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研究主題にかかわる意識・実態調査

 国語科学習全般から言葉の使い方,言語感覚を育てるに当たっての意識・実態を質問紙により調査した。その結果を児童生徒と教員で比較して分析することによって,言語感覚を育てる上での国語科学習指導の問題点を明らかにした。
調査対象
(ア) 児童生徒 県内の小学粗 中学校及び高等学校の児童生徒から小学校454人 中学校780人 高等学校1,166人を抽出して調査した。県内の小学生,中学生及び高校生のそれぞれの総数に対する抽出数の割合は.小学生0.42%,中学生0.68%,高校生1.40%である。
児童生徒(人)
校 種 小 学 校 中 学 校 高 等 学 校
学 年
男 子 87 67 75 229 133 120 133 386 172 185 183 540
女 子 63 77 85 225 142 122 130 394 197 205 224 626
150 144 160 454 275 242 263 780 369 390 407 1,166
(イ) 教員 県内の小学校,中学校及び高等学校の国語科担当教員から小学校88人,中学校59人,高等学校62人を抽出して調査した。県内の小学校,中学校及び高等学校の国語科担当教員のそれぞれの総数に対する抽出数の割合は,小学校教員1.07%,中学校教員1.11%,高等学校教員1.32%である。
教員(人)
校   種 小学校 中学校 高等学校
教職経験20年以上 12 15 22
教職経験10年以上20年未満 48 26 24
教職経験10年末満 28 18 16
88 59 62
実施時期  平成8年10月1日から10月18日まで
調査形式  質問紙法
集計結果の分析と考察
(ア) 児童生徒の言語感覚について
<< 教員 >> << 児童生徒 >>
 児童生徒の言語感覚が十分に育っていないと感じるのはどんなときですか。二つ選んでください。
 もっといろいろな言葉を知っていたらいいな,もっと上手に話せたら(読めたら)いいなと感じるのは,どんなときですか。二つ選んでください。
ア 音読や朗読をするとき。

イ 文章(散文,韻文)を書くとき。

ウ 発表するとき。

エ 相手や場に応じて話をするとき。

オ 友人とおしゃべりしているとき。

カ その他
ア 音読や朗読をするとき。

イ 文章(散文,韻文)を書くとき。

ウ 発表するとき。

エ 相手や場に応じて話をするとき。

オ 友人とおしゃべりしているとき。

カ その他
言語感覚が育っていないとき 言葉を上手に使いたいとき
 教員にとって,「イ 文章を書くとき。」に言語感覚の不足を感じている割合がいずれの校種においても高い。これは,言語感覚の指導で特に留意しているのが文章を書く活動であると考えている割合が高いことを反映していると考えられる。また,「エ 相手や場に応じて話をするとき。」にも問題点を感じている教員の割合が高い。
 一方,児童生徒にとって「言葉をもっと上手に使いたい。」と感じるのは,国語の学習活動において,それだけ言葉で表現する場面があるということである。「ア 音読や朗読をするとき。」,「イ 文章を書くとき。」,「ウ 発表するとき。」の項目について小学生,中学生,高校生別に見ると,国語の授業の様子がうかがえて興味深い。すなわち,小学生で見ると,この三つの項目の項目の選択の割合がほぼ均一であるのに対し,中学生,高校生と進むにつれて,ア,ウの項目の選択の割合が減少し,イの項目の選択の割合が増加しているのである。このことは,小学校では,読んだり,書いたり,発表したりする活動がバランスよく行われているのに対し,中学校,高等学校と進むにつれて,読んだり,発表したりする活動が少なくなり,書く活動が多くなる様子を表わしていると思われる。高校生で「エ 相手や場に応じて話をするとき。」の選択の割合が多いのは,生徒の発達段階や改まった場で話をする機会の増加とも関連があると思われる。
(イ) 言語感覚を育てることについて
<< 教員 >> << 児童生徒 >>
 国語科の学習指導に当たって,「言語感覚」を育てることを実践していますか。あなたの考えに近いものを一つ選んでください。
 国語科の学習の中で,いろいろな言葉の意味や使い方を考えたり,適切な表現の仕方を考えたりしていますか。あなたの考えに近いものを一つ選んでください。
ア 積極的に実践している。

