実践例8
モデル3を基にした校内支援体制
指導・援助チ−ムを中心とした支援体制


T 校内支援体制ができるまで
   校内支援委員会による関係組織の整理,統合
     本校は以前から,生徒指導面,特殊教育面,保健教育面等での支援が必要な子どもについて,それぞれの特別委員会が組織され支援効果をあげてきました。中でも不登校の問題に対応するために組織された指導・援助チ−ムは大きな支援効果を上げてきました。そこで今後さらに多様化,重複化していくであろう子どもの様々な問題に対応していくために,運営委員会,職員会議を経て既存の組織を見直しました。そして,各種特別委員会等の整理,統合を行い,より効果的に機能するように「特別な配慮を要する生徒に対する校内支援委員会」(略称 校内支援委員会)を設置しました。設置することによって,生徒の抱える問題の根幹をとらえ,生徒理解を図りながら積極的に生徒指導や特別支援教育を行うことができるようになりました。
   指導・援助チームによる支援を核にした取り組み
     生徒指導主事が校内支援委員会の委員長となり,全職員で支援に当たりますが,指導・援助チ−ムが中心になり機動的に子どもを支援していきます。
 様々な支援を要する子どもを校内支援委員会が調査し,生徒指導上の支援が有効か,特殊教育上の支援が有効かを検討した上で指導・援助チ−ムを編制し,具体的な支援計画を立てて支援に当たります。担任がチ−ムリ−ダ−になり,生活面,学業面,健康面等,総合的な支援ができるようにチ−ムを組むことが大切です。
   子どもと一緒に支援体制づくり(ピアカウンセラ−による支援)
     本校では平成13年度から,「自他の違いを認め共に生きる生徒の育成」を目指して,ピアカウンセリングによる子ども同士の相談活動にも力を入れています。これは仲間同士で悩みを分かち合い,解決していく相談活動です。ピアカウンセラ−の学習会を(学校長が講師)行い,カウンセラ−としての心構えや技法を学んでいます。ピアカウンセラ−には誰でも応募できます。
 このピアカウンセリングの活動を後方から支援し,子ども同士で解決できない時には,校内支援委員会でサポ−トするようにします。
U 組織の構成員
 
校内支援委員会 ・・・  生徒指導主事を委員長とし,教務主任,特殊教育主任,養護教諭教育相談主任各学年主任当該担任で組織します。
指導・援助チーム ・・・  当該担任をチームリーダーとし,当該生徒に必要な支援の仕方に即してチーム編成を行います。
V 組織の役割
 
校内支援委員会 ・・・  「ひとりの子も見すてない。すべての生徒の成長を願う。」という本校の支援方針のもと,特に配慮を必要とする生徒について,全職員で支援していく時に中心になる組織です。
  • 特に配慮を要する生徒の実態把握
  • 当該生徒の共通理解と支援方法の検討,指導・援助チームの決定
  • 生徒指導委員会,学校保健委員会,校内就学指導委員会,教育相談部等との連絡調整
  • 全体会議や研修会等の企画,運営
  • 外部関係諸機関との連絡調整
指導・援助チーム ・・・  いつ,どこで,だれが,なにを,どう支援するかを具体的に検討し,実際に当該生徒の支援に当たります。
  • 具体的な支援計画の決定
  • 当該生徒への直接,間接支援
  • 支援経過,結果等を支援委員会へ報告
W 支援体制の年間計画
 
