学期及び年間における教育課程経営
   学期及び年間における教育課程経営での「評価」「改善」「編成」「実施」の取り組みのポイントを示す。
 
@  評価
   評価の目的,方法,留意点等の共通理解
   評価項目・具体的設問の設定
   評価手順の共通理解
   データの収集
A  改善
   評価によって得られた情報をもとにした成果と課題の明確化及び改善策の検討・決定
   改善策の説明
B  編成
   組織を生かし,全教職員の参加及び一人一人の意思決定による教育課程の編成
   改善策をもとにした教育課程の編成
   バランスのとれた教育課程の編成
   指導内容の選択と組織化
   年間指導計画の作成
C  実施
   授業及び単元における教育課程経営
  (1)  学期における教育課程経営
    @  評価
       評価の目的,方法,留意点等の共通理解
        (ア)  評価の目的
         
 1単元ごとに実践してきた教育課程経営を学期ごとに振り返り,学期ごとの成果と課題をとらえる。
 次の学期や次年度の編成,実施,評価のそれぞれの改善に生かすデータを収集する。
        (イ)  評価の方法及び留意点等
         
 教科等における児童生徒の学習状況の把握
 具体的には,学期ごとの観点別評価を集計することがあげられる。
 評価用紙を活用した教育課程経営全般に関する評価
 その学期の教育課程経営の各項目についての成果と課題を把握し,次の学期,次年度の改善に生かすために行うものである。よって,教育課程経営の各項目の実施状況に対する成果と課題について具体的に記述できる用紙を用いて評価を行うとよい。【実践事例10参照】
 評価の過程の重視
       評価項目・具体的設問の設定
         評価項目としては,基本的に教育課程経営の内容があげられる。そして,その項目に即して評価の観点を設定する。その後,観点ごとに具体的な設問をつくっていく。その際,毎学期継続して評価するもの,その学期のみ評価するものとを明確にしておくことが大切である。
 評価項目の例として,次のようなものが考えられる。【実践事例6,10参照】
(ア)  学校の教育目標 (ケ)  進路指導
(イ)  教育課程経営の方針 (コ)  体育・健康に関する指導
(ウ)  到達目標と重点施策 (サ)  授業時数
(エ)  各教科の指導と評価 (シ)  日課表
(オ)  道徳の指導と評価 (ス)  教職員の協働体制
(カ)  特別活動の指導と評価 (セ)  教育資源の充実
(キ)  総合的な学習の時間の指導と評価 (ソ)  外部との連携
(ク)  生徒指導    
       評価手順の共通理解
         学期ごとの評価も計画的,組織的,多面的に全教職員で行う必要がある。また,教職員以外の外部評価も考えられる。【実践事例5,6,10参照】
 このような評価を行っていくためには,評価手順の共通理解を図る必要がある。共通理解を図るためには,評価用紙の作成から評価・改善までを含めた一連の流れを明確にしておくことが大切となる。
       データの収集
         評価では,結果はもとよりその過程が大切である。そして,全教職員等で,計画的,組織的,多面的にデータを収集していくことが重要となる。【実践事例8,10,12,13参照】
    A  改善
       評価によって得られた情報をもとにした成果と課題の明確化及び改善策の検討・決定
         各学期においては,評価によって得られた情報をもとに成果と課題を明確にし,改善策を検討・決定していく。その際,次の学期に改善を図るもの,次年度に改善を図るものとに分けながら改善策を明確化していくとよい。【実践事例2,6,8,12,13参照】
       改善策の説明
         改善策については,教職員の共通理解を図る上からも一覧表などにまとめ,説明することが大切となる。また,児童生徒,保護者,地域の人々にも説明しなければならない。
    B  編成
       学期における編成では,改善策をもとにした次の学期の計画等の改善作業が基本となる。
    C  実施
       授業及び単元における教育課程経営
         ここでの実施は,具体的には,授業及び単元における教育課程経営を意味する。
  (2)  年間における教育課程経営
    @  評価
       評価の目的,方法,留意点等の共通理解
        (ア)  評価の目的
         
 今年度の教育課程経営の成果と課題をとらえる。
 次年度の教育課程の編成,実施,評価のそれぞれの改善に生かすデータを収集する。
 これまでも,各学校において評価は行われてきてはいるが,実態調査結果からも分かるように十分とは言い難い。その原因の一つとして,評価の目的が明確になっていないことが考えられる。
 評価の目的として,まず教育課程経営の成果を確認することをあげたい。成果を確認し合うことによって,教職員の教育課程経営に対する自信が深まり,また意欲が高まるのである。
        (イ)  評価の方法及び留意点等
         