イ どちらかというと実践している。

ウ どちらかというと実践していない。

エ 実践していない。

オ 分からない。
ア 進んでしている。

イ どちらかというとしている。

ウ どちらかというとしていない。

エ していない。

オ 分からない。
言語感覚を育てる実践 適切な表現への取り組み
 教員と生徒の意識が同じ様な傾向を示している。高等学校の教員の場合は,言語感覚を育てる意識が小学校,中学校の教員に比べてやや低い傾向にある。これは,高等学校においては,教材の内容や構成の把握を重視した指導がなされ,一つの言葉にこだわって考えさせるような場が少ない等の状況にあるためではないかと考えられる。
 児童生徒の意識・実態を見ると,「オ 分からない。」を選択した児童生徒の割合が高い。これは,言葉の使い方を意識している児童生徒の割合が低いことの表れではないかと思われる。ア,イ,エの項目を比べてみると,高校生の意識が小学生,中学生に比べて低い傾向にあることが分かる。これは,高校生にとって,授業の中で言葉の適切な使い方をあまり意識しなくても済んでしまっていることの表れではないかと推測される。
(ウ) 言語感覚が育つ学習活動
<< 教員 >> << 児童生徒 >>
 児童生徒の「言語感覚」は,どのような学習活動の中で育つと思いますか。二つ選んでください。
 国語科の学習の中で,いろいろな言葉の意味や使い方を考えたり,適切な表現のしかたかどうかを考えたりするのはどんな学習のときですか。あなたの考えに近いものを一つ選んでください。
ア 音読・朗読等で言葉を声に出す活動

イ 視写したり,優れた表現や好きな言葉を抜き書きしたりする活動

ウ 人の意見を聞いたり,自分の意見を述べたりする活動

エ 感じたことや考えたことなどを書く活動

オ 言葉の意味を調べたり,使い方を練習したりする活動

カ その他
ア 音読したり朗読したりするとき。

イ 文を書き写したり,優れた表現や好きな言葉を抜き書きしたりするとき。

ウ 意見や考えを発表するとき。

エ 感じたことや考えたことを書くとき。

オ 言葉の意味を調べたり,言葉の使い方を練習したりするとき。

カ その他
言語感覚が育つ学習活動 適切な言葉で表現するとき
 言語感覚が育つ学習活動として教員が選択している割合が多いのは,「ウ 人の意見を聞いたり,自分の意見を述べたりする活動,「エ 感じたことや考えたことなどを書く活動」の二つである。中学校の教員は,エを選択している割合が小学校,高等学校の教員と比べてやや低くなっている。一方,「ア 音読・朗読等で言葉を声に出す活動」,「イ 視写したり,優れた表現や好きな言葉を抜き書きしたりする活動」の項目については,高等学校の教員の選択の割合が小学校,中学校の教員と比べてかなり低く,「オ 言葉の意味を調べたり,使い方を練習したりする活動」の選択の割合は中学校,高等学の教員が小学校の教員よりも高い。
 児童生徒の意識は,教員の意識の傾向とほぼ一致している。高校生では,小学生,中学生と比べてア,イの項目を選択した割合が少なく,エの項目の選択の割合が極めて高い。言葉の適切な使い方を意識する場面が書く活動に集中しているのは,高等学校における活動が書く活動を重視した指導になっていることを反映していると考えられる。
(エ) 言語感覚を育てる工夫
<< 教員 >> << 児童生徒 >>
 児童生徒の「言語感覚」を育てるために,どのような工夫をしていますか。あなたの考えに近いものを一つ選んでください。
 国語科の学習の中で,自分の感じたことを適切に表現しようとするのは,どんなときですか。あなたの考えに近いものを一つ選んでください。
ア 様々な考えが出るような発問の工夫

