【授業研究3】
   高等学校第3学年日本史「世界は日本をこう見た〜外国人の滞在記録から〜」においてより深く多面的に考える学習指導の在り方
 
(1)  授業の構想
   本研究の研究主題である「自らの問題意識をもとに,調べて考える学習指導の在り方」に迫る一つの方法として,学習問題を設定する際に自分の生活との関わりを意識できるテーマを選び,調べる観点を提示して追究内容を明確化し,追究した結果についてより考えを深める発表会や意見交換を行うことが考えられる。
 本学習は「世界の中の日本」を意識し,日本をより深く多面的に考えることをねらいと,している。まず問題意識を持つ過程では,現代における外国人による日本認識に対する感想を書かせながら,外国人による日本評価への興味・関心を喚起させる。調べ・考え・まとめる過程では,教師が提示したWebページで情報を収集しながら興味・関心を持った外国人を選び,その外国人の日本評価を調べ観点別カードに書き込む。そして,同時代の外国人を選択した生徒同士で班を編成したうえで,班内で各自調べた外国人の日本評価を発表し,各時代における外国人の日本評価の特徴を話し合い,ストーリーボードを使ってまとめる。表現する過程では,コンピュータのプレゼンテーションソフトを活用して「外国人の○○時代の日本評価」を作成し,班ごとにどの時代にも共通した日本評価をまとめ,全体で各班の内容について意見交換を行い「私は日本(人)をこのように見る」という題で各自の意見をまとめ,自らの見方・考え方を深めさせたい。これらの学習過程の中で,調べまとめ発表する際には学習のねらいにそって的確に取組みかつ様々な考え方ができるように「学習のてびき」 を作成する。
 
(2)  指導の手だて
   自らの生活とのかかわりを意識できる学習問題設定の工夫
     生徒が現代の生活との接点を意識できるように,現在日本に滞在している外国人は日本又は日本人をどのように見ているかを調べたある研究機関のグループリサーチを活用する。
   自ら調べ考えるための工夫
    (ア)  Webページリンク集の活用
       外国人のプロフィールやその著書の概要をつかめるように,授業者があらかじめWeb検索して作成した時代別外国人及び著書リンク集を活用する。
    (イ)  参考文献(滞在記録)の活用
       外国人が日本をどのように評価していたのかを直接読み取ることができるように,彼らの滞在記録を活用する。
    (ウ)  観点別カードの活用
       調べる観点を提示して何を追究するのかを明確化し,外国人がどのような点で日本を評価していたのかを整理しやすいように観点別カードを活用する。4つの観点に記録を書き分けるために4色のカラーカードを使って見分けやすくした。
   考えを深める発表会・意見交換会の工夫
    (ア)  班内意見交換の場の設定
       各時代の日本評価の特徴について考えることができるように,各自調べた日本評価のポイントを班内で発表し合う。
    (イ)  ストーリーボードシートの活用
       各時代における日本評価についての発表の構想を立てることができるようにストーリーボードシートを活用する。ストーリーボードシートとは,プレゼンテーションソフトによる発表の構成を考えるためのものである。
    (ウ)  プレゼンテーションソフトの活用
       班ごとにまとめた各時代の日本評価の特徴を効果的に発表することができるように,プレゼンテーションソフトを活用する。
   自らの意見を深化できる工夫
    (ア)  共通評価シートの活用
       各班が発表した時代ごとの日本評価の特徴を踏まえて,どの時代にも共通した日本評価についての意見がもてるようにする。他の班の発表内容を意識し,班ごとにまとめることで各自の意見を深めあうことができると考える。
    (イ)  各班の共通評価を参考にしながら自分の意見を具体的にまとめ,どの時代にも共通した日本(人)の見方について理解できるようにする。
 
