【授業研究4】 高等学校地学TB「地質図」における地質模型製作を通して問題解決能力の育成を目指す指導の在り方
 
 授業研究のねらい
   地学を学習するとき,生徒たちの理解しにくい内容として「地質図」があげられる。「地質図」は,対象となる地域が広範囲に及び,全体を見渡すことが不可能であるため,図を見て実物を想像しながら学習しなければならない分野である。資料1は,3年生の地学選択クラスで実施したアンケート結果である。資料の結果より,地質分野の中で,地質図はいちばん理解しにくい内容になっていることがわかる。
 そこで,地質図は,従来,平面の図を書くだけの内容になりがちであったが,実際に地質模型を作ることにより,地質構造に興味を持たせ,少しでも身近なものとして感じさせられるようにする。また,平面的で理解しにくい地質図に見られる地質構造を,実体験により立体的に理解を深め地質構造の認識力の育成と基礎知識の定着を目指す。さらに,製作する構造は,班ごとに生徒の考えを生かせるようにする。地質模型製作を通し,課題をつかむ力,予想をたてる力,実験の方法を考える力,結果をまとめる力の育成を図りたいと考える。
 
 
 地質模型製作を通して問題解決能力を育成する手だて
  (ア)  体験を通し,課題をとらえさせる工夫
     実際に,自分たちの手で模型を作ることにより,地質図を立体的に理解させたい。地層の構造については,ある傾斜をした2枚の地層を用い,なるべく単純なもので作成したい。ある程度大きな模型を作りたいため,材料として青と黄色の発泡スチロールを2枚の地層に見立て使用する。生徒はまず,地層の傾斜角度の異なる5種類の模型を製作する。地層境界線が具体的に見えることにより,「これから地表を削ることによってどのように地層境界線が現れるか」という課題を実感を伴ってとらえさせたい。
  (イ)  地質模型製作の企画書の作成
     各班は5種類の模型から1つを自由に選択する。次に,地表面をどのように削りどのような地形にするか,班で話し合いをさせる。その際,同じようなパターンの模型ばかりにならないように,班の間で調整しながら検討させる。地表面を削る道具としては,30p角の発泡スチロールを切断できる電熱線カッターを用意し,地表面を削る前に,道具として一度使用する。そして,これから地表を削ることによって,地質模型がどのように見えるかいろいろな方向からの図を企画書に記入したり,どのように地層境界線が現れるか予想をたて企画書に記入したりする。
  (ウ)  まとめにおける工夫
     模型製作の最後に,いくつかの班が発表をする。その際,表現しようとしたことや,模型を作ってみて分かったことなどについて自由に述べる。さらに,企画書により,地層境界線が予想通りであったか,または,どのように異なったか確認できるようにする。そして他の班の模型と自分たちの模型の比較検討や,自分たちの地層境界線の予想と実際(結果)の比較検討を通して結果をまとめる力を育成する。
 
 授業の実践
  (ア)  単元名 地層中の記録
  (イ)  指導計画(7時間)
   
第1次 走向・傾斜とクリノメーター (1時間)
第2次 地質図 (4時間) (本時はその2,3時間目)
第3次 地質断面図 (1時間)
第4次 地質調査とルートマップ (1時間)
  (ウ)  「地質模型製作」の指導
     目標
       傾斜した地層の表面を削り,地層境界線を見る実験で,表面の地形とできる地層境界線の関係を考えることができる(思考・判断)
       地質模型製作の技能を習得するとともに,地質構造について科学的に探究する方法を身に付け,地質模型製作の過程や結果及び,そこから導き出した自らの考えを的確に表現する(観察・実験の技能・表現)
     展開
     
