研究のまとめ
   本研究では図画工作・美術科学習に関する実態を踏まえ,児童生徒の個性を生かす学習指導について,自分に適した表現方法などを選ぶことができるような題材の開発と提示の工夫,児童生徒一人一人に応じた指導や場の設定の工夫,互いの場を認め合う場の設定等の手だてを講じ,授業研究を行った。研究主題に迫るための有効な手だては,以下の通りである。
  (1)  自分に適した表現方法などを選ぶことができるような題材の開発と提示の工夫等の手だてについては,小学校では,児童の思いをもとに様々な材料とふれ合ったり,見付け出したりする中で,自分なりの表現方法で作品づくりを進めることができた。教師が,意図的に新しい発見につながるような材料の準備,児童が,表現方法を選択できるような場を設定することは,自分に適した表現方法を選ぶのに有効な手だてであることが分かった。中学校では三年間を見通したカリキュラムを考えることは,基礎・基本を押さえるのに有効であることが分かった。また,ショート題材で取り上げた表現方法を思い起こさせ,そこから再びやってみたいことやそれらを生かした表現方法を考えていくような題材は,今まで学んだ表現方法を組み合わせたり,深めたりすることで自分に適した表現方法を選ぶことができた。ショート題材で行った題材から生まれた思いを大切にし,新たな題材を考えることで,生徒の意欲はより高まることが分かった。
  (2)  児童一人一人に応じた指導や場の設定の工夫等の手だてについては,小学校では,一人一人の思いをカードに記入させたり,個別に話をしたりすることで,児童自身の思いがより明確にでき,教師側でもそれを把握するのに有効であった。そのために,児童自身に考えさせるような言葉掛けもでき,より個に応じたかかわりをもつことができた。中学校では,学習カードの活用により,生徒の授業中のつぶやきだけではなく,生徒がどのような思いをもっているのか,その題材から,どのような思いが生まれたのかを知る手がかりとなり,心の働きを知る上でも有効であった。また,生徒が表現の過程における工夫を確認しながら自己表現していくなど,学習がよりよい方に展開することができた。生徒の自己評価だけではなく,教師の自己評価にもつながった。
  (3)  互いの表現のよさや個性を認め合い,尊重し合う共感の態度を育てる場の設定の工夫等の手だてについては,小学校では,授業の中で,順次作品を見ることができる機会をつくることは,児童の作品がヒントになり,新たな発想が引き出せるような機会になったり,互いの表現のよさや,個性を認め合う意味で有効であった。中学校では,一つの授業で多様な表現活動が行われているので,生徒は互いに扱っている素材に興味をもち,素材や道具を見てその美しさや特徴を知り,自分の作品に取り入れ,試行錯誤する様子が見られた。多様な表現活動は,互いの表現のよさや個性を認め合い,尊重し合うのに有効な手だてであることが分かった。
     児童生徒に身に付けさせたい基礎・基本をおさえながら,年間カリキュラムを考えること。
     児童生徒自らの能力や経験を一層豊かにできるような題材の工夫。
     児童生徒の思いを十分に把握するための工夫と個に応じた指導の工夫。
     互いの表現のよさや個性を認め合い,尊重し合う場の工夫。


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