【授業研究2】 中学校第2学年「電気の利用」における教材・教具の提示や工夫を通して問題解決能力の育成を目指す指導の在り方
 
 授業研究のねらい
   理科における問題解決能力の育成を考えたとき,生徒が感じた疑問を,解決できたという経験が必要である。しかし,多くの生徒は,問題解決に見通しが持てなかったり,解決の途中で様々な障害に出会ったりして,解決できないことが多い。生徒が出会う様々な障害を越えるための手だてを教師が用意しておくことで,見通しを持った解決活動に取り組み,解決した経験を重ね,問題解決の能力が高まっていくと考えられる。
 問題解決学習では,生徒が疑問を持つことが始まりである。驚きや疑問を持たせる導入の工夫により,「どうしてかな」「調べてみたい」という気持ちを持たせる必要がある。多くの生徒は,疑問を感じても,何が課題で,どのように調べたら解決できるかがわからない。そこで,生徒が感じた「疑問」に問題意識をもたせ,その問題意識から課題設定を行い,課題を解決するための手だてがあれば,生徒は見通しを持って解決するための活動(実験・観察)ができる。また,活動を記録に残したり,特徴や共通性などを見いだしたりする時にも手だてが必要である。教師による適切な手だてを課題解決の様々な場面で行い,生徒の活動を促しながら,達成感や満足感を味わわせることで,問題解決能力を高めることができるのではないかと考えた。
 
 教材・教具の提示や工夫を通して問題解決能力を育成する手だて
  (ア)  驚きや疑問の中から,生徒自らが課題をとらえるための工夫
     問題意識をもたせるための事象提示
       問題意識をもたせるためには,既有の知識や経験に矛盾やずれが生じ,生徒が調べてみたいという気持ちにまで高まるような疑問を持つことが必要であると考える。教師が授業の導入などで,演示実験などの事象提示を行い,興味・関心を高め,事象と出会う中での疑問に問題意識をもたせることができると考える。
     課題をより効果的にとらえさせるキーワードの活用
       より効果的な事象提示があっても,問題意識から各自の課題としてとらえるにはどうしたらいいのか,解決方法に結びつけるにもどう考えたらいいのか,悩んでいる場面が多く見られる。そこで,課題に関係する『キーワード』を提示することにより,自分自身の調べる内容がより明確になり,課題をより効果的につかませることができると考えられる。
  (イ)  自己選択の場を与え活動を活性化する実験選択について
     通常の授業は,一つの内容について,一つの実験を行いまとめることが多い。問題解決能力の育成を考えたとき,生徒一人一人が課題から実験を考えて行えるのが理想だが,生徒が実験の方法を考えるのにも限界がある。そこで,実験の選択を取り入れ,生徒に自己選択の場を与え,やる気や責任感を育成するということも大切である。また,実験方法を分けることで,実験の方法が異なっても,結果の比較検討によって,同様の考察が得られることを生徒が知ることができるというねらいがある。
  (ウ)  実験結果をまとめやすくし,活動を活性化する教具の工夫について
     実験結果からまとめる時に,情報を整理するための教具があれば,確認作業の方向が定まり,考察しやすくなるのではないかと考える。また,こうした教具を利用することで,班のメンバーが協力して作業しやすくなると考える。
  (エ)  課題解決のためのワークシートの工夫について
     問題解決学習をするためには,生徒一人一人が一連の流れに従って活動できる手だてが必要になる。資料1のようなワークシートを利用すれば,流れに従って記録できるばかりでなく,つまずきやすい部分をわかりやすくしたり,実験結果を把握しやすくしたりできると考える。
   
 
 授業の実践
  (ア)  単元名「電気の利用」
  (イ)  学習計画(11時間取り扱い)
     
  (ウ)  本時の学習
     目標  電流が,磁界の中で受ける力について興味を持ち,疑問から自分たちの選択した解決方法で,その関係をつかむことができる。
     準備  ワークシート,実験用具,提示装置
     展開
 
