【授業研究2】
   中学校第2学年「地域の規模に応じた調査−世界の国々」における情報交換の場を重視した学習指導の在り方
 
(1)  授業の構想
   本研究の主題は,「自らの問題意識をもとに,主体的に調べて考える社会科学習の指導の在り方」である。北俊夫氏は,自ら問題意識をもつとは,生徒が「社会的事象との出会いによって生まれた興味・関心や驚き,疑問」や,「今までの生活経験との違いから生じる意識」をもつことであると述べている。このことから,問題をつかむ段階において,友だちと経験や知識をもとに話し合うことを通して自ら問題意識をもつことが,生徒が主体的に調べ考える学習を進める上で大切であると考える。
 本単元「地域の規模に応じた調査−世界の国々」は,地域的特色を明らかにする調査方法を身に付けるために,一つの地理的事象を取り上げ,なぜこの地域ではこのような地理的事象が見られるのかを追究する学習活動である。一つの地理的事象をもとに生徒が主体的に追究を進めるためには,生徒が地理的事象に対して,明確な問題意識をもつことが重要であると考える。そしてこの問題意識を,今の自分たちに身に付いている経験や知識でどこまで追究できるのか,さらに追究するにはどのような調査方法や資料が必要かを意識することではないかと考える。そのような意識を生徒がもつためには,なぜこのような地理的事象が見られるのかの予想について,生徒が互いの考えや情報を交換し合いながら検討できる場を設定することが有効ではないかと考える。そこで,次の三点について工夫を取り入れた。
   予想を検討し合う場の設定
   生徒の発言の予測と指導・支援の構想
   ティーム・ティーチングによる指導・支援
   これらによって,生徒は地理的事象の背景や要因に明確な問題意識をもち,主体的に追究するようになるのではないかと考え,本授業を構想した。
 
(2)  指導の手だて
   予想を検討し合う場の設定
     生徒が明確な問題意識をもつことができるように,地理的事象の背景や要因を予想した後に,全員で検討し合う場を設定する。そして,身に付けている経験や知識でどこまで追究できるか,さらに追究を進めるにはどのような資料が必要かなどについて話し合わせる。なお,生徒の意見を生かして話合いができるように,次の三点に留意する。
     生徒が各自で地理的事象の背景や要因を予想する場では,全員が何らかの予想を記述できるように時間を確保する。
     生徒全員で予想を検討する場では,身に付けている経験や知識を生かして話し合うことができるように,予想の根拠を明確に発言させる。また,「なぜ?」「どこで?」「本当に?」などの助言を教師が行うことにより,生徒の発言をつなげる。
     生徒一人一人の発言を,教師が黒板に書き留める。
   生徒の発言の予測と指導・支援の構想
     本時の学習では,大韓民国を事例地に,「日本と同じように,食事において広く箸が利用されている」ことの背景や要因を生徒が各自で予想し,さらにお互いの予想を検討しながら追究を進めていく。この活動では,生徒の発言で活動が展開しながらも,生徒が自らの問題意識が明確にもつようになることと,韓国の地域的特色が明らかにできる方向で生徒の検討が進むことが大切であり,そうなるように意図的,計画的に指導・支援を行うことが必要ではないかと考える。そこで,教師があらかじめ生徒の様々な発言を予測し,それに対する効果的な指導・支援を準備しておくことにした。このことにより,ある程度の対応を想定しておけば,予測外の発言にも的確に対応できるのではないかと考える。
   ティーム・ティーチングによる指導・支援
     生徒が明確な問題意識をもつためには,今までの経験や既習の学習内容との違いに気付かせることが大切であると考える。そこで,一人一人が自分の経験や知識を根拠に予想・検討できるように,ティーム・ティーチングによる指導体制を取り入れて支援をすることにした。そして,T2の教師は,発言できないでいる生徒の学習の様子を把握し,必要に応じて指導・支援を行う。T1の教師は,発言している生徒への指導・支援を行う。
 
(3)  学習指導案
   学習計画
   本時の学習
    (ア)  目標
       なぜそのような地理的事象が見られるのかを追究することで,韓国の地域的特色を明らかにするとともに,国家規模の地域的特色をとらえるための基本的な調査方法を身に付けさせる。
    (イ)  展開
 