 
 授業の結果と考察
  (ア)  体験を通し,課題をつかませる工夫について
     授業第1時に,2枚の地層に見立てた2色の発泡スチロールを張り合わせ,地層の傾斜角度が0°,約30°,約45°,約60°,90°の5種類の模型を製作した。張り合わせた段階では,直線に見える地層境界線が,地質図上では,一般に曲線であることを考えさせることにより,本時の課題を実感としてとらえさせることができた。
  (イ)  地質模型製作の企画指導の工夫について
     各班は5種類の模型から好きなものを選んだ。地質模型を加工する前に,各班ごとに話し合ってどのような地形を作るか地層境界線がどのように現れるか企画書を書いた。いろいろな地形ができるように指導したが,このことにより,地形を作るための加工の方法を考えたり地層境界線の予想を立てたりすることができた。アンケート結果においても,7割の生徒が企画書作成が模型製作に役立っていると答えている。各班に,考える場や選択する場を与えることにより主体的に作業に取り組めたと考えられる。
   
   
  (ウ)  まとめにおける工夫について
     資料2は各班で製作した模型の図であり,資料3は各班で製作した模型の地形の特徴と地層境界線の現れ方である。どの班をとっても同じ地形はなく,地層境界線も多様な形で現れたことが理解できた。いくつかの班が,自分たちが製作した模型について,特徴,工夫した点,地層境界線の現れ方について発表をした。地形が多様であっても地層の傾斜角度が90゜の場合は,地形に関係なく地層境界線が一直線に(3班,8班,0゜の場合は,地層境界)線が等高線に沿って(7班,10班)現れることがよく理解できた。
 模型製作前に各班ごとに地層境界線の現れ方について予想を立て,製作後比較したが,ほとんどの班で,予想と違っていた。資料4は,6班と7班の地層境界線の予想と実際である。空間的に地層や地層境界線を考えることの難しさがうかがわれる。地層境界線は,身の回りでは,表土や植物に覆われていることが多く観察することが難しい。簡単な地質模型製作を通して,地層境界線の予想と実際(結果)の比較を行い,その違いの原因を考えたり,他班の地形・地層境界線と自分たちのものを比較して違いを考えたりすること授業風景で結果をまとめる力が育ったと考えられる。
   
  (エ)  意識調査について
     資料5の実習前後の意識調査から次のことが考察できる。「1 実験・実習をする時,ねらいがわかってから始めていますか」では,肯定的に答えた生徒の割合は32%から77%となった。第1時に5種類の模型を製作することにより,普段より具体的にねらい(課題)がわかったと考えられる。項目2では,47%から83%となった。第1時に電熱線カッター を使い5種類の模型を製作し,次に話し合いながら地表面を削りどのような地形にするか考えたことは,普段より用具や実験方法がわかってから始められたことを示している。項目3では,32%から57%となった。第1時で立体的な模型を目の前にすることにより,地層境界線がどのように現れるかの予想を普段よりできたと考えられる。項目4では,21%が37%となった。自分の考えや意見を出して実験・実習をすることは,高等学校の高度な内容では難しいものがある。今回は,立体的に考えなければならない難しい内容にもかかわらず,簡単な実習を用意することにより,自分の意見や考えを出せたと考えられる。
 
 授業研究の成果
  (ア)  最初に,地層の傾斜角度の異なる5種類の地質模型を製作する体験をしたことは,立体的に把握しにくい課題を,実感を伴ってとらえることができた。また,難しく感じられていた地質構造というものを身近に感じることができた。
  (イ)  地質模型を加工する前に,どのような地形をつくるか,地層境界線がどのように現れるかを企画書に書いたことは,課題達成のための実験方法を考える力や,結果を予想する力を付ける上で有効であった。
  (ウ)  いくつかの班が,自分たちが作った模型について発表したことは,地形が多様であっても地層の傾斜角度と地層境界線の関係にある法則があることを理解させる上で有効であった。また,発表により相手に理解してもらう表現力を養ったり,他班の結果と比較し広い視野から結果をまとめたりすることができた。そして,予想と実際(結果)のくいちがいについて模型で確認できたことは,結果をまとめる上で有効であった。
 
 今後の課題
   断層等の構造が入ったより複雑な地質模型製作を通して,問題解決能力の育成を目指す指導の在り方を追究して行きたい。


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