 
 授業の結果と考察
  (ア)  驚きや疑問の中から,生徒自らが課題をとらえるための工夫
     問題意識をもたせるための事象提示
       普通の家庭では,100個以上のモーターがあるなどの話をすると,生徒は驚きの声を上げた。電流を通すと動くおもちゃや扇風機などを見せながら,時計・換気扇・実験室にあるモーターを見せていくと,生徒は納得するとともに,生活に深い役割を果たしていることを実感していた。次に,資料2の簡易リニアモーターカーを見せることにより,生徒から「どうしてだろう。」「動き方に決まりがあるみたい。」という言葉が出て来た。生徒は,疑問に問題意識をもつことができた。
     課題をより効果的にとらえさせるキーワードの活用
       「このパイプが動くためには何が必要かな。」と投げかけると,「磁石」「電気」などと言葉が返ってくる。「いつも同じ向きに動くね,電流の向きを変えたらどうなるの。あ,逆に動いた。」生徒の発する疑問に応じるように演示をくり返しながら,「パイプの動く向きは,何で決まるの。」と問いかけると,「電流の向き」「磁界の向き」などの言葉が生徒から出てきた。そこで,電流の向き・磁界の向き・力の向きの三つを今回の実験の『キーワード』として提示した。「キーワードがあったから,授業で何を調べるのか迷わなかった。」「何を調べたらいいか,はっきりしていたので,やりやすかった。」という感想が多く見られた。キーワードは,生徒が課題をより効果的にとらえるために,有効に働いたと考えられる。
  (イ)  自己選択の場を与え活動を活性化する実験選択について
     「今回の実験は,自分で選んだ実験がきちんとできたから良かった。」このような感想が多く見られた。生徒が資料3のような実験方法を選択して行うことは,教師が考える以上に,実験に対するやる気や責任感が高まることが明らかになった。活動に余裕のある班は,他の班の様子を見に行き,自分たちの実験結果と比較するなどして,意欲的に活動する場面もみられた。いくつかの実験方法があることで,生徒は実験結果を比較検討する力をはぐくむことがわかった。
  (ウ)  実験結果をまとめやすくし,活動を活性化する教具の工夫について
     今回の実験では,「電流の向き」「磁界の向き」「力の向き」それぞれが垂直な関係にあることが条件であるが,実験結果を記録することは難しい。実験をしながら,それぞれの向きを確認してまとめていく必要がある。資料4の教具「左手の法則」を使い,班のメンバーが協力して電流の向き・磁界の向き・力の向きの一つ一つを確認して向きの関係を表していた。一度三つの向きの関係を表すと,磁界の向きを変えたり,電流の向きを変えたりして,班で確認作業をしたり,他の班はどうかと確認したりして,活動の輪が広がった。
  (エ)  課題解決のためのワークシートの工夫について
     今回の実験では,調べる観点と項目をあらかじめ整理し,記録できるようにした。調べる項目と,予想,結果を並列して書くことで,生徒は実験の流れや結果を把握することができたと考えられる。資料5は,教具「左手の法則」の三つ向きの関係と実験のまとめ,振り返りの記録である。実験結果を整理してまとめている様子がうかがわれる。
   
  (オ)  意識調査より
     実験前後の意識調査(図1)から,次のことが考察できる。「a 課題や実験を考えたり選択したりする授業は好きか」では,19%から44%となった。課題や実験を考えたり選択したりするといった言葉に難しさを感じていた生徒が,実際に取り組んでみて,自分もできるという意識をもち肯定的にとらえられたことを示していると考えられる。項目bでは,キーワードが課題のわかりやすさを伸ばしたと考えられる。項目dでは,自分で選択することで実験の準備をしたり,実験内容に責任を持って取り組んだりできた結果と考えられる。項目eでは,63%から81%となったが,自分たちの班で選択した実験の結果を,きちんと出そうという意欲や,教具「左手の法則」によって協力しなければ操作ができない状況を演出できたからではないかと考えられる。項目hでは,今回の実験に意欲的に参加できたという満足度の現れであると考えられる。
 
 授業研究の成果
  (ア)  事象提示や学習課題をとらえさせる場面では,自作教具等を用い生徒の興味・関心を高めて,疑問から課題設定へとつなげることができた。また,キーワードの活用は,課題を効果的にとらえさせることに有効であった。
  (イ)  生徒の活動を活性化する実験選択については,自分で選択した実験ができた喜びを,多くの生徒が味わうことができた。いつもの教師の説明を待つ姿ではなく,自分たちで他の班と比較するなど,実験結果を比較検討する力をはぐくむために有効であった。
  (ウ)  実験結果をまとめやすくし,活動を活性化する教具の工夫については,班のメンバーが協力する作業を演出でき,確認作業やまとめの作業に有効であった。
  (エ)  生徒が問題解決の流れを意識した授業を展開する際,実験の流れや結果を把握するためにも,ワークシートの活用は有効である。
 
 今後の課題
   問題解決的な学習が,定期的にくり返し実施できるよう,実践しやすい単元や内容を分類整理していく必要がある。


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