実践事例4
  多様な読書活動を取り入れた教育課程経営の改善
  龍ケ崎市立長山小学校
 教育課程経営の重点
   本校は,龍ケ崎北部のニュータウンに位置し,創立14年目を迎える。児童数は344人,13学級の規模を有する。本校では,学校の教育目標「豊かな心をもち,たくましく生きる児童の育成」達成のための重点課題の1つに,「読書活動」をあげている。これを受け,教育課程経営では「多様な読書活動を取り入れた教育課程経営の改善」を研究主題に掲げ,次の2つの内容について,特に重点的に研究実践を進めている。
 
 保護者との連携を図った多様な読書活動の推進
 多様な読書活動を基盤にした教育課程経営の改善
 教育課程経営の実際
  (1)  多様な読書活動とは
     本校では,読書活動のテーマを「遊ぼうよ本の世界に,感じ合おう本の心を」とし,読書へのアニマシオン,10分間読書,読み聞かせ,ブックトーク等に取り組んでいる。
 これらの読書活動のねらいは,読む力を高めること,豊かな語いを獲得すること,思考力や創造力を養うこと, 。自分の考えを広げたり深めたりすることなどであるさらに本校では,これらの力を育てるとともに伝え合う力を高めていくことも重要なねらいとしている。
 以下,本校における多様な読書活動の概要を述べる。
読 書 活 動 活動の内容
読書へのアニマシオン  遊びやゲーム,ディベート等の75の作戦をもとに,本に親しむ活動を展開している。読書へのアニマシオンボランティアの保護者とともに共同実践を行っている。
10分間読書  週4回,朝の時間帯に実施している。選書は児童が自主的に行い,平均して1人当たり,年間40冊ほど読んでいる。
読み聞かせ  読み聞かせボランティアの保護者により,週に1度,2冊ずつのペースで読み聞かせを行っている。
ブックトーク  教師から本の紹介を受けたり,児童同士で本を紹介し合ったり,高学年の児童が低学年の児童へ読み聞かせ等の方法で本を紹介したりする取り組みを行っている。
  (2)  読書へのアニマシオン
    @  本校の読書へのアニマシオンとは
       読書へのアニマシオンは,スペインのモンセラ・サルト氏によって創案された読書教育を推進するための体系的な読書指導法である。この指導法では,子どもの発達段階や知的レベルに応じて,遊びやゲームのようなものからディベートのような高度で知的なものまで75の作戦が開発されている。
 本校では3年前から読書活動の一環として,総合的な学習の時間に「読書へのアニマシオン」の実践を保護者ボランティアとの共同研究・共同実践という形で行い,独自の指導過程を作り上げてきている。本校における「読書へのアニマシオン」とは,以下のような力等を児童に育てるための読書活動であると位置付けている。
 読書から新しい世界を発見し,本の内容を深く読む力を付ける。
 本を読むために必要な様々な技術を楽しみながら身に付ける。
 遊びながら本を読む喜びに目覚め,読書をする習慣を身に付けながら感性を磨く。
 集団読書,共同作業を通して,児童同士の伝え合う力を育成する。
 児童に,他者を尊重しながら,自分で思ったことや考えたことなど自分の意見を発表する力を付ける。

 以上のようなねらいを達成するために「読書へのアニマシオン」における指導過程の自校化を目指し改善を重ね,現在次のような流れで実践している。
 @保護者ボランティア会議の開催→ A支援者の決定→ B作戦・使用本の決定→
 C問題カード作り→ D児童への本の配布→ Eグループ作り→ F授業実践→
 G感想カードへの記入

