【授業研究5】  中学校第2学年社会科「世界の国々の調査−大韓民国−」
−校内LANを活用した,生徒一人一人の興味・関心に応じたコース別学習−
  大洗町立南中学校 教諭 鈴木 稔

(1)  校内LAN利用のねらい
   本校では,校舎改築によって平成12年に県下初の教科教室型の校舎が完成した。それにともない校内LANも整備され,校務室内だけでなく各教科教室および各メディア室(各教科教室に隣接するオープンスペース)にそれぞれ数台ずつのコンピュータが設置された。
 新校舎での学校生活が始まるのと同時に,校内LANの活用についても検討がなされた。それはおもに次の二点を中心に進められている。
 一つは校務における活用である。校務の処理において,各教師が個人のプリンタを持ち込むことはなく,文書等の印刷は校務室に設置してあるインクジェットプリンタやページプリンタで行っている。また作成した文書については,ファイルサーバ内に整理された校務分掌ごとのファイルに保存され,校務の効率化をはかっている。
 もう一つは授業での活用である。卒業までにインターネットを活用した学習,ワープロ・ディジタルカメラ・プレゼンテーションソフトの活用などを経験し,その技能を習得できるように考えている。例えば,英語科の学習における電子メールでの海外の生徒との交流や各教科での調べ学習,総合的な学習の時間の表現活動,国語科や保健体育科などでの発表学習など,さまざまな教科・領域においてコンピュータを活用した学習が行われている。また,そこで作成されたデータについては,ファイルサーバ内に設けた各個人のファイルに保存するようにし,3学年を通じてそのフォルダに学習の足跡を残していくようにしている。
 しかし,授業における活用という点では,まだまだ十分に活用しきれていないのではないかというのが実感である。今後は,生徒一人一人に対応できるというコンピュータおよび校内LANのよさを生かした活用法を模索していきたいと考えている。例えば,教師や生徒がそれぞれ学習活動に利用できるコンテンツを蓄積していくこと,個人の意見や考えが蓄積できる場を整備していくこと(ポートフォリオ的な個人フォルダの作成,教師へのワークシート・作品等の提出)などでの活用である。
 本授業研究では,これまでの活用例を踏まえて校内LANの特性のうちインターネットコンテンツによる情報の収集,学習事項の蓄積およびそのCAI的な活用を授業の中に取り入れ,実践を行いたいと考えた。
 
(2)  校内LANの利用環境
  教師用11台
  校務室内: 一般用3台,インフォメーションボード用1台,
学校事務用1台,移動用ノート型3台
  校務室外: 保健室,美術科・技術科準備室各1台
     校務室の各教師の机上にはHUBが設置されており,個人用のコンピュータも校内LANを利用できる。
 
生徒用43台 (コンピュータ教室21台,中央・国際・数学・理科メディア各4台,国語メディア4台,家庭科教室,生徒会室各1台)
  サーバ用1台(WindowsNT)
 
ネットワークプリンタ18台 (インクジェットプリンタ15台,ページプリンタ2台,カラーページプリンタ1台)
 
(3)  授業の実践
  @
単元名 第2学年社会科・地理的分野「世界の国々の調査」
−テーマを決めて調べよう『近くて遠い国,韓国』−
  A  単元の目標
     韓国の自然や産業,文化等について,自分なりの視点をもって,その地域的特色を調べるとともに,日本との深いかかわりに関心をもつことができる。
      (社会的事象への関心・意欲・態度)
     地球上の位置や産業の発展する姿等,日本に類似している韓国が,さまざまな点で日本とは異なる面をもっていることに気付き,その独自性を認めるとともに,日本のよさにも目を向けることができる。
      (社会的な思考・判断)
     教科書や図書資料,インターネットのWebページなどから,学習課題に応じた情報を見つけ出し,それらを活用しながら,韓国についてのテーマ学習をまとめることができる。
      (資料活用の技能・表現)
     自然や産業,文化等について,日本と韓国の相違に気付き,比較することなどを通して,韓国の地域的特色を把握することができる。
      (社会事象の知識・理解)
  B  指導計画(6時間扱い)
   
