実践事例15
  生きる力の育成を目指した教育課程経営の展開
  県立鬼怒商業高等学校
 教育課程経営の重点
   本校は,県西地区で唯一の単独商業高校で,創立31年目を迎える。生徒数は702人,18学級の規模を有する。本校では,平成11・12年度に文部省高等学校教育課程研究指定校となったことを契機として,生きる力の育成を目指した教育課程を編成し,それに合わせていくつかの新たな取り組みを導入した。そこで教育課程経営では,上記のような研究主題を設定し,特に次の4つの取り組みを重点に研究実践を行っている。
 
 学習意欲を高める「総合的な学習の時間」の取り組み
 勤労意欲を高める「インターンシップ」の取り組み
 豊かな人間性をはぐくむ「心の教育」の取り組み
 「鬼怒商ビジョン」−授業とホームルーム経営の改善を目指す研究−の取り組み
 教育課程経営の実際
  (1)  平成11・12年度文部省高等学校教育課程研究指定校としての研究実践概要
    @  「明日の鬼怒商を語る会」の設置
       地域・企業・商工会議所・中学校・同窓会・PTAの各代表からなる「明日の鬼怒商を語る会」を設置し,次のような提言を受けた。
       魅力ある学校づくりを目指した学校経営
       心の教育の充実への対応及び生涯学習の推進
       外部から見た学校の評価及び要望を生かすこと
    A  「生徒意識調査」の実施
       学校・家庭生活全般に関する「生徒意識調査」を全生徒を対象に実施した。その結果,学校生活における生徒の不満が教師の予想以上であることが分かり,不満解消のための方策を考えることが急務となった。
    B  @とAを文部省高等学校教育課程研究の指針として以下の研究を行った。
       「総合的な学習の時間」の研究
       「インターンシップ」の研究
       「心の教育」の研究
       「鬼怒商ビジョン」の研究−授業とホームルーム経営の改善−
       平成11・12年度の研究に改善を加えながら,13年度以降も以下のように継続して実践している。
  (2)  学習意欲を高める「総合的な学習の時間」の取り組み
     平成11年度まで実施していた商業科目の「課題研究」に代えて「鬼怒商タイム」という名称で3単位(月曜4時限目,木曜5・6時限目)の授業として12年度から「総合的な学習の時間」を第3学年で実施している。ほぼ全教科から担当者を出し,全職員の理解と協力のもとに取り組んでいる。生徒の多様な興味・関心を最大限に引き出せるように配慮して毎年約20の講座を設け,外部講師やティーム・ティーチング方式を取り入れて実施している。また地域の人材や施設の積極的活用という観点から,校外における調査・体験活動を重視し,その時間を確保するため木曜の5・6時限目に設定している。それによって,5・6時限目から放課後にかけて長時間にわたる活動が可能になる。また,学習の段階的な向上が分かりやすいように,「活動ノート」を週単位で記入・提出させ,その中で自己評価もさせている。生徒の自己評価は概ね5段階の中以上と良好で,担当者の評価とほぼ一致している。平成12年度に研究発表会を実施したが,外部の方たちからも高く評価された。
 なお,今年度は講座「絵本制作」において,幼児教育に関する学習をしたいという生徒を受け入れてもらうなど,生徒の希望にできるかぎり添えるように講座の幅を広げた。
 今後の課題は,生徒の希望をいかに100%に近い形で講座に取り入れるか,年度途中で学習意欲が減退してしまった生徒をどのように指導していくか,という点をさらに継続して研究していくことである。
    資料1 平成14年度鬼怒商タイム講座一覧
No. 講  座  名 生徒数
1 ホームページ作成 25人
2 ソフトウェア研究 13人
3 ワープロ 17人
4 福祉・ボランティアの研究と学校行事支援活動 10人
5 リサイクル 7人
6 NEWSHOCK 19人
7 Fashion Stadium 13人
8 結城紬研究 5人
9 くらしの中の数学 7人
10 コンビニエンスストア研究 11人
11 証券取引 8人
