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学級(ホームルーム)活動の課題

 平成9年度教育課程実施状況調査によると、学級活動指導上の課題は、児童生徒に十分活動させるための時間確保ができない70.4%、指導計画が十分でなく,計画的な指導ができにくい17.2%、指導に当たる教員が学級活動の展開の方法について自信がない7.8%との報告がある。その「学級活動」の実態について、小、中、高等学校のアンケートより実態、課題を探ってみた。
 「学級活動の年間指導計画は、担任する学級の児童、生徒に合わせ学級化されたものになっていますか」の設問では、全体的にみると「年度始めに担任による学級化を図っている」が最も多く40.7%である。次いで「ほとんど、学校の年間指導計画のまま実施」が26.7%,「学年や担任によってまちまちになっている」17.2%、「前年度のものをそのまま使用」11.8%である。学級の児童、生徒の実態をふまえた学級活動が重点的に展開されているのは40.7% と、まだ十分とはいえない現状である。相変わらず「ほとんど学級の年間指導計画のまま実施」や、「学年や担任によってまちまち」の割合はまだまだ多い。
 特別活動の目標とする主体的、自治的に活動する児童生徒を育成するには、学級活動において,年間の活動の流れを踏まえて活動のねらいをしっかりと位置づけて行われなければ成果に結びつかない。学級担任による学級活動の指導計画の学級化の意義と必要性が強調される理由である。
図38計画委員会の活動 さて,学級や学校生活の充実と向上に関する活動である学級活動(1)を活発にするための計画委員会の活動について,図38により見てみる。
 学級活動が児童・生徒の手で生き生きと活動するためには,活動計画づくりを進める計画委員会の運営が重要である。
 そのためには毎週計画的に活動する必要があるが,実際に,曜日、時間を決めて実施している学校の割合は,それほど高くはないのが実態である。小学校では低学年から高学年へ定期開催の割合が高くなっており,高学年では2割を超えた学校が定期開催していることは評価できるように思う。「不定期ではあるが放課後などに実施」の割合が極めて高いこと,「時間確保ができないので必要に応じて」もかなりの割合で選択されていることは実際の学校運営が煩雑になっていることの表われであろうが,多忙を理由に児童・生徒を主役とする学級活動の基盤ともなる計画委員会の活動が損なわれている実態は注目されねばならない。「学年や担任によってまちまち」という学校もかなりの 選択率である。小学校は低学年ほど担任サイドの運営になってしまっているようだ。 中学校でも約2割が選択されている。さらに,高等学校のホームルーム活動は,図38にあるように,計画委員会がきちんと活動している割合が低い実状であり,本来,学校段階が上がるほど主体的に活動するところに特別活動の意義があることを思えば,児童・生徒中心の学級(ホームルーム)活動について図38を深刻に比較する必要があるはずである。
 このことは,学級活動の指導で最も配慮していることの回答を求めた設問14(高等学校は設問15)を比べると学級担任の意図がはっきりしてくる。
 小学校では,「できるだけ児童中心の活動」に81.7%の学校が最も配慮しているのに対し,中学校になると,「生徒中心」は78.2%に落ちて「計画的な指導」が12.2%と選択されてくる。さらに,高等学校では,「生徒中心」は最も多く選ばれたにしても38.2%に過ぎず,代わって「学級全体の指導」や「計画的指導」など活動内容(2)(3)に関わることが強く意識されていることが,生徒を主役とした活動づくり,という学級(ホームルーム)活動を困難にしている背景ではないかと考える。
図39学級活動の時間確保(小・中設問15) 学級活動が思うように進まない理由に,学級活動の時間確保の問題がある。活動時間の確保の問題を図39にまとめた。小,中学校を比べると,学級担任が教科指導も引き受ける小学校と教科担任制の中学校ではだいぶ事情が違っているようだ。学級活動の時間確保の悩みは,小学校では4.3%に過ぎない。学校裁量の時間や朝の会,帰りの会を活用して何とか乗り切っているように見える。担任が教科の指導も兼ねているので,「教科の学習指導と関連づける」という特別活動の基本的な関係も13.2%選択されているのも特徴的である。それに対して,中学校では,「時間確保に悩む」割合が13.5%に跳ね上がる。学校裁量の時間活用も,朝の会や帰りの会の活用も小学校に比べてかなり高い選択率である。学年会での議題に取り上げる割合も小学校の比ではない。忙しい中学校,の姿を反映しているようだ。
図40ホームルーム活動時間の活用また,高等学校は図40にあるように,「時間確保の悩み」が大幅に高くなる。ショート・ホームルームの活用や担任の教科指導との関連づけた工夫も追いついていない現状であるか,学年会の議題として取り上げられる割合も半数近くに及んでいる。その一方では,時間確保の工夫について,校内研修で取り組む割合が,中学校が16.6%であるのに対して,高等学校が5.5%と3分の1に止まっているのが残念である。