イ 様々な条件で書く活動を多くする工夫

ウ 聞く,話す学習の場を多くする工夫

エ 言葉についての話題を提供する(お話や掲示物等)工夫

オ 特に工夫はしていない。

カ その他
ア 発表したり,質問したりするとき。

イ 文章を書いているとき。

ウ 話し合ったり,聞いたりするとき。

エ 本を読んだり,辞書で調べたりするとき。

オ 特にない。

カ その他
言語感覚を育成する工夫 言葉を的確に使うとき
 言語感覚を育てる工夫として教員の意識・実態を見ると,「イ 様々な条件で書く活動を多くする工夫」,「ウ 聞く,話す学習の場を多くする工夫」を選択している割合が多い。教員には,児童生徒の言語生活上で不足しているものを補いたいという意識がうかがえる。また,中学校,高等学校の教員では,「ア 様々な考えが出るような発問の工夫」を選択した割合がやや高い。この教員の工夫に対して,児童生徒が「発表したり,質問したりするとき。」を挙げている割合は,小学生でかなり高いものの,中学生,高校生と順に低くなっており,教員の工夫が十分効果的な指導になっているとはいえない。このままでは,中学校及び高等学校の聞く,話す活動において,適切に表現しようという生徒の意識を高めることがますます困難になりかねない。聞き取りやすい話し方を意識した指導を継続したり,必然性のある聞く,話す活動にしたりすること等指導の工夫改善が求められる。
 児童生徒が適切に表現することを意識する状況は,小学生では「ア 発表したり,質問したりするとき。」の項目の選択が極めて高い割合を示している。中学生は,アと「イ 文章を書いているとき。」を多く選択している。高校生は,イの項目の選択の割合が極めて高い。中学生と高校生にイの項目が多いのは,それだけ的確な文章を書くことが求められている表れと考えられる。
(オ) 言語感覚の育成の問題と児童生徒が身に付けたいと考えている力
<< 教員 >> << 児童生徒 >>
 児童生徒の「言語感覚」を育てるに当たって,指導上問題になっていることはどんなことですか。あなたの考えに近いものを一つ選んでください。
 国語科の学習の中で,どのようなカを身に付けたいと思いますか。あなたの考えに近いものを一つ選んでください。
ア 語彙力の低下

イ 生活体験の不足

ウ 言語感覚が育ったかどうかの評価

エ 言語感覚を育てる具体的な指導法

オ 特にない。
ア どのような言葉や語句を用いた表現がよいかを判断したり決定したりする力

イ 言葉や語句の意味 用法を理解するカ

ウ 筋道を立てて話したり,書いたりする力

エ ある言葉や語句から,そこに表現されていない様々なことを想像する力

オ 特になし。
言語感覚育成の問題 身に付けたい力
 言語感覚を育てるに当たって,中学校の教員が問題意識として選択した項目のうち最も多いのは「ア 語彙力の低下」で,高等学校の教員における問題意識もほぼ同じである。単語だけの会話,流行語の多用,読書離れ等の生徒の現状に対する問題意識の強さがうかがえる。言語生活において社会の影響を強く受けやすいのは中学生ではないだろうか。中学校教員の問題意識の強さはその反映であると考えられる。小学校の教員が問題意識として選択した項目は「エ 言語感覚を育てる具体的な指導法」が最も多い。これは,小学校の教員が必ずしも国語科専門ではないことと関連があるものと考えられる。エは,中学校,高等学校の教員の問題意識としても高く,言語感覚を育てる指導の在り方に戸惑いを感じている様子がうかがえる。
 児童生徒が身に付けたい力として選択した項目を見ると,小学生では「イ 言葉や語句の意味,用法を理解する力」を選択した割合が極めて低い。また,「ア どのような言葉や語句を用いた表現がよいかを判断したり決定したりする力」を選択した割合もやや低い。小学生がイ,ウを身に付ける必要性を感じていないのは,言葉や語句を強く意識した学習活動があまり設定されていないからではないかと考えられる。中学生及び高校生は,身に付けたい力として選択した項目が多岐にわたっている。

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