 教科等における児童生徒の学習状況の把握
 年間に学習した基礎的・基本的な内容の確実な定着が図られたかを把握する。
 評価用紙を活用した教育課程経営全般に対する評価
 今年度の教育課程の成果と課題を把握し,次年度の教育課程経営の改善に生かすという視点から,評価用紙を作成し,評価を行う。
 内部評価(教職員)を中心とした教育課程経営の評価
 内部評価(教職員)を教育課程経営の評価の中心ととらえ,外部評価(教職員以外)は,内部評価を補完するものと位置付ける。
 計画的,組織的,多面的な評価
 評価の過程の重視
 評価の主体として,教職員と教職員以外とをあげた。教育課程経営を行っているのは教職員であり,内部評価を教育課程経営の評価の中心ととらえる。
 外部評価は,内部評価を補完するものととらえる。また,外部評価の主体である児童生徒,保護者,地域の人々,授業にかかわった人々が評価できる項目を明確にし,評価に必要な情報を提供した上で,評価を行ってもらうことが重要となる。【実践事例3,7,8参照】
 年間における教育課程経営の評価では,教育課程経営全般にわたって多面的に評価しようとする考えから,評価項目が多くなる傾向にある。また,各評価項目に対して,5段階等の尺度を用いた評価を実施し,評価結果を集計し,平均値を求めたりする傾向も見られる。その際,平均値だけに目を奪われ,評価の目的を見失うことのないようにしなければならない。
 評価では,評価の過程を重視することも重要である。評価への取り組みを組織をあげて行う中で,教育課程経営を振り返り,教職員の教育課程経営に対する意識・使命感が高まり,教育課程経営能力を向上させる効果が期待できるのである。
       評価項目・具体的設問の設定
         評価項目としては,基本的に学期における教育課程経営の評価項目と同様のものがあげられる。
 ここで特に留意しなければならないことは,先に示したように,具体的な設問の量と評価方法である。評価方法としては,項目ごとに記述させる方法や自由記述欄を設けて記述させる方法が有効である。
 なお,次のような項目を設けて記述させる方法も,即対応でき,改善には有効である。
(ア)  次年度も続けて実施したいものは何か。
(イ)  次年度改善したいものは何か,どのように改善したいか。
(ウ)  次年度新たに実施したいものは何か。
(エ)  次年度実施する必要のないものは何か。
       評価手順の共通理解
         教育課程経営の評価で最も重要なのは内部評価である。そして,内部評価は外部評価とも連携させながら計画的,組織的,多面的に全教職員で行う必要がある。また,評価の過程を大切にしていく必要がある。
 このような取り組みを確実に行っていくためには,評価手順の流れ図を作成し,共通理解を図り,それに基づいて実践していくことが有効である。【実践事例5,10参照】
 評価手順の流れ図の作成における留意点として,次のようなことがあげられる。
(ア)  総括的な評価を中心に流れ図を作成する。
(イ)  校長と職員会議の役割を明確にする。
(ウ)  校内教育課程経営推進チームが評価の取り組みの中心となるようにする。
(エ)  外部評価者との連携を明確にする。
(オ)  次年度の教育課程の編成期間を十分確保できるようにする。
 次頁に,東京都台東区立小学校学校評価資料を参考に作成した評価手順の流れ図を示す。


