研究のまとめ

 本研究の成果として以下のような校内LANの効果的利用法や校内LAN利用の可能性が見いだせた。
(1)  校内LANの様々な効果的利用法
@  インターネット上の豊富な教材コンテンツの利用
 校内LANに接続されているコンピュータを使って,学校で所蔵している限られた教材の枠を越えて,インターネット上の豊富な教材などを児童生徒に提示することができた。これにより,児童生徒の興味・関心が高まり,効果的な授業を行うことができた。特に,動画などの「動きのある教材」は,児童生徒の学習意欲を向上させ,実感として理解させることができ「わかる授業」のための極めて効果的な道具となりうるものである。
 さらに,こうした教材のWebページアドレスを校内のサーバに整理し,リンク集として一元的に管理することで,教師や児童生徒が必要に応じて,簡単にアクセスすることができ,効率よく学習を進めることができる。授業で使いやすい素材を厳選し,展開の中で意図的に活用していけるように,情報を蓄積していくことが必要である。茨城県スクール・ネットは,そうした素材を集めるのにたいへん役に立った。
A  校内イントラネットにおけるWebサーバの利用
 校内LANの整備はファイルや周辺機器の共有,インターネットへの同時接続などを可能にした。さらに校内イントラネット上にWebサーバを構築・運用し,そこに教材を置けば,いつでも,だれでも利用することができるようになった。
 教師にとっては,教材や資料を整理して授業で活用ができ,それらを改良しながら蓄積すれば,よりよい授業実践につながる。また,児童生徒にとっては,予習や復習など自主的な学習に利用することができた。蓄積された情報は学校独自の財産となり,また学校間のコラボレーションに発展させることも可能である。
B  Web教材や電子掲示板の活用
 前述のWebサーバを利用することにより,校内の多くの場所でWeb教材を効果的に活用できるようになった。さらに,ASPCGIによる電子掲示板を設置することで,児童生徒が互いに情報を受信・発信し,自己の学習に生かすことができた。その情報をさらに蓄積し,整理して提供すれば,児童生徒間の情報交換によりいっそう役立っていく。
 こうした学び合いは教師のアドバイス以上に,児童生徒の支援になりうると考えられる。グループウェアは情報交換による学び合いに適しており,児童生徒が自己を振り返りながら活動できるという点でも有効であった。
C  ファイルサーバを活用したプレゼンテーション
 児童生徒の伝え合う力を育成するためには,プレゼンテーション能力を高めることが必要である。コンピュータのプレゼンテーションソフトを使って,自分の思いを伝えることは,児童生徒の学習意欲や創意工夫を促す活動であり,さまざまな教育活動の場面で活用できると思われる。
 校内LANによって,こうしたプレゼンテーションソフトがどこでも,だれでも自由に使えるようになれば,さらに児童生徒の意欲は高まるであろう。この際,ファイルサーバを活用すれば,ファイルサイズがある程度大きくなっても保存が可能になるし,校内のどこからでも自分のファイルを取り出すことができる。また,児童生徒の作品等をディジタル化して蓄積し,児童生徒の振り返りの活動や次年度の活動の参考にするなどディジタルポートフォリオとして利用することもできる。
 プレゼンテーションソフトは児童生徒の学習の道具としてだけでなく,教師の教具としての役割も果たす。板書時間の短縮や,効率的な説明などに大いに活用できる。
(2)  授業への校内LAN利用の可能性
 インターネットにはいろいろなサイトがあり,とても内容が豊富であるため,授業で の利用範囲は広い。そのため,LAN はインターネットに接続するための方法と考えら れ,多くの場合,インターネットの活用のみに利用される場面が多いと思われる。
 しかし,インターネットに接続できる校内LANの環境があれば, Webサーバグループウェアの導入などにより,インターネットで行われていることと同様のことが校内LANにおいてもでき,インターネットと同じように利用できる可能性が校内にもあると考えられる。