(4)  授業の考察
   予想を検討し合う場の設定
     韓国でも日本同様に箸が利用されているという背景や要因について,生徒が各自で予想したことを発表し,検討し合わせた。
 まず,生徒の活動の様子について考察を述べる。授業の始まりには,緊張している様子が見られたが,発言が続くにつれて,自由に話し合える雰囲気になってきた。そして,38人中17人の生徒が発言をすることができた。また,発言できなかった生徒の多くも,友だちの発言にうなずいたり,周りの友だちと意見をやりとりしたりしていた。これらのことから,自分の考えをもちながら話合いに加わっていたものととらえる。
 次に,生徒が今までの経験や知識を生かして予想していたかについて考察を述べる。資料1は,予想及び必要な資料の検討をしている場面の発言の一部を書き表したものである。主に経験や既習の学習内容を生かしたものととらえることのできる発言は,実線のアンダーラインで示した。これらの発言の多さから見ても,生徒は主に自分の経験や既習の学習内容を生かして考察しようとしていたものととらえる。
 そして,さらに追究を進めるために必要な資料が明確になったかについて考察を述べる。資料1では,必要な資料について言及している発言を波線のアンダーラインで示した。「米の種類」「食の道具の分布」「鎖国の歴史」などの発言から,さらに追究するために必要な情報を明確につかんでいたものととらえる。これらの結果から,生徒は,予想を検討し合う場において,地理的事象の背景や要因の予想を通して,自らの問題意識を明確にとらえることができたものと考える。
   生徒の発言の予測と指導・支援の構想
     生徒の話合いによって学習が展開されつつも,取り上げた地理的事象をもとに明確な問題意識をもつようにするためには,あらかじめ教師が生徒の思考や発言を予測し,それに対応した支援を用意しておくことが大切であると考えた。そこでまず,教材研究の段階で,生徒が「韓国でも箸が使われている背景や要因」についてどのように発言するかを予測した。同僚の教師や,他学年の生徒の意見も聞くことで,多くの予想を書き出すことができた。そして類似した意見をまとめるなどして,「どこかから伝わった」などの歴史的な背景,「便利だから」や「簡単に作れるから」などの道具の特性に関する要因「手で食べると不潔だから」などの文化的な要因,の三つの視点に整理した。
 次に,それらの視点をもとに,生徒はどのような検討をするかについて予測した。ブレーンストーミング的な手法を使い,「なぜ?」「何?」「本当?」「どこで?」などと疑問を投げかけるかたちで行った。それを表したものが図1である。このことにより,どのように助言すれば明確な問題意識をもったり,専門的な内容に深入りすることを避けたりするための,適切な支援を想定することができた。
 そして,それらの視点や支援を生かして,本時の授業を展開した。図2は,生徒の発言をもとに構成した板書を表したものである。以下,具体的な展開をもとに考察を述べる。生徒から出された「箸が便利だから」という予想を検討する話合いの場において,教師はあらかじめ用意しておいた「何が便利なのか?」や「どんな地域で便利なのか?」などの助言を行った。その結果,「米を食べるためには便利」「手で米を食べる地域もある」「粘りのある米を食べる地域で箸が使われるのでは」などと追究が進み,「米の種類や,米を食べている地域を調べることが必要」との結論を得ることができた。他にも「中国から伝わったから」との予想をもとに「箸,ナイフやフォーク,手など,食べ方の地域分布を調べたい,さらに「鎖国をした国々と箸を使う国々の関係を調べたい」など」の結論を得ることができた。
 これらのことから,あらかじめ教師が生徒の思考や発言を予測し,それに対応した支援を用意したことで,生徒は明確な問題意識をもつことができたものと考える。
   ティーム・ティーチングによる指導・支援
     T2の教師が,発言できないでいる生徒の学習状況を観察することにより,より多くの生徒の様子を把握することができた。まず,生徒の多くが,友だちの発言にうなずいたり,周囲の友だちと話し合っていたりしたことが分かった。そのことから,発言できない生徒の多くが自分なりに真剣に考えていたものと考える。しかし,自分の考えを整理・発表できない生徒から理由を聞くと,友だちの発言の内容が難しいことで,どう考えたらよいか分からなくなってしまったことが分かった。そこで,T2の教師が,その生徒に個別に対応し,どう予想しているかや,なぜそう思うかなどの質問や助言をしたところ,主食との関連に気付き,追究を進めるために必要な資料についても考えることができた。
 これらのことから,ティーム・ティーチングによる指導・支援は,より多くの生徒を把握して支援することができ,生徒に明確な問題意識をもたせるために効果的な指導形態であったものと考える。


[目次へ]