【授業研究3】 高等学校物理TB「熱とエネルギー」において,生徒一人一人の主体的な観察,実験を通して問題解決能力の育成を目指す指導の工夫
 
 授業研究のねらい
   高等学校での物理の授業は,学習内容が広範で複雑であるうえに,大学入試への対応などから,教師主導の一方的な講義に陥りがちである。しかし,このような授業の形態では,生徒はおのずと受け身となり,自然の現象に興味・関心をもち物事を自分で考える力は育ちにくくなる。そこで,問題解決能力の育成のためには,生徒自身が課題をとらえ探究していくという取り組みが重要となる。また,生徒一人一人が見通しをもって観察,実験に取り組み,グループ内での意見交換を行うことを通して,生徒一人一人の問題解決能力が育成され,生徒一人一人の科学的なものの見方や考え方が養われると考える。
 本研究では,高等学校物理TB「熱とエネルギー」において,始めに,生徒の興味・関心を引き出すための導入実験とコンピュータ・シミュレーションから仮説を立て,次に,生徒一人一人が興味・関心に応じて実験・製作の中から一つを選び,同じ実験・製作を選択した生徒同士が意見交換をしながら仮説を確かめるなかで,気体に関する法則に気付くことを課題とした。このような生徒一人一人が主体的に観察,実験に取り組む過程を通して,課題をとらえ解決方法を試行することで課題を追究し,その結果をまとめ応用に結びつけるといった問題解決能力の育成を試みることとした。
 
 問題解決能力を育てるための手だて
  (ア)  生徒が自ら課題をとらえるための工夫
     授業の導入として,生徒の興味・関心を引き出すために,気体の膨張を観察する実験と気体の分子運動のコンピュータ・シミュレーションを行う。始めに,フラスコの口にポリ袋を取り付け,フラスコを加熱することにより,ポリ袋が膨張していく様子を観察する。次に,気体の分子運動のコンピュータ・シミュレーションから,気体の分子運動が乱雑であることと温度の上昇に伴い激しくなっていくことを観察する。これらのことをもとに,「気体の温度が上昇すると気体の分子運動が激しくなり,気体の体積が大きくなるのではないか」という仮説を立てる。この仮説が成り立つことを確かめることで,「気体の圧力が一定のとき,気体の温度と気体の体積の間にはどのような関係があるか気付く」ことをこの時間の課題とする。この過程では,課題をとらえる力が育成されると考える。
  (イ)  生徒一人一人が興味・関心に応じた実験・製作に取り組むための工夫
     生徒が選択する実験・製作は,いずれも20分程度で可能なものとし,生徒一人一人の興味・関心に応じられるように特色のあるものとした。ここで用意した実験・製作は,気体を閉じこめた注射器を用いる「気体の温度と体積の関係を調べる実験,シャルルの法則」をもとに体積を求める「厚紙を用いた立方体の作成」,とらえにくい気体の分子運動を推測する「気体の分子運動モデルの作成」である。そして,「気体の分子運動モデルの作成」については,振動源として変動磁場を用いた「コイルとゴム磁石型」と低周波発振器を用いた「スピーカーと発泡ビーズ型」の両方を用意し,生徒の選択の幅を拡げた。このように,興味・関心に応じて生徒一人一人が取り組むことにより,主体的に課題を追究しようとする能力が育成されると考える。
  (ウ)  生徒が自ら課題を解決するためのワークシートの活用
     生徒は四つのグループに分かれて,それぞれの実験・製作に同時に取り組むことになるため,指導方法を工夫する必要がある。そこで,それぞれの実験・製作を進めていくうえで大切だと考える箇所に,試行錯誤の際の判断の基準となる図や写真を添えたワークシートを用意して,限られた時間内で実験・製作が可能となるようにする。また,ワークシートは結果を振り返るためにも有効であり,グループ内で自由に話し合う際には問題点が明確になり,工夫・改善できるところを見つけだすことが容易になる。このように,ワークシートを活用することにより,生徒が自分で選択した実験・製作を行うことが可能になり,さらに自分の考えを表現する能力や結果をまとめる能力が育成され,その結果,生徒が自ら課題を解決することができると考える。
   
 
 授業の実践
  (ア)  単元名 熱とエネルギー
  (イ)  指導計画(10時間扱い)
     第1次 熱と温度(3時間)
第2次 気体の法則(3時間・・・本時その第2時)
第3次 エネルギーの変換と保存(4時間)
  (ウ)  本時の指導
     目標
       自分の活動を振り返り,実験・製作の結果から,気体の圧力が一定のとき,気体の温度と気体の体積の間にはどのような関係があるか気付く【思考・判断】
       お互いの情報を交換しながら生徒一人一人が実験・製作を進める。【観察・実験の技能・表現】
     準備・資料
       フラスコ,ポリ袋,輪ゴム,熱湯,氷,コンピュータ,ビーカー,注射器,ゴム栓,温度計,厚紙,はさみ,ものさし,定規,セロファンテープ,コイル,ゴム磁石,スライダック,コード,低周波発振器,発泡ビーズ,スピーカー,ワークシートなど
     展開
     
