き方等をまとめ,さらに感想等もまとめることができる。
     心ひかれた人物等の考え方や生き方を作品や資料からとらえることができる。
     
    •  自分に合った方法で紹介の仕方を工夫し,まとめる。
    •  お互いに発表し合う。

    (一時間)
    •  漢字や語句の練習をし,力試しをすることができる。
    •  語句や漢字等の練習をする。
    •  力試しをする。
         
     新出漢字等を身に付けることができる。
  5. 展 開 (省略)


4.授業の考察
資料2 子供をとらえて生かしていくための「学習カルテ」
6年国語科 学習カルテD ぼく・わたしが選んだ「○○○」に表れた「まことの幸せ」とは
資料2 子供をとらえて生かしていくための「学習カルテ」

 資料2は各自がたくさんの「宮沢賢治」の作品を読んだ中から,自分の一番好きな作品を選んで,その中に賢治の理想(主題)がどのように表れているかワークシートにまとめたものをとらえた一覧表の一部である。「学習カルテ」にまとめてみると,子供が自分なりによいと考えた作品も,その作品に賢治の理想がどのように表れているかというとらえ方や感じ方,表現の仕方もそれぞれであることが分かる。さらに,子供の考えを深めたり修正したりするためには,同じ作品を選んだ者,作品の主題が似ている者同士でグループをつくり,お互いの考えを発表し合い,修正する場面を設定したことで,多くの子供が自分のまとめた内容や表現の仕方に目を向け,書き改めたり,書き加えたりする様子が見られた。また,一人一人に応じた働き掛けをすることもできた。
 伝記や作品など複数教材を通して一人の人物の生き方や考え方を追い,言葉や文に着目して人物の心情や人物像や理想をまとめたり,感じ方や読み取り方の違いを話し合ったりできるような単元を構成したことで,子供は同じ言葉や文を読んでも,感じ方や考え方には違いがあることに気付くことができた。そして,自分の考えや表現の仕方を深めたり修正したりしながら文章にまとめることができた。また,自分の思いを生かしながら意欲的に学習に取り組んだ。

資料3 子供が表現した賢治についての感想
資料3 子供が表現した賢治についての感想

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