12 マルチ・悪徳商法研究 12人
13 ビジネス英会話 3人
14 外国文化研究 4人
15 創作 8人
16 絵本制作 14人
17 手話 13人
18 進路研究 19人
19 宇宙・自然 22人
合   計 230人
  (3)  勤労意欲を高める「インターンシップ」の取り組み
     第2学年の全生徒に就業体験学習を実施し,職業の現場において実際的な知識・技能に触れることにより職業観や勤労観を養い,自己の職業適性の探究や職業選択能力の育成を目指している。また,生徒が体験を通して社会の現実に触れることで,その変化や産業界の動向などに柔軟に対応できる強い精神力を養うと同時に,異世代とのコミニュケーション能力の向上を図ることを目標にしている。
 実施時期は8月から11月までで,実施期間は事業所により差があるが2〜5日間程度である。各事業所に迷惑をかけないためと社会常識を身につけさせるために事前・事後指導を充実させるとともに,実習日誌の記入・提出を義務づけることで働くことの意識を高め,有意義な体験学習となるようにしている。生徒たちは,アルバイトとは違った働くことの厳しさや普段あまり経験することのない緊張感,うまくできたときの達成感など,さまざまな感想をもちながら着実に成長している。このような生徒の変化や,高卒の求人倍率が全国平均で約0.5倍という最悪の就職状況にあることを考えると,職業観や勤労観を養うという点からこの実習の意義を高く評価できる。各事業所からは良い評価をもらう場合が多いが,一部の生徒が「きちんと意志表示ができない」「勤労意欲に欠ける」などの厳しい評価もされている。そのような評価を次年度の事前指導等に生かしながら,さらに充実した実習ができるようにしている。今後は,生徒の進路希望の多様化に対応するため,受け入れ先を拡大していく必要がある。
    資料2 平成14年度インターンシップ受け入れ事業所
No. 分   野 事業所数 生徒数
1 製造の仕事 5社 18人
2 販売の仕事 4社 44人
3 事務的な仕事 9社 52人
4 保育の仕事 6社 73人
5 介護関係の仕事 4社 12人
6 接客サービスの仕事 7社 38人
  合   計 35社 237人
  (4)  豊かな人間性をはぐくむ「心の教育」の取り組み
     第1学年の全生徒を対象に福祉体験学習を実施し,人間相互のふれあいを深め一人一人が人間としてよりよく生きようとする心を養い,互いに他人の立場や心情を深く思いやり,相互に協力し合っていく態度(豊かな人間性や社会性)を育てることを目指している。具体的には,結城養護学校との交流活動を中心に各種ボランティア活動や心の教育学習会などを実施している。特に平成11年度からの結城養護学校との交流は本校生にとって障害者に対する意識だけでなく,自らの人生観さえ大きく変えるほどの貴重な体験となっている。今年度の文化祭の開祭式には結城養護学校の高等部の生徒を招待し,本校の代表生徒とともにステージで合唱し,新たな交流の試みを成功させた。また今年度は,JICA筑波国際センターで行われた高校生のための地球市民講座に13人の生徒が希望により参加した。これは「心の教育」の範囲をボランティア活動等に限定せず,広く世界を見させたいという担当者の希望によるものである。
 諸活動の終了後は生徒に必ず感想文を書かせ,何を得ることができたか,課題は何かなどを認識させるとともに,教師側もその感想文を活用して次年度以降さらに効果的な活動ができるようにしている。
 課題としては,平成11年度から毎年実施してきた1年生全員参加の「結城養護学校における一日体験学習」が,今年度以降は先方の事情で実施できない可能性が高いため,それに代わる結城養護学校との交流の機会を設けなければならないことがあげられる。
    資料3 平成14年度心の教育学習計画
6月 ボランティアについて考えてみよう
7月 心の教育学習会
結城養護学校訪問
8月 あすなろ学園交流会
9月 結城養護学校高等部3年生鬼怒商訪問
高校生のための地球市民講座(JICA)
10月 創立30周年記念事業の一環として学校をきれいにしよう運動