 本校では,多様な読書活動(読書へのアニマシオン,10分間読書,読み聞かせ,ブックトーク等)の中でも,読書へのアニマシオンを中心的な活動として位置付けている。
 一昨年度と昨年度の実践を振り返り評価改善を進めた結果,今年度は読書へのアニマシオンを,低学年においては国語科の時間に実施することと,また,中・高学年においては総合的な学習の時間に実施することとした。
    A  保護者との連携による読書へのアニマシオン
       ボランティアの組織
         年度当初,全保護者に対して読み聞かせボランティア,読書へのアニマシオンボランティアを募集している。本年度は前者が約70名,後者が15名の登録がある。
 傾向としては,読み聞かせボランティアを数年経験し,読書活動に十分慣れてきた時点で読書へのアニマシオンボランティアを希望する保護者が多い。読書へのアニマシオンについては,保護者ボランティア会議が学期に1,2度開催されている。この会議は学年単位で開かれることが多く,学級担任とともに授業準備や情報交換を行っている。
       事前の取り組み
         各学年3〜4グループに分かれて読書へのアニマシオンを実践する時,教師と読書へのアニマシオンボランティアの方が,支援者として1時間の授業を行っている。そのため,保護者ボランティア会議,支援者の決定,作戦・使用本の決定と流れる一連の事前準備の中で,本校の教師は読書へのアニマシオンボランティアの方と相談する時間を十分にとり,読書へのアニマシオンボランティアとの方と密接な連携を図ってきている。また,問題カードや資料として使う掲示物の絵カード等は,読み聞かせボランティアの協力を得て作成している。
       活動の様子
         読書へのアニマシオンは各学年単位で行われている。保護者をゲストティーチャーとして活用しながら,各学年とも学期に1回程度の実践を行っている。授業実践に当たってゲストティーチャーは,以前に実践した経験のある作戦を中心に授業を展開するので,自分の子どもが所属する学年以外にも授業を担当することもあり,発達段階に応じた児童への語りかけや資料の活用等,授業の経験が増えるごとに力量が向上している。
 実践後の研究協議では「担任の先生と授業の進め方や資料の使い方,子どもへの語りかけ等をじっくり話し合ってから授業に入ることができるので,お互いの勉強になり大変楽しい。」という意見が数多くあった。支援者は選ばれた本をもとに作られた資料や問題カードを活用しながら,本の内容や本の世界に十分浸れるよう工夫された発問をしたり,自分の考えを根拠をはっきり示しながら発表することを促したりする等,児童の考えや感想を十分に引き出す指導を行っている。
       事後の取り組み
         読書へのアニマシオン実践後の研究協議には,保護者ボランティアの方が数名参加される場合もあり,教師と同等の立場で反省点や改善点などを述べる等,活発な意見交換を行っている。この際,授業中に児童が書いた感想カードの分析に力を注いでいる。児童に今回の授業がどのような変容をもたらしたか,指導過程は適切であったか等の吟味を加え,授業実践の反省を積み重ねている。
 読書へのアニマシオンボランティアが一つの教室に入り,教師と同じレベルで支援者として1時間の授業を受け持つという形態は本校独自のものであり,実践後さらなる改善を目指し教師と協議をすることも本校の大きな特色といえる。3年前,保護者の申し出によって始まった本校の「読書へのアニマシオン」であるが,年を経るにしたがって,保護者ボランティアとの共同実践により,本校の児童の実態にそった実践が進み,指導過程も自校化が進んでいると言える。
  (3)  多様な読書活動を基盤とした教育課程経営の改善
    @  多様な読書活動による児童の成長
       約3年間の実践の積み重ねにより,児童は10分間読書の時間等,自ら進んで本に向かい読書の量が増えるとともに,進んで読書感想文に挑戦する等,読書の質も高まってきた。
 また,生活科や総合的な学習の時間等には,自分の研究内容や研究成果を友達によく分かるよう,まとめの方法や発表方法を工夫しながら表現できる児童が徐々に増えてきた。
