【授業研究2】中学校第2学年「リコーダーアンサンブルにチャレンジ」において生徒が個性的,創造的な学習をより活発に行うことができる指導の在り方
 
 授業研究のねらい
   第2学年の表現に関する目標の一つに「楽曲構成の豊かさや美しさを感じ取り,表現の技能を伸ばし,創造的に表現する能力を高める。」とある。第1学年での学習を基盤に,さらに発展性と深まりのある学習が進められることを示している。これまでの学習を踏まえ,楽曲のもつよさや美しさを感じ取ってそれらを表現するための技能を伸ばし,さらに表現に工夫を加えたりして創造的に表現する能力を高めることがこのねらいであると考えられる。
 実態調査(平成15年6月23日実施第2学年1組38人)によると,器楽の表現活動において技能面で苦手意識をもっている生徒が17人であったにもかかわらず,器楽に興味をもち自分も上手に演奏したいと願っている生徒が26人と意外に多かった。
 そこで,音色が豊かで発音が容易であるリコーダーを活用して,生徒が自分のイメージや演奏技能に合った曲を選択して表現活動に取り組むことができれば,生徒一人一人が意欲的に学習できるのではないかと考えた。また,グループで友達と学び合いながら基礎となる運指を習得したり,曲にふさわしい奏法の工夫をしたり,さらに,発展できる生徒はリコーダーの種類を変えて表現の幅を広げていくことで,個性的,創造的な学習をより活発に行わせることができると考え,本研究を行った。
 
 個性的,創造的な学習活動をより活発に行わせるための手だて
  (ア)  生徒のよさや可能性を発揮できる題材の設定と教材の精選
     生徒一人一人が満足感や成就感を味わえるよう,身近で親しみやすい複数の曲の中から自分のイメージや演奏技能に合った曲を選択させて表現活動に取り組ませたい。そこで,教材には難易度に差がある二重奏・三重奏・四重奏の教材を用意し,生徒一人一人が声部の役割を意識しながらアンサンブルをする中で,個々のよさや可能性が発揮できるようにこの題材を設定した。
  (イ)  習熟度を考慮した複数の学習展開を取り入れた指導
     生徒は,リコーダー(以下,ソプラノリコーダーをSR,アルトリコーダーをAR,テナーリコーダーをTR,バスリコーダーをBRと表す。)を選んでアンサンブル活動に取り組む。さらに,グループの人数を考慮しながら挑戦したいパートを選択し,リコーダーの運指を習得したりアーティキュレーション(ノンレガート・ポルタート・スタッカート・レガート奏法)や速度,強弱,全体の調和などを工夫したりすることができるように,生徒個々の習熟度に応じた複数の学習展開を考えた。
  (ウ)  様々な学習形態とその効果的な組み合わせ
     一斉指導では基礎的な奏法の確認や中間発表を行い,グループ学習では表現の工夫を行う。個別,ペア,パート,グループ全体などの様々な学習形態を組み合わせることにより,生徒がより主体的に個性的,創造的な活動をしやすくなるようにした。
  (エ)  学習カードの活用と評価の工夫
     学習カードで学習計画や内容を明確にし,本時の学習がスムーズに進められるようにした。生徒一人一人が主体的に活動できる「活動チェック表」を用いたり,グループリーダーがねらいに沿った活動が進められるよう「ステップカード」を用意したりした。また,これらのカードは,表現の工夫や自己評価を記入できるようにした。
 
 授業の実践
  (ア)  題材 リコーダーアンサンブルにチャレンジ
  (イ)  学習の流れと評価 (5時間取り扱い 本時は第4時)
   
  (ウ)  本時の学習
     目標
       リコーダーアンサンブルの中間発表ができるよう,曲にふさわしい音色や奏法(アーティキュレーションなど)を工夫をすることができる。
     展開
     