 今回の研究では,研究協議や研究授業などを通して校内LAN利用の可能性についても探ったが, LANに接続されているパソコンに周辺機器をつないで利用したり,様々なソフトウェアを利用したりすることで,多くの利用方法があることがわかった。具体的には,ディジタルカメラ,ライブカメラ ,温度計測装置をはじめとした各種センサ類などの利用,イントラネット構築のためのWebサーバをはじめとした各種サーバ電子掲示板グループウェア, ネットワーク上でできるクイズなどの豊富なソフトウェアの利用などである。特に,インターネットには, LAN環境で利用できるソフトウェアが驚くほど多数存在しており,これらをうまく利用すれば,これまでにない新しいタイプの授業が可能になると思われ,そのアイデアや可能性は無限にあると言ってもよい。
 そこで,校内LANを効果的に利用するとどのような授業が可能になるか,今回の研究協議をもとにまとめたのが以下である。
@  場所や時間を超えた情報の提示あるいはやり取りを行う授業が可能になる。
 たとえば, ライブカメラを使えば,教室以外の場所の様子を授業中に見ることができるし,理科の実験では,教室から理科室の実験器具をリモートコントロールして,結果をカメラを使って送信,教室のプロジェクタで見るといったことも可能になる。
 また,電子掲示板などに授業の考察などを書いておくと,他のクラスの児童生徒や1年後の後輩達にアドバイスなどを送ることもできる。
  A  板書時間などを節約した効率のよい授業が可能になる。
 公開授業でも行われたが,板書事項をプレゼンテーションソフトなどのデータファイルにしてメニュー化し,校内LAN上のサーバに載せ,授業中にダウンロードして板書のかわりにプロジェクタで映すことで板書時間が節約できた。これは,複数の教師が同じ授業を何クラスもする場合には特に便利である。また,欠席した生徒がいる場合には,後でサーバアクセスして板書の内容を見ることもできる。
  B  サーバの活用により授業に関係した情報の蓄積・管理や加工がしやすくなる。
 授業研究の中で,授業中に電子掲示板に書き込みしたり,クイズの問題を入力したりする児童生徒の存在が特に目をひいた。普段の一斉授業ではほとんど見ることができず,新鮮に感じられた。校内LANの中にサーバをたてて電子掲示板などを設置することで,近くのパソコンからいつでもサーバへの情報入力が可能になり,より多くの情報が蓄積できるため,より多様な活動となり得ることを実証する場面であった。
 蓄積された情報やWeb教材などは,教師にとっては,サーバで一元管理できるので整理が楽になり,児童生徒には整理された豊富な情報を使うことで調べ学習などでの情報の加工作業が楽になる。この一元管理する例として,研究協議の中で,「全文検索システムNamazu」の紹介があった。このソフトは,検索エンジンのように検索語を入力してWebページWebサーバ)内の情報検索を行うためのものであるが,このようなシステムも思ったより簡単に構築できることがわかった。蓄積された情報が多ければ多いほど,非常に有効に使えるシステムと考えられる。
(3)  本研究を振り返って
 本研究を振り返ると,校内LANを利用する授業における様々な有効性を見いだすことができた。
 校内LANの利用というと,インターネットの利用を主に考える傾向があるが,Webサーバの利用により,様々な利用が可能になり,授業の幅に広がりがみられ,児童生徒の学習意欲も大きく向上した。
 さらに,学習活動においても,児童生徒が情報を受信・発信することで,主体的な学習が行われ,児童生徒間の情報交換による学び合いが可能となった。
 また,校内LANは,利用のアイデア次第で「いつでも,どこでも,だれでも」自分に合った適切な学習が進められる可能性を秘めている。
 教師一人一人の校内LANを利用する授業の取り組みが,やがては児童生徒にとって大きな学習成果をもたらしていくものと確信している。
 本報告書は,一人でも多くの教師が校内LANの有効性を理解して,授業に利用してほしいという願いを込めてまとめたものである。校種・教科別の事例を資料1にまとめたので,各学校での実践のヒントにしてほしい。


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