 
 授業の結果と考察
  (ア)  生徒が自ら課題をとらえるための工夫
     物理選択者は18人と少数のため,生徒たちがどのような反応を示すか把握しやすい。ポリ袋を取り付けたフラスコを加熱すると,ポリ袋が膨張していく。この様子を観察していた生徒からは,「思ったより大きく膨らむんだ」「膨らみ足りないからもっと温めたほうがいいのでは」といった声が出た。気体の分子運動のコンピュータ・シミュレーションを行っていると,「随分いいかげんに動いてるんだ」といった反応があった。この導入実験とコンピュータ・シミュレーションは,生徒の興味・関心を引き出すことに大変効果的であり,仮説を検証する過程で規則性に気付くという課題に積極的に取り組む姿勢ができたととらえている。これによって課題をとらえる力が喚起されたと考える。
  (イ)  生徒一人一人の興味・関心に応じた実験・製作に取り組むための工夫
     物理選択者が少数ということもあり,普段の授業でも生徒の実験への取り組みは熱心である。今回は,実験・製作の中から生徒一人一人が興味・関心に応じて選ぶことができるので,より積極的に実験に取り組めたようである。このことは「自分で選んだほうが興味がもてる」という実験後に記述させた感想からも読み取れた。また,気体の温度と体積の関係を調べる実験を選択した生徒が温度を安定させようと温度計を見つめていたり,厚紙を用いた立方体の作成を選択した生徒が熱心に厚紙を切っていたり,コイルとゴム磁石型の気体の分子運動モデルの作成を選択した生徒は落としぶたの形状を工夫する姿が見られた。このように,興味・関心に応じて生徒一人一人が取り組むことにより,主体的に課題を追究しようとする能力が育成されてきたと考える。
  (ウ)  生徒が自ら課題を解決するためのワークシートの活用
     四つのグループに分かれた生徒のそれぞれの実験・製作についての取り組みを教員がすべて把握することは困難である。そこで,図や写真を添えたワークシートを活用したことが大変効果的であった。スピーカーと発泡ビーズを用いた分子運動モデルの作成を選択した生徒は,ワークシートの写真を見ながら低周波発振器を調節しており,わかったこととして「最もよく発泡ビーズが動く振動数がある」ことをあげていた。また,それぞれのグループで工夫・改善をする際にワークシートを指さしながら話し合いを進める様子が見られるなど判断の基準として用いられていた。このように,ワークシートを用意することにより,自分の考えを表現し,結果をまとめる能力も育成することができ,生徒が自ら課題を解決するというねらいが達成できたと考える。
  (エ)  実態調査から
     生徒が自ら課題をとらえるための工夫
       興味・関心を引き出す導入実験とコンピュータ・シミュレーションをもとに仮説を立て,仮説を検証する過程で規則性に気付くという課題を設定することにより,課題の目的を理解し結果を予想しながら観察,実験に取り組んだと答えている。(項目1,2)
     生徒一人一人の興味・関心に応じた実験・製作に取り組むための工夫
       観察,実験を自分で選択したことにより,7割以上の生徒が積極的に取り組むことができたと答えている(項目3)。授業後の感想を見ると「自分がやりたい実験をやったほうが積極的にできるから」という記述も見られた。これらのことから,生徒は主体的に課題を追究していたことが分かった。
     生徒が自ら課題を解決するためのワークシートの工夫
       操作に関して別の操作法を考えたと答えた生徒が増加している(項目4)。また,生徒がワークシートを活用しながら解決方法を見つけだしている様子も観察できた。これらのことからも,ワークシートを用意することで,問題点が明確になり,工夫・改善できるところを見いだすことが容易になるため,自分の考えを表現する能力や結果をまとめる能力を育成することに役立つことが分かった。
     
     全体を通して
       観察,実験によって内容の理解が深まったと答えている生徒が増加している(項目5)。また,「楽しかった」「達成感があった」という授業後の感想も記されていた。これらのことからも,生徒一人一人が主体的に観察,実験に取り組むことによって,達成感が得られ,理解が深まることが分かった。
 
 授業研究の成果
  (ア)  生徒の興味・関心を効果的に引き出す導入実験とコンピュータ・シミュレーションから仮説を立て,この仮説を検証する過程で規則性に気付くという課題を設定することにより,課題をとらえる力が育成されることが分かった。
  (イ)  生徒一人一人に興味・関心に応じた実験・製作を選択させることにより積極的に観察実験に取り組めるようになり,主体的に課題を追究しようとする能力の育成が期待できることが分かった。
  (ウ)  生徒が自ら課題を解決するために,ワークシートに図や写真をのせるなどの工夫をすることによって,自分の考えを表現する能力や結果をまとめる能力の育成が期待できることが分かった。
 
 今後の課題
  (ア)  観察,実験の実験・製作を工夫し,さらに問題解決能力の育成が期待できるように,観察,実験の教材・教具の工夫を進めていきたい。
  (イ)  さらに生徒が達成感がもてるように,自己評価や相互評価を工夫していきたい。
  (ウ)  結論から新しい疑問を発見する力を育て,日常生活に結びついた問題解決能力を育成していきたい。


[目次へ]