 
 授業の結果と考察
  (ア)  生徒のよさや可能性を発揮できる題材の設定と教材の精選
     器楽に苦手意識をもっていた生徒も発音の容易であるリコーダーを活用し,自分の気に入った曲や挑戦したい曲を選択することで表現意欲が増した。さらに,旋律やリコーダーの種類を選択することにより生徒が個性を発揮し,表現技能に応じた学習活動が可能となった。また,アンサンブルする(=友達と合わせる)というねらいがあるのでラシドの運指と共に派生音などの新しい運指も意欲的に練習する姿が見られた。
 この結果,器楽(リコーダー)の表現活動が好き,または,ふつうと答えた生徒は検証前の20人から36人に増えた。これまで苦手意識が強く消極的だった生徒もリコーダーの音色の美しさや楽曲のよさが分かり,うまく吹けると楽しいという満足感を味わえたことによる結果と考えられる。生徒は難易度に差がある教材から選曲できたことで,自分なりの音色や奏法の工夫を生かしたアンサンブル活動ができ,本題材での活動は個性的,創造的な学習をより活発に行うことにつながったと考える。
  (イ)  習熟度を考慮した複数の学習展開を取り入れた指導
     自分が表現したい曲を選曲したことで五つのコース別学習が可能となった。
 「ラバースコンチェルト」は既習曲でリコーダーのラシドの運指を習得するのにふさわしい曲である。発展としてARの二部合奏を行い,速度やアーティキュレーションの工夫等,旋律のかかわりを意識した表現の工夫ができた。
 「エーデルワイス」は小学校での歌唱教材でありSRでの演奏経験をもつ生徒もいる。今回は,ARの豊かな音色と二声の響きを味わいつつ,レガート奏法やスタッカート奏法の工夫を行った。また,AR2は左手だけの運指(ド〜ソ)で演奏できるので,運指に不安を感じる生徒も抵抗なく取り組むことができた。「この響きがいいよね。もう1回合わせよう。」など,音色を楽しみながら活動する様子が見られた。
 「ブルタバ」は前学年で合唱曲として取り扱った曲で旋律の美しさに魅力を感じている生徒も多い。レガート奏法の工夫や運指の技能向上を目指して活動できる曲であり,小学校で習得したSRも用いて男子7人が高音の難しい運指に意欲的に取り組んでいた。
 「お部屋をかざろう」はSR・AR・TR・BRの四重奏曲で,TR・BRに4人が初挑戦した。主旋律を意識した四声のハーモニーづくりと,速度やアーティキュレーションの工夫を行っていた。
 「星の世界」は小学校の歌唱教材で親しんだ曲である。この曲は女子3人が選択し,一人1パートの三重奏が可能となった。演奏技能は高度だが,静かで広がりを感じさせる曲のイメージをとらえ,リコーダーの音色や声部の役割,強弱を工夫することができた。楽曲により合奏形態,楽器の組み合わせや人数が異なり,習熟度に応じた複数の授業展開の中で個性的,創造的な活動が可能となった。
  (ウ)  様々な学習形態とその効果的な組み合わせ
     一斉学習においては学習課題と,基礎となるリコーダーのラシドの運指やアーティキュレーションの確認を行った。「ラシドの練習曲」を用いて,間違いやすい運指,サミングやアーティキュレーションを習得することができた。
 グループ学習には友達同士で教え合い学び合えるよさがある。運指やリズムの習得,強弱やアーティキュレーションの工夫を個別,ペア,パート,グループ全体で活動することで主体的な学習が可能となった。表現の工夫を話し合う時間を確保したことで,どのグループも一斉に話し合いができた。授業後の反省や感想には,「ラシドの運指ができるようになった。」「友達と教え合ったりして楽しみながら運指を覚えられた。」「難しい曲に挑戦したがみんなとアンサンブルができてよかった。」などが述べられ,学習形態を効果的に組み合わせ主体的に活動する時間を保障したことで,表現技能の向上や個性的,創造的な学習活動をより活発に行わせるのに効果があったと考える。「楽器は苦手」と決めつけていた生徒には達成感が味わえる活動となり,生徒一人一人にはリコーダーの音色やアンサンブルの楽しさを味わえる活動となった。
  (エ)  学習カードの活用と評価の工夫
     学習カード(「活動チェック表」,パートリーダー用「ステップカード」)を工夫したことで,学習の進め方が分かり,技能の基礎となる運指やアーティキュレーションの学習を主体的に行うことができた。また,楽譜には生徒個々の工夫点やグループで話し合った工夫点を色別で記入させ,授業後に個々の頑張りや工夫点を見直す手がかりとした。さらに,題材のねらいに即した評価の観点を明確にした学習カードを工夫したことで,授業終了後の評価資料とすることができた。
 
 授業研究の成果と課題
  (ア)  教材を選択させアンサンブル活動を行ったことは,生徒一人一人の思いや演奏技能を生かした活動となり,意欲をもって表現の工夫を行わせるのに効果的であった。
  (イ)  リコーダーの音色やアンサンブルが楽しめ,難易度に差がある身近な教材を準備したことにより,習熟度に応じた複数の学習展開が可能となった。習熟度に応じた複数の学習展開を行ったことは,生徒が様々な表現の工夫を行い,また,リコーダーに苦手意識をもつ生徒が無理なく活動に取り組むことにつながり,個性的,創造的な学習活動をより活発に行わせるのに有効であった。
  (ウ)  様々な学習形態の効果的な組み合わせを工夫することにより,基礎的な技能を習得をする時間と個人,ペア,パート,グループ全体で表現の工夫をする時間を保障することができ,主体的,創造的な学習をより活発に行わせるのに有効であった。
  (エ)  学習カードを工夫することにより,生徒は主体的に表現活動に取り組むことができた。評価の観点を明確にした学習カードを自己評価に活用したことは,評価方法の一つとして有効であった。
  (オ)  グループ学習(コース別学習)を音楽室で行ったことで,生徒の活動状況を容易に把握することができた。しかし,リコーダーのピッチを合わせるにはいくつかの場所に分かれて主体的な活動ができるように工夫していきたい。
  (カ)  今後は,器楽活動だけでなく歌唱,創作,鑑賞活動においても個性的,創造的な学習活動をより活発に行うことができる指導の在り方を追究していきたい。


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