E 中学校の実践3
   援助ニーズの高い生徒に気付く
     中学校では,学区の複数の小学校から生徒が集まってきて入学するという形が一般的であるため,入学後の対人関係には配慮が必要である。また部活動や英語科が加わり,さまざまな悩みを抱える生徒も多い。こうした現状を踏まえた上で,教師集団は生徒の入学以降二次的援助サービスのニーズが高い生徒を早期に発見し対応していくことが求められている。
 そこで,生徒の問題が大きくなって生徒の成長を妨害しないようにするために,教師の生徒の状況を見る目を常に磨いておく必要がある。しかし,現実には前述の調査研究でわかるように,教師と生徒には認識のズレがあることが多く援助ニーズの高い生徒を見逃しがちである。そのために,援助ニーズの大きい生徒を発見するためのチェックリスト(後述)を日常的に活用することも重要である。使用方法としては,月に1 回チェック日を決め,全員を対象に全項目チェックをする方法,または,随時,配慮を必要とする生徒を対象にチェックする方法がある。

 

   援助チームの立ち上げ
     ここに挙げる事例は,小学校時代,対人関係などに自信をなくし欠席したことのあるZ子が,中学校入学直後から再び対人関係に不安を感じ,併せて学習に対する遅れによる不安から登校渋りを見せ,援助チームによる二次的援助サービスを行った実践事例である。
 学級担任は,入学後まもなく生徒の学校適応状況を把握するため,クラス生徒全員を対象にチェックリストによる観察を実施した。(表 13)その結果,Z子にチェック項目が多く,Z子を再チェックすることにした。今度は,個人用チェックリストを活用しZ子本人のみをチェックした。(表 14)個人用チェックリストからもZ子は援助ニーズが高い状態にあることが確認された。そして,Z子が理由がはっきりせず欠席をした4月中旬以降,学級担任はZ子の変化を重く受け止め,学年主任に相談していた。学年主任は担任と協議し,生徒指導主事に報告をしながら指導にあたった。しかし,Z子の表情は冴えず,保健室や教育相談室「心の教室」への出入りも多くなっていった。部活動もときどき休んだ。そこで,学年主任の判断で担任と学年主任のコアチームでのチームコンサルテーションの方が組織的,効率的に援助の方針や方策が立ちやすいのではないかと考え,援助チームを立ち上げた。
 チームの立ち上げに際しては,学年主任がコーディネーターになり,Z子にかかわりの深い学級担任,教科担当職員(該当学年),部活動顧問,養護教諭,心の教室相談員に出席を依頼した上で,援助チームを結成し第1回コンサルテーションを開いた。
 第1回コンサルテーションに向けての準備として,コーディネーターは小学校指導要録抄本,小学校時の担任からの情報聴取,中学校入学後の関係職員等からの情報を援助チームシートに記入しながら整理し,指導援助検討資料とした。事前にわかることをコーディネーターが整理することでコンサルテーションがスムーズに進み,時間の節約にもなるからである。
 第1回コンサルテーションでは,コーディネーターが司会を務め,Z子の現状と現時点で把握されている内容を援助チームシートをもとに説明した。その後,学習面,心理・社会面,進路面,健康面ごとに心理教育的アセスメントを確認した。その上で援助方針や具体的な方策を検討し,いつ,だれが,どんな援助をするのかという援助案を立てた。次回予定日を決定し,第1回コンサルテーションを終了した。
 校長又は教頭への報告については,生徒指導主事がコーディネーターからコンサルテーション毎に援助チームシート等をもとに報告を受け,それらを整理して迅速に的確な報告がなされるようにした。その際,必要があれば指導・助言を受けることを確認した。
 また,家庭との連絡,情報交換は,原則として担任が進めていくことにした。

 

   援助の実際
     ここでは,第1回コンサルテーションで完成した援助チームシート(表 15)と援助資源チェックシート(図 12)を具体的に紹介すると同時に,その後の主な援助例について述べていきたい。
(ア)  構成的グループ・エンカウンターの継続と自己存在感が得られる話し合い活動の場の設定
 自己理解,他者理解を深める構成的グループ・エンカウンター(表 16
 個人の価値観や考え方の違いが出やすい「宇宙船での選択」を読み,自分なりの見方や考え方等の情報交換をしながら,自己理解や他者理解を深める。これは,学級集団の質の向上を図りながら,Z子に働きかける活動である。
 自己存在感を育てる複層的話し合い活動(表 16
 前述の構成的グループ・エンカウンターの活動例から自己存在感を育てる複層的話し合い活動を述べていきたい。「宇宙船での選択」を読んだ後,自己決定をし,その理由を述べ合ういわゆるシェアリングという部分があるが,この部分を次のように構成した。