X LD(学習障害)傾向のある不登校生徒の支援体制
  どんな子ども
     明るく素直な中学生の男の子です。
     全般的な知的発達の遅れはありませんが,認知能力のアンバランスがあります。
     進級したばかりの4月に身体の不調を訴え,しだいに学校に行くことができなくなってしまいました。
     いくつかの病院で診察の結果「特に異常は認められない。」「神経性頻尿」ということでした。その後,相談機関に通うとき以外は,家から出られなくなってしまいました。
     話を聞いて理解することが苦手で,背景にはLD(学習障害)傾向が感じられます。そのため対人関係がうまくつくれず,友達とのトラブルや受験によるストレスが神経性頻尿や不登校の発症要因となったように思われます。
     小さい頃の様子は
       熟産で周産期の異常は特になく,その後の発育も順調でした。
       かんが強く,よく泣く子でした。
       幼児期から多動が目立ち,階段や縁側から落ちて怪我をすることが度々ありました。また,よくいたずらをしては叱られてました。
       こだわりが強く,幼稚園から帰ると同じ遊び(土遊び)を毎日のようにやっていました。
       空想と現実の世界が一緒になったような話をよくしていました。
       小学校の頃は,欠席は少なかったです。
  こんな支援体制で
    (1)  不登校要因の分析と支援チ−ムの決定
       担任から,Aさんの支援について依頼を受け,不登校の要因について支援委員会で話し合いました。Aさんは,落ち着きに欠けいつもそわそわしていて,意志決定をはっきりすることが苦手で,依存傾向が強いようでした。また,自分かってな会話や空想的な話が多く,人の話を落ち着いて聞くことが苦手なため,友達関係にもつまずきやすく,しだいに友達が離れていってしまいました。学校生活での友人関係に困難を感じていることや,トイレが心配で外出が困難になっていることが不登校の大きな要因となっているようでした。検査結果からもLDの疑いが背景に考えられました。また,両親ともにAさんとのかかわり方に難しさを感じており,「どう接してよいのか分からない」という状態でした。
 また,担任や母親が過度に心配して保護的な態度を取り,学校を早退したり,欠席することを勧めたりしたことも不登校行動の重要な持続・強化要因となっていたのではないでしょうか。そこで,教室復帰を目指して,担任を中心に,養護教諭,情緒学級担当等が指導・援助チ−ムを組んで支援に当たることにしました。
    (2)  支援方針
      @  指導・援助チ−ムを組み,家庭や医療機関等との連携を密にしながら支援に当たる。
      A  教育相談や学習指導を行うとともに,ソ−シャルスキルの形成を図る。(担任,各教科担当,情担),
      B  自律訓練法により心身をリラックスさせ,性格的な過敏さと不安傾向の緩和を促進する。(情担)
      C  段階を踏んだ登校プログラムによる完全登校を目指す。(担任養教情担)
      自律訓練法とは,心身のリラックスを目的とした自己催眠法です。身体の緊張をほぐすことで心の安定を促そうとしました。
    (3)  支援の経過
      @  《情報収集とAさんとの信頼関係づくり》−担任と情緒学級担当者を中心に
         情緒学級担当者が家庭訪問を続けるうちに信頼関係ができ,次第にAさんは心を開き様々な悩みについて話してくれるようになりました。連続欠席となってから,登校させたいと焦る両親とけんかになり,部屋に閉じ込もることもありました。その後,家の中で大好きなカ−雑誌を読んだり,ビデオを見たりしてごろごろするだけの毎日が続き,昼夜逆転しつつありました。
 両親に対しても,乱暴な言動が目立っていたので,母親相談を続けながら家庭へのサポートをし,これからの支援方針について話し合い,家庭での協力を求めました。
 教育相談を続けながらAさんの悩みや問題点を整理し,担任を中心にした指導・援助チ−ムが一緒に悩み解消に向けて支援していくことを約束しました。
      A  《夏休み中の関わり》家庭訪問による支援
         情緒学級担当者との信頼関係ができてきたところで,Aさんが学校に登校したい気持ちがあることを確認し,指導・援助チ−ムによるこれからの支援について話したところ本人も了承したので,以下の通り取り組むことにしました。
         登校準備として自立的生活習慣の形成を図る。(起床,食事,運動,勉強,就寝など1日の生活時間割を自分で立てそれにもとづいて自立的に行動する。)
         学習習慣の形成を図る。(規則的な勉強の習慣をつけるため,好きな教科で短時間の勉強から開始し,自発的に勉強することを目標とする。)
         自律訓練法の習得を図る。(朝・昼・夜1回ずつ行う。)
         ソ−シャルスキルの形成を図る。(場面設定やスポーツをしながら行う。)
         段階を踏んだ登校プログラムを用いて,再登校行動を形成する。(行動目標を自分で決めさせ,達成できるように支援する。)
         夏休みに入ると気が楽になったためか,自ら積極的に計画を立て6時起床,早朝マラソンなど自分で決めて実行しだしました。日中も家から連れだしてドライブや散歩などをして気分転換を図りました。
 初めのうちは,10分ぐらいの間隔でトイレを気にしていましたが,繰り返すうちに回数が減ってきたので生徒の少ない夕方を選んで中学校に連れて行き,玄関前まで入りました。次の日には,無人の教室に入って自分の机に座りましたが,すぐにトイレに駆け込んでしまいました。次の日には校門まで行って担任と話をして帰って来ることができました。
      B  《再登校行動の形成》2学期以降の取り組み
         細かい段階を踏んだ連続的な行動プログラムをAさんと支援者が一緒に作成し,完全登校を目指して取り組みました。
       