第1次   学習のあらましをつかむ。   -----------   1時間
<韓国の地勢,産業の概況,歴史・文化等の概説を行う。一斉授業>
第2次   自己の課題を選択し,調べ学習を行う。   -----------   2時間
<学習課題を設定し,様々な資料を選択し,自分の考えをつくる学習を行う。個別学習>
第3次   コース別学習に取り組む。   -----------   2時間
<個人の興味や関心にもとづき,深化・補充の学習を行う。個別学習・グループ学習>
第4次   学習のまとめをする(学習ワークと評価テスト)   -----------   1時間
  C  本時の指導
     目 標
       自分の興味・関心にもとづき,めあてをもってコース別学習に取り組むことを通して,韓国の地域的特色への理解を深めることができる。
     準備・資料
      @ 個人ノート  A 自己評価カード
     展 開
     
 
(4)  授業の結果と考察
  @  学習の流れについて
     授業はビデオの視聴および地図帳とワークシートを活用した学習によって,韓国の概要をつかませることを導入とした。隣国であり,ワールドカップ共催,アーティストの交流など,生徒たちにとって身近な話題も豊富なため,物理的・心理的な距離の近さから意欲的に学習に取り組む生徒が多く見られた。
 生徒にとって国家規模の調査活動は,アメリカ合衆国,EUに引き続き三度目で,視点の作り方にも慣れており,自然や産業,歴史,伝統・文化などさまざまな視点で韓国について調べていった。調査内容が韓国の基本的な事項であるため,資料集や地図帳,地理データベースソフトを活用しながらまとめていった。さらに,それぞれのまとめた内容を相互に評価し合う場を設け,総合的に韓国のイメージをもてるように配慮した。また,コース別学習では,それぞれの興味・関心をもとに多様な学習が展開した。
 学級によっても差はあるが,おおよそ右のような選択の傾向で学習は進み,Bコースではフリーソフト「quiz」の活用,Dコースではインターネットコンテンツの活用が多く見られた。またコンピュータを使用して活動を進めていた生徒は,全体の約1/3程度であった。
 Bコースの生徒は,ドリルを使用した問題練習や「quiz」での問題づくりを行っていた。Sコースでは,相互評価の場面で興味をもった事項について調べたり,工業について調べた生徒が,関連で農業について調べたりしていた。Dコースの生徒は,自然から観光,食文化からキムチ,日韓の文化の違いから韓国における現代の流行など,調査の対象がさまざまなものへと発展していった。ほとんどの生徒が,意欲的に学習を進めることができた。興味・関心にもとづく授業の効果を確かめることができた。しかし,資料の準備不足から,活動が停滞する場面があり反省点となった。また指導者が一人しかいないという点で,学習を効果的に進められなかったのではないかという反省もある。生徒同士の学び合いの習慣化やティームティーチングの採用など,工夫をしていく必要性を感じた。
  A  子どもの学びについて
     インターネットコンテンツ活用の様子
       ある生徒は導入の学習で「日本に似ている」,「食は日本で今ブームなものがほとんどでスゴイ」と感想を書いている。それをきっかけにして個人課題を『日本との文化のちがいについて』とし,調査活動を進めていった。さらにコース別学習ではDコースを選択し,『韓国の若者文化』を課題とした。最初の調査活動で食文化や民族衣装,宗教などを調べ「韓国って似てるようで似ていないなぁって本当に思った。」と述べたその生徒の関心が発展し,「前の調べ学習は昔ながらのだったから,今回は韓国の若者の視点から調べたい。例えば流行っているもの等を比較しながら調べたい。」という理由からの課題設定であった。普段から流行のファッションや歌手などに関心を示し,自分なりのこだわりをもって生活しているその生徒のよさが,意識の連続した学習を成立させたと考える。
 このようなこだわりをもった学習のなかで,インターネットコンテンツは有効に活用された。その生徒は,韓国の若者が訪れる人気のスポットや流行しているファッションや小物類など,リアルタイムで発信されるインターネット上の情報を活用して調査活動をまとめていった。感想の中で「若者文化はホント日本にそっくりでびっくりした」と述べており,総括的なまとめとして「韓国は,昔はあんまり似ていないけど今はとっても似ている『近さが縮まってきた韓国』って感じかな」と学習を結んでいる。
     フリーソフト「quiz」活用の様子
       今回使用した「quiz」は,インターネットのサイトから取得したフリーソフトで,三択問題を作成しMicrosoft社のAccessにデータを蓄積していくソフトウェアである。
 また、別のある生徒は個人課題を『韓国と北朝鮮の違い』とし,それぞれの国の現状について調べていった。その感想を「テレビなどで深刻な問題が報道されている北朝鮮,ある程度は豊かで恵まれている韓国。どうして隣の国なのにかけ離れて違うのだろう。」と述べ,さらに「それぞれの国についてもっと詳しく知りたい。そしてみんなにも知ってもらいたい。」と結んでいた。北朝鮮について授業の中で取り上げることはなかったが,クイズという形ではあっても,その現状を少しでも友達に伝えたいというその生徒の思いが,Bコースの選択という行為となって表れたものと考える。
 2時間の学習のなかで,「韓国と北朝鮮が分かれるきっかけとなった戦争の名前は?」「北朝鮮の飢餓の原因となっている自然災害の名前は?」など,十数問の問題を作成した。
 自分の思いを他者に伝えたいという意識から発展したその生徒のBコースでの活動は校内LANを活用した授業研究において,双方向性の活用という課題も含めて,大きな示唆に富んでいるといえる。
 