図41学級活動の時間確保(小学校) いわゆる適応指導と言われる活動内容(2)の指導の現状について,最も力点を置いている項目の設問13(中学校は設問12)の比較が図41-図43である。当然のことであるが,小学校では学年段階で大きな差が見られる。低学年では、「基本的な生活習慣の形成」が圧倒的で78.3%である。家庭や幼稚園教育の延長から小学校への適応指導に,大方の学校では,基本的な生活習慣を第1とみなしている。
 次の「健康で安全な生活態度の形成」10.2%については通学路の安全指導など交通安全も低学年の大きな指導課題であることを示している。
 中学年では、「望ましい人間関係」が46.5%にのぼり、グループ活動が活発になる時期だけに友人と仲間はずれなど,学級内の人間関係に配慮した指導が強くなっている。「基本的な生活習慣」を選択する割合が急減する代わりに「健康で安全な生活態度の形成」が29.1%と,3校に1校の割合で選ばれている。これは、活動が活発になるにつれて通学路や校外生活の無軌道な行動が危険になってくる背景が考えられる。
 高学年になると「望ましい人間関係」は62.8%に跳ね上がって来る。
 そして「不安や悩みの解消」が14.9%と青年期の指導に傾いて来るのである。
図42学級活動の時間確保(中学校) 中学校では,「望ましい人間関係」が31.4%と最も高い選択率である。小学校高学年での62.8%と比べて半減するが,中学校では青年期の健全な生き方や学習能力の向上指導などが前面に出てくるからで,「望ましい人間関係」が3校に1校選択されたことはいじめ問題など深刻な生徒指導が強く意識されていることは想像するに難くない。この「望 ましい人間関係」が選択された割合を学校規模で見てみると,小規模校24.6%,中規模校30.0%,大規模校39.7%と,学校規模に比例して人間関係の育成が強く意識されていることも暗示的である。また,「健全な生き方」「自主的な学習の意欲」「個人的な不安や悩みの解消」「健康で安全な生活の形成」や「青年期の理解」と10%台で並ぶのも中学校の特徴であろう。「学校図書館の利用や情報の適切な活用」の0%、「性的な発達への適応」が1%であるが,中学校では力点のおきかたがそれぞれの学校の実態に応じてかなり分散されていると言えそうである。
図43ホームルーム活動時間の活用(高等学校) 高等学校では、「望ましい人間関係」を選択した学校が50%と最も高い。中学校の30%台と比べても高い割合であろう。高校中途退学や不登校問題は深刻になっており,学校生活への適応指導に悩む高等学校の姿を映しているようである。次いで「人間としての生き方探求」が20%弱、「主体的な学習態度等」が10%半ばと高校生の課題に取り組んでいるが,これからの情報化、国際化、男女共同参画社会に生きる生徒に求められている「国際理解と親善」「学校図書館の利用や情報の適切な活用」や「男女相互の理解と協力」などがほとんど選択されていない実態からは,特色ある高校づくりのテーマで取り組む姿が見えて来ないのである。
 また,人間としての生き方の自覚と自己を生かす能力の育成という特別活動のねらいに迫るために,特に中学校や高等学校では活動内容(3)が強調されているところである。その進路学習の現状を中学校設問13,高等学校設問14で中学校、高等学校を比較して見よう。
 「進路適性の吟味」については、「ほぼ達成」と「ある程度達成」の合計が中学校78.6%、高等学校78.1%でほぼ同じ結果になっている。しかし、「進路情報の理解と活用」では中学校が83.4%、高等学校が63.8%,「適切な進路の選択」では中学校が85.2%、高等学校が73.6%と高等学校の値が低くなっている。さらに,「望ましい職業観の形成」では中学校67.3%に 対し高等学校48.2%、「将来生活の設計」ではそれぞれ45%、26.3%と中学校と高等学校で差異が際立っている。
 これらのことから、高等学校では,ホームルーム活動での進路学習が中学校ほど行われていないようにも見える。また,中学校での進路学習の基礎の上で高等学校の進路学習が展開されることを考えれば,中学校と高等学校の進路指導が必ずしも一貫性が保たれているとは言い切れないことを示しているようである。
 さらに,中,高等学校ともに「望ましい職業観」「将来生活の設計」の達成が低い数値になっているということは、進路指導が依然として,上級学校への進学指導に傾いている問題が浮かんでくる。
 学級(ホームルーム)活動が充実しなけれ特別活動全体の推進はないといわれている。特別活動の中核としての学級(ホームルーム)活動を受け持ち、推進していく土台づくりを担っている学級担任・ホームルーム担任の役割は極めて重要であり、これからの特別活動の発展の鍵を握っているとも言える。これからの教育課程の基準づくりを急いでいる教育課程審議会の「中間まとめ」が発表されたが,特別活動の現状と課題については,次のような指摘をしていることを十分に踏まえて各学校での実践に取り組んで行きたいものである。「・…しかしながら,学級(ホームルーム)活動では,教師の指導の下では活発に活動するが,児童生徒が自主的に集団生活上の問題を解決するなどの点においては必ずしも十分な状況ではない。また,児童生徒の人間関係や連帯感,集団の一員としての自覚や責任感の希薄化,体験不足が問題になる中で,家庭や地域との連携を図りながら,自然体験や地域の人々との幅広い交流など社会体験等を充実する必要がある。」


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