@ 玄関で支援者と会って帰る。 G 教室で1時間(参加しやすい授業)+E。
A 保健室に入室しただけで帰る。 H 教室で授業を受ける時間を徐々に延ばす。
B 保健室で養護教諭と話をして帰る。 I 教室で午前中いっぱい授業を受ける。
C 保健室で1時間過ごして帰る。 J 教室で給食を食べる。
D 保健室で過ごす時間を徐々に延ばす。 K 全日参加する。
E 保健室で午前中いっぱい過ごして帰る。
F 朝の会に参加する+E。
         保健室では,支援者と個別学習や教育相談を行いました。その日の目標を達成した後に,情緒学級に通級し,一緒に次の日の目標を決めました。
         上記の計画でスタ−トしましたが,実際はもっと細かいステップが必要でした。初めのうちは指導援助チ−ムや親の細かい支援が必要でしたが,徐々に減らしていきました。
 その日の目標達成後,情緒学級でその日の様子を聞き,次の日の行動目標を設定しました。このプログラムの課題内容や段階はAさんの意見を尊重し,辛くてもその日の目標だけは達成するようにと励ましました。第1週目が始まりAさんは,その日の予定以上に頑張りました。3日目に教室に入り朝の会に参加できました。無理をしないように話しましたが,調子がいいから大丈夫だとうことで5日目には1時間目,6日目には2時間目の授業まで受けました。その結果,また頻尿感がひどくなりトイレに行く回数が増えてしまいました。そこでもう一度話し合い,プログラム通りに焦らずじっくりと心と身体を慣らして行くようにしました。
    (4)  支援の結果
       このようにして指導・援助チ−ムの支援を受けながら,少しずつAさんは自信を回復し,トイレの心配の方も落ち着いていきました。その内に友達関係も変わり,付き合いの良いBさんと仲良くなり安定してきたところで,支援者のかかわりを減らしていきました。
 2学期終了近くに完全に復調したかに見えましたが,冬休み明けに少し落ち込みを見せました。しかし,指導・援助チ−ム以外の先生方の励ましも得て,それも乗り切ることができました。そして2学期初日から卒業の日までAさんは,とうとう1日も休むことなく頑張り通すことができました。大変緊張するであろう卒業式も無事に参加することができ,高校にも進学することができました。
 不登校生徒を抱えて担任が一人で悩むのではなく,校内支援委員会という組織を通して,支援方針や支援内容を検討し,実際に指導・援助チ−ムを組んで支援に当たることで,救われる子どもたちがいます。今後,さらに効果的な支援ができるよう校内支援委員会の取り組みを工夫していこうと思います。
     
Y まとめ
   支援体制づくりのポイント
     校内支援委員会を窓口として各種委員会との連絡・調整を図りながら,生徒指導上の問題を抱える生徒や特殊教育上の支援が必要な生徒について,具体的に,なにを,どこで,どう支援していくかを検討し組織的にかかわっていくことはとても有効です。本校では,特別な配慮を要する子どもたちの具体的な支援方法として,指導・援助チームを編制して支援に当たり効果を上げることができました。その際,指導・援助チームシートを活用することで,チームの全員が生徒の抱える問題を共有し一緒に具体的な支援計画を立てることができます。シートに基づいて支援を行い,その効果を見ながら評価し,新たに修正を加えながら支援に当たることができます。
   今後の課題
     全職員による支援状況報告会は職員会議の中に,支援委員会議の時間は学期ごとに位置付けられていますが,実際に最前線で支援に当たる指導・援助チーム会議は,チームリーダーが必要に応じて随時行うことになっています。昼休みや放課後に行っており時間の確保が難しいです。
     LD等の障害を持つ子が,不登校等の二次的な情緒障害を起こすことがあるので,職員研修を行い理解を深め,環境を調整したり支援方法を工夫したりして,未然に防止することも大切です。また,入学してくる生徒について,小学校との情報交換をすることも必要です。
     校内支援委員会をより機能させていくためには,それぞれの支援者が専門性を高めていく必要があります。また,医療機関等の外部機関との連携を図り,支援効果を高めていくことも大切です。
  資料
   指導・援助チームシート
   支援を要する生徒一覧


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