(3)  学習指導案
   単元について
    (ア)  教材観
       近年,日本人はアイデンティティーを喪失したとか,日本人は日本人としての誇りをなくしてしまったとか,日本や日本人に対して否定的な表現で語られることが多くなってきているように思う。だからこそ,NHKの『プロジェクトX』という番組がもてはやされたりしているのだろう。歴史教育においても,日本人のアイデンティティーの確立と外国から日本がどう見られているかという「世界の中の日本」を意識する重要性を認識させ,日本人としての誇りを持ちながら,外国人との相互理解を深める精神の育成に大いにかかわる必要があると考える。そこで,本単元は,過去に日本に滞在したことのある外国人が日本をどう評価していたのか,彼らの滞在記録(日記・見聞録・印象記・紀行文・日本論など)を通してその特徴をとらえさせる。そして,日本とはどういう国か,日本人とは何かについて考えさせる機会にしたい。
    (イ)  指導計画(20時間)
     
   本時の指導
    (ア)  目 標
       プレゼンテーションソフトを活用して作成した各時代における外国人の日本評価の特徴について,班ごとに考察結果を効果的に表現することができる。
       相互評価シートを活用して,各班の発表内容と発表の仕方について相互評価できる。
    (イ)  展 開
     
 
(4)  授業の考察
   自らの生活との関わりを意識できる学習問題設定の工夫
     まず「日本(人)を意識するとき」という課題を設けたことにより,普段は気にもとめない身の回りにある物や,何気なくとっている行動に生徒たちの意識を向けることができた。日本に滞在する外国人から直接聞き取り調査をした資料を提示したことで,生徒たちは「今の日本人は(自分たちも含めて)日本のことを知らなさすぎなので,日本(人)のこと特に良い所をもっと学ぶべきである」という問題意識を持って,「外国人による日本の見方をさらに知りたい」という追究意欲をもつことができたようだ。
   自ら調べ考えるための工夫
    (ア)  Webページリンク集の活用
       授業者がWeb検索して作成したリンク集は,信頼性を確認済の情報を効率よく収集するという点から有効であった。生徒たちは外国人選びに必要な情報を戸惑うことなく短時間で収集していた。そのため,自主的に他のWebページを検索し比較検討する生徒もいた。
    (イ)  参考文献(滞在記録)の活用
       生徒1人につき1冊の参考文献を用意したことで,自分がこの外国人の日本評価の紹介者であり責任者であるという自覚を持って調べ学習に打込む態度が見られた。そして一部の外国人(著書が見つからず評伝を使用)を除いて彼らの滞在記録を活用したことは,彼らの日本評価に対する生の声を直接受け取ることができ有効であった。
    (ウ)  観点別カードの活用
       調べる観点を明示したことによって記録するポイントがつかめ,参考文献を読み物ではなく資料として活用しようとする様子を見ることができた。また記入のてびきを配付したことは,外国人による日本(人)の観察内容を日本(人)の評価として捉え直すのに役立ったようである。しかし,日記のようなものは,一部分から外国人の日本への評価を推定しにくい面を持っていた。この場合は,カードの記録は観察内容の抜き書きにとどめるべきであった。
   考えを深める発表会・意見交換会の工夫
     まず班内意見交換会は,調べた本人しか知らない外国人の日本評価を紹介しあう場であったため,発表者・聞き手双方興味を持って話し合いに参加でき,様々な日本評価の特徴をとらえることに有効であった。ストーリーボードシートの活用は,発表のイメージを具体化させるのに役立った。発表の準備については,プレゼンテーションの方法・技術に力を注ぐあまり,考察結果にポイントを絞りきれない班が目立った。しかし,各班の発表のレジュメを見て,次時の授業につながる時代共通の日本評価のポイントを知ろうとする前向きな姿勢も見られた。
   自らの意見を深化できる工夫
     どの時代にも共通している日本評価について,改めて考える機会を設けたことにより,昔と今の比較や時代ごとの背景など各自意見を掘り下げることができたようである。さらにまとめ用紙に記入する最後の段階では,日本(人)の見方についてよく理解したうえで冷静に自分の意見をまとめることができたようである。


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