 さらに読書へのアニマシオン,ブックトーク等の授業を積み重ねてきた結果,本校の児童は相手の話を正しく理解し,自分の考えを理由や根拠を付けて語い豊かに発言できるようになってきている。このことは作文や話し合い活動にも生かされ,相手の意見を自分なりに受け止めてから,その子なりの考えを話そうとする姿が見られるようになったことからも分かる。定期的に実施している縦割り班活動はお互いを尊重しながら行われ,計画の相談や活動の準備をする段階で,児童のコミュニケーションが以前よりスムーズにとれるようになってきた。読書活動で培われた豊かな感性とことばの力は,学校生活の中の児童の姿に着実に見受けられるようになってきた。
    A  指導の改善
       読書活動の実践後,教師や保護者は,児童の反応と本や問題カードの難易度等について協議し,記録に残しながら次回の授業改善につなげている。また,児童が授業後に感想カードに記入したことをもとに,読書活動のねらいにどれだけ近づいたか,伝え合う力がどれだけ高まってきたかを絶えず評価し,指導過程の工夫改善に役立てるようにしている。
    B  年間指導計画の改善
       各学年での実践をもとに,9月から読書へのアニマシオンの年間指導計画についての改善に取り組み始めた。各作戦におけるねらいの見直しや発達段階に応じた指導過程になっているか等,授業実践後に協議を重ねた。その結果,読書へのアニマシオン研究部を中心に,11月には平成15年度用の年間指導計画を完成させることができた。これを契機に国語科においては,年間指導計画にブックトーク等の読書活動にかかわる指導事項を組み入れる等,他教科への波及効果が見られた。
    C  教師の資質や能力の向上
       校内研修体制としては,読書へのアニマシオン研究部を設け,6年間の継続的・系統的なプログラムを作成し,各学年の発達段階に応じた作戦や本を選択している。その際,本校の教師,読書へのアニマシオンボランティア,読み聞かせボランティアが密接な連携を取り合っている。同時に作戦の実施に当たっては,シナリオの作成,問題カードの準備,本の整備,支援者への研修を行っている。
 読書へのアニマシオン主任は採用3年目の教師であり,若手教師の多い本校では研修の核となりリーダーシップをとっている。経験年数の多い教師も,謙虚な姿勢でこの新しい読書指導に取り組んでいる。1学期に行われる新採教師や新任の教師に対する「読書へのアニマシオンを見せる会」の後には,全校をあげて研究を積み上げていこうという意欲が教師の間に見られるようになった。夏季休業中には新採教師や新任の教師に対する研修が行われ,2学期早々にこれらの教師による実践が行われた。新採教師は,「先輩の先生に早く追いつきたいので,夏休みの研修が大いに役立った。」と感想を述べていた。2学期以降の研修では,ある程度教師間に共通実践の経験ができており,よりよい児童の変容を願いながら積極的に指導法の改善に取り組む教師の姿を見ることができた。
 今後の課題
   読書へのアニマシオンボランティアと読み聞かせボランティアの保護者とは,アニマシオンの授業準備の段階から,授業実践,授業後の研究協議に至るまで,連携を密にして一体となり共同実践に取り組んでいる。このような実践形態は全国的にも珍しく,本校の特色ある教育活動と言える。以下に,本校での多様な読書活動を取り入れた教育課程経営改善の視点から,今後の課題を述べることにする。
  (1)  今後は保護者ボランティアとの連携をさらに密接に図りながらも,子どもたちの活動を前面に出した本校独自の読書活動を展開し教育課程経営の改善につなげていきたい。また,読書活動で培われてきた聞く力や伝え合う力等を他の教育活動に生かし,教育課程経営をさらによりよいものにしていきたい。
  (2)  読書へのアニマシオン実践後,児童の反応と本や問題カードの難易度などをノートに記録し次年度に引き継いでいる。今後はこれらの記録をもとに,さらに児童の発達段階に合った選書や指導過程を研究し,読書活動の改善と基礎学力の定着を図っていきたい。また,児童や保護者からの評価結果も最大限に活用しながらよりよい授業実践を積み重ねていきたい。
 
   ホームページ http://www.ed.city.ryugasaki.ibaraki.jp/nagajs/
   参考文献
   「読書へのアニマシオン 75の作戦」 M・Mサルト著 柏書房


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