(5)  授業研究の成果
  @  インターネットコンテンツを活用した調査活動の成果
     本授業研究では,興味・関心にもとづいてコースを選択し,めあてをもった学習に取り組むことを活動の中心とした。個人単位の活動となるため,コンピュータの効果は大きなものであった。生徒は1年生のときから,地理学習用のデータベースソフトを活用してきたため,コンピュータを活用した調査活動に抵抗はなかった。
 しかし,今回のように多様な学習課題が生まれてくるとソフトウェアでは対応しきれなくなってくる。そこで,インターネットコンテンツを利用して調査活動することによって,それらに対応することが可能となった。実際の授業でインターネットコンテンツを活用して調査活動をしていたのは,3分の1弱の生徒であった。特に,現代の韓国におけるファッションや音楽チャート,食文化,観光などの調査をしている生徒には有効であった。
 その他の生徒は,図書資料やソフトウェアなどを活用して調査活動を行っていた。インターネットを調査方法の一手段として活用している点に,1年生のときなどと比べて学習方法上の進歩が見られたと考える。
  A  フリーソフトでの情報蓄積による基礎事項定着の成果
     今回使用した「quiz」は,入力項目が少なかったり,解答方法が三択であったりするなど操作方法が非常に簡単で,生徒に抵抗なく受け入れられていった。これまで学習してきたことから,どの問題にするかを選択すること,誤答例を考えることなどを通して,学習事項の定着をはかっていく姿が見られた。自分で学習してきた成果が形となって残ること,それを友達が活用してくれることも喜びとなって,生徒は意欲的に活動していた。またサーバ内にデータを蓄積していったので,昼休みにコンピュータを開放し,練習問題として取り組めるようになった。
 
(6)  今後の課題
  @  校内Webページの整備
     本授業実践でとりあげた韓国は,教科書の範例としては掲載されていない。そのため,調査活動のための資料は授業者が準備することになるが,その都度準備するにも時間が限られているのが現状である。そこで,多くの学校で行われているように,リンク集を中心とした学習用の校内Webページを整備する必要があると考える。これには学校を挙げての取り組みが必要なので,校内研修等で意識の高揚を図りながら計画的に進めていきたい。
 また,調査活動のまとめなど,生徒の作品についてはサーバ内に蓄積し,校内Webページ上で公開していきたいと考える。それらは,次年度の生徒が活動する際の参考作品としたり,教師の授業づくりの一助となりえたりするであろう。さらに,生徒自身が自己評価を行う際のポートフォリオの一部としても活用できるだろう。
  A  フリーソフト活用の問題点
     今回活用したフリーソフトは,操作が簡単であるがゆえに問題点も見られた。問題作成者の名前がわからず評価ができないため,作成した問題のあとに自分の名前を括弧書きにするよう指示した。生徒は個人で問題を作成しているため,同じような問題が数多く入力されてしまったが,生徒のもった地域的特色の傾向をつかむため,今回はそのままにしておいた。また,簡単にデータを操作することができるため,いたずらなども予想できたが本実践でそれらは見られなかった。
  B  校内LAN利用と学習の関連
     本授業実践における生徒の様子で最も感心したのは,生徒が学習情報を「選択」しながら使用していたことであった。ともすると,機器利用やインターネット利用のみに目や時間が奪われ,調査は終わらず,学習自体の成果もあがらずに授業時間が終わってしまうということもある。(小学校のときも含めて)これまで十分にコンピュータに慣れ親しんできた成果であると思った。
 学校全体としてあるいは小学校や高等学校と連携しながら,ネットワークの利便性に触れさせる部分について「どの時期に,どのようなことがらを,どのような学習を通して」身に付けさせていくのかを計画的に行っていく必要性を感じた。


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