個人思考⇒シェアリングT グループでの話し合いT⇒シェアリングU グループでの話し合いU
 つまり,シェアリングTでの選択が同じ者同士でグループを再編成し,シェアリングUで話し合いを深めるのである。また,この場合の選択は,「答え」はない。それぞれの選択は各自の見方・考え方によって選ばれたものであり,Z子を含む誰もが自信をもって自己決定し,自分なりの考えを述べることができるのである。
(イ)  個別指導教室の実施と参加の呼びかけ
 Z子は,特に英語,数学に苦手意識を持っている。学年の中にもこれらの教科に苦手意識をもっている生徒がおり,学年各クラスで昼休みか放課後の数十分英語,数学中心に勉強会を開こうと呼びかけた。学年の英語,数学担当教師に協力をしてもらった。
 第1回目の個別指導教室を開いた結果,数人の生徒が集まった。援助チーム参加教師を中心にできるだけこうした動きが盛り上がるように賞賛するよう依頼した。その結果,次第に参加生徒が増え,参加者で話し合いをし,学習会の名前をつけた。「○×塾」と命名した。
 はじめは参加しなかったZ子も個別に働きかけた結果,「仲のよい友達Y子」と「○×塾」に参加するようになった。中学校は,部活動もあるため,知識・理解の定着より学習のやり方,内容,進捗状況の確認等を中心に毎週月,水,金曜日に実施するようにした。そして,生徒の自主的取り組みを大いに賞賛した。
 はじめは,教師から生徒への指導が中心であったが,次第に生徒相互の情報交換や「教え合い」も見られるようになった。Z子もこうした「○×塾」の一員として次第に自分に自信がもてるようになってきた。

 

   結果と考察
 本事例は第1回コンサルテーションを核として,その後経過観察しながら,第3回コンサルテーションまで行われた。チーム援助の結果,現在は,対人関係の不安も少なくなり,少しずつ自分に自信がもてるようになってきた。欠席はなくなり,保健室等への出入りもほとんどなくなってきた。ここでは,本事例を項目別に考察していきたい。
(ア)  SOSチェックリストの活用について
 学校には,月に一度校舎内外の安全点検日があり,全職員で自分たちの管理分担区域を点検している。普段何気なく目にしている分担区域だが,リストを片手に入念に点検すると意外な問題を発見することがある。
 教職員の生徒を観察する目も同じで,とかく多忙な日々の生活に流され,肝心の生徒への観察がおろそかになっていることが懸念される。こうした意味でも,SOSチェックリストを作成し,月に一度チェックするという作業は予防的であり効果的であった。
(イ)  「援助チームシート」「援助資源チェックシート」の活用について
 配慮を必要とする生徒がわかり,援助チームを結成し,第1回コンサルテーションを開催する。そこでは,「援助チームシート」や「援助資源チェックシート」が活躍した。援助対象生徒の資源,どんな援助をしてきたのか,何を目標とするのか,そして誰がどんな援助をしていくのかがバランスよくわかり,コンサルテーションが効率よく進められた。コンサルテーションの質の向上と時間の節減のために大いに役立つものであった。
(ウ)  構成的グループ・エンカウンターと複層的話し合い活動
 二次的援助サービスの場合,対象生徒を援助するために,並行して集団の援助指導をしていくと効果的であることが分かった。そのために構成的グループ・エンカウンターを学級活動で実施したり,さまざまな学習活動の中で複層的話し合い活動を取り入れることが重要である。
(エ)  個別指導教室
 学習面での生徒の不安を解消するためには,援助対象生徒の自尊心を傷つけないように配慮することがポイントとなる。そのために全体に働きかけ,主体的に学習に取り組んでみようとする働きかけと教科担任教師の役割分担協力,共通理解が生徒に効果的な作用をすることがわかった。

 

   まとめ
     援助対象生徒のSOSチェックリストによる発見,援助チームを結成しての「援助チームシート」や「援助資源チェックシート」を活用してのコンサルテーションが,援助対象生徒に効果的であることがわかった。
 援助チームの出席者については,今回は校長又は教頭は出席せず主に報告という形で進めたが,事例によっては,校長又は教頭の同席も必要になってこよう。
 このように,援助サービスの取り組みは,一次的か,二次的か,そして三次的かによって,また学校規模や地域の実情によって変わるべきである。それぞれの学校現場で理論を踏まえ実践し「○×中方式」を築いていくことが大切であろう。


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