11月 鬼朋祭結城養護学校高等部3年生招待
結養祭ボランティアとして参加
通年 募金活動
  (5)  「鬼怒商ビジョン」−授業とホームルーム経営の改善を目指す研究−の取り組み
     「明日の鬼怒商を語る会」の提言や「生徒意識調査」の分析結果を受け,授業(教科指導法)とホームルーム経営の改善について,次のように取り組んでいる。
    @  「分かる授業」の推進
       平成12年度に,「分かる授業」の推進のために全教師を対象に「授業に関するアンケート」を実施した。「導入に関して」「授業展開に関して」「板書に関して」「独自の補助教材に関して」「欠席生徒に関して」などの項目ごとに,工夫していることや具体例をまとめ,全教師に配布した。他の教師の工夫を知ることで授業改善への意識が高まり,教科の枠を越えて他の教師の良いところを取り入れ,自分の授業に生かすという体制づくりに役立っている。
    A  「公開授業」の実施
       学習指導部が主催して年に2回,5月と11月に「公開授業の日」を設け,各教科から選ばれた教師が授業を公開している。授業を公開することは授業者が自分の授業を見つめ直すと同時に,参観者が自分の授業と内容的なことや技術的なことを比較することができ,両者にとって効果的な研修となっている。その一方で,参観者が授業担当者に遠慮して率直な意見を伝えていない場合がある。相互に研鑽するという意義を再確認し改善していく必要がある。
    B  「HRノート」の作成
       ホームルーム活動を援助し,担任の独自性を生かしつつ各ホームルーム間に共通性を持たせるために,各学年用に1冊ずつ作成した。担任は必要に応じてその都度印刷し,生徒に配布して取り組ませている。そのねらいと主な内容は右表のとおりである。また,生徒の発達段階に合わせて,各学年のテーマを次のように設定している。
1学年用 ・・・ 高校生としての意識づけと目標を設定させる
2学年用 ・・・ 生き方や働くことの意味を考えさせる
3学年用 ・・・ 進路を意識した具体的な対策を考えさせる
 定期考査の目標設定や,面接試験の対策などの内容に関するものは担任の利用頻度が高い。常識度テスト等のクイズ形式のものや自己の適性を考えさせるものは,生徒の興味・関心が高く,自己を振り返り成長させる効果が認められる。
 今後の課題は,掲載しているデータを随時修正していくことと,必要に応じて新たなテーマを追加することである。
      資料4 「H R ノート」のねらいと主な内容
ねらい
○自己の在り方生き方を見つめさせる
○自己の性格や行動等について分析させる
○自己の成長のために目標を設定させる
○自己の進路について具体的に考えさせる
○本校の歴史や特色を学ばせる
○文章を書く習慣を身につけさせる
主な内容
○本校の歴史や特色について
○自己の適性や価値観等について
○各種学校行事への取り組みについて
○進路に関すること
○ルールやマナーについて
○定期考査の目標設定と反省
○面接試験の対策
○常識度テスト
 今後の課題
   教育課程研究の実際の中で示した課題以外に,次のような課題が挙げられる。
  (1)  上記の取り組みの評価は,ほとんどの場合,担当している一部の教師と生徒による自己評価が中心であり,担当外の教師による評価や外部評価が十分でない。本校の教育課程経営全体の評価と合わせて今後検討していく必要がある。
  (2)  本校の場合,各学年・各校務分掌ごとに行っている年度末の反省が教育課程経営の評価に当たるが,次のような課題がある。
    @  各学年・各校務分掌から出された反省について職員会議で討議するが,引き継ぎを徹底していないなどの理由で次年度の教育活動に生かされていないことがある。
    A  他の学年・校務分掌について意見や質問をする機会が,年度末に職員会議という場しかないので発言しにくい面がある。
    B  反省の方法や項目が統一されていない。
 
   ホームページ http://www.kinu-ch.ed.jp/


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