図3 評価手順の流れ図
       データの収集
         評価では結果はもとより評価の過程が大切である。そして,評価手順の流れ図に沿って,全教職員で,外部と連携し合って,計画的,組織的,多面的にデータを収集していくことが重要となる。
 学期毎に行っている教育課程の評価結果をデータの一つとして有効活用することも重要である。
    A  改善
       評価によって得られた情報をもとにした成果と課題の明確化及び改善策の検討・決定
         まず,改善策の検討・決定の基本的な手順を示す。
(ア)  校内教育課程経営推進チーム等が中心となって,評価結果を分析し,教育課程経営の成果と課題を把握する。
(イ)  課題については,さらに分析的に検討していく。
(ウ)  次のような視点から,改善策について検討する。
   ただちに改善策を講じる必要のある事項か。それとも次年度中に改善すべき事項か。長期にわたって改善していく必要のある事項か。
   学校内の教職員の共通理解と努力によって改善できる事項か。それとも,学校外へ働きかけ,協力や援助を得るべき事項か。
(エ)  校内教育課程経営推進チームでまとめられた次年度の改善策を全教職員によって検討し,いつ,だれが,どの組織が,どのように改善するか等について共通理解を図り,校長の指導のもとに改善策を決定する。
 校内教育課程経営推進チーム等を中心に進めながらも,全教職員によって,この改善作業に取り組むことが大切となる。また,課題を見いだす際には,「問題のある内容をいかに改善するか」という視点だけでなく,「必要ないものはやめる」「問題のないものをよりよくする」という視点も大切にする。【実践事例7,9,12,13参照】
       改善策の説明
         改善策を外部評価者へ説明することは,説明責任という視点からも大切である。また,改善策を公表することは,外部へ実施を公約することにもなり,重要な取り組みであると言える。【実践事例13参照】
    B  編成
       組織を生かし,全教職員の参加及び一人一人の意思決定による教育課程の編成
         教育課程は全教職員の協働体制のもとに実施されなければならない。そのためには,校務分掌の各組織を生かして教育課程を編成すること,そして,一人一人が教育課程の編成作業に主体的に参加し,自分の考えを述べ,教育課程の編成に責任をもつことが重要である。
 これらのことを可能にするためには,編成作業の手順の中に,全教職員が編成にかかわれる場を位置付けておくとともに,全教職員が教育課程の編成作業の過程を共通理解しておく必要がある。これらのことを行っておくことによって,教育課程の編成作業が確実に進められるようになる。
       改善策をもとにした教育課程の編成
         教育課程の編成は,白紙の状態から行うのではなく,教育課程経営の評価と改善から得られた改善策をもとに行っていくことが重要となる。
       バランスのとれた教育課程の編成
         教育課程経営は,学習指導要領に基づき,学校の教育目標の実現のために行われる。そして,各学校の教育目標には,知・徳・体,即ち生きる力の育成が含まれている。
 これらのことから,各学校における教育課程経営では,学習指導要領に示された教育内容をバランスよく編成していくことが求められる。国語や算数だけを重視し過ぎたり,総合的な学習の時間を軽視したりすることがあってはならない。また,各教科の基礎的な知識や技能の習得だけを重視するような教育課程の編成もあってはならないことである。
 このような取り組みを可能にするためには,各学校の教育課程を編成するにあたり,まず各学校ごとに自校の教育の全体構想(グランドデザイン)を描き,その共通理解を図ることが必要となる。【実践事例3参照】
       指導内容の選択と組織化
         指導内容の選択と組織化については,昨年度の調査結果が示すとおり,各学校の課題であり,教育課程の編成において重要な取り組みである。
 先に示した,「組織を生かし,全教職員の参加及び一人一人の意思決定による教育課程の編成」「改善策をもとにした教育課程の編成」「バランスのとれた教育課程の編成」を踏まえて行うことはもとより,次のことを確実に行うことが肝要である。
(ア)  年間の全学年各教科・科目(必修,選択,学校設定),道徳,特別活動,総合的な学習の時間における単元等一覧を一枚にまとめ掲示する。
(イ)  実践しながら単元等の関連性や順序性を考え,組み替えが可能なものは組み替えていく。そして,組み替えたものを記録していく。
       年間指導計画の作成
         年間指導計画の作成は,編成において重要な取り組みである。次のような留意点を全教職員で共通理解し,その作成に取り組んでいかなければならない。【実践事例13参照】
(ア)  年間指導計画の形式を決める。
(イ)  各教科等における児童生徒の実態を把握する。
(ウ)  各教科等における実施した指導計画の改善策を確認する。
(エ)  系統的,発展的に指導ができるよう指導内容の配列・組織に創意工夫を生かす。
(オ)  指導内容のまとめ方や重点の置き方を工夫する。
(カ)  各教科・科目(必修,選択,学校設定),道徳,特別活動,総合的な学習の時間について,指導内容相互の関連と調和を図る。
(キ)  小学校においては,各学年において,合科的・関連的な指導を効果的に取り入れる。
(ク)  基礎的・基本的な内容の確実な習得,自ら学び自ら考える力の育成,個に応じた指導をどのように推進していくかを明確に示す。
(ケ)  小学校及び中学校においては,学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育及び体育・健康に関する指導を各教科等の年間指導計画に適切に組み入れる。高等学校においては,学校の教育活動全体を通じて行う人間としての在り方に関する教育,体育・健康に関する指導及び就業やボランティアにかかわる体験的な学習の指導を各教科等の年間指導計画に適切に組み入れる。
(コ)  単位数や授業時数を配当する。
   指導内容との関連において教科等の単位数や年間授業時数を決める。
   各教科等や学習活動の特質に応じて,創意工夫を生かし,1年間の中で,学期,月,週ごとの各教科等の授業時数を定める。
   各教科等の授業の1単位時間の長さを,各教科等や学習活動の特質及び児童生徒の実態を配慮して適切に定める。
(サ)  評価計画を指導計画の中に示す。
    C  実施
       これは,編成に基づいた実施であり,具体的には,学期,単元及び授業における教育課程経営を意味する。


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